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魔王より、世界へ。  作者: 笹座 昴
2章 人族の親子
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13話 魔王、絵描きを雇う


 パメラとマーシェが城に来てから1ヶ月が経った。

 突然連れてきてしまったし、城には角の生えた大男もいるし、「帰りたい」といつ言われるか気が気でなかったけれど、意外と城に馴染んでいる。パメラが昨日は、私たちの夕食までも作ってくれた。


 ラウリィが作ってくれる魔族の夕飯は、ラウリィがその日に獲ってきた生き物を(さば)いてくれるので、鮮度抜群で美味しくないわけではないのだが……魔族には料理をするという文化があまりないらしく、何というかいつも肉々しい(・・・・)感じだ。

 そんな中、昨日パメラが作ってくれたのは、野菜と肉を丁寧に煮込んだ温かいスープだ。こんな食事は久しぶりだったので、そのほっとするような味に、大喜びで食いついてしまった。

 ラウリィがパメラの調理する姿を静かに熱心に覗いていたので、真面目なラウリィのことだ、パメラから得た知識から新しい料理を作ってくれることだろう。楽しみだ。



 今日もパメラと向かい会って、人族語の勉強をしている。

 現在パメラは、私の描いた絵――足が4本の生き物が描いてあることだけは、かろうじてわかる――を見つめて困っていた。

「うーん、これは才能がないな」

パメラに聞きたいのは『動物』という言葉だ。いつもだったら、転移で持ってくるのだが、こればかりは部屋に持ってくるのが難しい。ということで、私が絵を描いてみたのだけれど、自分でも何が描かれているのかさっぱりわからない。


 パメラは、私がこの絵から『何を』聞こうとしているのかを、さっきから一生懸命読み取ろうと頑張ってくれている。自分の絵の下手さに、何だか非常に申し訳のない気分になった。

「だめだな。誰か絵の上手い人を探そう」

筆を置いて、立ち上がる。

「よしじゃあ今日は“おわり”だ。“パメラ、ありがとう”」

教えてもらった言葉を交えて、本日の勉強の終わりを伝えると、パメラは絵と、私を交互に見ながら、肩を落としていた。

「いや、パメラが悪いわけじゃない。これは誰だってわからない。少し早いけど、今日はゆっくり休んでくれ。マーシェのところに送るよ」

言葉は伝わらないけれど、慌てて、笑顔でそう言った。



「イスカ」

「何ですか」

イスカに会いに行くと、イスカは私とは目を合わせずに黙々と防具の手入れをしていた。アーガルは連日マーシェと遊んでいるけれど、イスカはまだ二人と顔も会わせていない。

「イスカ。今日はイスカに手伝ってほしいことがあるんだ」

顔を近づけてそう頼むと、やっとイスカが顔を上げてくれた。態度は頑張ってぶっきらぼうなままだったけれど、翼がぴくぴく動いている。


「イスカ、手先が器用な種族って、ドワーフ以外にいるかな? あんな感じの大ざっぱではなくて、もう少し、何て言ったらいいのかなぁ――几帳面な感じの種族がいいのだけれど」

「うーん」とイスカがあごに手を当てて、考えこんでいる。

「竜人族はどうでしょうか? 彼らは手先が器用ですし、真面目ですね。確か魔王様は、まだ会っていませんよね?」

竜人族は魔の山の近くに住んでいる。人族どころか、魔族さえもあまり行かない魔境の地であるため、これまで後回しにしていた。会いに行くのに、ちょうどよい機会かもしれない。

「うん。じゃあ、今から行こうと思うけれど……イスカも良いかな?」

イスカが磨いていた防具を横目に見ながら聞くと、「はい!」とイスカが笑顔で立ち上がって、私の方に手を伸ばしてきた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「私も、ここに来るのはずいぶん久しぶりです」

