7話 魔王、少年を生贄に逃走する
国境警備の送り迎えが終わって、転移でメルメルの家まで戻ると、カケルが地面に倒れていた。
「えっ? どうしたの!?」
テーブルの席に座って、優雅に食後のお茶を飲んでいるユーリスに聞く。
「僕がやった」
「え? 何かあったの?」
ユーリスが気まずそうに私から目を逸らすので、とりあえず床に伸びているカケルの下に行ってみる。
「カケル。大丈夫?」
「エーネ、足に力が入んねー。俺の足、ちゃんと付いてる? 見てくんない?」
カケルの声にカケルの足に目線が動く。よくわからないけれど、カケルの足はちゃんとあった。
「あぁ、大丈夫。ちゃんとあるよ。カケル手は動く?」
私がカケルを起こそうと手を伸ばしたときに、頭上から声が掛かった。
「エーネ、僕が治すよ。そこを代わって」
私が立ち上がって退くと、ユーリスの白く輝く手がカケルの膝に順番に触れた。
「もう動くぞ」
「おっ、治った!」
さっきまで魚のように倒れていたカケルがあっさりと立ち上がった。そして私に向かって笑いかける。
「いやー助かったぜ!」
「どうしてあんなことになっていたの?」
腕を上に上げて体を伸ばしているカケルにそう聞くと、カケルの腕が上空で止まった。ゆっくりと下に降りて、体が向こうを向く。
「俺は言わない。さすがの俺でも学んだんだ」
カケルのおかしな様子に、ユーリスを見ると、ユーリスは完璧な聖女モードで私に向かって微笑んでいた。
ユーリスは怖いし、カケルはいいって言っているし、この件は忘れよう。私も学んでいるんだ。余計なことはしない。
「そういえばエーネ、聞きたいことがあるんだけど」
これからどうしようと考えているとカケルが話しかけてきた。
「何?」
「あのさ、魔族語だったら語尾に『にゃ』が付いたりする?」
「……は?」
カケルは真剣な表情で私に質問している。だけど質問の意味がわからない。
「『にゃ』って……? そのー、カケル。質問の意味がわからないんだけど」
「メルメルがしゃべっているの普通の人族語だろ? 魔族語だったら猫っぽいのかなって。『魔王様。おはようございますにゃ』って言われたくない?」
カケルの真剣な言葉に、やっと意味がわかった。
もちろん言われてみたいに決まっている。
「カケル。残念だけど、魔族語でも普通だよ。語尾に『にゃ』は付かない」
「そっか……付くなら勉強しようと思ったのに……」
目の前の少年は、うなだれていた。なんて不純な学習動機。
「エーネ、『にゃ』って? さっきから何の話?」
ユーリスが不審人物を見るようにこちらを見ている。そんなユーリスに向かって、カケルが自慢気に口を開いた。
「猫ってニャーニャー鳴くだろ? 猫耳の可愛い子が『にゃー』言ってくれたらすげー可愛いじゃん!」
カケルの熱い言葉に、ユーリスはますます険しい表情に変わった。
「あ、カケル。この世界には猫はいないんだ」
「えっ!? いないの?」
カケルが驚いた顔でこちらを振り返った。
「あぁ、猫とか犬とか、そう言う私たちがよく知る生き物はこの世界にいないよ」
「猫人族はいるのに?」
「よくわからないけれど、この世界はそうなんだ」
カケルは「ふーん」と考え込んでいた。
進化論などどこかに捨て去った、でたらめな生き物がわんさかといるのがこの世界だ。神があれだから仕方がないかなと、私はもう開き直っている。
そんなことを考えていると、家の外から声が聞こえた。
「魔王様、いるんでしょ? 一緒に遊びましょー!」
引きつった顔で声の聞こえた方向を向く。
「魔王様! あそぼー!」
何人かの声が続いて、ため息をついた。一緒に遊ぼって、子どもか。千歳を越えても彼女たちは、純粋な心の持ち主なんだろう……
このまま無視すると家を破壊されかねないので家の窓を開けて、上空に向かって手を振る。
「マイカ、おはよう。ごめん今はちょっと無理だ」
「ユーリス以外に誰かいるの?……何か変わった気配がするわ」
マイカはそう言いながら、窓近くまで下りてきて、中にいたカケルに気がついてしまった。
