2月
「今日も寒いな。」
「えぇ、そうですね。如月様のせいではないですか?」
「その通りだけど、酷いっ。酷いよ、沙羅くん。」
2月――厳寒の神
1年の中で最も寒さが厳しい2月。それは、2月の神様である如月が寒さを司っていることと関連している。
命の危機に直結し、また行動が制限されるなど人間から忌避されがちな『寒さ』である。如月は、2月はだから他の月より短いのだと思っている(だが、仕事をその分しなくていいから良かったとも思っている)。
しかし、しっかりと寒くしておかないと、これからの1年間水不足に陥ったり、野菜が高くなったり、熊が早めに冬眠から目覚めたりと大変なことが色々と発生する。
「小難しいことはさておき、まだ寒くしないといけない?僕、寒がりなんだけど。」
「厳寒を司る神様が何をおっしゃっているんですか。まだまだ寒くしていただかないと困ります。」
「でも、沙羅くんも寒いの苦手だろ?そんなに分厚いコート着て。」
寒がりな神様と寒がりな神子。厳寒を司るコンビではあるが、体質的にはあまり向いていない。現に神殿の中でも如月は毛布を被りっぱなしだし、沙羅はマフラーを外したことはない。古い日本家屋だから、隙間風が酷いのだ。
だが、仕事は仕事。
「最近、暖冬とか言われちゃってますからね。如月様にはもっと頑張ってもらわないと。」
「でも、暖冬って言われたって、僕のせいじゃないし。人間のせいでしょ?」
人間がやったツケまでは払わない。あくまで出来る範囲で寒くする。地球温暖化とかどうでもいい。如月が出来るのは今の地球環境で出来る限り寒くすることだけだ。
「でも、やはり明日や明後日はうんと寒くしていただかなければ困ります。」
「うん?何でだい?」
「……バレンタインデーだからです。」
バレンタインデー。西洋のイベントではあるが、日本にやってきて久しいイベントだ。恋人たちがあんなことやこんなことをするイベント。
「よし、わかった。うーんと寒くしよう。こういうの何て言うんだっけ?」
「? 『リア充爆発しろ』、ですか?」
「うん、それだ。リア充爆発しろ!」
「えぇ、その意気です!リア充爆発しろ!」
如月と沙羅は世界を寒くする準備を始める。結婚している神様も世の中にはいるが、如月には今のところそのような相手はいないし、沙羅にもいない。
俗世にまみれていると思いっきり笑うといい。負け犬と罵るといい。だが、その分のツケは自分達の身を持って体験してもらう。冬の寒さをおもいしれ。
「もういっそ、吹雪とかいかがでしょうか?誰も外に出られなくて、恋人との約束をふいにするような吹雪。」
「いいね!最高だよ。沙羅くん。」
この2人が厳寒を司る神様と神子である理由。それは、この精神の冷酷さにある。
「あ、でも、寒すぎると僕も沙羅くんも凍死しちゃうから、いい塩梅にしておこう。」
「えぇ、助かります。まだ恋人もいないのに死にたくはないので。」
そして、この寒がりのお陰で、程々の寒さになるからである。
……結果、恋人たちは雪降る町でロマンチックにデートしたり、寒さを互いの体温でしのいだりするのだが、それはこの1柱と1人に教えない方がいいだろう。
「如月様。義理チョコです。」
「おう、待っていたぞ。供物のなかでもこれが一番好きだ。」




