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ターゲットは3つ

その日、男がいる集落を見張る3人の男の姿があった。男らは集落から1キロ離れた海岸部から集落を監視し続けていた。

1人は長身で筋肉質なフォルスマン。2人目は中肉中背の若干ウェーブがかかった髪型のマグダガル。3人目はがっちりして肩幅広いパオマット。

「ここ3日程監視してきたが、どうやら奴らはあすこにいるようだな」

「本隊の到着をまつべきだが、手柄を他の奴らに取られてたまるか」

「そうだ 3人もいれば奴には充分だろ」

「よし、マグダガルは右方向からパオマットは左方向から攻めろ。俺は中央から攻める」

「了解」

「分かった」

3人はそれぞれの方向へと散っていった。深夜の闇に紛れていたため見張りにも彼らは気づかれなかった。

「オラァ!」

走りながら集落に突入したマグダガルは右腕を横に振った。すると手のひらから炎で燃えている球体が出現して、周りの長屋を一瞬にして焼き払ってしまった。

これが試作体が持つ真の能力である。手のひらから能力を付加させた球体を発射させる能力である。球体は一定の射程距離に達すると本体の手元に戻ってくる事から「ヨーヨー」と呼ばれていた。

ヨーヨーは強力な能力を持っているが、一度放つと本体が無防備になるため使うタイミングが重要である。

「燃えろや 燃えろ この俺の炎のヨーヨーはこんな集落燃やし尽くしてやるぜ!」

マグダガルのヨーヨーの持つ固有能力は「炎」である。炎をまとったヨーヨーである。触れる物を焼き尽くす恐ろしいヨーヨーなのだ。

マグダガルの放ったヨーヨーによって発生した煙を見たパオマットは「始まったな」とニヤリと笑った。マグダガルは炎のごとく直情的な男で一度戦い出すと焼き尽くすまでやめない男である。

「オラァ・・・出てこいよ朝倉ァ!」

集落の住民たちは何が何だか分からぬまま逃げ惑っていた。マグダガルによって集落はもはや火の海状態であり、逃げ場などほとんどなかった。

「おい坂崎。アイツ朝倉の事呼んでるぞ」

避難中のハインツが言う。

「まさかそんな。同じ名前なだけじゃないか?」

ベングマンも信じられないと言った様子だった。

「そういや朝倉は今どこに?」

中村が坂崎らにそう尋ねたその矢先に朝倉は炎の海の中をゆっくりと歩いて数十メートル先のマグダガルへ向かっていた。

「あっ朝倉・・・?」

坂崎はそう呟いた。それに反応したかマグダガルは朝倉の方へ首を向けて、朝倉を確認するとニヤリと笑った。

2人の距離はおよそ2メートルになるまで近づいていた。

「見つけたぜ裏切り者。こーんな所に隠れてたとはよう」

「どうやって俺を見つけた」

「かーんたんだぜ。俺たち試作体はお互いの位置がつかめるんだ。ヨーヨーが震えてな。お前はまだ練習不足だぞ」

「なるほどな で、俺を始末しようってのか?」

「当たり前だ 先手必勝!」

マグダガルは腕を振るい、炎のヨーヨーを朝倉へ放った。この位置からならヨーヨーは必中必死。

しかし、朝倉のヨーヨーの方が速さとパワーで勝った。炎のヨーヨーを砕かれて朝倉のヨーヨーを胴体に喰らったマグダガルは自分の上半身が落ちていく感覚を感じて絶命した。

朝倉のヨーヨーは刃物のヨーヨーであった。球体の周りに刃が出るようになっており、それを回転させマグダガルを切り刻んだのだ。そして一瞬にしてマグダガルのヨーヨーとマグダガル自身を切断するパワーとスピードも兼ね備えていた。

