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8人の追っ手

命からがら逃げる事に成功したフォルスマンは朝倉の事を知らせるべくリーダーである試作体1番田中一郎と連絡をとった。

「田中さんまずいです。朝倉を見つけて彼と戦いましたが、マグダガルとパオマットが死に、朝倉には逃げられてしまいました。すいません」

「・・・何故戦う前に知らせなかった?」

「それがその・・・俺たちに個人的な手柄が欲しくて・・・」

「下らぬ理由だな。分かった例の場所に緊急招集だ。他の仲間もすぐに集めさせる。今日の正午にこい」

「はい・・・それとですが、俺は片足と片腕を切断されて動けないんです。誰かよこしてくれませんか?」

「では、1番お前から近いべナルロッドとバルトハウザーを向かわせよう」

「ありがとうございます・・・」

2時間ほどで手配されたべナルロッドとバルトハウザーがフォルスマンの元へ到着した。

「おめぇよぉディライ。傷口修復訓練しただろぉ?」

着くなりべナルロッドがあきれた表情で言う。確かに切断に関する修復訓練を研究所で受けていたが、ディライはそれに関しては飲み込みが悪かったのだ。

「切断された手足はもうくっつかないが、義手義足をすぐに作らせよう」

医療が発達した現在では義手義足が簡単にこしらえてくれる店があちこちで見られる。

「例の場所に間に合わなくなるからさっさと運んでくれよ」

フォルスマンは本当につらそうだった。例の場所とは今で言う八尾市辺りにあった。例の、とはいっても大した所ではなく。ただの隠れ家だ。

この場所を起点にまずは近畿一帯を試作体の支配下にと田中は考えていたらしい。

負傷したフォルスマンを車に乗せて例の場所まで運んだバルトハウザーとべナルロッドであったが、八尾市に到着する頃にはフォルスマンは出血のためか気を失っていた。

べナルロッドとバルトハウザーが到着した時点で他の試作体は全員例の場所の地下にある会議室の席についていた。

部屋の中央の長テーブルの周りにぐるっと試作体達が椅子に座っていた。

フォルスマンが気絶していたため朝倉のヨーヨーに関する情報が得られず、今後の明確な方針が立てられずにいた。

「奴のヨーヨーのパワースピードなどの基本性能は平均より高いらしい。マグダガルやパオマットも決して弱い試作体ではなかった。スピードの差で敗れたのだろう」

試作体はそれぞれ相手の明確な戦闘能力の程度を知らないが、田中は戦いの結果だけで朝倉のヨーヨーの大体の性能を見当をつけた。

「いくら奴のヨーヨーが素早かろうが、我らが四方から同時に攻撃すれば、奴とて防ぎようがあるまい。俺達はまだ12人もいるのだ、奴の事など問題ではない」

試作体11番の長谷川省吾が身を乗り出して発言した。長谷川は今年33歳の自信に満ち溢れた常に堂々としている男である。短気な所があり、研究所では性格に問題ありと

されたがヨーヨーの基本性能は高かった。

「俺たちの目的のためにもう少し慎重に行動するべきではないかね。試作体を増やす方法はまだ解明されていない。ここで朝倉と戦ってむやみに犠牲を出すわけにはいかん」

そう長谷川に反論したのは試作体7番のビッグ・ジョーだ。元プロレス選手の巨漢。体格の割りに慎重論を唱えた。

「慎重すぎるなぁジョー。俺たち全員でかかれば朝倉もイチコロさ。恐れることなどない」

長谷川と同じ戦闘を希望したのは試作体9番のロンジ・コージ。

「しかし、まだ準備不足だ。朝倉と一線交えるのは早い」

