ようこそLEVEL12へ
その日、LEVEL12の世界は大きな騒ぎとなった。
俺の目の前にデカデカと表示された文字。
『おめでとうございます。LEVEL11:大龍世界は解放されました!』
これはどうやら全プレイヤーに強制表示されるらしい。
未だに良くわかってない俺はなぜか、自分の身体の数倍もある丁重に細工が施され、赤い布を張ったとても高そうな椅子に腰を掛けている。
目の前には数十体の兵士が恭しく、かしずいている。
どうしてこうなったんだろうか。
もう一度バーで飲んでいたあの時を思い返してみる。
…
……
………
…………
カラン――たいそうにカッティングされたグラスに指を入れ、氷とお酒をかき混ぜる。
グラスに入っている氷を無造作に、指でかき混ぜる。何回も、何回も。
仕事帰りに必ず寄るバーで、またいつものお酒を飲む。だけどいつも1杯だけ。
指でかき混ぜるときが一番心が落ち着くのよね。ほんと疲れてる俺。
後ろからドアの開閉音がする。横から椅子を引く音が。
横に座った初顔の男。同じようにサラリーマンかな。響音の12年ロックで飲むのか。
チェイサー無しね。ん?もう出るのか。早いね。もっとゆっくりしていったらいいのに。
横目で初顔の男を見つつ、また指で氷をかき混ぜる。何回も。
席を立つ初顔の男。会計するかと思いきや、トイレの方へ向かっている。
ため息を一つついて、明日の仕事の事を考える。いかんいかん。
顔を振り、この心地いい時を楽しもうとする。視界の端に何やら光るものを捉える。
椅子の上にシルバーのカードが。初顔の男が座ったとこだな。
どうしようか。一瞬悩む。拾ってマスターに渡すか。
いやでもトイレ行ったもんな。渡しに行くか。
席を立ちシルバーのカードを手に取る。カードの表面にはこう書いてある。
【LEVEL12】
これだけだ。何のカードだ? クレカとか銀行カードではないな。
まぁいいや。俺もトイレ行きたかったし、その時に声でもかけて渡すか。
席を立ち、トイレへ向かう。
扉を開け、初顔の男を探す…も、誰もいない。
おかしいな。トイレから出たとこは見てない。出れば座っている位置から必ず視界に入るもんな。
大便器の方を覗いてみるもいない。わずかなこの空間には俺一人しかいない。
酔っぱらってるな俺。まだ一杯しか飲んでないけど、疲れてるのか酔いが回っているんだろう。
マスターに渡して今日は帰るか。
少しふらっとして、壁に手を付く。その時壁が押し込まれ、向こう側へなだれ込む俺。
まるで忍者屋敷の隠し壁のように、壁が回転し元の位置に戻る。
入れ替わりに男の声がしたような…
視界はまるでない。真っ暗だ。そもそもここはどこだ?
入ってきたと思しき壁に手を付くも、まったく動かない。閉じ込められたか?
真っ暗闇だが辺りを見回す。何も見えない。
すると、10m先にライトが点灯する。どうやらここは1本道の廊下みたいだ。
灯りの方へ進む。灯りの元はモニター画面だった。
モニターをまじまじと見る。画面にはLEVEL12と映し出されている。
LEVEL12…さっきの拾ったカードだ。画面にログインのタッチパネルが映し出される。
とりあえず触れてみる。『下にカードをかざしてください』の文字が映し出される。
どこだ? ここらへんか? かざしてみる。
大きな機械音が鳴り響き、目の前のモニター画面ごと壁が上にあがっていく。
それと同時に光が漏れだし、廊下を照らす。目の前には部屋みたいな空間が出現した。
部屋の中心には先端に丸いボールが付いた棒が、地面からせせりあがってくる。
恐る恐る部屋へ進む。すると先ほど上に上がった壁が降りてくる。
とじこめられた? しかし声が聞こえる。
『ようこそLEVEL12へ。お客様、中央の光る円球に両手をお触れ下さい。』
どこからか聞こえてくる女性の声。なんだLEVEL12って。
円球ってこれか。目の前に立つ。触れるだけなら死ぬ事はない…かも。両手で触れてみる。
『確認いたしました。失礼ながら、お客様はこのカードの登録者とデータが違いますね。新規スタートという事でよろしいでしょうか?』
新規スタート? どういう事だ?? 全く意味が分からない。
酔ってなくても分からないだろう。
「どういう事だ? とりあえずなんでもいいからここから出してくれ。」
『わかりました。新規スタート承りました。前のデータは全消去致します。少々お待ちを。」
データの消去? それはまずくないか。初顔の男の物を勝手に消したって事か?
