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9月

 「いやー、こっち来ないでください!」

 「そんなこと言われたってねぇ。この子達には通じないよ。」

 「だから、長月様に頼んでいるんじゃないですか!」

 9月の神様長月に仕える神子、長津は大の虫嫌いだ。

 

 

 9月――虫の神

 

 

 「こんなに可愛い子たちなのにねぇ。何がそんなに気に入らないんだい?」

 「全部です!そのフォルムも鳴き声も動き方も、全部!」

 長津は長月から距離を取るため、段々と後ろへ下がる。

 長月の手や肩には『可愛い子たち』――虫が乗っているのだ。

 「どこが可愛い子なんですか!おぞましい!」

 「その言い方はさすがにちょっと傷つくねぇ。」

 長月が虫の神である理由は、9月というのは虫の声がよく聞こえるという理由からだ。人間によっては非常に風流で夏の終わりの風物詩の一つであるだおう。

 だが、長津にとっては、虫の声は天敵がそこにいる証明に他ならず、可能な限り道を変えてでも避けたい要素の一つだ。あの形、あの声、あの動き。どれをとっても人間とは相容れない不気味さ。

 どうして、私はこんな神様の神子なのだろうか。

 「でも、虫の世話をあんたの仕事なんだよ?」

 「えぇ、分かっていますよ!分かっていますから、その虫たちを早く虫籠の中に入れてください!」

 草木の世話が神子の仕事であるならば、虫の世話だって神子の仕事だ。こちらも各月の神子が交代で世話をしている。1年で死んでしまう虫も多いが、その場合卵の世話をすることになる。

 長津は虫を司る神様に仕えながら、9月になるまでにより多くの虫が死んでいますようにと祈っている。だが、大抵の虫は春、夏、秋に生まれ成長する。また、神子たちは非常に優秀なのか、虫が死んでいたということもこれまでにない。結果、毎年多くの虫の世話をすることになる。

 心の中では滅んでしまえとも思っているが、神子である以上、わざと殺すわけにもいかない。

 「しょうがないのぉ。でも、籠に戻さねば餌も当たらぬゆえの。しばし、我慢するのだぞ。」

 長月は虫に言い聞かせるように優しい口調で語りかけ頭を撫でる。

 「ほれ、長津も撫でてやろう!」

 「結構です!虫を撫でた手で撫でないでください!」

 もし撫でられたら一日は風呂から出てこないかもしれない。

 一度長月が虫籠を閉め忘れたために虫が神殿中に蔓延った時、冗談なしに気絶しその後風呂に籠り一日中体を洗っていた過去を知っている長月は大人しく手を引っ込める。また、錯乱されてはたまったもんじゃない。あの時は本当に大変だった。

 「わかったから、辞めないでくれぬか。」

 「辞めないので早く虫をどっかにやってください。」

 長月は虫が嫌いなことを除いて、長津を気に入っている。仕事は非常に真面目だし、嫌いだと言いながらしっかり虫の世話もしてくれる。虫にずっと触れているからという理由で身の回りの世話はあまりしてくれないが、そんなこと些細なことだ。服なんて自分で着ればいいし、髪の毛は短くしておけばいい。

 長月が虫を籠に戻すと長津が本日の餌を持ってやってきた。

 「ちゃんと、全ての籠の扉は閉まっていますね?」

 「あぁ、心配ないぞ。」

 保証しても恐る恐る入ってくる。

 そして、意を決したように虫籠の前に立ち、息を整える。

 次の瞬間、長津は一瞬だけ虫籠の扉を開けて餌を投げ入れる。そして、次から次へと餌を入れていく。

 多少乱暴な方法ではあるが、虫たちは大喜びだ。広いとは言えない虫籠の中を大喜びで駆け回る。

 そして、全てを投げ入れ終えると、長津は勢いよく部屋から出る。

 「はぁ、はぁ。」

 「うむ、お勤めご苦労。」

 「……もう二度としたくないです。」

 だが、これも仕事の内だ。したくなくても、明日もしなくてはならない。

 嫌でもきちんとやりとげる。

 その長津の姿勢が、何よりも長月は気に入っている。

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