「だから万全ではないかもしれないが、朝倉を倒すのには充分な戦力は揃っている」

「マグダガルとパオマットとフォルスマンを相手にして勝った奴だぞ もう少し様子見を」

「ここで様子見なんかしてたら朝倉はその間にどこかへと落ち延びるだけではないか!叩くのはいまだ!」

会議は戦うべきと戦うべきではないの2つの意見にわかれ中々1つにまとまらずにいた。

意見がまとまらない時は多数決かリーダーの田中の判断に委ねられる。

11人の内3人が戦うべきではないと主張。8人が戦うべきと主張したため急遽朝倉討伐部隊が編成されることになった。

この討伐作戦で確実に朝倉を殺すために試作体のほぼ全軍が動員された。

試作体3番のヒギンス・アラッドモナー。試作体5番のオットー・バルトハウザー。試作体7番のビッグ・ジョー。試作体8番のミノツナ・ユウ。試作体9番のロンジ・コージ

試作体10番のトミー・晋三。試作体12番のアレクサンダー・べナルロッド。試作体14番のシャンプレーン・バーリンソン。の8名である。

残留するのは試作体1番の田中一郎。試作体11番の長谷川省吾。試作体15番のラルク・バレスタスである。司令官には最年長の68歳の晋三が任じられた。

8名はすぐに朝倉とフォルスマンが戦ったと思われる生駒山へ車を走らせた。フォルスマンらの戦場から徒歩で移動したとしたら今頃奈良県の生駒辺りにいるはず。

生駒は比較的被害が少ない場所である。しかし生駒市はいくつかの集落に分かれており、それぞれの集落で争いがある事もしばしば。

その生駒市内に入った4台の車は朝倉捜索のため1台ずつ東西南北それぞれの方角へ分散した。

北へはバルトハウザーとべナルロッド。南へはジョーとアラッドモナー。西には晋三とミノツナ。東にはロンジとバーリンソンがそれぞれ担当した。

朝倉を見かけても戦端を開かずに他の仲間と先に連絡をとることが義務付けられた。フォルスマンの二の舞いを演じるのは避け無くてはならない。

行動を開始してから1時間は特に実りはなかったが、1時間から15分経った時に東のロンジとバーリンソンが徒歩で丘の上を歩く朝倉を確認した。

ロンジとバーリンソンは朝倉に気取られなかったため現在位置を他の車に伝える事に成功。

伝えた後はバーリンソンとロンジは車から降り、朝倉を徒歩で追跡する事にする。

「以外と簡単に補足できたが、これは奴の罠か?」

慎重派のロンジはいつも異常に慎重になっていた。フォルスマンの一件で慎重にならざるをえない。

ロンジ・コージはアゴヒゲを撫で回しながら思考を張り巡らしていた。45歳の彼の子供の頃からの癖だった。

ずっと考えるロンジに呆れたように言った。

「考えすぎだ。奴は丸腰。そんなに警戒必要ない」

確かに今はだだっ広い砂利道が続く丘を登り続けている朝倉だがロンジは朝倉に対して警戒を欠かさなかった。

何かあるようにしか思えない。

突然、朝倉が歩みを止めた。そして後ろにいる存在に語りかけるかのようだった。いや、語りかける事そのものだった。

「ここなら遮蔽物も何もない。別の敵が合流するまでにお前らを始末する」

朝倉はロンジとバーリンソンに気づいていた。わざわざ隠れる場所がない所まで2人と誘導したのだ。

来る、奴のヨーヨーが。

「避けろ!バーリンソン!!」

ロンジが叫んだと同時にそれは飛んできた。刃のヨーヨー、朝倉のヨーヨーだ。狙いはバーリンソン。

「くそがっ!」

バーリンソンはすぐに自分のヨーヨーで防御。そしてロンジは思った。今なら奴はヨーヨーを手放している。奴は今無防備!