ちょっとまて! と言おうとした瞬間、急に意識が遠くなる。
遠くから女性の声が聞こえる。
『データ消去完了致しました。それでは新しいLEVEL12をお楽しみください。』
なんだよ……LEVEL12って…
気が付くと光の中に俺はいた。ただ、意識が曖昧でぼやぼやする視界。
寝てるのか起きているのかよくわからない、中途半端な世界。
ぼやぼやとする世界に身を委ね、力を抜く。なんだか気持ちいい。
すると遠くから声がする。自分に語りかける声がする。耳を澄ませてよく聞いてみる。
…が …?
良く聞こえないな…意識を集中させる。
なん…が……もとめ…?
更に耳に集中する。
『汝がLEVEL12に求めるものは何か?』
なんだ一体。そもそもLEVEL12がわからない。わからないものに求めるものって。
…
……
………
あー求める物かぁ。……あれだな。女とかモテモテになりたいな。いや別に普段はもてないわけじゃないぞ。まぁまぁ合コンとかも行ってるし。会社周りも何気にかわいい女多いし。だけど、もう少しイケメンだったら人生変わっていただろうと思うな。
『相手を求めるのか。……求めるものを聞いた側が、求められるとは。』
なんでこいつに俺の願望を打ち明けているんだろう。良く知らない他人に。
あぁ早く帰りたい。帰してくれよ。
『よかろう。ならばこれにて終了だ。受け取るがよい。』
何かくれるのか? 侘びの粗品か? いいもんくれよ?
気が付くと光の中ではなく、見慣れぬ石畳の上を立っていた。
まだ自分の身に起こった事が正確に理解できていない。
10分ほど前に起こった事を自分の中で整理してみる。
いつもの行きつけのバーで酒を飲んで、落し物を届けにトイレに行ったら、ここにいる。
その前に聞かれたような気がする。だがよく思い出せない。
しかし…どこだここ? どこかのテーマパークか? 長崎にあるハウステンボスにも似た雰囲気。
後ろには噴水が盛大に吹き上がる。噴水の縁に腰を落としてうつむきながら足元を見る。
革靴じゃない。いや、そもそも着ている服が違う。チノっぽいパンツにヨレヨレのTシャツみたいな姿。
立って自分の身体を触り、確認する。変わっているのは服装だけか?
噴水の水面に映る顔。知ってるいつもの顔。だが…頭に見慣れぬ物がある。
触ってみると、固い感触。帽子じゃない。水面に映る顔をよーーく見てみる。
角だ。それも左右に1本づつ。
なんてこったい。酒の飲み過ぎで人間辞めちまったのか?
いやいや、あの位で人間辞められるなら、今頃多くの人間が辞めている。
しかし…一体なんで俺の頭に角なんて。
考えても答えは出ない。とりあえず周りの人に聞いてみようか。
周りを少し歩いてみる。噴水の周りはどうやら公園みたいになっているようだ。
遠くに子供たちが芝生の上を遊んでいる。
だが、子供に聞いてもしょうがない。大人を探そう。
辺りをうろつくこと数分。芝生に座っている女性を発見する。
寝っころがって、誰かとしゃべってる。だが周りに女性以外誰もいない。
誰に向かって喋ってるんだ?
