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田中からの離脱

「研究所時代では他の奴らの性能はよく知らなかったが、お前も二刀流だったとは驚かされたよ」

「お主のような若造に『お前』呼ばわりされる覚えはない」

「む、それは失礼。名前で呼ぶべきか晋三さん」

朝倉は攻め方に悩んでいた。この晋三のヨーヨーにもただ二刀流なだけではなく何らかの能力が付随している可能性が大きいからだ。

下手に攻撃して奴のヨーヨーの術中にはまる危険もある。

「攻めてこないのかの。だったら先手をとらせてもらおうかの」

晋三のヨーヨーが放たれた。見た目は特に変わった所はない。フットワークだけで回避可能。

体をそらして右方向にかわすと晋三の2つ目のヨーヨーが朝倉の顔面めがけて飛んできていた。これは回避は難しいためヨーヨーで防御する。

朝倉は自分の刃のヨーヨーをそれにぶつけたがその晋三のヨーヨーは煙のように消えてしまった。

何故?

あっけにとられていた朝倉の左側から3つ目のヨーヨーが襲いかかってきた。こいつ!ヨーヨーを3つ使えるのか!?

反応が遅れた朝倉は左腕の二の腕から肩にかけて肉がえぐられた。血が大量に吹き出した。結構傷は深いようだ。治すのに10分はかかるか。

「お主も聞いた事があろう。ヨーヨーは両腕に深いキズを負ってしまうと使用不可能になることを」

「あぁ・・研究員から聞いたことがある。ヨーヨーは手のひらから発射される武器。腕が安定してないとヨーヨーも封じられる」

「そう。お主の左腕はもう使えぬ。いや二刀流が使えるくらじゃから、治癒能力もブーストされているべきと考えて10分は使えぬな」

このジジイ、そこまで見抜いていたか。だが片腕が生きていればヨーヨーは2つ投げられる。何とか時間を稼がなくては。

朝倉はそう考え、一気に後退した。奴のヨーヨーの射程距離からはずれさえすれば攻撃は届かない。とにかく間合いをとることだ。

「考えが浅いの。わしのヨーヨーの射程距離は無限大じゃ!」

晋三からゆうに700メートルは離れた朝倉だったが、晋三のヨーヨーが迫りつつあった。

それを弾いたと思ったらさらに2つ目と3つ目のヨーヨーが既に発射されていた。

2つが横に並んで飛んできていたので横から自分のヨーヨーをぶつけて防御したが、その2つも刃のヨーヨーが当たった瞬間に煙のように消えてしまった。

またか、何故だ??

そしてその煙の中から晋三の4つ目(!?)のヨーヨーが朝倉へ一直線に飛んできた。煙から現れたヨーヨーとの距離およそ50センチ。

朝倉はとっさに右腕を前に出してガードしようとした。晋三のヨーヨーは朝倉の右腕一の腕の骨を砕き肉を削ると晋三の元へ戻っていった。

右腕の傷は比較的浅いがこれではヨーヨーは投げられまい。

「これまで・・・なのか!?」

試作体と戦いはじめて朝倉は本気で死を考えた。

抵抗できなくなった朝倉を見ると晋三は勝利を確信した笑みを浮かべながら朝倉に近づいてきた。

「ついに両手が使えなくなったの。もっと話したい気もするが傷が治って反撃されるのも厄介でね。トドメの一撃!」

晋三が腕を振るおうとした瞬間!晋三の胸が背後からやって来た刃のヨーヨーにぶち抜かれてぽっかりと穴を開けた。

「な・・・なぁにっ・・・!」

「最後の最後に油断したなボケ老人。両手が使えなくなっても既に発射されたヨーヨーの操作は可能だ。つまり両手が使えなくなった時の制限は新たなヨーヨーの発射だけだ」

「何だと・・・!だがそれならわしがここまで来る間に見えるはずっ・・・!」

口から血があふれ口元が血だらけな晋三。攻撃は充分のようだ。

「あなたが放ったヨーヨーの煙ですよ。そこに紛れ込ませてあったのさ。煙が消えるまでにあなたが俺の前まで来るのはギリギリだったがね」

「ぐっぅ・・・!無念・・・!」

晋三は絶命した。だが朝倉も出血量が多く傷が治っても血が足りないと思われた。

晋三と一緒にいた敵はまだどこかにいるかもしれない。一刻も早くここから離れなければならなかったが朝倉はそこで気絶してしまった。

今が絶好の機会であったがミノツナは車でバルトハウザーとべナルロッドと合流を果たしていた。

ミノツナは晋三の遺言に従い、本部まで撤退するために生き残りのべナルロッドとバルトハウザーと同じジープに乗って生駒山を駆け上っていたのだ。

大阪八尾の本部にたどり着いた3人は田中一郎に作戦の失敗と朝倉の二刀流のことを告げた。田中は8人の内5人が未帰還であることにひどく動揺したのか本日の会合は解散とした。

