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大龍世界

 うーん。初日なのに展開が早すぎて、まったく追いついていない。

 目の前の恭しく(うやうやしく)ひざまずく兵士たちを見て、ため息をつく。


 よくわからないが、あのでかいドラゴンを倒したってのは事実らしい。

 それでどうやらこの世界を開放し、俺に所有権があるという事はなんとなくわかる。


 梓に連絡いれてみるか。彼女なら多分この事態に、的確な助言をしてくれるだろう。

 コンソール画面を開く。すると自分から見て右手から初めてみる高級士官っぽい5人が近づいてくる。


 先頭に立つ一人は女性だ。真っ赤で体のラインがはっきり出たドレスを身にまとい、肩の部分には何やら非接触型のマントを羽織っている。ショルダー部分には高そうな宝石がちりばめられている。

 髪型は黒のロングだが、頭には角が二本生えている。角にも豪華な装飾が施されている。

 俺のしょぼくて黒い角とは大違いだな。


「このたびは、新しき解放者であらせられる新龍王<<アマツガヤ>>様に、ご拝謁の機会を頂きありがとうございます。」


 ちょっとまて。新龍王?? あまりに突飛のない話に目が点なる。


「まずはこの大龍世界の新たな主様であらせられるアマツガヤ様に、絶対の忠誠を誓うべく参上致しました。」


 この女性の後ろには4人の屈強な戦士がひざまずいている。

 言い終わった直後に、左から順に立つ戦士たち。


「フェイマス・ディ・ダンテ 知龍でございます。この身、この知は全て陛下の物であり、世界を見渡す目となってご覧頂ける事でしょう。」


 すらっとしたこの男はそう言い、恭しく敬礼する。


 見た感じ30代のダンディーなオジサマって感じだ。だが身に着けているものは蒼いうろこの様な装甲、鎧を形作っている。

 ただ俺と違って、人だけじゃなく龍も交じっているな。尻尾もあるし。あの装甲のような鎧なんてランダムで青白い光が走っている。すごく高そうだな。



 続いて、すぐ隣の若者? が立ちあがる。。


「ダリオン・ディ・ペイリオン 攻龍でございます。この身、この剣は全て陛下の物であり、覇業成就の力となってご覧頂ける事でしょう。」


 言い終わった後、同じように敬礼する。

 赤い髪のイケメンというか綺麗な顔の若者。俺と同じか下だな。

 一目見てこのヤンチャそうな顔は、ほっとくと暴走しそうなタイプだと意味もなく感じる。


 しかし、声が女声だな。……男装の女か?? 今聞くような雰囲気でもないし、後で確認するか。

 さっきのダンディおじさまと同じように、色は違うけど深い赤の装甲のような鎧を着ている。

 同じように尻尾もある。ランダムで赤白い光が走っている。


 そのあと続いて、隣の女が立ちあがる。


「ドルガン・ディ・ラックス 守龍でございます。この身、この盾は全て陛下の物であり、全てを防ぐ壁となりどんな最悪も防いでご覧頂ける事でしょう。」


 一番背が高い漆黒の黒とも呼べるショートカットの女、いや女傑?