「魔王様! それは何かしら! 魔王様とよく似ているわ!」
マイカは窓枠に掴まって、楽しそうにカケルを観察している。翼が引っかかって中に入れないようだけれど、マイカの勢いに私は少し下がった。
「そのお姉さん黒い翼が生えてる……もしかして、悪魔?」
「うん、そうだ。悪魔族の村はこの近くなんだ」
カケルに素早く答えてから、マイカが窓枠を破壊する前にマイカに意識を戻す。
「魔王様の妹かしら?」
「マイカ。男の場合は『弟』だよ。でも違うよ。この子は新しい勇者だ」
「勇者!? レグルストと同じ?」
マイカがそう言って、ぱーっと顔が輝いた。「うん」と私が答える前に、窓枠にぶら下がっていたマイカはトンッと壁を蹴って上空に戻った。
そして、笑顔で右腕を上空に伸ばして、その手から上空に向かって雷魔法が放たれた。
「あ……」
呆然とした思いで空を眺めてから、室内を振り返ると、ユーリスが真剣な表情で私を見て頷いた。
「エーネ。今すぐここを出よう。村が壊される」
「わかった」
そう答えてから二人で同時にカケルを見る。
「えっ、何?」
魔族語がわかっていないため、カケルは状況がよく分かっていない。だけど――
「ごめん、カケル。たぶん命は大丈夫」
カケルにそう言ってから、私はユーリスとカケルと手をつないで大平原まで転移した。
「もう来ている……」
魔樹コノーキナンノキを見上げると、そこから悪魔族が続々飛び立ってこちらに向かっているのが見えた。さっき信号弾が打たれたのに、みな来るのが早すぎだろう? どんなに暇なんだよ。
「えっ、何かたくさんこっちに来てるんだけど」
やっと気づいてきたらしいカケルが、慌てた顔でこちらを見た。
「カケル。あれは全部綺麗なお姉さんだ」
「えっ? まじで!?」
カケルは背伸びをして目を細めて遠くを見ている。
長く待たなくても、すぐに皆は私たちのすぐ近くまで集まった。上空を埋める黒と肌色の集団を見上げて声を張り上げる。
「みんな! この子は新しい勇者だ。今日は剣を持っていないから優しくしてやってくれ!」
中央にいるミルグレがカケルを凝視しながら、艶やかな表情で唇を舐めるのが見えた。本能的な恐怖に背中が寒くなる。
「じゃあ、カケル。私は逃げるよ」
「えっ!?」
ここに置いていたらとばっちりを食らいかねないユーリスを連れて、私は転移で逃げた。
まるでそれが合図かのように、黒髪の少年に翼の生えた美女が殺到する。
わー。すごい。
平原に少年が倒れている。生きているかなと、転移で近くまで跳んで少年を見下ろした。
「もうだめ……私、お嫁に行けない」
地面に倒れこんだカケルは、そんな冗談を言っていた。冗談のはずだけど、実際に服が乱れていた。
「カケル。怪我はない?」
「きれいなお姉さんに迫られるのが怖いってことを、俺は今日学んだ」
今日一日で、少年は随分成長したようだ。
カケルは地面に座り込みながら、私を見上げた。
「あのさ。悪魔って本当に人食べないの? 『美味しそう』って、襲われているときに何回も聞こえたんだけど」
悪魔族の主食は魔樹コノーキナンノキに生る果実だ。あの綺麗なお姉さんたちはフルーツで生きている。まぁ、肉が食べられない訳じゃないし、イスカのような肉好きもいる。
「人は食べないよ。基本的に悪魔族はフルーツしか食べない」
「基本的に……?」
「あぁ、肉を食べるものもいる」
「あのさ。俺はそっちの人のことが知りたいんだけど」
イスカは今、レグルストにべったりだ。さっきの中にはもちろんいなかった。
「村一番の肉好きは、今、別の男に夢中だから大丈夫だよ」
「えっ……?」
「カケル。それより服が乱れている。首元が大きく開いているから閉じた方がいい。また狙われるよ?」
悪魔族の大半は、カケルのことを十分堪能したのか、ひとまずはみんなで遊びに行ってくれた。
そう思いながら空を見上げていると、私の真上にユメニアが飛んでいるのが見えた。黒い槍を大事そうに胸に抱えてこちらを見下ろしている。
「ユメニア?」
「魔王様!」