目の前に魔の山がある。以前、魔の山の頂上には行ったことがあるけれど、ふもとから見上げるのは初めてだ。間近で見ると大きいな。

 そして、遠くの方に見えるあれは――

「ドラゴンだ……」

赤黒いドラゴンが、丸くなって海の方角をじっと見ている。私たちは今、ドラゴンとは小さな山を挟んだ場所にいるけれど、ドラゴンの大きさもあって、これだけ距離を取っていても全然安心感がない。こんな距離、あのドラゴンが飛べばすぐではないのだろうか。


 ドラゴンのことは非常に気にはなるが、今日の用事は竜人族だ。

 「こっちです」と案内してくれるイスカについていくと、地下へ続く横長の洞穴の前に、誰かが立っているのが見えた。

 竜のような爬虫類の顔と鱗を持った人が槍を持って、簡易な鎧を着けて、すらりとした姿勢で真面目に門番をしている。普段悪魔族やら鬼人族などしか見ない身としては、ただ門の前で真面目に立っている――それだけで格好良く見えてしまった。

「イスカ、あれが竜人族?」

「そうです」

イスカが私の方を向いて答えたあと、門番をしていた二人の竜人族に向かって、右手を挙げながら大きく声を掛けた。

「やぁ、お前たち。元気そうだな!」

「イスカ様! お久しぶりです」

門番の竜人族たちがイスカに向かって、丁寧に頭を下げた。


「あれ? 知り合いなの?」

「はい。彼らは20年くらい前まで、魔王城で働いておりましたので」

以前、イスカに呼び戻そうかと聞かれた、『魔王城で働いていた人たち』は彼らだったのか。てっきり、悪魔族かと思っていたけれど、よくよく考えてみるとイスカ以外の悪魔族に真面目に魔王城の防衛の任務とか不可能だな。魔王城の方が先に壊れる。


「失礼ですが、そちらにおられますのは、魔王様でしょうか」

考え事をしていると、竜人族の一人に話しかけられた。


 私のことを一目見て、魔王だと分かる種族に久しぶりにあった。ステータスを覗いてみると、どちらの竜人族も魔法防御が高く、2000以上ある。

 やはり、これまでの経験と合わせると『私が魔王だ』と分かるためには、魔法関係のステータスが高いことが必要なのだろう。鬼人族の中でアーガルとあともう一人だけが、ぎりぎり分かったということは、しきい値は1000程度か……


「あぁ、そうだ。私は魔王だ」

私の言葉に、門番をしていた二人の竜人族は、同時にザッと土を蹴って、綺麗に膝を突いて(こうべ)を垂れた。

「魔王様、ご就任おめでとうございます。魔力の流れから、魔王様が顕現(けんげん)されたのかもしれないと我ら竜人族も認識はしていたのですが、何分この地は魔王城からは離れており、他の種族も滅多に訪れないため、これまで確認ができておらず……」

矢継ぎ早に丁寧に説明される言葉に、「いや、いいよ。いいよ!」とこちらが申し訳なくなって慌てて止める。

「中に入れてもらえるかな?」

「もちろんでございます。みすぼらしい場所で申し訳ございませんが、ご案内いたします」

恭しくそう答えて立ち上がった竜人族のあとに続いた。



 洞穴の中に入って、下り坂をしばらく進むと、分かれ道がいくつもある広い通路のような場所に出た。壁も、地面も誰かが磨いたかのように黒光りしている。通路の端をチョロチョロと水が流れていた。

 広い通路をまっすぐ進んでいくと、イスカが何人もの竜人族から声を掛けられていた。そして、その視線が私に目が移ると、竜人族たちは例外なく持っていたものをすべて地面に落としてまで、膝を突いて頭を下げた。

(あぁ……洗濯物が……。いいのにそのままで……)