 きりっとして…なんとなくタイプ。っていうかど真ん中だな。ぜひ俺の傍にいて守ってもらわねば。

 同じように黒い装甲のような鎧を着ていて、黒白い光が走っている。尻尾が一番長いな。


 続いて、一番右端の女が立ち上がる。


「レイロット・ディ・ベーテラス 魔龍でございます。この身、この法は全て陛下の物であり、理を統べる魔力をもって、世界の支配をご覧頂ける事でしょう。」


 背は俺より低く、見かけもかなり若いな。ちょっとおどおどしてる感じ。

 魔女っ娘っていうのかな。うん。ロリ属性もってるぞこいつ。

 白の鱗装甲ワンピース着てるし、なんか変わってる。

 手元にも魔女がかぶってそうな、とんがりハットもってるし。

 お色気要員か…? 何気に胸あるし。


「最後になりましたが、私、 フォローワーヌ・ディ・リアリア 大龍宮 龍妃であり、陛下の僕、守護龍統括であります。」


 右手をさっとあげる。

 すると後ろに控えている龍兵士達が一堂に立ち上がる。

 思わず、「ひぇっ!」って声が出る。


「我ら一同、陛下の盾となり、剣となりて、この命を捧げますっ」


 全員がまるで示し合わせたかのように、大声で高らかに宣言する。

 その声はまるで地鳴りのように、この広い謁見の間に木霊した。



「……あ、はい。よ、よろしくお願いします……」



 なんだろう、この居たたまれなさは。心苦しい感じは。

 いかに自分が小心者だって事が良くわかる。


 いかんいかん。よくわからんが、俺は今から社長になるのだ。



「陛下、一つお願いしたい事があります。」


 龍妃リアリアが恭しくひざまずいたまま切り出す。


「な、なんだ? 言ってみろ。」


 偉そうに対応する自分。


「はい。恐れながら陛下。もしよろしければなのですが、陛下の恩名を一部頂きたく存じます。」


「俺の一部の名?? どういう事だ?」


「はい。新龍王様誕生の証として、いえ、陛下の物であるとの証として、名前を一部頂き、改名したく思います。」


「改名か。」


 後ろに控えている4人の身体がピクッと一瞬震える。


 改名ねぇ。まぁNPCに名前を付け替えるってのは、ある意味定番といえば定番な行為。

 自分達が変えたいっていうのなら、その位はいいか。


「よかろう。…元はリアリアだったな。」


「はい、陛下。」


「では……アマリアはどうだ? 俺の名前のアマをやろう。」


 顔をパッと上げ、まるで満開の花のように、満面の笑みを浮かべるリアリア。


「あ、ありがとうございます陛下。この名を汚さぬ用、全霊をもってお傍に仕えせていただきます。」


その瞬間後ろの四人が一斉に、顔を上げる。


「へ、陛下。なにとぞ私めにも改名の機会をお与えくださいませ!」


「私めにも!」


 4人がずるいとばかりに騒ぎ出し、リアリアいや、アマリアと口論になる。


「あなた達! 陛下の御前ですよ! 恥を知りなさいっ」


「リアリアだけずるいっ!!」


「そうだそうだ!」


「私の名はアマリアですっ! 陛下に頂いた大切な名…」


「なに一人悦に入ってんだよ!」


 収まらぬ口論に、後ろの兵士たちもざわめき始める。間に入るか…


「お前達うるさい。」


 その言葉に一斉にひざまずき、恭しく礼をする。


「わかったわかった。お前たち4人にも名前を与えてやる。」


 その言葉に4人は一斉に顔をあげ、満面の笑みを浮かべる。

 アマリアは チッ っと舌打ちをする。


 めんどくさいから 知龍ダンテは アマダンテ

 攻龍ペイリオンは アマリオン

 守龍ラックスは アマックス

 魔龍ベーテラスは アマテラス


 と改名する事になった。


 その後龍兵士達は持ち場に戻り、このだだっ広い謁見の間には5人の僕達が残っている。


「アマリア。現在の状況が知りたいな。何せ俺ってここ来たばかりでよくわからん。」


「かしこまりました。現在の大龍世界からご説明差し上げます。」


 この大龍宮はLEVEL11にある4つの地域の一つであり、その地域を大龍世界と呼ぶ事がわかった。


 梓の話でなんとなくは知っていたのだが、このLEVEL12が創造されてから一度も侵略を許しておらず、今回が初の解放だった。ちなみに俺が倒したのは、龍王と呼ばれるこの世界の前主である。


 その拠点となるのがこの【大龍宮】で、世界中央にそびえる大龍山脈の中心部、一番高い頂き部分にそびえ立つ。この大龍宮に行きつくためには、まず大龍平原を突破して、次に山脈を越えて、そこから大龍宮に繋がっている常しえの洞窟を突破して、ようやく大龍宮にたどり着くのであった。


 過去にも侵略者が挑んできたこともあったが、大龍平原を突破できずに終わり、今回が初の突破者だという事もわかった。だがここで疑問がある。そんな最難関になぜレベル1の素人プレイヤーが、ボスの間までたどり着けたか、である。


 どうやら平原には龍族専用の転送施設があるとのことで、そこで大龍宮まで来られたのではないか?という事だった。


盲点だな。龍族ならほぼノーチェックでここまで来られるとは……これは潰しておかねば。


「アマリアよ。龍族だからといって、ノーチェックでここまで通すのは俺以外無しにしてほしいものだな。他のプレイヤーに知られると厄介だ。」


「かしこまりました。転送装置にはアマツガヤ様の因子を組み込み、僕以外には使わせないよう致します。」


「それがいいだろう。すぐにかかれ。」


「はっ!」


 なにやらアマリアがメッセージで部下に指示しているっぽい。


 しかし、口調がどんどん偉そうになっていく俺。これはこれで気持ちがいいもんだ。

 そのとき自分にコールがかかる。コンソール画面を開くと、梓の顔が浮かんでいる。

 タッチして、会話をオープンにする。


「あ、繋がった…… ちょっとさっき大龍世界解放のシステムメッセージが流れてたけど、君が解放したの??」


「あ、そうだけど。なんでわかったの?」


 どよめく声がコールから聞こえる。梓の周りに大勢いるっぽい。ってかこれ周りに流してるのか?


「ちょっとまってて……」


 なんか話し合いしてるっぽいな。ガヤガヤ音が聞こえる。


「今からそっち行くから。パーティー招待して。」


「パーティー招待ね。ちょっと待ってて。」


 コンソール画面を開き、パーティー招待を送る。

 すぐに承認され、梓がパーティーになる。


「いまから転送スキル使ってそっち行くね。」


 転送スキルか。そんな便利なものあるのか。


「あ、だめだ。はじかれる。今いる場所ってどうやら特殊なフィールドみたいでダメみたい。」


「そっか。じゃあEV出たとこで待ち合わせしよう。待ってるよ。」


「わかった。少し時間かかるから、1時間後に。」


「了解。1時間後に。」


 会話が切れて、コンソール画面を消す。


「という事で、ちょっと今から友達を迎えに行ってくる。」


「ともだ…ち…ですか?」


 どうやら友達という概念が無いみたいだ。

 色々と説明するもなかなか理解してくれない。


「要するに、下僕ということですね!」


 嬉しそうに魔龍アマテラスがはしゃぐ。


「んーまぁ、そんなもんか。俺と親しくする下僕みたいなものだな。」


「と、ということは側室ですね!」


 目がキラキラと輝きながらアマリアが話す。


「いや、側室とかじゃねーから。ってかどこでそんな知識を拾ってきたのやら。」


 椅子から立って移動するアマツガヤ。そこに立ちふさがるアマリア達。


「な、なんだ?」


「陛下。まずはお召し物をお着替えくださいませ。」


「そうです陛下。なぜかそのような下賤な服を着ておられますが、陛下には王者としてもっと威厳のある装備を着ていただなければ。」


「たしかに、これはレベル1の俺でも着れる安物の装備だが…そんなにみすぼらしいか?」


 指をパチンとならすアマリア。

 すると奥からメイド服を着た龍女がやってくる。

 恭しくドレープをつまみ、会釈をした後に集団で囲み、拉致される。


「ちょ、ちょっとどこに…」


 30分後…再びさっき座っていた王座【龍王座】に戻ってくる。


「うむ。陛下の威厳が更に増し、これぞ龍王様ですな。」


 知龍アマダンテは今にも泣きそうな顔して頷く。おまえは成人式に立ち会う親か。


「はぁとてもセクシーな龍王様に、身がとろけそうでございます。」


 顔を赤らめ目がうっとりとしている魔龍アマテラス。ロリでその顔は反則です。


「お前たちの進言感謝する。たしかに凄い装備だな。」


 ステータス画面を開き、装備を確認する。

 防具の欄には星10個並んでいる装備ばかりだ。


 鎧は龍王の煌めきという名の鎧で、小手と具足、パンツセット一体型の装備だ。

 装備条件に、龍王 がある。これ龍王専用なんだな。


 今気が付いたが、自分の名前の欄が<龍王 アマツガヤ>になっている。称号みたいなもんか。

 攻撃力、防御力、魔法防御等々元の俺より凄まじい上がり方している。

 約200倍はあるんじゃないか? ステータスもALL1だったのに、いまや1000を超えている。


 LVを見るとそれまで漢字で<蟠>だったのが<龍王>になっている。

 自分の視界左上部にも、やたらとアイコンが並んでいる。


 <龍王耐性LV1> <全耐性LV1> <特殊能力耐性LV1>…… とまぁとにかく何か保護されているって事か。比較対象がいないから正直どこまで強くなったのかわからない。