ユメニアがゆっくりこちらに下りてくる。ユメニアは私から数歩離れたところに、静かに着地した。
「魔王様。その子、勇者なの……?」
「うんそうだ。勇者カケルだ」
「魔王様と何だか雰囲気似てるね」
ユメニアはカケルと私をちらちら見ながら、照れるようにそう言った。
「それさっきも言われたけどそうかな? まぁ、同じ民族だしどこかで血が繋がってる可能性はゼロじゃないとは思うけど」
そう言ってから地面に座り込んでいるカケルを振り返る。
「カケル。こっちはユメニアだ」
カケルは胸をはだけたまま、ユメニアを呆けた顔で見上げていた。そして勢いよく立ち上がって、ユメニアのもとにまっすぐ進み、ユメニアの手を両手で握った。
「俺と結婚を前提に付き合ってください!」
「……勇者カケル。そこに座りなさい」
気がついたときには、私はカケルを連れて転移していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日も丸まるように寝転んでいる赤いドラゴンに腰掛ける。カケルは突っ立って口を開けて、その巨大なドラゴンを見上げていた。
「カケル。さっきの子は私の友人だ。軽い気持ちで手を出して見ろ、どうなるか分かっているだろうな」
というか、いつものノリでおじいちゃんのもとに連れてきてしまったけれど、カケルは『勇者』だ。おじいちゃんのところに勇者を連れてくるのはまずかったはずなのに、何をやっているんだ私は。
カケルは今、剣を持っていないから大丈夫なはずだけど、もし何かあったらおじいちゃんの方を転移させよう。
頭の中ではそんなことを考えながら、脅すような顔でカケルを見つめる。カケルはぽかんとした顔で、未だにおじいちゃんを見上げていた。恐らく私の声は聞こえていないな。
「は? 何? これドラゴン? 大怪獣? 俺まだ変身できないんだけど……? 何このステータス。ほとんどカンストしてんじゃん。てか文字でかくない?」
仕方ない。少年の心が落ち着くのを待とう。
私はそう考えていたけれど、そうは行かなかった。
「なぁ、まおうそれなんだ!?」
白い小さなドラゴンがひょこっと私の横から顔を出して、カケルを興味津々に覗いている。
「さわっていい? まおう、おれ、さわっていい!?」
「アルファ。今は大事な話をしているんだ」
「まおう、おねがい!」
「いやだから――」
「まおう、だめなのか……?」
アルファが私に向かって悲しい声でそう言ってから、おじいちゃんを見上げた。アルファとしばらく見つめ合ったおじいちゃんは、その大きな瞳をこちらに移す。
「魔王様、危ない?」
「……わかった。わかったよ」
くそう。アルファも最近賢くなって、おじいちゃんに頼めばこちらが折れることをわかってきた。
おじいちゃんから立ち上がって、アルファのことを驚いた顔で見ているカケルに声をかける。
「カケル。こちらの小さな白いドラゴンは、この大きな赤いドラゴンが目に入れても痛くないほどかわいがっているお孫さんだ」
「えっ、孫?」
「怪我をさせたらどうなるか分かっているだろうな? では遊んでやってくれ」
「は?」
カケルに人族語で説明してから、アルファを振り返る。
「アルファ。あそこのお兄ちゃんが遊んでくれるそうだ。怪我のないようにな」
「ほんとか! じじい! おれ、いってくる!」
アルファはどたどたと走ってカケルの下に向かっていった。
「おぉ、カケルは結構遊ぶのがうまいな」
アルファとカケルは追いかけっこのようなことをしている。カケルはときどき後ろを振り返りながら、アルファとあまり距離を開けないように気を付けながら走っていた。
「カケル! ありがとうー!」
「これ、いつまで続ければいいんだ!?」
「アルファが飽きるまでー。大丈夫、子どもは飽きるの早いから!」
カケルに大きく手を振って、おじいちゃんの上に腰掛ける。
「魔王様」
「あぁ、おじいちゃん。そういえば今アルファと遊んでくれている彼は勇者だ」
「勇者……」
