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魔王より、世界へ。  作者: 笹座 昴
最終章 未来へと続く道
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間話 水面下の攻防戦

おまけ話です。

突然、隣に座っている人が寝てしまった少年は……



 エーネはさっきから、黙ってたき火を見つめている。今日のエーネはやけに静かだ。イスカのことを応援しているように見えたけれど、やはりエーネは勇者に気があったのだろうか……

 それに――向こう側でたき火を囲んで盛り上がっている、男たちを見る。エーネが人族領で開拓の仕事を手伝っていたのは知っていたけれど、まさか全員が全員あんな働き盛りの男だとは思っていなかった。エーネは人族領に、魔族を連れずにいつも一人で行っている。まさか……いやでも、それだったら今日はその男と一緒にいるはずだ。エーネは今、僕の隣にいる。


 エーネの顔を恐る恐る伺うと、エーネは目をつぶっていた。

「エーネ?」

よく見ると、顔も首元も真っ赤だ。エーネは明らかにお酒が回った症状だった。エーネの額に手を当てて、急いで『癒やし』の力を使った。

 赤みは引いた。首にも触れて確認するが、無事に治ったようだ。エーネがお酒を飲むところはこれまで見たことがないけれど、こんなにも弱いとは知らなかった。


 酔いは引いたはずなのに、エーネは起きない。

「エーネ」

何度か名前を呼んで揺すってみるが、エーネはよく眠っていた。

 エーネはさっき自分のことを『魔神族』だと言っていた。エーネは歳を取らないし、人族でないことは分かっていたけれど、僕とは根本的に違う種族なのか……エーネは――

 何を考えているんだ僕は。僕は自分の考えを吹き飛ばすように頭を振った。


 エーネは起きないようだし、エーネを部屋まで送ることにしよう。丸まるように眠るエーネの足の下に左腕を通して、右手で背中を支えて一気に立ち上がる。

 触れたエーネの体から温かな体温と、澄んだ魔力が伝わってくる。そして、ほのかな匂――行こう。


 宴会場から抜け出すように、歩き始めたとき、

「おい。ユーリス」

案の定、ジョッシュさんに見つかった。

「お前、何をやっているんだ?」

僕がわかりやすいのが悪いのだけど、こうも毎回僕をからかうのは止めて欲しい。

「エーネが眠ってしまったので、部屋に送ろうと」

ジョッシュさんが、顔を近づけて眠っているエーネの顔をじろじろ見ている。

 だからこういうときに、こういう顔をするから、初めて会った人にすぐばれたりするんだ。僕は、自分の険しくなっていた顔を解こうと、笑みを作ろうとしたそのとき――背後からよく知った人の気配を感じて、ぴんと張った糸のような緊張感に包まれる。


 ジョッシュさんが、僕の顔を観察するように、にやっと下から見上げた。

「ユーリス。送り狼になるなよ」

「そんなことしませんよ」

僕は、ジョッシュさんのからかいの言葉に、努めて平静を保って答えた。


 僕がエーネに対して、そんなことをするはずがない。


 エーネの意思を無視してそんなことをすれば、僕は僕の魔法の師匠、魔王を愛してやまないこの城のメイド――今、僕の背後にいるラウリィに殺される。

 そんなことを考えもしていないから、動揺してもいけない。


 僕の魔力は今、背後から監視されていた。

 僕の後ろから僕に向かって、まとわりつくような魔力が伸びて、それが僕の言葉に嘘がないか、魔力に乱れがないかを確認している。このことに気づける者は、今この城の中では、魔力感知に優れている僕とラウリィくらいだろう。だから、僕たち以外には誰もこの戦いには気づいていないだろうけれど、僕は今、僕の魔法の師匠にばれないように全力で,自らの魔力の乱れを抑えていた。


 今、イスカは勇者のことで忙しそうだし、アーガルは倒れているし、ラウリィとパメラはエーネを抱えてエーネの部屋まで上がれない。だから、僕がエーネを部屋まで連れて行くのは間違っていないはずだ。だから、ラウリィも少しくらいは僕のことを信用してくれてもいいだろう?

 そう言いたかったけれど、ラウリィが僕のことを、これっぽっちも信じていないことがよくわかった。



 僕の反応に、つまらなさそうな顔をしたジョッシュさんの横を、エーネを抱えて何事もないように通り抜ける。

 途中、野次馬が僕のことをからかうのを、微笑を顔に貼り付けてやり過ごした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 エーネの部屋。執務室とは違って、用がないのに訪れる場所ではないので、ここに来るのはエーネが刺されたとき以来だ。中央にある、魔王のための大きなベッドに、エーネをそっと寝かせた。


 僕の目の前で、エーネが静かに寝息をたてて、眠っている。そのエーネの薄く開いた口、そこにどうしようもなく僕の目が吸い寄せられて――


 エーネの肩の位置でうるさく交互に点滅する青と緑の光に邪魔をされる。


「はぁ……」

二人に目なんてものはないけれど、二人は僕の顔をじっと見上げている気がする。

 僕は、監視されていた。


「エーネ。お休み」

エーネの額にかかる髪に優しく触れてから、僕は部屋をあとにした。



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