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11月

  神様というのは気まぐれである。

 気に入らなければ天災を起こしたりするし、生け贄を要求したりする。

 その神の真意を問うために、もしくはそんな気まぐれな神様の機嫌をとるために、神様には1柱につき1人の神子が与えられる。特に八百万の神様がいるとされる日本はそれはそれは大変だ。

 世の中には色んな神様がいるが、『月』に関する神様はまた一味違う。『月』と言ってもお月様を司る『月読尊』ではなく、『1月』とか『月始め』とかの『月』だ。

 彼らは、自分の担当する月にのみ神殿に入る。1柱に1つの神殿ではなく、12柱で1つの神殿を共有している。だがしかし、1柱につき神子は1人、12柱につき12人の神子はいる。神子も1年で12人が入れ替わり立ち代わりで神殿に出入りしている。

 そんな、他の神様たちとは一風変わった『月』の神様たちのお話。

 

 

 

 11月――芸術の神

 

 秋と言えば何を思い浮かべるだろうか。食欲の秋?そんなのを考える人は10月に参拝してくれ。スポーツの秋?……すまない。今ここにいる神様は運動はからきし駄目だ。他を当たってくれ。芸術の秋?よしきた!君のような人を待っていた。だが、あまり期待はするなよ。ほら、芸術家って、変わり者が多いって言うだろ……?

 

 「よし出来た!これを見てくれ織雲しも

 「あぁ、今回も素晴らしい出来ですね!」

 霜月に仕える神子、織雲は新作を見て感動した。テーマは秋にありきたりな紅葉だが、霜月にかかれば素晴らしい作品へと昇華される。紅葉の赤と夕焼けの紅。同系色ではあるが、色の使い分けによって全く違う色合いを醸し出している。そのコントラストがなんとも言えず幻想的な、だが写実的な描きかたによって現実的な作品になっている。

 芸術大学を卒業した織雲にとっては、自分の才能のなさを痛感するとともに、この神様に仕えることが出来たのを誇りに思う。毎年一月という短い期間ながらも素晴らしい作品の完成を間近に見ることが出来るのだ。芸術家にとってこれほど嬉しいことはない。

 「うむ、ついでに一句できたぞ。」

 などといって、霜月は俳句だってたしなむ。

 11月を司る霜月は芸術の神様。その才は絵画だけではなく、俳句、歌、舞踊など多岐に渡る。そして、その全てが、当然と言えば当然だが、驚くほど高い水準だ。まさに神業。人間に真似出来るようなものではない。

 「織雲。私はもう疲れた。寝る。」

 「え?もう寝てしまわれるのですか?本日のお仕事は?」

 とはいうものの、神様にだって仕事はある。例えば信仰してくれる人には恩恵を授けたり、悪さをする人には罰を与えたり。霜月は芸術の神なので、その恩恵はたまに人が言う『天から降りてきた』フレーズだったり、罰で言えばスランプだったりする。神様だってただで神様をしているわけではない。きっちりと仕事を果たしているから、人は時に頼り、時に恐れてくれるのだ。

 「今日の仕事は終わりだ。疲れた、眠る。」

 「でも、昨日もそう言ってお休みになられたじゃないですか!」

 「昨日の文句は昨日の私に言ってくれ。」

 霜月は神殿の奥にある寝所へと籠ってしまった。籠ってしまったら、出てくるまでに時間がかかる。天の天宿然り……。

 だが、11月も残り僅か。こなすべき仕事ノルマをきちんとしてもらわないと、世の中の芸術の発展に影響が出てしまう。逸品も駄作もない世界なんて、如何につまらないことか。人は駄作があるから努力をし、逸品があるから心を動かされる。

 「まったく。わかりました。

 それでは、私は一人で紅葉狩りに行って参ります。」

 「何っ!」

 霜月が寝所から血相を変えて飛び出てくる。

 「織雲!今、何と申した!」

 「ですから、『紅葉狩りに行く』、と。」

 「行ってはならぬ!」

 そういうと、霜月は文机に向かい、書類をしたため始める。

 織雲はやれやれと溜め息をつく。

 霜月は知らないのだ。『紅葉狩り』がどのような催しであるのかを。

 何年も前、同じように霜月が出てこなくなった際に、織雲は紅葉狩りに出掛けた。そして、帰って来てから霜月にそのことを話したのだ。すると、霜月はあっさりと寝所から出てきた。そして、紅葉狩りに一緒に行った。だが、すでに紅葉は全て散っていた。その時何気なく織雲は『もう全て私が狩りつくしてしまいました』と言ったのだ。

 すると、霜月は見事に誤解をし、『紅葉狩りとは紅葉を散らせること』だと思い込んでしまった。織雲は紅葉を全て散らせてしまうことが出来ると誤解したまま。

 「織雲!この人間どう思う!」

 「はいはい。今行きますよ。」

 芸術家というのは変人が多いとされる。でも仕方ないだろう。芸術を司る神がちょっと変わっているから。

 それは、きっと普通の人と見ている世界が違うから。

 織雲は芸術を極めるために大学へ進学した。だが、自分では到底天才には叶わないと知った。

 だが、それでも良かった。織雲は自分の仕える神様の作品を通して、天才たちの感じている世界を体験することが出来る。

 それが出来るのであれば、この神様に仕えるのも苦ではない。

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