 ふと視界上部に表示されている時間を見る。もうすぐ1時間経つ。早くいかないと待ち合わせ時間に間に合わないな。


「アマリア。さっき話した友達を迎えに行くから、EV前まで道教えてくれると助かる。」


「はっ! かしこまりました。」


 きりっとした顔のアマリア。なんか嫌な予感……


「全軍に通達を。龍王アマツガヤ様の初陣です。すぐに準備をっ!」


「初陣? いや、これから戦争しに行くわけじゃなくてね……」



■11F 階層EV前


 普段はほぼ誰も来ない11F階層EVロビー前に、チンッと到着を告げるベルが鳴る。

 扉が開くと、そこには満杯の冒険者達。


「久しぶりにここきたな…」


 ざわつく一団の先頭にいる男が呟く。


「私もここ初めて。初めて11Fに来たよ。」


 そうつぶやく梓。


「とりあえず11Fの平原入り口まで移動しよう。そこが待ち合わせ場所だしな。」


 移動する一団。

 入り口に近づくに連れて、自発的に陣形を編成しなおす。


 よく観察すると、このプレイヤー達は統率がとれており、身に着けている装備、身のこなしから只者でないと推察される。精悍な顔つき、場慣れしている雰囲気を場に醸し出す。


 その中でも一団の先頭に立つ男は、入り口に近づくにつれ、針のようなオーラを漂わせる。

 まるで、今すぐにでも強敵に戦いを挑むような、そんな攻撃的なオーラ。

 それを見て梓も気を引き締める。


 そう。待ち合わせ場所に指定しているのはあの難攻不落、大龍世界なのだから。


 このLEVEL11にある世界は、今までの世界とは違い、難易度、常識が全て通用しないといわれる世界でもあった。LEVEL10の8つある地域を完全解放後、その勢いでLEVEL11を攻略に乗り出すが、全て失敗に終った。その後各ギルド精鋭を集めて、攻略に挑むも全て失敗。それどころかその世界内に1時間と居られずである。それ以降、不可侵領域と言われ半ば放置された世界でもあった。


 入り口を抜ける。待ち合わせ場所に着く一団。しかし誰もいない。

 全員配置につき、どんな強襲にでも対応できるよう、半円の陣を展開する。

 魔物の気配はない。だが、入り口付近とはいえ油断はできない。


「まだ着いていないのかな。もう一回コールしてみる。」


「頼む。」


 一団の先頭に立つ男はそう言い、周りを警戒し始める。

 すると大龍宮のある山脈の方から黒い点が近づいている事に気付く。


 よーく目を凝らと、その点が魔物であることがわかる。ただ、遠目からでも 大軍とわかるほどの点の量であった。


 凄まじいスピードでこちらに近づいており、後1分もあれば間違いなくここに着く。

 男は右手を掲げ、戦闘警戒から戦闘態勢に警戒レベルを引き上げる。


「全員正面上空に意識集中! 上からくるぞ!!」


 全員に緊張が走る。魔法使いは詠唱に入る。

 梓も手に愛用のダガーを両手に握りしめ、戦闘態勢に入る。


「梓! 早く彼と連絡を! あの大群相手じゃ5分と保たない!!」


「わかってる!」


 コンソール画面を立ち上げ、アマツガヤにコールをかける。

 すぐに通話状態になる。


「ちょっと今どこにいるの?? こっちはもうすぐ魔物と戦闘にはいる! できれば戦闘は避けたいから早くっ!」


「あ、あと30秒位でそっち着く。ってか見えた。集団でいるよね?」


 梓は辺りを見回す。この平原見渡す限り誰もいない。

 上空の点ははっきりと形を帯びて、誰にでもわかるシルエットを映し出す。


「お、おい! 上空の点全部龍だぞ!」


「それも成龍だ! あのでかさ…守護龍クラスだ!!」


 ざわめく一団。


「結界を張れ! 何重にも張って初撃にそなえろ!」


 神官が結界を張り始める。


「あ、あの点全部…守護龍だ… 階層主クラスだぞ…」


 全員が圧倒的な戦力に言葉を失う。


「ちょ、ちょっとまだ?? これ以上かかるなら一旦退避するよ!」


「あと少し! すぐそこだよ。」


 ギリギリだ。アマツガヤを回収して即離脱。これしかない。

 しかし、その時である。

 目の前の誰もいない平原に、魔法陣が浮かび上がり、そこから続々と何か転送される。


「敵だ!! それもエルダードラゴンだっ!!」


 目の前には無数の、いや少なくとも100体以上の魔物、エルダードラゴンが転送されている。


 旗色が悪すぎるっ これ以上は待てない。先頭に立つ男はすぐさま全員退避命令を出そうとした瞬間、辺りが急に暗くなる。はっとした顔で上空を見上げる男。


そこには、守護龍の大群が上空に控えているのであった。


 この圧倒的なオーラに見覚えがある。LEVEL10解放戦の時に戦った階層主のあのオーラ。

 ゾクゾクする感覚に高揚感を覚えつつも、その数を確認するや、すぐに冷静になる。

 この数……逃げることはあきらめた方がよさそうだな。


 全員がその空気を感じ取る。逃げることは不可能。

 ならば、この圧倒的な暴力に逆らって、見事死に花を咲かせて見せようと。


 みんながそう覚悟した瞬間、凶悪なオーラがあたりを包み込む。


「なん…だ…このオーラ…は。」


 絶句し、その場で座り込むものが続出する。

 圧倒的な強者はただ、己のオーラを威嚇目的で当てただけである。

 だがそれだけで、戦意を失う。

 格が違う…いや、違いすぎる…


 オーラの発信源は守護龍の上から発せられていた。

 それも5か所から同時に。


 周囲をくるっと一周すると、すぐ近くの平原に着地する5体の守護龍。

 先ほど転送されたエルダードラゴンが整然と並び、守護龍の前にひざまづく。


 降り立った五人の人…いやあれは龍人。

 その5人から凶悪なまでのオーラが放たれる。

 そのオーラに当てられ、梓はダガーを落とし座り込む。

 目には涙がたまっている。


 先頭の男はかろうじて立っていた。だが足は震え、今にも座り込みそうだ。

 そこに青色の鎧を着た男が近づいてくる。


「そこの…先頭に立つお前。図が高い。龍王様の御前である。」


 そう言い終わった瞬間、上空から恐ろしいほどのプレッシャーがかかり

 強制的に座らされる。身動き一つとれない。


「陛下、聞く体制が整いました。」


 後ろを振り返り、恭しく礼をする。


 なに…陛下? これ以上に強いやつがいるって事か…?


 ひれ伏した一団は絶望を覚える。

 その時である。


「いや、お前らやりすぎ。何威圧しちゃってるの。つーか何この演出。やりすぎだろ。」


 さっそうと降りる龍王様?