おじいちゃんはそう言って、カケルを良く見るように首を大きく伸ばした。カケルは走りながら、近づいてきたおじいちゃんの顔を見上げてぎょっとしている。
「俺、逃げていい!? 逃げたいんだけど!」
「だめだ! 大丈夫だから、そのまま遊んでいて!」
カケルはくそーと叫びながら、立ち止まってアルファに向き合った。
「来い! こうなったら勇者様が本気で遊んでやる!」
アルファは「いいのか!? いいのか!」と言いながら、大喜びでカケルに飛びかかっていた。
「あー、疲れた。こいつ全然飽きてくれねーし」
いつもはすぐに飽きるアルファが、疲れて眠るまでカケルは一緒に遊んでくれていた。
「カケル、ありがとう。アルファも大喜びだったよ」
魔王城まで一度戻って、疲れて地面に休むカケルにコップを渡す。
「カケル水だ。あとこれクッキーなんだ。よかったらどうぞ」
袋に入ったパメラのお手製クッキーを渡す。カケルは早速一つ摘まんで食べていた。
「あっ、日本のクッキーみたいだ。うまい」
「でしょ? 頑張って作ってくれたんだ」
「誰? メイド?」
「いや違う。お手伝いさん……かな? その人も人族だ」
カケルの持っている袋に手を伸ばして、私も一枚もらう。二人で並んでぼりぼり歯ごたえのある音を鳴らした。
「あっ、そういえば、ユーリスが『エーネは遙かに長く生きている』って言ってたけどどういう意味?」
育ての親子の話だろうか。この様子ではカケルはユーリスに聞いたのか?
「私がこの世界に来たのは、今から20年前だ。私はそれから歳を取っていない。おそらく魔王補正だと思う」
「20年前!?」
カケルが私の顔をじろじろと見ている。
「てことは今、45歳くらい?」
「……勇者カケル。生きる上で大切なことを教えてやろう。女性の年齢を軽々しく推測しないことだ」
カケルはなぜか私から距離を取るように、お尻を引きずって大きく下がった。そして「わかった」と、私に向かって何回も頷いている。
今、体から何か出ていた気がするけど、気のせいだよね?
「不老不死?」
「不老だけど、不死じゃない。刺されたりすれば私は簡単に死ぬよ」
「へぇ」
横からカケルの視線を感じるけれど、私は遠くを見つめて言葉を続けた。
「昨日も言ったようにこの世界に魔王は必要だ。だからこその不老なんだと思う。そして、長い長い年月の果てに、壊れてしまった魔王を止める存在が『勇者』だ。勇者と魔王の関係は本来はそういうものなんだ」
そこまで言ってから、カケルの方を向いた。
「君が勇者である間に、私が暴走することはさすがにないと思う。だけど、そうだな――私がしょうもないことで死なない限りは、いつかは私もそういう運命になるのだろう。そのときには頼むよ、勇者様」
笑って言う私から、カケルは目を逸らした。
「昨日から何なんだよ。急にそう言う重い話をするなよ。何て言ったらいいかすぐに思い浮かばねーよ」
「ごめん」
何か考えこんでいるらしい少年を優しく見つめた。
「さてと、ずいぶん時間が経ってしまったし、戻ろう」
立ち上がってそう言ってから、ここに来た本来の目的を思い出した。
「そうだカケル。ユメニアに不埒なことをしてみろ。大海原に君を捨ててやるからな」
「さっきの子、ユメニアって言うんだ! 何あの紫の髪。真ん中だけ長く伸ばしてて、すげー可愛いよな!」
私の言うことが分かっていないのか、再び目を輝かせるカケルをため息をついて見る。もういい、ひとまず帰ろう。
「おじいちゃんまたね」
「おぉ魔王様。今日はありがとう」
「どういたしまして!」
おじいちゃんに手を振ってから、カケルと猫人族の村に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、猫耳」
「あのさ。ユーリス知らない?」
猫人族の子にユーリスの居所を聞くと、くんくん鼻を動かしたあと、あっちですと指を指された。あの方角は、大平原かな。
「ありがとう。カケル、あっちだ」
カケルを連れて再転移した。
「エーネ!」
「ユーリス。待たせてごめんね」