声かけづらいがしょうがない。女性に近寄り声をかける。
「すいません。あの、ちょっといいですか?」
女はこちらを鋭いまなざしで見る。
「ちょっと待ってて。後でまたかけなおす。」
女は上半身を起し、胡坐をかく。
「なに? 何か用??」
きつい口調なこの女。見た感じ10代前半? 中学生くらいか。
だが腰まであるツインテールの少女はアイドル顔負けの美少女だった。
特に大きくパッチリとした目が印象的。
「あ、すいません。何か変な事を聞くようですが、教えて欲しくてですね。」
こちらの服装を一瞥する。
「ふーん。さっきここにダイブしたばかり?」
ダイブ? 耳慣れない言葉だ。
「すいません。ダイブというかそこから教えて頂きたいのですが。」
とりあえず、バーの所から順を追って話す。少女は頷きながら、時々相槌を打つ。
「なるほどね。うーん。何から話して行こうかな。話長くなるけどいい?」
「もちろんです。お願いします。」
今俺たちがいる現実の世界は西暦2071年。科学が日進月歩ですすむ世界だ。
そこで子供や大人問わず、流行っているゲームがある。それはVRMMOと呼ばれるゲームで、TV画面で操作する旧ゲームではなく、日常をリアルに再現するバーチャル・リアリティ空間でのゲームが主流となっていた。
いくつものタイトルがあるが、これもその一つで名前が【LEVEL12】という名前のVRMMOであることが分かった。あの画面はゲームの名前だったというわけだ。それで今ここに立っている空間はまさしくそのゲーム空間というわけで。よかった。見知らぬ世界にとばされたかと冷や汗かいたよ。
「んで、まぁお兄さんは拾ったカードでログインしちゃったってわけ。」
「そうだったのか。それはあの初顔の男に悪い事しちゃったな。」
「そんな大事な物落とす方が悪いよ。気にしなくていいと思うよ。」
「いやでも返さないとまずいでしょ? だって他人のカードだよ? 個人情報の塊じゃないか。」
「大丈夫だって。これ非公開型のVRMMOだから。」
どうやらこのLEVEL12は一般的なVRMMOと違う所があった。それは非公開型という点だ。
通常はポータルサイトから専用のゲームを機器にダウンロードして行うものだが、これは通常では販売されておらず、特定の場所からログインする点が大きく他のゲームと違っていた。
サイトとかでは一切宣伝告知せず行うVRMMO。じゃあこのゲームをプレイするにはどうしたらいいのか。一つは招待である。先にプレイヤーとして楽しんでいる人から招待される事によって参加が可能となる。
ほとんどがこのパターンだった。
もう一つが今回みたいなパターン。あまり例のない事だけど、そういう経緯で参加する人は稀にあるとの事だった。そして、このゲームにおいて一切お金はかからないとの事だった。現実世界のお金は一切使えず、この世界の通貨でしかこの世界の物は買えないとの事で、ここが一番驚いた部分でもあった。
「なるほど。そんな世界が世の中にはあったのか。」
「非公開型が他にあるかは聞いた事ないけど、でも自分のデータ守れない人はここから消されても文句は言えないよ。」
「そういうもんか。ちなみにログアウトとかはすぐできるのかな?」
「できるよ。メニュー開いてみて。」
「メニュー? どうやって?」
「あぁ。そか。ゴメン。教えるね。」
少女が基本的なメニューの出し方や、画面の見方を丁寧に教えてくれた。
この世界にコントローラーは無く、すべて直感型操作方法という事も教えてくれた。
「奥が深いな。このゲームは。」
「そうだよ。私も始めて1年だけどこのゲームほどの奥深さがある他のゲームはまだ知らない。」
「昔古典なMMOゲームはやった事あるけど、世界観がそれに似ているな。」
「昔のゲーム世界をリアルに体験するためのVRMMOだからね。似ているというかその世界観まんまかも。」
「これからどうするのお兄さん? もうログアウトするの?」
「うーん。バーに鞄置いたままなんだよな。一度ログアウトして取りに帰らないとまずいな。」