最近は国境沿いの村々に行くと、『確か、偉い人なはず』程度の扱いしか受けないので、この扱いは逆に新鮮だ。



 洞窟の一番奥の、壁にきれいな赤い布がかかった広い部屋に案内される。

「族長。魔王様です」

その中央で、一人の竜人族が正座の体勢から、私に向かってすっと頭を下げていた。

「魔王様、このような場所に、ご足労頂き申し訳ございません。我ら竜人族は……」

そのまま、門番の人が入り口で私に言った内容と同じ話が続く。

「いや、いいよ。顔を上げて、普通に座ってよ」

族長さんの前の床に、そのまま腰を下ろすと、壁際にいた竜人族の女性が慌てて座布団のようなものを持ってきてくれた。

(もしかして私の座る場所、用意してあったのかな……)

少し冷や汗をかきつつ、持ってきてくれた座布団を受け取って、自分で座布団を床に設置してその上に座る。イスカも同じように私の少し後ろに座った。


 族長さんがなかなか顔を上げてくれないので、族長さんの真正面の位置で、せめて顔をニコニコさせながら族長さんのステータスを見る。



名前: クユーゲル

種族: 竜人族

ジョブ: 竜人族 族長

スキル: 槍術Lv 48,火耐性Lv 46,火魔法Lv 30,剣術Lv21, ▼


HP: 2973

MP: 632

攻撃: 2552

防御: 2610

魔法攻撃: 1025

魔法防御: 2534


イスカほどではないけれど、悪魔族の平均並に強いな。竜人族の族長さんだからだろうか。うーん、こんなに強い種族がまだ残っていたとは知らなかった。


「魔王様、今回はどういったご用件でしょうか……」

族長さんのステータスにすっかり集中していると、族長さんがこちらをうかがい見つつ、汗を拭うような動作で話しかけてきた。

「あぁ、ちょっと顔見せと、探している人が居たんだけれど……」


 私が今日ここに探しに来たのは、だれが見ても分かるくらいの正確な絵を描いてくれる絵描きさんだ。けれども、族長さんのステータスを覗いてみると、竜人族は強すぎる。探す場所が間違っている気がするが――せっかく来たことだし、ものは試しだ、聞いてみよう。