結構時間が経っていたのに、ユーリスとユメニアはさっきの場所にいた。悪魔族たちは遠くの空で遊んでいるのが見える。
視線を空から、ユーリスたちの方に向けると、いつの間にかすぐ近くに居たユーリスに左肩を掴まれた。驚いて顔を上げると、子どものような顔で、少し泣きそうな表情で私を見つめるユーリスの顔が見えた。
「心配した。全然帰ってこないから、心配した……」
ユーリスのその言葉と口調に、自分がしてしまったことについて気がついた。
「ユーリスごめん……おじいちゃんのところに行っていたんだ」
「今度そいつと転移するときは僕も連れて行ってくれ。お願いだから……」
おじいちゃんのところに行くから私が安全なことはわかっていたけれど、軽率だった。ユーリスにひどく心配させてしまった。
私の肩を少しきつく握っているユーリスの手に両手で触れようとしたとき、ユーリスはその手をのけた。
「ごめん」
「ユーリス。心配させてごめんね」
私が見上げると、ユーリスは私を見つめて最後は諦めたように笑った。その顔に、少し安心して笑顔を返す。
「あのー魔王様。さっきからこの人、何を言っているのかな? よくわからない人族語なの」
ユメニアの戸惑うような声に振り向くと、カケルがユメニア前でしゃがんで、ユメニアの右手を両手で恭しく握っていた。ユメニアはそんなカケルにひどく戸惑って、視線を逸らしている。
「すごくタイプです。こんな気持ちは俺初めてです。俺と付き合ってください!」
私が怒るのを忘れるくらいのド直球だ。戸惑うユメニアがこちらを見ている。
ユメニアに何と説明しようか、散々迷ったあげく口を開いた。
「ユメニアのこと好きなんだって。可愛いって」
誰がどう見たって可愛いユメニアはその言葉に驚いた顔で私を見つめたあと――真っ赤になってうつむいた。
「えっ、いや、ユメニアは可愛いよ!? どうしてそんなに驚くの?」
「男の人にそんなこと初めて言われた……」
「はっ!?」
恥じらうように赤くなるユメニアに、慌てて周囲を見る。さっきまで誰もいなかったはずなのに、いつの間にか人が集まっていた。
「そこの君! ユメニア可愛いよね?」
目に入った猫人族の少年に適当に名指しで質問をする。その少年は隣に居た友だちと目を合わせたあと私を見た。
「は、まぁ、可愛いです……」
「何その曖昧な言葉!」
「いや、可愛いと言うと、それはそれで魔王様が怖いんで。な?」
私が質問した少年は、責任を押しつけるように隣の少年に視線を移した。隣の少年は私の視線に引きつるように頷いた。
「えっ? もしかして私が原因!?」
ねぇ、私の所為!? と周りに確認していると、ミルグレが空から下りてきた。
「あらぁ、どうしたの? この騒ぎ」
キョロキョロと周囲を見回しているミルグレに、私はつかみかかるように話しかける。
「ミルグレ! 聞いてくれ。ユメニアが可愛いと言われて、そんな当たり前のことになぜか照れている!」
ミルグレはユメニアとカケルの様子を見て、ふふふと優しく笑った。
「あら、それは照れるわね。ときめいちゃうわ」
周囲の綺麗なお姉さんたちも、ユメニアたちのことをうらやましそうに見ている。
「私も言われてみたいわ」「いいなー」
言われたことがないだって? どういうことだ?
「何で言われたことがないの!? 君たちみんなきれいじゃん!」
私が上空に向かって力いっぱい叫ぶと、美女たちは一斉に照れ始めた。
何、このお姉さんたちのチョロさ……
思い思いに恥じらっている美女の集団に戸惑っていると、隣から声がかかった。
「魔王様。皆さん全員が綺麗なので逆に言われないのだと思いますよ。あと、やはり他の種族は悪魔族のことを怖がっている人が多いので。私は大好きですけれど」
横を向くとメルメルが笑顔で頷いた。あぁそういうことかと、やっと私は納得する。
「メルメル大好き!」
綺麗なお姉さんたちがメルメルに飛びかかった。メルメルは鮮やかにお姉さんたちの特攻を避け続けている。メルメルさすがだな。
「魔王様も好き!」
私に進行方向を変えてくるお姉さんもいたので、私は転移で逃げた。