「ほう。中々素早いヨーヨーではないか」

今度は屈強な肉体を持つパオマットが現れていた。その顔はまるで強敵と戦える喜びに満ちているようだった。

「マグダガルを一瞬にして下したそのヨーヨー見せてもらおうか!」

パオマットはヨーヨーを放った。放たれたと同時にパオマットのヨーヨーが人間の5倍ほどの渦をまとって朝倉へ向かって飛んできた。

「どうだ!俺のヨーヨーは竜巻を起こせるんだ!防ぎきれるかァァ~??」

朝倉は向かってくる竜巻に向かって刃のヨーヨーを放った。刃のヨーヨーはその切れ味で竜巻をも切断、消し去ってしまった。

「ば・・馬鹿な!」

そのままパオマットに向かって直進した刃のヨーヨーはパオマットをミンチにして朝倉の手元に戻ってきた。

「ふうむ 2人とも戦闘を観察していたが、中々の手練だな」

朝倉が一息ついた所でまた敵が現れた。フォルスマンだった。

「君の刃のヨーヨーはパワーとスピード共にそれなりにあり、正面から戦うのは得策ではないな」

「ここらで手打ちにしよう。アンタでも俺には勝てない」

「いやあ、君は俺たちを知らなさすぎる。彼らのような炎や竜巻みたいに単純な攻撃をするだけじゃないんだよ俺たちも」

「じゃあいいぜ 試してみろ」

フォルスマンがヨーヨーを放った。相手との距離は10メートル。冷静に対処しようとした朝倉の左後方からある物が襲い掛かってきた。

ゴンッ

全長2メートルの鉄骨が朝倉の土手っ腹に直撃。フォルスマンのヨーヨーに辺りはしなかったものの朝倉はフォルスマンから見て左にふっとばされた。

「これは・・一体・・・」

「フフッ、まずは一撃」

2人が戦っているのは直線に伸びる長屋の間であった。火の勢いは衰える事なく、戦っている2人を飲み込もうとしていた。完全に蚊帳の外だが坂崎ら数人達は勝負の行く末を静かに見守っていた。

「鉄骨の直撃は痛かろう。すぐ楽にしてやるから安心しな」

何故鉄骨が飛んできたんだ。奴が引き寄せたに違いないが、しかしどうやってだ。考えるんだこいつは炎や竜巻のような単純野郎じゃない。

「どうした攻撃してこないのか?だったらもう一度いくぞ?」

じりじりと迫るフォルスマン。朝倉は頭と肩から出血をしたが重傷ではない。

奴のヨーヨーの方が攻撃スピードは速いのか?というより奴自身の行動速度が速かった。距離をとらなければ。ここで奴に接近するのはまずい。

立ち上がった朝倉はフォルスマンのいる方向とは反対方向へ駆け出した。

「ふん、逃がすかよ」

後を追うフォルスマン。

「俺たちも行こう」

さらにそのフォルスマンの後を坂崎達が追うとしたが中村がそれを制した。

「ダメだ。火が周りつつある。逃げ道がなくなる前に逃げるんだ」

「朝倉を見捨てられるか」

「やめろ坂崎。どうせ俺達がいたって足手まといなだけだよ」

ハインツが諭すように言った。坂崎は追跡を断念して火に囲まれた集落から出る事ができた。

問題は朝倉の方だった。朝倉は火の影に隠れつつ逃げる事でフォルスマンから距離をとることができた。だが、逃げてばかりでは奴を撃退できない。せめて奴のヨーヨーの特性を知り得ないと。

フォルスマンの手が光ったかと思えば、再びヨーヨーが発射されていた。とりあえず自分のヨーヨーで奴のヨーヨーを防御しなくては。

フォルスマンのヨーヨーを弾いたと思ったら、今度も鉄骨が朝倉に襲い掛かってきた。

今度は前から。これは予測出来ていたので難なく回避成功。

「また鉄骨。奴は鉄骨を飛ばすヨーヨー?だがそんな局所的な能力をわざわざ紛争鎮圧のために搭載させるとは思えない。奴の能力の秘密は別にあるのだ」

フォルスマンは舌打ちをした。鉄骨飛ばしのような単純な攻撃は最早通用しないだろう。あれは一回きりの不意打ちだ。

「しょうがねえな。手の内晒すことになるかもしれないが、俺のヨーヨーの真価を見せてやるよ」

フォルスマンは自らのヨーヨーを自分の胸の辺りの高さに静止させた。

「集めろ。ただし砂鉄だけだ」

その命令の瞬間、フォルスマンのヨーヨーに向かって周り一帯の地面から黒の粒が集まりだした。砂鉄だ。地面から砂鉄だけを集めていた。

その光景を見て朝倉は刹那で推理する。

奴の能力は集める事か?だがしかしそれなら逃げる俺を集める事で逃がさないだろうし。周りの家や火を操って俺の退路を防げたはず。それをしなかったと言うことは。

「お前の能力は磁力か?ヨーヨーが磁力を発生させているのか?鉄骨もお前のヨーヨーに導かれて飛んできたんだな」

「気づいたか まぁバラすつもりで砂鉄を集めたんだ。そして砂鉄は充分に集まったよ」

その時既にフォルスマンは横10メートル、縦8メートル、厚さ20センチの砂鉄の壁を作り出していた。

「この砂鉄の壁の後ろにに俺の磁力のヨーヨーがいる。こいつが砂鉄を反発させる磁力を生み出せばどうなるかねえ」

しまった。引き寄せるだけじゃなくて、反発も出来るのか!

