明日が楽しみだったので
日曜日だというのに、目覚ましをセットしていないのに目が覚めてしまった。
しかも明日は連休で休みである。
このもったいないという感覚は、何なのだろう。
好きなだけ心地よくベッドの上でごろごろしながら安眠を貪りたいが、明日の予定がすぐに私の中で浮かんできて、頭が冴えてしまう。
「……朝の五時半……もっと寝ててもいいはずなのに、目が覚めて眠れない。今の時期はもうこんなに明かるいからかな」
私は小さく呟いて起き上がった。
目が覚めたとはいえ、まだ幾らかは頭がぼんやりとしている。
なのに酷く興奮してしまっている。
明日が楽しみすぎるのだろう。
修学旅行や遠足の前の日は、決まって楽しみなのもあってよく眠れなかったなと、昔の事を私は思い出した。
この性格はこれからも治りそうに無さそうだし、治らなくても特に問題はないだろう。
そう思いながら部屋の壁に私は目をやる。
そこには昨日買ってきたばかりの新しい服が、黒いハンガーにかけてある。
熱くなってきた今の時期には涼しげに見える、水色を基調としたワンピースだ。
スカートの裾の部分には白い花模様のレースと、白い糸で花の刺繍がされている。
お値段が少し高かったが、頑張ってみた。
これからしばらく、買い食いは出来なさそうだ。
だが人目でこれだという運命を感じてしまった服なので、後悔はしていない。
試しに試着してみた時も似合っていたし、家に帰ってから着て、姿見の前で走り出したタイヤのごとく回転してみたが問題なかった。
そう思いながら後でもう一度私は着てみようと決意する。
そわそわしてしまって、何かをしないと落ち着かない。
でも今から出来ることは限られている。
「まずは朝のジョギングから始めよう」
私はそう呟いて、服を着替えていく。
それから歯磨きをしてから、髪を整えるなどの支度をしてから家を出る。
いつものコースを走り終えた頃でも、まだ家族は起きていなかった。
私があまり走っていないのだから当然だが。
そう思いながら、家に戻ってきたばかりの私は自分の朝食を作ることにした。
作ると言っても朝食なので軽めのものだ。
人によっては朝は食べない方が調子がいいというが、私は朝食を食べないと力が出無いので必ず食べるようにしている。
今日は何にしようか?
「ハムがあったからハムエッグとサラダ、後、お味噌汁でも作ろうかな……うん、早起きしたしね」
私はそう呟きながら、いつも使っている緑色のエプロンを取り出したのだった。
お味噌汁は出来立ても美味しいが、少しおいておくと野菜にお味噌の味がよく染みて美味しいと思う。
異論は認める。
と思いながら、まずはオーブントースターで煮干しを空焼きする。
フライパンなどで軽く焼くらしいのだが、焼けばいいよねと思って私はいつも使っているオーブントースターに入れて軽く焼く。
その間に、鍋に水を入れて乾燥した昆布を入れておく。
本当であれば一晩入れておいて置いた後に火にかけた方がいいのだが、今日は思い付きでお味噌汁が飲みたくなったので仕方がない。
そして、乾燥したシイタケも追加して入れて、焼けた音がした後に煮干しを取り出しその昆布とシイタケを入れた水に入れる。
後は煮るだけだ。
徐々に大きくなっていく昆布を見ながら、沸騰した所を見計らい火を消し、鰹節を入れる。
ここまで、分量は適当だ。
私の日常で作る料理は、結構適当な事が多い。
細かく分量を量って作ってもいいのだが、やはり毎日の食事となると面倒になる。
それにある程度適当でも美味しく作れればそれでいいのだ。
という事で適当味噌汁を私は続行して作り始めた。
「出汁を作っている間に、茄子と長ネギを炒めておけば良かったかも」
今更ながら、自分のミスに私は気づいた。
これは効率が悪い。
失敗したと思いながら、事前に別料理で使うために買ってあった茄子を一本取りだす。
そちらの料理には茄子が二本あれば足りる。
しかもこの買ってきた茄子は、五本入りに物だ。
一本程度使ってしまっても問題ない。
その茄子を切りながら、まだこの茄子は本来の旬の時期よりも早いんだなと私は思う。
季節感のない今だけれど、一年中、茄子が食べられるのはとても素晴らしい事だと、茄子好きの私は思っていた。
現代に生まれてよかったと思う事の一つだ。
そう思いながら切った茄子と、長ネギを一本取りだして、それを一口サイズに切って、それを鍋の中で油で炒める。
茄子と油の相性はとてもいい。
そう思いながら機嫌よく茄子とねぎを軽く炒めて、先ほど作った出汁を入れる。
それを火にかけて煮てから、美味しくなったような気がした頃、火を止めて味噌を溶かす。
この味噌は我が家自家製の味噌。
味噌は手作りすると本当に美味しい。
茹でた大豆と麹、塩を混ぜて発酵させ、時々混ぜて寝かしたこの味噌。
事前にすり鉢ですって細かくして置いたものをうちでは冷蔵庫で保管している。
この味噌でネギ味噌を作っても、甘辛い味が絶妙なご飯のおかずになるのを今、私は思い出した。
後で作ろう、そう私は決めつつ、このお味噌をお玉ですくい先ほどの茄子の入った出汁に溶かしていく。
溶かしてから味を見て、薄ければ味噌を足そうと思っていたがどうやら丁度良さそうだ。