「お店でログインしたんだよね? じゃあお店が預かってくれてるよ。出るときには傍に置いてあるはず。」
「そうなのか?」
「うん。私の行きつけのとこも個別に専用ロッカーまであるし。」
「そっか。じゃあとりあえずこの世界を体験してみるとしようかな。」
「それがいいかもね。じゃあ私がこの世界をレクチャーしてあげましょう。」
そういって仁王立ちの少女。とてもえらそうにニヤニヤとこちらを見下す。
「わかりましたお嬢様。右も左もわからないこの私目にどうぞご指導を。」
うやうやしくかしずく。笑い出す二人。
「じゃあ装備とかまず揃えよっか。」
「そだな。よろしく頼みます先生!」
「あ、そういや名前は…」
「おれ? 天都谷大。年は27歳の会社員だ。」
「あ、そうじゃなくて…んと。ここでは、こういうゲームでは個人の情報を相手に教えるってのは絶対ダメっていうか。」
「昔やったMMOでもそういう事いってたな。信用するまでは教えちゃダメとか。性別すらわからないし。」
「そうそう。それこそ悪用や、リアルに影響あるからさ。」
「なるほどね。先生勉強になったよ。」
「どういたしまして。私は松本梓16歳。高校生だよ。」
「って俺に言ってどーするの。ダメって言ったばかりだろ?」
「そっちが先にいうからさ。教えないのもなんかアレだし?」
「先生は高校生なのか。JKね。」
「なんか今変な事考えてない?」
「そんなめっそうもありません。」
そんなたわいのない会話をしつつ、装備を整え、街を出て、一路フリーマップへと移動する。
移動の間、キャラクターネームの変更方法を教えてもらった。
色々となやんだが、苗字がゲームにありそうな名前という事で【アマツガヤ】で登録することにした。
登録したキャラクターネームは頭の上に自動で表示されるようになっている。梓も頭の上に【AZUSA】とアルファベットで表示されている。 そして、フリーマップに到着する。
ここLEVEL12の世界は名前の通り、大きなツリー状の階層でマップが区切られている。
低層がLEVEL1で最上層がLEVEL12と、プレイヤーはLEVEL12の解放することが主な目的だ。
上に行く毎にマップは小さくなる。ちなみにこのLEVEL1階層は4096の地域に別れている。
その中で3000の解放区域があり、そこの解放に成功すると、成功したキャラクターの支配地域となる。
支配した地域は個人の家が建てられたりと、まさしく自分の領地となる。
残りの1096はフリーマップと呼ばれ、遺跡やダンジョンなどがあり、魔物が数多く生息している。
プレイヤーはそこで狩りをして経験値やお金を貯めて、レベルを上げ装備を整えていく。
このあたりは一般的なゲームの世界観と一緒であった。
「さっき言った通り、魔物使いは魔物を使役する事によって戦闘を有利にしてく職なの。」
どうやら俺はこの世界では【魔物使い】の職に強制で就かされているのであった。
実はこのLEVEL12では自分で職を選べなく、一度就いたら転職はできないという変わったルールがある。上級職はもちろんあるのだが、最初の適性検査で勝手に振られているらしく。職業選択の自由は無いらしい。
そして、他にも最初に勝手に決められるものがあった。一つは種族である。
俺の種族は【龍族】だった。だから角がついているのか。この種族は結構な不人気種族らしい。
レベルを上げると龍になれるという事らしいのだが、基本パラメーターがバランス型で可もなく不可もなく、特徴が出づらい種族という事が一つの理由だった。他にも色々とあるのだが総合すると強くない。
龍なのにねぇ。派手なスキルもないらしく、そりゃ不人気になるわ。
その点、梓の種族は人族。メジャーな種族だ。同じバランス型だが、人族は特有スキルも多く使えるスキルも多くあるので、職と上手く相性が合えば強くなりやすく、また見た目からも人気の種族であった。
ちなみに梓の職は【アサシン】ローグの上級職だ。テクニカルな職で、扱いが難しいらしいのだが、派手なスキルも多く、人気の職であった。
俺の魔物使いもまぁまぁ人気がある職で、やはり魔物を使役できるってのが男のロマンを駆り立てる。
