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行き倒れ


坂崎ら食料チームは食料調達のために集落から2キロ程離れた渓谷で山菜や野草を取りに出かけていた。

このご時世にこのような過疎地域で食料品は非常に貴重であり、人が飲み込める物は重宝された。

今世界は混迷を極めていた。世界各地で紛争が発生し、それぞれの国の中心部だけが安全圏でそこ以外は完全な無法地帯と化していた。

坂崎のいる集落は日本の近畿地方奈良県。日本で現在統制が取れている地域は東京、大阪、京都、福岡、埼玉、の一部であり大部分は統制がとれていない状況であった。

何故世界がここまで混乱したのかと言うと地球の異常な地殻変動や異常気象が関係していた。異常事態が続き人々は狂気に走っていた。

季節は夏。時間は正午。食料チームに紫外線が降り注ぐ。

坂崎は中村、ベングマン、ハインツらと共にキノコの採取をしていたが、今日はどうも不作であった。

「ここらも結構とったからなぁ もう枯れちまったかぁ?」

「まだまだここの渓谷にはがんばってもらわないと困るよ」

ハインツとベングマンの声が遠くで聞こえた。混乱のため日本でも多国籍化が進んでおり、外国人も割りと日本でも見かけるようになっていた。それぞれ暗い事情で逃げてきたような奴らが多い。

「俺はもうちょっと下の方探してくらぁ」

「おうそうか 気をつけろよ」

坂崎は急な傾斜を慎重に下りながら渓流に降り立った。何か魚でもいればと降りてきたが、川には動くものは確認できなかった。

「あぁ~っくそ もう他の場所で探さなきゃならねえかなぁ?」

そう坂崎が頭をかき回して辺りを見回すと数十メートル先に男が倒れていた。急いで駆け寄って息をしている事を確認した。

「おおい!しっかりしろ!」

坂崎は男に呼びかけた。もし頭でも打ってたら下手に動かすのは危険だ。どうすれば・・と思っていると男はすぐに目を開いた。

「アンタぁ、大丈夫か?」

「・・・・・腹が」

「え?」

「腹が減った」

あいにく食い物の持ち合わせはなかった。仕方がなく坂崎は携帯していた水を彼に飲ませた。

「水だ。わずかだけだが飲みな」

水筒の口にむしゃぶりついた彼は水を全部飲み干すと再び気絶してしまった。

「どうした?」

中村がただならぬ様子に気づいたか降りてきていた。ベングマンとハインツも後につづいていた。

「分からん 行き倒れらしい」

「とにかく所持品チェックして安全なら集落に連れて行こう」

「あぁ」

とはいえ彼の所持品は何もなく素性も何も分からなかった。が少なくとも武器は持ってなさそうなので集落につれていくことにした。

坂崎らの集落は30人ほどの小規模なものだった。彼は坂崎の住居に寝かせられ。その数時間後に目を覚ました。

「気づいたか?」

坂崎は彼が目を覚ますまでずっと横についていたのだ。もちろん監視の意味もこめて。この集落の人達はまだ彼を信用していなかったのだ。

「ここは?」

男が尋ねた。

「俺たちの集落さ。そこの山の渓流にアンタが倒れてたんでここに運んで介抱していたのさ」

「それは・・・面倒かけたな」

「調子はどうなんだ 大丈夫そうなのか?」

「あぁ・・・気分も良いし平気だ それよりも飯をくれないか 腹が減って倒れてたんだ」

「そうだと思って用意してある。ホレここではこれくらいしか出せないけど遠慮せず食いな」

坂崎は男におにぎりを3つ手渡した。おにぎりを見るなり男は一瞬のうちに平らげてしまった。

「よっぽど腹が減ってたんだな」

苦笑混じりに坂崎が言う。

「あぁ・・・3日くらい何も口にしなかったからな」

「ところでアンタの素性についてだが、ここではそんなのは大した事じゃない。アンタが問題さえ起こさなければここに居ても良い。まじめでいればいづれ専用の住居も与えられるだろう」

「ご厚意には感謝するが、俺には目的がある。少しここで休めば出ていくさ」

「そうか。まっ、それまでは俺の住居にいても構わねえよ。好きに使いな」

「俺の事信用しているのか?」

「いいや、でも別に盗まれるような物もねえしな」

「じゃあ当分の間お世話になるぜ。えぇっ・・・と」

「坂崎だ」

「そうか。よろしくな坂崎 俺は朝倉だ」

それから数日が経った。朝倉は坂崎と同じ班で食料調達を行ったり、畑仕事を手伝ったりしていた。

朝倉は束の間の平和を味わっていた、その日が来るまでは。

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