「いなかったらいいんだけれど、絵を描くのが上手い人っている?」

私がそう聞いた瞬間、族長がぶわっと汗をかいた、ように見えた。壁際にいる女性たちのざわざわと騒ぐ声が聞こえる。

 族長さんが私から目を逸らすように、自分の膝を見つめながら口を開いた。

「魔王様、何か噂を聞かれて、遠路はるばるこちらに来られたのでしょうか……?」

「噂? いや、たまたまだよ」

何のことだろう。「イスカも知らないよね」とイスカの方を振り返るが、イスカも頷いた。


 それにしても、族長さんのこの動揺っぷりは何だ。

「私は転移能力を持っていて、魔王城からここまでは、一瞬で来られる。だから、本当にここに来たのは、気が向いただけで偶然なんだけれど、心当たりがあるの?」

私の問いかけに、族長が葛藤する様子で、ずいぶん長い間うつむいていたあと――

「愚息です……」

沈痛な面持ちで告げた。

 族長さんの息子だったら次期族長かもしれない。私に答えるのをためらった理由が何となくわかった。


 だが、探し始めていきなり見つかるとはラッキーだ。よし会ってみよう。

「それで、息子さんは今どこに?」

私が立ち上がると、族長さんは私を見上げて、懇願するように口を開いた。

「魔王様、愚息は村の仕事をせず、絵ばかりしか描いておりませんが、魔王様に見せられるようなものではなく――」

「とりあえず、見てみたいな。だめかな?」

「……ご案内いたします」

観念した族長は、自ら先頭に立ち、通路を進んだ。



「この通路でございます」

竜人族の顔色はわかりにくいけれど、小さな分かれ道の真ん前に立つ、族長さんの今の顔色は、きっと最悪だ。

「よし、行こう! 通路が真っ暗だから、イスカ光を出して」

イスカが指示通り、魔法でぼんやりとした光を出してくれた。


 光で照らされると、細い通路だと思っていたこの場所が、すでに絵の中だったことが分かった。


 壁どころか、天井にまで、ぎっしりと、植物と動物の絵が描いてある。

 いや、描いているんじゃない、これは掘っているのか。掘る深さと角度を変えて、陰影のように見せている。こんなに緻密に……壁の材質もどうなっているんだろう。

 夢中になって、無言で通路を進む。


 ドラゴンだ。先ほどまでとは一転して、壁全体を使うように、大きく翼を広げたドラゴンが現れた。鱗はもちろんのこと、翼の細かいシワまで描いてある。

 ドラゴンを抜けた先には、

「悪魔族か」

翼の位置が少し下だが、これは悪魔族だろう。悪魔族以外にも、鬼人族やいろいろな種族が、荒々しく武器を持った姿で、通路に順に描かれていた。

 そこを進んだ先に、魔王と勇者がいた。

 もちろん私のような魔王ではなく、本当の魔王様っぽいもので、角がある。勇者の方も、今代のすらっとした勇者ではなく、かなりマッチョに描かれていた。


 そんな壮大な勇者の絵の少し先に、他の竜人族と比べてひょろっとした体格の竜人族が、彫刻刀ようなものを握りしめて座っていているのが見えた。その竜人族の目が、まっすぐ私を見上げている。

「やぁ、初めまして」

「魔王様ですか?」

澄んだ目で、静かに私の目を見つめて言われた言葉に「そうだ」と頷く。

「ねぇ、君、魔王城で働かないかい?」

魔王様らしく、少し笑って、妖しい雰囲気を醸し出して言った言葉は――


「いやです」


あっさり断られた。くそう!


「働くって、絵を描いてほしいんだ! もちろん労働はない。絵だけ描いてくれればいい。他は何も頼まないし、しなくていい」

魔王の威厳は横に置いて、今度はなりふり構わずに頼み込む。

「あぁ、そういうことですか。どういった絵を描けばいいんですか?」

「ええっとね……」

ひょろっとしたこの竜人族に、これからやってもらいたいことを説明しようと思ったときに、いつの間にか私の真後ろにいた族長さんが、懐に刺していた小刀を静かに抜いた。

(お、おぅ……)

通路が狭いので、イスカの後ろに転移する。

「お前! 魔王様に何てことを!」

族長さんがついに、息子さんにキレた。


 イスカに押さえつけられた下で、族長さんが泣いている。その姿を、族長さんの息子が静かな目で見つめていた。

 何だろうこの状況……とりあえず、ここは狭いから、族長さんの部屋に戻ろう。

 族長さんを押さえているイスカごと触れて、族長さんの部屋に転移した。

「ここは……」

まぶしそうに目を細めて驚いている族長さんを置いて、一人元いた通路に戻る。

「さぁ、君も行こう」

返事を聞かずに、族長さんの息子も部屋に連れ戻った。


 族長さんの部屋に転移で連れてきた息子さんは、ゆっくり首を動かして周囲を観察している。自分のいる場所を理解したあと、私の方を見た。

「魔王様。その能力、素敵ですね」

「まだ会って5分も経っていないけれど、君ならそう言ってくれると思ったよ」



 始めに案内してもらったときと同じ位置に座る。族長の息子が、私と族長の間に、コの字になるように座った。

「族長さん。息子さんを連れて行きたいんだけどいいかな?」

「魔王様。まだ私は返事をしていま――」

息子さんがそこまで言ったときに、族長が無言ですっと立ち上がった。「まぁまぁ」と手で落ち着くように促す。


 族長は置いておいて、息子さんの方にむき直す。

「えっと、名前は?」

「クルーゼルです」

「クルーゼル、さっき絵を見させてもらって思ったのだけれど、君は、竜人族以外あまり見たことがないのでは?」

植物と動物や、ドラゴンの絵は精細に描いてあったのにもかかわらず、最後の絵に描いてあった魔族たちは、ところどころ私の知っている彼らと異なっていた。

「そうです」

肯定するクルーゼルは、自分でも未完成であるのが悔しいのか、奥歯をかみしめたような顔をしている。

 それを見て、思わずにやぁと、笑みがこぼれた。


「クルーゼル。私に付いてくれば、いろいろな種族の魔族たちに会える。歩かずに(・・・・)だ。さっき、私の能力は見ただろう?」

クルーゼルは、その言葉にうつむいていた顔をはっと上げた。

「魔王様、私を連れて行ってください。お願いします」

予想通り、クルーゼルは私に向かって乞い願った。


 ふふふ、ちょろいな。なぜか、手に取るようにわかるぞ!