「この距離だ。8メートル!俺のヨーヨーの射程ギリギリだが砂鉄はそうはいかんぞ!喰らえ!」

砂鉄が弾丸となって一直線に飛んできた。まだ死ぬわけにはいかない!

朝倉は刃のヨーヨーで地面をくり抜き、壁として砂鉄の前に立ちはだからせた。厚さは余裕もっていたため。負傷はなかった。

「馬鹿め!その地面の壁が死角になったぞ。この俺が直々にヨーヨーを叩き込んでやる!穴にでも入ってみろ!俺が砂鉄をぶち込んで圧死させるぞ!」

弾丸発射と同時に走り出していたフォルスマン。壁に向かって猛ダッシュ。

壁の向こうからフォルスマンの位置も確認せず、朝倉がヨーヨーを大体の見当をつけて飛ばした。

「ふん。最後の悪あがきか」

フォルスマンはヨーヨーで防ぐすらせず回避する。

「馬鹿め!ヨーヨーは一度放つとそのタイムラグで本体は無防備になる!勝った!しねぇ!」

壁の向こうに隠れていた朝倉を確認したフォルスマン。フォルスマンは完全無防備になった朝倉を確実にしとめるために朝倉を見ても一瞬攻撃を遅らせた。それが命取りになった。

朝倉の手元が光ったかと思えば、既にフォルスマンの右足と左腕は切断されていた。

フォルスマンは朝倉が今の今まで隠していた真の能力を片足と片腕を犠牲にして思い知らされたのだ。

「二刀流か!!」

試作体の一部には二刀流が導入されていた。しかし、試作体への負担が大きいため二刀流を扱えるのは稀である。

「お前たち3人以外に追っ手は今いるのか?」

「貴様に教えるか。この裏切り者が・・・俺たちの能力は人類を導くための力だ!なのに何故貴様は拒絶する。何故この崇高な目的を理解できない」

「力で押さえつけるだけの支配を崇高とは言わねえ。結局は私利私欲のために。大衆を支配する気だろ」

「少なくとも俺は本気だ。口で言っても分からぬ奴には力で屈服させるしかないんだ!」

「どうやら話は通じないらしいな。追っ手の情報を言わぬと言うならここで殺す」

「フッ、やはり貴様は馬鹿だ。時間は充分にとらせてもらった」

朝倉が気付いた時にはもう遅かった。集められた砂鉄が周囲を覆い、朝倉からフォルスマンは姿を消した。

「朝倉!もう俺にお前を倒す余力はない。今回はお前の勝ちにしておいてやる。次は覚悟するんだな!」

砂鉄の目眩ましがなくなるとフォルスマンは既にいなかった。よく片足片腕で逃げたものだ。

炎は燃やす物がなくなり自然と消えていた。すっかり集落は焼け落ちていた。

もう安全と思ったか、坂崎、中村、ハインツ、ベングマンが朝倉の元へ駆け寄ってきた。

「大丈夫か朝倉。怪我はない?」

「あぁ、大した傷はない」

「朝倉が無事で良かったが、全部燃えちまったなぁ・・・」

かつての集落を見渡す5人。その場所に集落はもうない。物資は全て炎で消えてしまった。

「奴らがまた来るかもしれない。俺はもうここから出ていく事にする。短い間だったが世話になったな」

朝倉はもう決心したようだ。元々ここにずっと留まるつもりはなかったようなので坂崎達も覚悟していたことだ。

「寂しくなるな朝倉」

「いづれまたお前たち5人に会うことを楽しみにしてるさ。じゃあな」

荒れ果てた大地を踏みしめて朝倉は集落を去っていった。

奴らに関するヒントは何もないが、朝倉はとりあえず東へ向いて歩いていった。

坂崎、中村、ハインツ、ベングマンの4人はいつまでも朝倉の背中を見守り続けた。


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