さすがは私(ドヤァ
そう思いながらお味噌汁が出来たので、残りを作るために食材を取りに行く事にした。
最近家庭菜園を始めていて、特にレタスは育てるのに結構いい。
今の所あまり虫がつかないのだ。
そう思いながら植木鉢に生えているレタスの何枚かを摘み取る。
これぞ本物の“朝摘みレタス”と思いながら他にも一緒に育てていた、ゴマの風味のするルッコラ、パスタやピザに使われるバジルを幾つか回収して洗い、レタスとルッコラはお皿に乗せる。
バジルはこれから作るハムエッグに使う。
事前にパンを一枚、オーブントースターにセットしてから、熱したフライパンに油を敷いて、ハムを一枚焼く。
そこに塩コショウ、バジルをちぎって入れて、卵を覆としてふたをする。
黄色い黄身が半熟になった頃が大好きなので、それぐらいに火が通って色が変わる頃に蓋を開き先ほどのサラダの傍にとる。
後は焼きあがったパンをお皿の上に乗せて運ぶ。
これで本日の朝食は完成した。
食卓に着き、まずは飲むのにちょうどいい温かさになったお味噌汁に口をつける。
出汁と味噌の味を舌で味わいつつ、とろりとした茄子を一口。
「~っ、美味しい」
自分で作ったというひいき目があったとしてもこのお味噌汁は美味しい。
やっぱり出汁はきちんととったものが良いと私は思う。
それからサラダや、半熟の黄身を端でつついてとろりと零れだした所をハムに絡めて食べる。
濃厚な旨みが口いっぱいに広がる。
幸せな食事だわ、と思いながら私は朝食を食べつつ、今日の予定について考える。
明日の予定は決まっていて、そして作っておきた物もある。
午前中にそれも作ってしまおう、そう私は決めて朝食を全て食べたのだった。
さて、明日の約束の日にもっていく物……どれにしようかと考えて、私は“ドラ焼き”にする事にした。
作る物を決めるのに一番時間がかかる気がする。
何がいいのか、“選択”するのは意外に大変だと私は思う。
本当は現在高級品であるバターを使ったケーキにしようと思いはしたものの、餡子が好きだと聞いたのでそれを作ることにしたのだ。
まずは小豆を煮るのだけれど、
「小倉餡とこし餡、両方私は好きだけれど、今日はこし餡予定」
と呟きながら、事前に買っておいた小豆を取り出した。
まず水で洗って、圧力鍋に水と共に入れる。
やはり豆を煮たりおかゆを作ったりするときに圧力鍋は短い時間でできるので重宝する。
そして、火にかけて軟らかく煮る。
その空いている時間にどら焼きの皮を作る。
ホットケーキミックスを緩めにして、薄く延ばしてどら焼きの皮替わりにする。
今日はその辺りは手抜きレシピだ。
そしてフライパンでこんがりきつね色の小さくて薄いホットケーキを作っていく。
作ったものを次々と乗せていくと、ホットケーキのミニタワーが完成する。
見ているだけでクリームやフルーツを飾りたい誘惑に駆られるが、本日の目的は“ドラ焼き”だ。
私はその欲望を諦めるのに数分を要した。
こうして自分自身という敵と戦いつつ私は、茹で上がった小豆を潰して網でこす。
残った小豆の殻に数度水を加えて、同じようにこし、そのこした液をしばらく放置する。
上澄みが透明になってから、傾けて上澄み部分を捨て、水を加えて混ぜて、再び上澄みを捨てる。
以前面倒くさいので、茹でた小豆をミキサーにかけてこした所、味が格段に落ちてしまった。
それ以来は手間だがこのやり方でこし餡を作っている。
「やってみないと分からないし、美味しい物には手間がかかる」
そう呟きながら私は、美味しくなりますようにと念じてこし餡を作っていく。
最終的にできた餡子は、市販品よりも甘さが控えめで美味しくできた……気がする。
多めに作っておいて、一部は冷凍してとっておき、残りは後々我が家の食卓に並ぶことだろう。
この餡子を使ってお汁粉もいいし、トーストに縫っても美味しいし、白玉と一緒に食べてもいい。
そう考えながら先ほどホットケーキに餡子を塗っていく。
お手軽どら焼きがこれで完成だ。
明日持っていく分と家族の分を別にして、ラップに包んでいく。
後は冷蔵庫で冷やして、明日持っていけばいい。
「そしてこっちが家族の分だけど、一つだけ余っているから私が味見をしよう。……美味しいよね、絶対に美味しいよね、私の思い込みじゃないよね」
そう不安を覚えながら口にした“ドラ焼き”は、私のひいき目からも美味しく感じられた。
やはり砂糖を二種類使ったのが良かったのか、ちょっと変わった濃厚な味が加わっている気がする。
うん、大丈夫、と自分の中で頷く。
“彼”がこし餡の方が好きだから、こし餡にしたのだ。
喜んでくれるだろうか?
「この“どら焼き”を持って明日は“デート”だもの。服は新しいものを用意してあるし、うん、大丈夫」
大丈夫と何度もつぶやいて、不安になる気持ちを私は抑える。
やっぱり緊張はするけれど楽しみで、彼が私の作ったものにどう反応するかが気になる。
けれどそれは今の私が悩んでいても、まったく分からない。
だから、私は頑張ったから、
「喜んでくれるといいな」
明日に思いをはせて私は、そう、小さく呟いたのだった。
「おしまい」