本部はそれぞれ全員の部屋が一応備えてあるが、田中の招集があるまでは適当に外をブラブラほっつき歩いており、何日か帰ってこないこともあった。

会合の後、会議室でバレスタスと長谷川がミノツナとバルトハウザーとべナルロッドの元にやってきた。今後の相談か。

長谷川は21歳の青年。見た目は平凡な学生だが野心家で研究所にいた頃から人知れず自分のヨーヨーに磨きをかけていた。

バレスタスは40後半の男。経歴は不明で謎が多い。散髪もろくにしてないボサボサの髪の毛と無精髭が目立つ。着ている茶色のコートからは臭いがする不潔男。

「どうするんだよ、これから」

この中で最年少の長谷川が不安そうな表情で言った。

未だ療養中のフォルスマンと生死不明の晋三を外すと残された試作体は田中、バルトハウザー、ミノツナ、長谷川、べナルロッド、バレスタスの6名である。

幸い戦闘能力の高い試作体はまだ残っているので朝倉を倒すことはまだ可能である。しかし、朝倉を倒した戦いの後で世界の支配の野望が叶うかどうかは不明である。

さらに世界の支配を掲げているもののこの試作体組織は本部を置いた八尾市すら支配できていない。今まで一度も支配計画を実行した事はない。

この事実を思ったバルトハウザーは疑問に思ったのだ。リーダーである試作体1番の田中一郎は何を考えているのかと。支配計画以外に別の目的があるのではないか。

「どうする、というのは支配計画の事についてか?」

バルトハウザーはそう言うとポケットからライターとタバコを取り出し吸い始めた。

「それもそうだが、朝倉の事だ。奴が現世で息をしている限り、我々に安息の日は訪れん」

そう長谷川が応じる。

「下手に朝倉を刺激する必要はなかろう。我々は我々だけで計画を進めるのが良いだろう」

べナルロッドは世界の支配に興味がない事は既に知っている。ミノツナもそうだ。ミノツナとべナルロッドは田中に逆らうのが怖いから従ってきただけという事をバルトハウザーは知っていた。

そのべナルロッドは田中に協力をしているため建前ではそう言っているが、それは本意ではない。今言った計画を進めるというべナルロッドの意見は本意ではないのだ。

バルトハウザーは迷ったが以下の事を口にすることにした。

「なぁ、このまま田中に従ってて良いと思うか?」

かなり勇気ある発言であったろう。田中の味方がこの場にいれば即座に抹殺対象にされたであろう。

しかし皆はその意見にのってきた。

「俺も思ってたぜ。元々田中が恐ろしくていやいやついてきただけだし。ほとんどがそうだと思うぜ。晋三さんやフォルスマンとかの一部を除いてな」

長谷川はそう言った。バレスタスも無言で頷いたので同意見のようだった。ミノツナとべナルロッドは普段行動を共にしているから聞かずとも分かる。

「よし、俺たち5人の意見は一致したようだな。これから逃げるか?それとも後の憂いとなるかもしれない田中を始末するか」

バルトハウザーの話展開は速い。事がトントン拍子に進む。

「田中は確か1番というプロトタイプだからコストや基盤となる人間体への影響を無視していろんな能力を詰め込まれたと聞いた事がある。相手にするのはよした方が良いだろう」

ミノツナは社交的で比較的研究員とも仲が良かったので田中に関する情報も少々掴んでいたようだった。

「そんなに田中は高性能なのか?」

べナルロッドが尋ねる。それにミノツナが答える。

「いや、色々な能力が使えるというだけで強いかどうかは分からん。薬を常用しないと体が崩壊するらしい」

「崩壊って・・・そこまで田中は追い詰められているのか」

バルトハウザーはミノツナの情報網の広さに度々驚かされる。

「田中がこんな計画に俺たちを引き込んだのはその辺が関係しているのではないか?朝倉を抹殺する意義は分からんが」

べナルロッドもバルトハウザーと同じように田中の行動理由に関して考察を始めたようだ。

「やっぱりこのまま逃げよう。今田中は身を隠している。多分薬かなんかだろう。逃げるのは今だと思うが」

長谷川の提案に一同が頷く。このまま田中に付き従っても朝倉に殺されるのがオチだ。

5人は地上に出てとにかく本部から離れることにした。ほとんどの建物が崩れ落ちている荒廃した大地。とりあえず彼らは生駒山に行き身を隠す事にした。

しかし彼らの行く末を監視する者がいた。崩れかけのビルの柱の影から見ているそいつはディライ・フォルスマンであった。

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