 梓は聞き覚えのある声に目を瞬かせる。


「お言葉ですが陛下。この敵意むき出しの愚か者どもに、いくら陛下の下僕とはいえ、躾が…」


「めんどくさいな。とりあえずこの嫌な空気なんとかしてよ。」


「かしこまりました。」


 すぐにあの凶悪なまでのオーラがなくなり、辺りに振りまいているプレッシャーが無くなる。


「え? アマツガヤ君??」


 ふらっと立ち上がりこっちを力なく見る梓。


「おう梓! ちょっとばかり遅刻してすまんね。」


 周りにいる座り込んだ一団を見て


「この人たちは梓の知り合い?」


「――ーってか何? これどーいう事??」


「うーむ。話せば長くもならないけど、色々と教えて欲しい事があるっていうか。」


 振り向いて龍妃アマリアに指示を出す。


「この方達はこの龍王の客人である。丁重にもてなすように。」


 全員がひざまずき、恭しく礼する。


「陛下、すぐ近くに私めの居城である、【龍火宮】がございます。そちらにお連れしてもよろしいでしょうか?」


「任せる。粗相の無いようにな。」


 一団を上空に待機している守護龍に乗せ、龍火宮に向かう。


「ふわぁぁぁ! 初めて龍の上に乗った!! すごい!! なんて光景…」


 梓が守護龍の上ではしゃいでる。なんかかわいいな。


「陛下。この者だけ陛下の乗龍であるエンパイアドラゴンに乗せるというのは…」


「ん? ああ、梓だけは特別だから。」


「と、特別という事は…まさかアマツガヤ様の…伴侶…奥方様…」


「え? いやいや。何言ってんの。梓は恩人だよ。」


「し、失礼しました。」


なぜかホッとしているアマリア。


「梓だけは出入り自由にしといてよ。できるでしょ?」


「それはもちろん。では龍刻を刻まさせていただきます。」


 梓に近づくアマリア。急に近寄られてビクッとする梓。なんかかわいい。


「今から龍刻を刻ませていただきます。しばらくお静かに。」


 二の腕に手をかざすアマリア。すると何か刻印が印される。


「これは…?」


「それはこの大龍世界を自由に行き来できる証でございます。それがある限りは、梓様に危害を加えるものはおりませぬ。」


「梓はVIP待遇ってことだな。」


「VIPかぁ。何気に嬉しいかも。」


 ニヤニヤしながら龍刻を眺める梓。


「そろそろ龍火宮に着きます。揺れますのでご注意を。」


 龍火宮の乗龍場に着地する守護龍達。


 ここが龍火宮か。赤造りの大理石なんて初めて見るな。

 大龍世界の入り口付近守護を担当する、攻龍アマリオンが居城とするのがここ【龍火宮】である。

 平原を越えた森林地帯の少し丘陵部分にあたる場所に作られている。

 森の緑と、炎のような赤い大理石で作られた神殿が、見事なコントラストで彩る。


「すごい宮殿だな。この濃い赤は攻龍アマリオンの美しい髪色に似ている。」


「へ、陛下! そのようなお言葉を頂き感謝至極にございます!」


 目を潤ませる攻龍アマリオン。ちょっと涙目か…?

 案内された客間に一団を迎え入れる。美しいメイド達が様々な飲み物、食べ物を振る舞い歓迎する。


「そういやここって飲み物とか食べ物もちゃんと味するんだよな。食べた後なんて満腹を感じるし。」


「ここの中では味覚も現実同様よ。サブ職で料理スキル持ってる☆持ちシェフの料理は、現実世界でも味わえないくらいだよ。ただし、ログアウトしたら満腹も舌の記憶も無くなるけど。」


 凄い世界だ。NPCも自我もって俺ら人間と何ら変わらないし。

 どこまで再現しているのか気になるが…まぁ落ち着いたら確認してみるか。


「アマリオン、梓と二人きりで話したい。部屋用意してくれ。」


「かしこまりました。こちらへ…」


 別部屋に移動し、二人きりになる梓とアマツガヤ。


 龍火宮の最上階に位置するこのVIP用とも思える部屋は、部屋内が白で統一されており、花瓶には真っ赤な見たこともない花が飾られ、その相対する鮮やかさに心を奪わるほど見事な一室であった。