「もらったぞ朝倉!全くマヌケな奴だなぁ!」

ロンジは自分のヨーヨーを放った。案外簡単に片が付いたな、と思ったロンジだが自分のみた事実に驚愕する。

朝倉は冷静にもう一つのヨーヨーを繰り出して、ロンジのヨーヨーを弾いたのだ。ここでバーリンソンとロンジは朝倉が2つのヨーヨーを操れる事実を知ることになった。

「そうか・・・フォルスマン達が負けたのはそれか。2つのヨーヨーを操れるとなればそう簡単にはいかぬもんな」

「その通りだバーリンソン。奴は攻撃と防御を同時に行える。タイマンで奴を倒すのは難しいな」

「あぁ、しかしロンジお前がいる」

「そうだ。奴の初見殺しは今ので見きった」

朝倉は2人にこう問うた。

「他の奴らはいつ来る」

ロンジは教えぬつもりだったが、バーリンソンはいとも簡単にバラしてしまった。

「ふふふ、およそ5分だ。5分でどこかしらの2人が来る。4人同時にかかればお前も無傷ではいられまい」

「成る程な。じゃあ3分でお前達を片付けて2分の休憩にしよう」

「っ・・・!野郎ッ!!」

怒りに身を任せて突進したバーリンソン。危険だ。

「おいバーリンソン!」

「心配するなロンジ。俺のヨーヨーは二刀流相手でも通用する」

今の朝倉とバーリンソンとの距離はおよそ3メートル。

2人の手が同時に光ってお互いが相手のヨーヨーにぶつかって弾かれる。その後さらにお互いの手が光って再びヨーヨーが空中衝突。

至近距離でのスピードは互角のようだった。

「お前は特性を使わないのか?」

「へへっ、まだ明かさねえよ 最後の切り札だ」

そして再びヨーヨーのぶつけ合いが始まるとバーリンソンがロンジに言った。

「ロンジ!今のうちに朝倉に攻撃しろ!奴は俺のヨーヨーに手一杯だ!」

「しかしなバーリンソン。お前が近すぎて攻撃出来ねえ!お前にも当たっちまう!」

「構うかぁ!俺ごと朝倉を攻撃するんだ!」

「しかし・・・!」

「迷ってる暇はねえ!コイツは確実に仕留めるンだ!」

「・・・・分かった。すぐに手当てしてやるからなァ・・!」

ロンジはヨーヨーを投げた。その瞬間!バーリンソンのヨーヨーが光を帯びた。そのあまりの眩しさに朝倉は目を手で覆った。

朝倉がヨーヨーの動きが一瞬止まった。そこにバーリンソンも朝倉にヨーヨーを投げた。

片方は防げてもどちらかは確実にヒットする!奴の目は今くらんでいる。ロンジとバーリンソンのヨーヨーを防ぐ事はほぼ不可能!

「終わりだな朝倉!」

しかし朝倉は以外にも冷静。自分のヨーヨーを同時に投げるとそれぞれがバーリンソンとロンジのヨーヨーを弾いた。

「何ぃ!馬鹿なっ!」

「俺は目は見えずとも気流の動きである程度物の動きは分かる。こちらに直線に飛んでくる物だけ識別するのは簡単だ」

「くそっ!試作体として朝倉はよっぽど優秀なのか」

「のんびりしてるなバーリンソンとやら。ヨーヨーは一度放つと手元に戻る事を知らないのか?」

「なんだと?」

スパン、とバーリンソンの腹部が切り裂かれた。バーリンソンのヨーヨーを弾いた刃のヨーヨーはバーリンソンの背後で射程距離に達した後、戻ってくる『返し』の軌道上でバーリンソンを裂いたのだ。

出血が激しいバーリンソンは放置すれば数分で死ぬだろう。傷口を塞ぐ技能をバーリンソンは不幸なことに持っていなかった。

「一度投げたヨーヨーは返しの行動で手元に戻らなければ解除出来ない事を忘れるなよ。でももう手遅れだと思うが」

ロンジは戦意を喪失した。一対一で朝倉に勝てない事を彼は知っていた。

だが、まだチャンスはあった。

「喰らえ朝倉!俺のヨーヨーは毒g」

放たれた2つのヨーヨーにロンジの上半身はサイコロステーキのようにバラバラになって地面に転がっていた。

戦闘開始から2分47秒という短さ。朝倉はたっぷりと休息をとる時間をもうける事が出来た。


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