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1月

 1月――始まりの神

 

 参拝客はまだ減らない。

 近年になって減少の続いている参拝客ではあるが、今だ初詣には多く訪れる。もちろん、それは神様としても歓迎すべきことである。1年の中の1日。1日の中の1分程度。現代の人間の多くはその時間だけ神様を『信じる』。だが、その僅かな時間だけでも彼らの拠り所になれば。そして、僅かでもその願いが叶えば。1月を司る睦月はそう願っている。

 

 

 ◎3日後

 

 

 「毎年思うけど、どうでもいいよね。人間の願いなんて。」

 睦月はやれやれと言った風に寝所に寝そべる。

 大忙しの三が日等を終え、ようやく一息つける一日である。今日だけは、さすがに仕事をせず、睦月もその神子である陸奥も休もうと毎年決めている。

 とはいっても、神子である陸奥の仕事は神様のお世話である。寝所で寝転がっている睦月に飲み物を運んだり、髪を梳ったりと仕事はないわけではない。また、その業務には神様の愚痴を聞く、というのも含まれる。

 「毎年、確かにお伺いしておりますが、今年はどんな願いがありましたか?」

 「んー?いつも通り、『今年こそは彼女を!』とか、『お金持ちになりたい!』とか。

 人間て、本当に欲にまみれてるよねー。って、痛っ!」

 「動かないでください。」

 髪の毛をといている最中に寝返りを打とうとするからだ。

 人間である陸奥は睦月の言う『人間は欲にまみれている』というのに賛同はできない。陸奥だって、恋人は欲しいし、楽してお金持ちになりたい。神子の給与は生きていくのには十分だ。だが、やはり楽して生きたいというのは人間であるならば誰しもが持っている要求である。恋人が欲しいというのも然り。

 「えぇー。陸奥もそういうこと思うんだー。俺の世話じゃ不満?」

 「いえ、そういうことでは。」

 「よし、わかった!では、陸奥。今日から俺の世話は極力しなくてもいいぞ!

 髪も自分でとかすし、服も自分で着る。……食べ物とかは自分でできないから、それだけは作ってくれ。」

 また、奇妙なことをこの神様は言い出した。と、陸奥は思ったが何も言わないことにした。

 神様と付き合う上で大事なことは、出来るだけ無駄な口出しはしないこと。触らぬ神に祟りなし。

 「かしこまりました。では、期待しております。」

 睦月の髪を梳っていた櫛を渡して、陸奥は台所へと向かった。

 

 

 ◎3日後

 

 「飽きた。」

 「はい?」

 寝所へ食事を運ぶと、第一声がこれである。

 「飽きた飽きた飽きたー!」

 「何に『飽きた』んですか?」

 陸奥には何なんて聞かなくてもわかってはいるが、念のため確認である。

 「着替えるのも、髪の毛とくのも飽きたー。

 やっぱり、陸奥がやって。」

 やっぱりか、と陸奥は首をふる。

 食事を寝台の横に備え付けられている卓におき、櫛を手に取る。

 服は寝巻きのまま。髪の毛はぼさぼさ。神様の威厳なんてあったもんじゃない。

 睦月は所謂『3日坊主』というものなのだ。思いたったことが3日と続いたことはない。

 だが、それも毎年のことなので、今さら陸奥が驚いたり、呆れたりすることはない。しかも、1月中ずっとあれやこれやと始めてみては、3日で終わってしまうというのを繰り返す。

 今回はまだ自分のことを自分でする、程度で被害が少なくて良かったほうだ。庭の景観を変えて3日で飽きられた時よりも断然ましだ。

 「やっぱり、陸奥にとかれないと髪の毛も悲しそうだしね。」

 「はいはい。」

 明らかな機嫌とりにも簡単に返し、陸奥は何度も丁寧に髪の毛を梳る。

 「でも、俺にはどうせ長いこと続けるなんて無理だし。」

 「……初詣にいらっしゃる皆様には聞かれないようにしてくださいね。」

 わかってるよー、と頬を膨らませる睦月だが、この神様の本質を知る陸奥は本当に一部の参拝者に申し訳なくなるのだ。

 「だって、俺は『始まり』の神だからね!」

 始まりを司る神である睦月は3日坊主だ。だが、それは新しく物事を始めるため。いつまでも古いことに拘っていては、何も始められない。

 というのは、乱暴すぎると陸奥は思うのだが……。

 「ねぇ、陸奥。今日は何を始めようか。」

 「そうですねー……。」

 何かを始めたい方は是非1月のうちにお立ち寄りを。何かを続けたい人は1月ではなく他の月にお立ち寄りを。

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