 テラスには森林が前面に見渡せ、ソファーからもその美しい大龍世界の自然を満喫できる設計になっていた。


「すごいね。この部屋。私のホームでは考えられないよ。実現しようとすれば一体いくらかかるのかな。」


「俺も今日一日でいきなり社長になった気分さ。」


 手にシャンパングラスを二つ持って、一つを梓に渡す。


「すげーな。このシャンパン。モエシャンドンの味を見事に再現しているよ。」


「お酒好きなんだね。」


「あぁ、まぁそこそこにだけど。」


 ほのかに泡立つシャンパンの音がチリチリと部屋に響く。

 グラスに口づける梓がこの風景とマッチして…とても大人っぽく見える。


「アマツガヤ君、私が女子高生だって事忘れてるでしょ。」


「あ、そうだった。すまん。ジュース持って来よう。」


「大丈夫。私お酒好きだから。」


「そうか。」


 残り2分目となったグラスにシャンパンを注ぐアマツガヤ。

 ソファーに座りなおり、改めて話を切り出す。


「んでだ、まずこの状況をもう一度整理したい。」


「うん。私も早く理解したい。」


 別れた後の行動を簡潔に話すアマツガヤ。


「なるほど。まずはスキルだね。そのソウルイーターっていうスキル。」


「俺も思っていた。梓が言ってたHPやMPを吸い取る類のスキルでは間違いなくない。」


「もっと根本の、もしかすると文字通りなのかもしれない。」


「文字通り? 魂をってことか?」


「そうそう。もしかして、そのスキルは魂<ソウル>を喰らうスキルなのかもしれない。」


「もしその通りだとすると、話に合致するな。」


「ただ、この大龍世界の主をワンキルしてしまうスキルって。ゴッドスキル以外考えられない。」


「そういや、発動時にゴッドスキルとか出てたな。」


「うそ! ちょっとステータス見せて。」


コンソール画面を開くアマツガヤ。


「あれ? これ普通のスキル登録だ。」


「ホントだな。ただ使用した時にゴッドスキル発動中って出てたんだよな。」


「実際に使ってみないとわかんないね。後で狩りで使ってみよう。」


「そうだな。あのスキル使った後にレベルアップしたのか、ステータスが大幅に上がってるから試したいし。」


「そりゃあ主を一人で倒したんだから、とんでもない経験値稼げてそうね。どの位上がったの?」


切り替えてステータス画面を見せるアマツガヤ。それを見て目を大きく瞬く梓。


「な、な、な、…何? このステータス。」


「何か問題でもあるのか?」


「そうじゃない、この馬鹿げたステータスの数字よ!」


ステータスの項目を指さす梓。


「力…1024、体力…1210、魔力…972、素早さ…1560 ――」


「やっぱりすごいのか? これって。」


「凄いとかそういうレベルじゃないの。」


梓が自分のコンソール画面を開き、ステータスを開示する。


「これが梓のステータスか。あれ?俺より低いぞ。LV52で、力132、体力97…」


「そう、私のレベルも結構上の方だけど、ステータスは200も行かないの。一番伸びがいい素早さですら192と200に届かない。」


「LV52でそんなもんか。100で倍と考えても、俺のステータスは異常だな。」


「スキルも初めて見る項目ばかり。特に状態異常の全耐性とか初めて見た…これ全プレイヤーが喉から手が出るほど欲しいスキルだよ。」


「ただよくわからないスキル多くてなぁ。説明文も短いし。」


「スキルも攻撃、防御、魔法と多種多様にあるし、全部足すと100以上ありそうね。」


「龍王ってすげーな。」


「HPも53万って……これ階層ボス並みだよ。」


「梓のHPは2000位か。それから考えるとこれは破格だな。」


「それもステータスに注釈がある。人体型時って書いてあるってことは、変化できそうだね。」


「変化?」


「うん。敵もそうだけど、種族によって変化するスキルをもともと持ってるのがいてね。一番有名なのが、精霊族の幻体っていうのがあってそれになると、自分のマテリアルに応じて耐性強化したり、もちろん外見も変わってパワーアップしたりするの。」


「なんか昔の漫画にいたフリーザ様みたいなもんか。」


「よくわからないけど… 有名なゴッドスキルで、属性変化っていうスキルがあって。」


「属性変化?」


「名前の通り、自分の属性を変化してしまうの。火の属性だったら文字通り自分の身体が火になって、物理攻撃も利かなくなってしまう恐ろしいスキルなの。」


「物理攻撃が利かないのか。水とかで攻撃しないとダメそうだな。」


「そうそう。そんな感じで人から別の何かに変わる事は多くは無いけど、珍しくもないの。」


「それじゃあ龍とかになれるのかな?」


「可能性はかなり高いと思うよ。龍族ってレベルが高くなると確か龍人形態になれるよね。」


自分のスキル欄を入念に探し始める。


「お、龍体変化ってスキルあるな。」


「どれどれ? 見せて。」


「これ。んーと、人⇔龍人⇔龍⇔龍王 4種の変化ができるな。その時に龍力が必要となるって書いてあるが。」


「4種も… 龍力ってBPじゃない別のパラメーターかな。」


「HPとMPのとこに新たにDPっていうパラメーターあるな。これかもしれん。」


「DPか。パラメーターにまで新しい概念が発生しているなんて。なんか頭クラクラしてきた。」


「未知の世界ってやつか。」


「ほんと未知よ。この世界含めて、今まであり得なかったことばかり。」


「おれも解放すればこんな風に、社長みたいに国主になれるとは思わなかったよ。」


「そこなのよ。一番大事なとこは。この世界にとっての一番の部分。」


「と、いうと??」


「まず最初にありえないって思ったのは、NPCがいるっていうところ。それも戦闘用NPCがこんなにも。この世界の魔物ってもしかすると、アマツガヤ君の配下かもしれない。」


「多分そうだろう。アマリアがこの世界の主っていう位だから。でもそれって、解放したら同じようなものだろ? 程度は違うにせよだけど。」


「そこか違うのよ。普通っていうか、今までは解放した地域で自分の支配下になるのはその居城のみなの。まわりにうろつく魔物はそのまま敵でもあるの。支配下なんてできないし、階層主クラスが配下につくこともないの。居城には侵入者用の創造魔を作る事は可能だけど、そういうレベル。」


「じゃあ、このLEVEL11層から違うってことなのか?」


「そうとしか言いようのないよね。まさしくここは龍の国。アマツガヤ君はその国王って事になる。」


「社長より偉い国王ね。なんか現実感ないなぁ。ってかここはVRMMOの世界か。」


「うーん。でも現実世界も気を付けた方がいいかも。」


「どういうこと??」


 梓が言うには、このVRMMOは開始してから12年。プレイヤーは増加の一途を辿り、今では推定プレイヤー数30万を超えるといわれている。


 ゲームとしては破格のヒットだが、これは非会員制。招待が無ければ参加ができない選ばれし者達が集うゲームと言い換えてもおかしくはない。


 そんなゲームが全く社会に出てこないという事は、それだけ表に出せないよう、あらゆるルートで情報統制がかけられているという事でもある。


 あらゆる出来事がすぐにネットを介して急速に広がるこの時代で、大掛かりな情報統制をするという事がどれだけ大変で、どれだけ凄い事なのか。


 それほどの力を持った誰かが、この非公開ゲームを運営しているという事は想像に容易い事だろう。


 それだけの世界を構築し、30万ものプレイヤーがいるという事は現実世界に影響を与えないわけもなく、実際には多くの富豪が参加しておりゲーム内アイテムを現実のお金で売り買いする、いわゆるRMTリアルマネートレードを頻繁に行っていたのであった。


 運営側もこれについては一切口を出さず、黙認している状態である。むしろ、そういう方向に持って行っている節すらある。


 売り買いされるものはアイテム・武器・防具は言うに及ばず、地域ですら売り買いの対象になっている。もちろん情報もである。


 この世界のアカウントをもっている人ならば、自由に出入りできるサイトもあり、このLEVEL12内にもそういう専門の商店があった。過去に希少価値の高いアイテムを産出するダンジョンを地域内に備えた地域物件が、億単位で取引されたこともあった。


 ここでは譲渡できるものは全てRMT対象であり、それが現実世界においてもとてつもないマーケティングになっているのであった。


その額は年間で数百億とも、数千億ともいわれ、もはや子供の遊びでは済まないレベルまで成り上がっているのである。


「………もはやゲームっていうか、プロサッカーとかそういうレベルだな。」


「その認識で間違っていないと思う。そんなとてつもないゲーム内で、前人未到のLEVEL11地域を文字通り占有するプレイヤーが現れました。わかるでしょ? この意味。」


