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10月

 10月――豊穣の神

 

 10月の神様、神無月の神子である神奈は大忙しだ。

 神無月は豊穣を司る神様。たくさんの参拝者が来て供物を捧げ、今年の恵みに感謝し、来年の豊作を祈願していく。

 一年で一番供物が多く捧げられる時期でありその仕分けだけでも大変であるが、参拝者にはきちんとそのお礼をしなければならない。

 おおむね来年の豊作の祈願である。だが、実際神奈に出来るのは厳寒を司る如月の神子である沙羅にあまり寒くしすぎないようお願いしたり、灼熱を司る葉月の神子である初樹が来たときに暑くしすぎないようにとお願いしたり、植物を司る弥生の神子である矢佳に今年も元気に植物を育ててほしいとお願いしたり、と主に神様ではなくそのお世話をする神子への手紙を書くことだけである。

 神子は自分の仕える神様に対してお願いできる立場ではないためどうしても神子同士の手紙のやり取りになってしまう。だが、大抵の返信は『リア充を凍死させたい』とか、『葉月様が暑苦しいのを何とかしてください』とか、『食べられる植物だけに栄養を回すわけにはいかないので』といった、意味のあったのかなかったのかというものばかりだ。

 また、神子への手紙だけではなく、自ら仕える神無月への手紙も書かなければならない。

 神様は自分が担当する月は神殿にいるのでは?と思うだろう。12柱中、11柱はそうだ。だが、10月だけは違う。

 それが、『神無月』の由来なのだから。

 「あぁ、もう!どうして私ばっかりこんなに手紙を書かなければならないの!いい加減神無月様もデジタルに対応してください!」

 自分しかいない空間に愚痴を言ったらちょっと残念な人になってしまう。とか考えたがしょうがない。どうせ自分一人しかいないし。

 神無月の由来は、全ての神様が出雲大社に集まり、その他の地域では神様がいなくなるからである。

 そのとおり、この神殿も10月だけは、神様のいない神子だけの神殿となる。

 だが、仕事の量は変わらず、むしろ参拝者からの嘆願等を神無月に手紙で書かなければならないため手間は増える。また、先程から言っているとおり、10月は参拝者も多い。それだけ内容も多くなるのだ。

 また、神無月は機械の類いはからきしダメらしい。スマホを使いこなす神様もいると聞いたが、やはり参拝者の声は紙を通して知りたいらしい。

 そもそも、出雲大社で八百万の神様たちの同窓会である。お酒が入っていない日の方が珍しいだろう。というか、おそらくない。手紙を読んではいるらしいか、ほとんどの字が歪んでおり、しかも毛筆の達筆な字であるため解読も難しい。また、酔っぱらいながら手紙を読んでいるため、とんちんかんな答えが返ってくることがままある。

 「本当に!どうして、私が、こんな神様の、面倒を!」

 腹立たし気に手紙を折り畳んでいく。いつもより嫌みが多くなってしまったのは仕方がないかもしれない。

 他の神様たちは差があるかもしれないが、きちんと仕事をしてくれるのに、神無月は他所でお酒を飲んでいるだけ。一応返信のとおりに色々と神奈が神無月の分の仕事をするが、それだって本来であれば神無月がしなければならないものである。

 仕事は減らない。上司は呑んだくれ。参拝者がくれる美味しい供物だけが救いである。

 手紙を封筒に入れ、専用のボックスに入れる。これに入れるとどういう仕組みか神無月のもとに届き、運が良ければ次の日返信が届く。

 「……全く、他の神子たちが羨ましい。」

 神奈は一人呟く。

 各月の神子からは愚痴と不満と、それから楽しげな日常が様子が伝わってくる。

 一方、神奈はそういった日常を書くことが出来ない。

 仕えている神無月と会えないから。

 というか、

 「一度もあったこと、ないんですけど!」

 本当に、他の神子たちが羨ましい。

 10月はその特殊な性質上ほとんどの神様が神殿にはいない。神無月も10月に神殿を訪れたことはない。神奈も10月以外は出入りを禁じられている。

 「自分の仕える神様の顔を知らないって結構致命的だと思うんですけど!」

 日本の昔からの仕組みゆえ、無理な願いである。

 

 

 ――仕える神のい『無』い神子――

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