「ということで、族長、クルーゼルを連れて行かせてもらうよ。いい?」

「はい、愚息は絵しか描けませんが、どうぞ好きにお使いください」

「ありがとう」

クルーゼルには「あとで迎えに来るから」とだけ言い残して、元いた通路に送り返した。


「あとさ」

部屋に戻ってきて、入り口に立っている門番のステータスを見る。やっぱり、イスカの元部下だったこの人たちは強いな。

「今、人族領との境の国境警備をしているんだ。悪魔族と鬼人族に手伝ってもらっているんだけれど、竜人族もどうかな? 送り迎えはもちろん私がするよ」

「イスカ様もなさっているのですか?」

「あぁ、たまにね」

「かしこまりました。竜人族も、イスカ様と魔王様のお手伝いをさせて頂きます」

強くて真面目なイスカの元部下の人たちが、新たに仲間に入った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ここが魔王城ですか……本当にすぐですね」

クルーゼルはゆっくりと会議室の中を見回している。

「そうだろう。そして、彼女が魔人族のラウリィ。この城で一番偉いから、指示は守るように」

「わかりました」

「じゃぁ、全員で顔合わせをしたいから、今から玉座の間に行こう」



 クルーゼルたちを玉座の間に連れて行ってから、アーガルを迎えに行く。アーガルは今日は中庭で一人で遊んでいた。

「アーガル、ラウリィ。彼は、クルーゼル。人族語勉強の際に絵を描いてもらおうと思って連れてきた。彼は絵を描くこと以外は役に立たないから、期待しないように」

2人が「はい」と頷く。クルーゼルは当たり前だというように、静かな顔をしていた。


「そして……」

転移して、パメラとマーシェを迎えに行く。

「彼女たちが人族の、パメラとマーシェだ」

パメラとマーシェを、今日初めて会うイスカとクルーゼルに紹介する。


 パメラはクルーゼルを見て、少し驚いた顔をしたが、意外にも唾を飲み込む程度で、すぐに落ち着いた。

 けれども、パメラの視線がクルーゼルからイスカに移った瞬間、声も出ないような引きつった顔で、パメラはストンと地面に腰を落とした。そしてそのまま、マーシェに気を配る余裕もなく、恐怖で固まっていた。


(なんか、そんな予感がしていた……)


 イスカは、パメラから明らかに否定されたことに対して、驚いた様子で何か口を開き掛けたあと、黙ったまま寂しそうに下を向いた。

「イスカ。パメラは国境付近の村から連れてきたけど、パメラがこれまでの人生で、魔族領の奥の方に住んでいる悪魔族に会ったことがあるとは思えない。

 悪魔族のことを、見たことも会ったこともないのに、明らかに怖がっているのは、何か、悪魔族に関する噂……いや伝承かな? そんなようなものが、人族にはあるのかもしれないね」

イスカにそう伝えてから、今度はイスカへの視線を遮るように、パメラにゆっくり近づく。

「パメラ、大丈夫だ」

しゃがんでパメラの肩を抱いて、とんとんと背中を叩いた。

「驚かせてすまなかったね。けれど、イスカは悪い魔族ではないよ」

言葉は伝わらないけれど、そう言ってパメラの手を引いてゆっくりと立ち上がらせた。


 パメラのステータスは私よりもさらに低い。

 パメラが、いや普通の人族が、悪魔族を恐れる理由はよく理解できた。



 まずは、ここからだ……


 パメラとマーシェの方を振り返り、笑顔で私は口を開いた。

 「パメラ、マーシェ。ようこそ、魔王城へ」



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