「考えたくもないが…俺はもしかしてとんでもない資産を現実世界においても手に入れたって事か?」


「その通り。宝くじとかそんなレベルじゃないよ? もしこの大龍世界を売りに出す事ができるならば、一体どれだけの金額になる事か検討もつかないよ。」


「一生遊んで暮らせるほどのお金が舞い込んできそうだな。売れればだけど。」


「まぁそこが難しそうだけどね。ただ、ここ全く開発も進んでないし、誰も侵入した事のない場所多いから新発見の素材も多くありそうだね。」


「開発とかできるのか。ホント現実世界と全然変わらないよな。この世界って。」


「現実にできることはここでもできるって思っておいて間違いないよ。言いたかないけど、娼館とかもあるし…」


「え、まじで? ここそんなとこまで再現してるのか。」


 梓を嘗め回すような視線で見るアマツガヤ。それに対して威嚇する梓。


「とにかく、自分の身元を明かすようなことは絶対しない事!」


「はい。梓様…」


 その時、扉からノック音が鳴る。


「アマツガヤ様、先ほど一緒にお連れしたお客様が、ぜひ面会したいと申し出がありまして。如何しましょうか?」


 ドア越しから聞こえる声。メイドかな。


「通してくれ。」


 ドアが開く。メイドの後ろには先ほど先頭に立っていた男が一人立っている。


「どうも。お邪魔して申し訳ない。いいかな?」


 そう言い、部屋にはいってくる男。

 俺よりも明らかに若そうな男はモデル顔負けのクールなお顔をお持ちで。

 身長も高く、俺より10㎝位高いな。神様はホント不公平だよ。


「あ、紹介するね。彼はシュガレイ。あの八王の一人なの。」


 梓に紹介され、手を差し出すシュガレイ。握手に応じるアマツガヤ。


「お目にかかれて光栄です。この世界の主であるアマツガヤさん。」


「い、いえ。むしろこんな素人でゴメンナサイ…」


 ソファーに腰を掛ける三人。


「んで八王って??」


「あ、そこからか。えとね、簡単に言うとこの世界の8大勢力の一人っていえばわかるかな。」


「8大勢力…ですか?」


 このLEVEL12の世界において、12年の歴史から生まれた八王という存在がある。

 全員が初期からのメンバーと言う訳ではないが、全プレイヤーの7割強がいずれかの勢力に属しているほどの派閥でもある。


 世界はそれに沿って8つの勢力圏があり、そのトップの八人を称える呼び名が【八王】であり、実力も世界トップと言われていた。


 ちなみに、プレイヤーのレベルを図る物差しの一つにランキング制度があるが、そのトップ8でもある。

 実力も、この世界の経済をも握る8人と言えよう。そんな人物が梓と共にいる。梓って何者なんだ?


