4月
3月は日本では一般的に別れの季節とされるのに対し、4月は一変して出会いの季節と言われることが多い。それは、進学や就職等人生の節目がこの時期に集中しているからだ。
「あぁ、一目惚れですね!いいですいいですその調子です。これで一年間いい恋ができますよ~!」
「……煩悩が駄々漏れなのは、個人的にやめていただきたいのですが。」
(というより、あなたは『恋』の神様ではなく、『愛』の神様でしょうに……。)
4月――愛の神
「日本には、『恋は下心、愛は真心』という慣用句がありましてね、」
「そんなこと、渦に言われなくても存じております!」
「本当ですかね……。」
4月の神様であり、愛を司る神様である卯月はことのほか恋というのが好きだ。
特に一目惚れ、というのに憧れているのだとか。『運命って感じがするじゃないですか~。』とか言われた日には、神子である渦はさすがに眩暈を感じた。人間同士が運命の相手かどうかを決めるのも自分の仕事の一つだろうに。所謂、赤い糸を結ぶのも卯月の仕事である。
それなのに、『運命』を信じる神様。
もしかしたら冬眠前にどんぐりを埋めたにも関わらず、自分の埋めた場所がわからなくなってしまうリスと同じなのかもしれない。自分で結んだ運命を忘れているとか。
ちなみに、愛読書は少女漫画である。よく下界に降りて本を購入したり、ネカフェに入り浸っていたりする。そして、それらの本を読んでは号泣している。
「さっきも、勝手に結びましたね。切っときます。」
「えぇー!何でですか!」
「いや、それが私の仕事ですから。」
とにかく赤い糸を結びたがる卯月が不用意に結んでしまった糸を、切っていくのが渦の仕事だ。いや、切るのも本来は卯月の仕事なのだが、どうしても本人がやりたがらないので、仕方なく渦がやっている。
「渦のいけず~!」
「私だって切りたくて切ってる訳じゃないです。それに、切らせたくないなら、最初から不用意に結ばないでください。」
「だって、それが私の仕事ですから。」
「だったら、きちんと商品の管理を行ってください。」
赤い糸だって有限だ。不必要な消費は出来ない。
「でも、一目惚れってやっぱり素敵だと思うんですよ。」
「……そうですかね?」
「むむっ、その感じはもしや。渦も一目惚れしたことありますね。しかも振られましたね。」
「……。」
こういうときだけ、無駄に神様っぽく当てにこないでほしい。
「なるほど。ごめんなさい。今まで無神経なこと言って。」
「……別にいいですよ。」
「では、これからも今まで通り一目惚れを推進していきますね!」
全然聞いていないのだった。神様なので、神子の言うことなんて基本は聞かない。自分が好きだと思ったことに邁進していく。
「……一目惚れ以外の恋愛も素敵だと思いますけどね。」
「その話、詳しくお願いします!」
聞こえないように言ったつもりだったが、バッチリ聞かれたらしい。こうなったら長い。
「どういうことですか、渦。恋してるんですか?教えてください!」
「教えません!」
自分が好きだと思ったことに邁進するこの精神が今は非常に憎らしい。
「その人のことどう思っているのですか?」
このままでは本日の仕事はこれで終了してしまう。卯月はともかく、渦にはまだ仕事が残っているのだ。
この追撃を逃れるためには、何かロマンチックなことを言うしかない。
「…… 戀という字を分析すれば 糸し 糸し という心 。」
「きゃー!凄いの聞いちゃいました~!」
卯月は顔を赤らめて部屋をうろうろしている。しばらくはこれで構ってこないだろう。
渦は文机に向かい、書類に目を通し始める。
「でも、恋にも愛はあるんですよ。」
しばらくすると、卯月が渦の近くに座りいたずらっこのように微笑む。
「どういう意味ですか?」
「さっきの都々逸、『いとし』って二回も言っていたでしょ?『いとし』って『愛し』って書くじゃないですか。それが、二回も出てくるなんて。」
恋の中には愛が二個隠れている。
「それはきっと、恋だって愛の形の一つという証拠ですよ。」
だから、愛の神様は今日も人間の恋を見守り続ける。




