奴隷になる
輝は半ばパニック状態だった。恐らくこんな体験をしたのは自分だけだ、なぜおれが?一体誰が?こんなことを?
考えればきりがなかった、いや、考えても意味がないというのが先か、しかし諦めるわけには行かない、奴隷になる?ふざけるな、絶対にここから出てやる。
あれから何日たっただろうか、輝はここから出る気はおろか、生きる気力さえ失っていた。
毎日能力検査をされ、食事は二食、それもちいさなパンのみであった。
結果輝は無能力者、普通の奴隷として出されることになった。
つい最近まで普通の高校生だった輝には重く辛い出来事であった、ましてや奴隷。
人間としての価値はないもの同然であった。
ついに引渡しの日がやってきた、だか輝にはもう関係ない話である。
どうでもいい。
この先の人生は終わったも同然なのだ。
「こいつはもうやる気すらありませんぜ、もういっそここで殺しましょうか?シークさん。」
殺す?一体何を言ってるんだこいつは
「そうだな、役に立ちそうにないなら殺してしまえ」
「やめろ!死にたくない!殺さないでくれ!」
やはり死とは怖いものだ実際目前にしてしまうと、恐怖で抵抗してしまう。
「…あまり世話を焼けさせるな…」
「!?から…だ…が…動か…」
体が動かない、これが…能力なのか…?
「そう、これが能力だ、じゃあなゴミめ、連れていけ、能力貴族の元でしっかり働けよ無能力者」
いつの間にか動ける様になったおれは奴隷の烙印の首輪を付けられ、人身売買所に行くことになった。
「ついたぞ、ほら降りろ」
思ったより大きいところだな、と感心したのも束の間、奴隷達の詰所に連れていかれた。
「…前言撤回」
おそらく学校の教室ぐらいの場所に百人以上はいるんではないか、というぐらいに詰め込まれている。
まさに奴隷の詰め合わせだな、とクソみたいな冗談はさておき、周りを見渡してみるとさまざまな奴隷がいる。
女や子供、中には人間ではない種族まで、しかしそういった奴隷達はきまってそれぞれ恐怖や絶望の表情をしている。
たぶん自分も同じ顔をしているだろう。
オークションがついに始まった。おれはいったいどういう人に買われるのだろうか、どのように使われるのだろうか。不安で仕方がない。
「なあ」
しかし、おれみたいなアホみたいなやつ、買う人がいるのだろうか、もし買われなければ、こ、ころ殺され…
「なあってば!」
「あひゃあ!」
我ながら女の子の様な声を出して、気持ち悪いな。
「コホン、で、何です?」
「えっあ、いやあ、別に…」
なんだよお前が話しかけてきたんだろ、なんでそんなオカマでも見た顔をするだよ。
と怪訝な顔をしたのがバレたのか、また話しかけてくる。
「い、いやあ、君さ、この世界の住人じゃあ、無いよな?」
ついギョッとしてしまったおれはそいつに近づき尋ねる
「何か、知っているのか?」
そのときその男の首輪からブザーが鳴り、オークション会場に連れていかれてしまった。
ちくしょう、せっかくのチャンスが!
はあ、とでかいため息をついたおれの首輪は、もう奴隷が少なくなった詰所で、あの男と同じうるさいブザーが鳴ってしまった。
「さあ〜て次の商品は〜っと、おおお!こちら、異世界の住人だそうです!これは珍しい!ん…?しかしですねぇ…こちら、無能力者であるようです。まことに残念ですが、こちら24ネルから始めましょう!」
甲高い声が耳をつんざく、こういうやつ、苦手だったなあと思う。
ああ、あのクソみたいな世界も今となっては恋しいなあ。
「ワタクシ、50ネルで買いますワ。」
「おおっとマネルス夫人が最高額を超えた!では、この商品は50ネルでよろしいでしょうか!??」
うむ、ネルは恐らくおかねのことであろう。
24から50とはなかなかいい商品なんではないか、ともう一人前の奴隷に成り下がってしまっていた。
おれが買われた能力貴族はオスカー=マネルスという極悪の貴族であった。
使えないものは捨て、また安い奴隷を仕入れ、という非人道的な奴だった。
割と美人であったので、ある程度の罵りは御褒美であったが、肝心の胸には何もついていない。
そう、貧乳である。
おれはこの世の女で好みのタイプはと聞かれるとこう即答するだろう。
おっぱいがでかいこと、と
貧乳はステータスだ、と喚くやつもいるが、あんなのマイナステータスでしかない。
貧乳は悪なのである。
そんなカス乳女はいつものようにおれを罵る。
「アンタ、異世界人と言われてたようだけど、無能力者なんて、使えないわねえ、このゴミ虫!うちのアレクサンダーのほうがいいこですわヨ。オーホホホ。」
と毎回おれを見るたびに言ってくる、なんなんだあいつは、異世界人はそんなに偉いのか。
あんなクソ犬よりおれのほうがいい下僕になれるに決まってる。
いつもどうりの一仕事を終え、ゼロ乳女の洗濯物でも覗きに行こうとおまっていると、向こうにちいさく手をふっている奴がいる。
その顔に見覚えがある。どこで見たかな、もしかして昨日こっそり二人分食べたパンの持ち主か?
違う、そうだ、オークション会場で別れたあの男だ。あれから聞けずにチャンスを失ったと思っていたが、まさか同じところで働いていたとは。
「まさか、同じ貴族に買われてたとはな〜。」
「ほんとだな!こりゃ何かの運命かもな!」
まさに奇跡。それ以外に例えようがなかった、しかしこの縁、もう無駄にはできない。
「そうだ、あの時なんでおれのことが異世界人だってわかったんだ?」
「あー、それは…」
「アンタ達、サボっているのかしラ?殺されたいのかしラ?」
でた、残念美人貧乳悪女。
「ちがいますよ!マネルス様、教えてただけですよ、ここでサボるとどうなるかって。」
「アラ、それは失礼したわ、そこの異世界人に教えておいて、ワタクシがこの一帯の支配者なのですとネ!」
なんだこのキチガイは、だがこいつの言っていることは正しいのかもしれない。
周りの奴らはこいつの事を神のように崇めている、奴隷として買われていることに自覚はないのか?
いや、或いは能力か?でもだとしたらなぜおれには効いていない?考えたって無駄なことだ。
ただ、一つ、ここから抜け出すのは東大へ入ることより難しいのがわかっただけであった。
その晩、宿舎も同じであった男と、一晩中喋り倒した。
男の名前は【タウリー=ヴァン】
自分も異世界から来たということ、地球から来ていないこと、バンは能力を手にしていること、自分と同じ年代であることなど、彼は知っていることや彼自身のことをすべて話してくれた。
生憎この男とは話がとても合うので、すぐに打ち解けていった。
「そういやおれとヴァンの首輪の色、少し違わないか?」
「これはな、どうも能力持ちの為だけの首輪らしい、生命機関の遮断機能がついているんだ、この首輪も相当高価らしくてさ、無能力者にはもったいなくて付けれないんだってさ。」
この男はなんでも知っているな、と感心しつつ、自分の身分の低さを改めて突き付けられた気がした。
「でも輝って名前珍しいな、イッポンって国だっけ?」
「ああ、やっぱり、あんな所には戻りたくないね、早くここからもオサラバしたいよ。」
それから毎日おれたちは共に仕事をし、夜は喋り倒し、また共に仕事、という日々を過ごしていた。
奴隷という身分であったが、悪くない生活だった。
そう、あの事件が起こるまでは。
投稿、おそくなりました。
2日以内にまた投稿します。
よろしくおねがいします。