「聞いているとこちらが恥かしくなってくるね。」


 さっき出したシャンパンを飲むシュガレイ。


「その凄い人と梓が直で知り合いって。凄いな梓。」


「色々と手助けしてもらったりと、頼りになる兄貴分って感じよ。シュガレイは。」


「そんなに持ち上げられても何も出ませんよ。」


「さっきはそんな方に部下が無礼を働いてすいませんでした。」


 深々と頭を下げるアマツガヤ。それを手で静止するシュガレイ。


「そんなことはしないでください。こちらが呼ばれもせず、武装して勢力圏に入ったわけですから。」


 お互いに気を使いあう二人。なんか会社にいるようだな…


「実はお話があってきました。」


 急に真面目な顔になる。

 シャンパングラスを口につける梓。


「是非我が勢力と同盟を結んでもらいたいのです。」


 シャンパンを盛大に吹き出す梓。吹き出したシャンパンに虹がかかる。


「な、梓なにしてんだよっ!」


「いやいや、何? 急に同盟とか!」


「ど、同盟ですか?」


「梓、お前なら今この場で起きていることがどれだけの事かわかるだろう?」


「言いたい事はわかるけど。でも八王として恥も外聞もないっていうか。」


「今、この戦力で僕の本拠地であるミッドガーデンを攻め込まれたら、10分とかからず陥落してしまうだろう。」


 急な例え話で静まる室内。この話の重要さに気付き、どれだけの影響があった事か悟る梓。


「いやいや、いきなり他の地域にケンカを売るような真似なんてしませんよ。あり得ない例え話でしょう?」


「いや、有り得るよ。アマツガヤ君。だって八王の勢力圏は毎日のように侵略・防衛戦争繰り返しているし。」


「その通りです。大戦まではいかないまでも、小競り合いは今、まさに話している間に起こっています。」


 コンソール画面を開き何やら確認をするシュガレイ。


「ちょうど今、LEVEL3にてうちではないですが、他の八王傘下のギルドが地域争いをしていますね。レベル帯が低いから本陣出陣とはならないでしょうが。」


「地域争いですか。」


「ええ、地域には全て所有者がいますからね。枠が無ければ無理やりにでも獲るしかないでしょう。」


「なるほど。そういう事ですか。こちらが攻め込む意思がなくても、降りかかる火の粉がここに舞い降りる事だってあると。」


「その通りです。こちらとしても火の粉はなるべくふりかけたくはないものですが、こう組織が大きくなると思い通りにはいかないものなのです。」


「事故を未然に防ぎたいって事ですよね?」


「はい。あったとしても、手打ちにできる関係性は築いておきたい、それが今回の趣旨です。」


「……言いたいことはわかりました。」


 どうしたものか。言っていることはまさしくその通りだ。正論というよりも、社会の真理だ。

 その気がなくとも、結果としてその気になってしまう事なんてよくある話だ。

 現在のこの世界において、その気にさせたくないって事なんだよな。今の話って。

 こいつ若いのに視点が大局を見据えてるっていうか。本当にトップなんだな。


「いきなり同盟といわれても、まだ自分の足元も良くわかっていないというのが現状です。なので一旦は、相互地域における不可侵協定でも結びませんか?」


「協定ですか? 悪くない…いや、ぜひお願いします。」


 お互い立ち上がり握手をする。


「アマリア? 部屋へ。」


 部屋の出入り口ではなく、別の扉からすぐに出てくるアマリア。


「陛下、お呼びでしょうか?」


「今、ここに八王の一人、シュガレイさんの所と相互地域における不可侵協定を結ぶことになった。草案を急ぎ作ってくれ。」


「かしこまりました。細かい条件は後ですり合わせて、その後調印という運びでよろしいでしょうか?」


「それで構いません。こちらも諸条件を急ぎ作成してお持ちします。」


「大龍側の協定取りまとめはアマリアに一任する。」


「かしこまりました。陛下。」


「という事で、そのやり取りの使者は梓よろしく頼む。」


「えっ? 私が??」


「梓しか自由に出入り出来ないだろ? 頼むよ。もちろん後でなんかいいもんやるから。」


「いつの間にそんな権限をもらったんだい? 梓君。」


「まぁ行きがかり上…あいつの先生でもあるし、まぁ当然というか。」


「では梓を使者として、書類届けるからよろしく。」


「わかりました。それでは一旦これにて我がギルドは失礼させて頂きます。本日のお招きありがとうございました。」


 一同に深々と礼をするシュガレイ。ホントこいつイケメンだな。立ち振る舞い含めて。

 退室するシュガレイ。


「今日は色々と疲れたな。アマリア、なんか甘いもんある?」


「もちろんございます。すぐにお持ち致します。」


「いいもんかぁ… 何くれるのかなぁ。あ、未発見の鉱石とかでもいいよ!」


「そういやここの地図すらないんだよな。アマリア、そんなとこ立ってないでこっち来いよ。」


「そんな、滅相もありません。陛下に並んで着席などとは…」


「何も横座れって話じゃないさ。梓の横でいいから座れよ。これから作戦会議したい。」


「さ、左様でございますか。陛下のご命令とあらばしかたございません。」


 顔がとても不本意な顔してないぞ。アマリア。


「作戦会議って?」


「その前に、ほかの4人もここへ。」


「四天龍もですか? その必要はないかと。私一人で済むお話かと思われますが。」


「なにいってんのさ。陛下のお呼びをあんたが断るんじゃないよ。」


 気が付くと扉の付近に4人が既に立っていた。舌打ちをするアマリア。


「陛下、参上致しました。それで、作戦会議というのは?」


 おまえら、ここでの話全部聞いていたな?


「まぁ盗み聞きしていたのは後で問いただすとして、確認と今後の話だ。」


「ぬ、盗み聞きとは滅相もない。私目は陛下の盾として、槍として……」


「いいから聞けよ。んで国主になって早々このようなイベントがあったわけだ。これはどれだけこの椅子が世界にとって、大きい存在か身に染みたわけで。」


「もちろんでございますとも。世界の王たる龍王様に並ぶほどの存在などありませぬ!」


「確かにあのシュガレイが会って間もないアマツガヤ君に、まさか同盟を持ちかけるとか。そもそも同盟なんて持ちかけた話聞いたことなかったから余計にびっくり。」


「向こうだっていきなり同盟っていっても、素直に首を縦に振るなんて期待してなかったさ。落とし所をしっかり図ってたよな。」


「中々と抜け目のない奴でしたな。シュガレイという男は。」


「それで、こっちもまずはこの世界の地図や資源含めて把握しておきたい。何かないか?」


「それでしたら、こちらをお送りいたします。」


 アマリアの指が光ると、すぐにメッセージウィンドウが点灯する。


「これは……この世界の地図か?」


「はい、そこには資源や、所有する鉱山等書き込んであります。」


「ちょっと見せてよ。」


 梓が俺の横に来て地図を覗き込む。

 二人の間には1㎝の隙間もなく、腕と腕が触れ合い、柔らかい感触が伝わってくる。


 アマダンテ以外の4人が一様に殺気立つ。


「おほんっ。 で、この鉱山や他の資源が何なのか目録とかないか?」


「それはこちらの方にまとめています。」


 地図上部のタブをふれると、資源一覧が出てくる。


「基本資源はもちろんだけど…… やばい。見たことも聞いたことも無い資源がたくさんある…」


「スターダスト、黒炎石、龍鋼石、ブルーメタル、オリハルコン、ヒヒイロカネ…… なんかよくわからんけど、凄そうだな。」


「うそ。オリハルコンもここで出るの……」


「もちろんでございます。世界でオリハルコンが採れるのは、龍王窟以外ございません。」


「神々の金属と言われて、LEVEL10の階層ボスを倒した時に偶然ドロップした以外、一切発見できていない金属だよ。」


「そんな凄い金属なのか。超高そうだな。」


「もちろん超どころじゃないよ。世界で8個しか確認されていない金属で、神器の元の金属でもあるし。」


「オリハルコン如きで神器を名乗るとは。下層生物にとってはそうなのかもしれませんが。」


 失笑をするアマダンテ。


「如きって事は、更に凄いのあるのか?」


「もちろんでございます。オリハルコンを更に霊的に強い場所に長い時間晒す事によって出来上がる超金属のヒヒイロカネこそが、まさしく神器の原料としてふさわしき金属でございます。」


