夜の廃墟に出入りする人たち
通用門をくぐった私たちはドリームランドの敷地の中に入りました。
月明かりにそびえる遊園地の真ん中にそびえるドリームキャッスルが不気味に浮かび上がります。
「うーんやっぱり廃墟って感じだねぇ」
「何だそりゃ」
綾ちゃんと敦弘くんが軽口を叩き合いながら奥に進んでいきます。
閉鎖されてからだいぶたったはずなのに、妙にきれいな気がしますけど。
普通ならもっと雑草が生い茂っていてもいい気がするのですよね。
「ねえ、綾ちゃん、ここって誰も来ない
場所のはずなのに随分綺麗じゃないかな?」
綾ちゃんは”ん?”と首を傾げてから言いました。
「まあ、たしかにそんな気はするね」
敦弘くんが苦笑しながら言いました。
「おいおい、廃墟マニアの間じゃ有名なんだが
ここの経営母体そのものは残ってるから
月に一回くらい清掃したり整備したりしてるんだよ。
だからむかし運悪く捕まった奴は
2週間ばかりのあいだ警察の留置場の
お世話になったらしいぞ」
「え、なんでまた」
「そりゃ立派な不法侵入だからな。
その後、そいつは失踪し未だ行方不明とか言う話もあるけど」
「一体警察の留置場で何が有ったのよ?」
「さあ、わからん」
なんだが不穏当な会話ですけど、廃園になったこの遊園地が微妙に綺麗な理由はわかりました。
「じゃあ、勝手に入ったりしたらまずいんじゃないかな?」
私は綾ちゃんにいいましたが、彩ちゃんは平気そうです。
「ダイジョブダイジョブ、整備点検は月一回の昼間でしょ。
麻莉愛は心配しすぎ」
「そうかなぁ」
「そうそう、それよりせっかくのチャンスなんだから
もっとひっつきなさいよ。
あ、ちょうどいい物が」
あやちゃんが指差したのは顔出し看板。
イラストの書かれた板の穴の顔の部分から自分たちの顔を出して撮影するあれです。
「ほれほれ、あれならくっついて取らざるをえないんだから
覚悟を決めなさいな」
「う、うん、そう、だよね」
そして私を綾ちゃんが康介くんを敦弘くんが押して顔出し看板の後ろに追いやるのでした。
「ほらほら、ふたりとも笑って笑って」
私と康介くんは並んでマスコットウサギの男女、オスメス?の顔出し看板から顔を出して綾ちゃんにスマホで写真を取ってもらいました。
「じゃあ次は私たちの番だねー」
私たちと入れ替わって彩ちゃんと敦弘くんが顔出し看板の後ろに回って行き、スマホで撮影を終わった時、入り口の方からチカチカと光が見えたのです。
「あれ、あの光、まさか警備員?」
「まあ、俺達と同じように肝試しに来た連中かもしれないけど
もし警備員だったら、捕まると面倒なことになりそうだし
何処かに隠れたほうがいいかもしれないぜ」
綾ちゃんと敦弘くんがそんな会話をしています。
「けど、どこに隠れればいいのかな?」
康介くん
「隠れるなら警備員が巡回しそうにない場所のほうがいいんだろうな」
とりあえず警備員見つかる前にと私たちはドリームランドの奥へと、懐中電灯の明かりを消したままソロリソロリと歩いていったのです。