「ヒヒイロカネ? 凄そうな名前だな。それも採れるのか?」


「はい、同じく龍王窟にございます。ただオリハルコン10000に対して、1採れるかどうかの貴重なものではありますが。」


「そうか。じゃあそれで武器を作ってやろう。それでいいだろ?梓。」


「へ? それでいいって??」


「今回の報酬だよ。ダガーだっけ? 梓の武器は。アマリア、ヒヒイロカネ使ってダガーを制作してやってくれ。」


「………かしこまりました。用意させます。」


 悔しそうに睨むアマリア。他の4人の目も怖い。


「お前らがそんなに悔しそうな顔するって事は、相当凄い金属だって事だな。」


「い、いえ、陛下。このヒヒイロカネはまさしく王者の金属。この大龍世界ではアマツガヤ様のみが用いる事を許される金属なのです。」


「なるほどねぇ。じゃあこうしよう。お前たちもこの俺に一層の忠誠と忠勤に励めば、望みの武器か防具を作ってやろう。」


 一斉に立ち上がる5人。


「ま、誠でしょうか?!」


「なんだ。お前達の主である、この俺の言葉が信用できないのか?」


「滅相もございません。もちろんこの命をもって、より一層の忠誠と忠勤に努めます!!」


 土下座する5人。梓が私も? って顔でこちらを見てる。


「とんでもない金属なんだな…ヒヒイロカネって。」


 目録を更に下へ進める。するとある資源に注目する。


「これって原油? あの原油? 燃える??」


「は、左様でございます。燃える黒い水でございます。」


「梓、この世界にも原油ってあるんだ?」


「え、いや、聞いたことないや。あったんだ。原油なんて。」


 リストをまじまじと見るアマツガヤ。


「これこそがこの世界で世紀の大発見じゃないのか? いま原油の在庫ってどのくらいある?」


「現在はほとんどありません。何せ使い道がないので、試験的にしか産出されておりませんが。」


「梓、草案を持っていくときに、今から印すリストも持って行ってくれ。」


「う、うん。わかった。」


「この世界には国庫と呼べるものはあるのか?」


「もちろんでございます。陛下のメニューのところにも確認できます。」


「これか… どれどれ。お、すごい。1千億…ガラン? ガランっていうお金の単位あったっけ?」


「一般的に使っているのがエンだよ? 日本円をモチーフにしているエン。」


「ガランってどこで使えるのかわかるか?」


「聞いたことないなぁ。もしかしてこの大龍世界だけの通貨かも。」


「やっぱりか。アマリア。この大龍世界には都市はあるのか?」


「もちろんございます。城下町がございます。その他にも村や町が複数ございます。」


「それ用だな。まさしく国だよ。ここは。」


「なんか頭痛くなってきた。」


「これからだぞ。よし。ここを始まりの都市位にでかい都市を築き上げよう!」


「大変良いお考えに思います。」


「まずは交易からだな。外貨を獲得だ。」


 地図をもう一度確認する。確かに城下町あるな。だが交易路するにも随分とこの世界と入り口から離れている。入り口付近を開発して、輸送手段を確立しないとダメだな。


「5人に勅命を下す。」


「は! 何なりとご命令ください!」


「この入り口付近に街を築きたい。将来、ここには様々な人が来るだろう。そのための迎賓施設とかを作る必要がある。」


「交易の窓口という事ですね。」


「そうだ。それと同じように大事なのが、外敵への対策だ。それで、入り口を囲むように2㎞ほど離れたところに城壁を設けたい。」


「であれば…このような形で城壁ラインを形成させましょう。」


「町と同時に砦も築きたい。都市防衛だな。」


「なるほど。承りました。」


「龍妃アマリアはこれにかかる財務的な管理はもちろん、今後の交易計画をまかせる。」


「我が陛下、かしこまりました。」


「この入り口付近の開発計画は、知龍アマダンテ、お前を計画推進責任者とする。」


「は! 必ずや、ご期待に沿える働きを致します。」


「よし。そして、この間の大龍世界防衛については守龍アマックス、お前を司令官とする。」


「は! その大任うけたまわりました! 鼠一匹たりとも入れさせません。」


「で、最後に魔龍アマテラス。お前には私の近辺警護を任せる。今後大龍世界から出て、交渉事も多いだろう。その際の警護を任せる。」


「か、かしこまりましたぁ! このアマテラス、命に代えてもご主人様をお守りいたしまぁす!」


「………大丈夫? このNPC…」


「た、多分… そして今後この計画を、超大龍計画と名付ける!」


「名前ださくない??」


「いいだろ… その最高責任者はこの俺だが、その下にアマリアを筆頭として各自責任をもって事にあたるように。」


「かしこまりました! 陛下。」


「では速やかに行動に移れ!」


 颯爽と飛び出していく5人。それほどヒヒイロカネ製の武器・防具が欲しいのね。


「今日一日でえらい展開だな。」


 視界の右端にあるワールドクロックで時間を確認する。


「もうインして5時間が経つのか。てことはそろそろバーは閉店になるな。今日はこのくらいにしてログアウトするよ。」


「まだ5時間でしょ? 現実世界は10分位しか経ってないよ。」


「なに? それはどういうことだ?」


「この世界は現実世界と時間の流れが違うのよ。ここでの1時間は現実世界で約2分位。ここの1日は現実世界の1時間に相当するの。」


「なんと… そんな事ってありえるのか?」


「私も最初は驚いたよ。だけど脳内で情報を直にやり取りするから現実世界では一瞬でも、この世界では認識できるらしいの。」


「現実世界では恐ろしいスピードで、このやり取りが進んでいたわけってか。凄いなこのVRMMOは。」


「だから非会員制らしいんだけどね。こんなの表に出たら大変な騒ぎだよ。」


「こんな技術を開発して、それを秘密にできる組織か。国を越えてるんじゃないか? その組織は。」


「だからこそ、この世界の安全が担保されているんでしょうけどね。」


「じゃあこの世界に入り浸っているプレイヤー多いだろうな。」


「そりゃあもう。さっき言ったようにRMT<<リアルマネートレード>>があるから、本業にしている人もすごく多いって聞くよ。」


「だよなぁ。動く金が半端ないし。俺も上手くいったら本業にでもしようかねぇ。」


「じゃあその時は私を雇ってよ。高給で。」


「売り込みですか。高校卒業したらな。」


「あ、でも私大学進学予定してるんだけど。」


「じゃあその後だな。」


「随分先のことですねぇ。」


柔らかな雰囲気が部屋を覆う。雑談を交わした後、気になっていた事を聞いてみる。


「そういえば、梓ってさっきの八王のとこに所属してんの?」


「シュガーちゃんのとこには所属っていうか、協力関係って言った方がいいかな? 私まだ学生だし、あの人達ほどインしているわけでもないからさ。」


「そうなのか。でも向こうは随分と梓の事かってるだろ。ほら、さっき言ってた大規模狩りも一緒だったんだろ?」


「うん。私が初心者の頃からかなりお世話になっている人で、何て言うんだろう。友達って感じなんだよね。」


「じゃあギルドは入らず、ソロでやってんだ?」


「いいや、ギルドは作ってるよ。所属は私一人だけど。」


「ぼっちギルドか。」


「ぼっち言うな。 あんたもある意味ぼっちでしょうが。」


「まぁそう言われるとそうだけど、優秀なNPCが部下にいるからなぁ。正直他に仲間とか集める必要もないくらいだ。」


「確かに。まさかLEVEL11を解放したら、国ごと支配できるって誰も思わないよね。それに見合う難易度って事か。」


「じゃあさ、梓。俺んとこのギルド入れよ。国作りには優秀な人は若干名必要だ。」


「えぇ?! 私学生だよ?」


「俺は会社員さ。だが、ここではあんまり関係のない事だろう。違うか?」


「そういわれると、その通りだけど。」


「俺らだけじゃこの国は統治なんてできない。さっきの街作り聞いただろう? さすがにゲーム内では無理かと思ってたけど、あっさり通った。前に言ったけど、まさしくこのゲーム内は現実と同じか、それ以上の事ができるって証明だ。」


 ソファーの上で座りながらモジモジし始める梓。これはもう一押しだな。


「やりたいんだろ? 関わりたいんだろ? この未知に。」


 すっと立ち上がるアマツガサ。手を梓の前に差し出す。


「やろうぜ? 今なら先着1名様大歓迎だ。」


 上目遣いの梓に、ちょっとドキッとする。


「私高給取りだけど… よろしくお願いします。」


 手を握る梓。こうして新しく仲間が増えた初日であった。

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