他にも最初に勝手に決められるものがある。スキルだ。
一番最初に覚えるスキルは種族や、職に関係なくランダムに振られる。
運営からのプレゼントってほかのプレイヤーは言っているらしい。
梓が最初にもらったのは【疾風】スキル。パッシブスキル(永続)で、早さがLVごとにボーナスがかかるというものだ。
それを聞いて自分のスキルを調べてみる。
【ソウルイーター】なんだこれ? 梓に聞いてみるも全く知らないとの事。
直訳だと魂を喰らう、ってことだけど。HPかMPを吸収するスキルなんじゃないの?って言っていたけど。
「ほらっ よく見て。今のかわせたよ!」
「そうは言っても…このっ」
スライム相手に初の狩りなんだが、実物は意外と素早い。
魔物使いは鞭が相性が良いというもんだから振ってみるけど。これは難しい。
なかなか簡単に当らない。四苦八苦しつつも、何とか1体を仕留める。
「どうだ。この特別なスライムを一人で狩ったぞ。」
「はいはい。その特別なスライム様位、10秒で倒せるようにならないとね。」
「…次だ。次。」
1時間ほど狩りを続けたが、ここで休憩をいれて、立ち回り方を梓からレクチャー受ける。
「いまどのくらいのレベルになった?」
「レベル? ちょっと待って。えーと…」
ステータス画面を開き確認してみるも…レベル 蟠?? レベルの横に漢字が書いてあるぞ。
たしか数字だよな。レベルって。
「なぁ梓。レベルの横に漢字が書いてあるんだが?」
「漢字? 数字じゃなくて?」
「あぁ。漢字。これなんて読むんだろ。はん? ばん?」
「ちょっと見せてみて。」
梓がステータス開示の手続き方法を指示し、開示する。
「なにこれ。レベルが漢字…っていうかステータスもなんかおかしい。全部1だよ?」
普通はこれだけ狩れば、レベルが5位まで上がっててもおかしくないという事だ。特に低レベル帯だし上りも早い。そこに漢字が書かれてあり、さらにステータスがALL1って。通りでスライム程度に苦戦するわけだ。
「初めて見る。これ運営呼んだ方がいいかも。」
「やっぱり他人の物を上書きしたからかな?」
「それ以前の物かもしれない。数字のバグかもしれないし私にはわからないなぁ。」
そこでなにやら梓にコールが。
この世界では、知り合った同士の連絡先を交換する機能があり、ゲーム内ではそれで連絡を取るのが一般的との事。
「……うん。わかった。顔出すよ。」
通話は終わり、こちらを見る梓。
「ごめん。ちょっとこれから予定していた大規模狩りに出ないといけないの。また今度一緒に狩りましょう。」
「そうなんだ。付き合ってくれてありがとう。今日は大変に助かりました。」
梓が自分のコンソール画面を開き操作する。何かを押した仕草をした後、俺のコンソール画面に着信マークが点灯する。
「それが私の連絡先。登録すればいつでも連絡取れるから。文字でも送れるから何かあったら連絡頂戴。」
「了解。俺のも送るね。」
お互い連絡先を交換し、その場は別れる。
別れ際に、その症状をGMコールで報告しなさいと告げられる。
落としたもので入った手前なんか報告しづらいな。
とりあえず狩りも終わり、始まりの都市まで戻る。
この始まりの都市が誰しもが必ず訪れる首都みたいな場所で、LEVEL1階層に存在する。
LEVEL12の世界はとても広く、観光場所も多くあるとの話だった。
ちょっと暇になったし、狩りも一人じゃ危なそうだな。観光でも行ってみようかな。
都市の地図はコンソール画面にもマップ表示機能があり、視界に表示することが可能だ。
そこを色々とみてみると中央寄りの場所に【階層エレベーター】なる部分があった。
都市を高い部分から一望してみたいな。最上階まで乗ってみるか。
階層エレベーター前に到着する。大きな塔みたいになっている。
上を見上げると、空の先まで繋がっている。どこまで繋がってるんだ?
中に入り、EV内に足を進める。大きな、まるで搬入用エレベーターだな。車何台入るんだ?
このエレベーターは11階が最上階みたいだ。迷うことなくボタンを押す。
エレベーターが始動し、上昇し始める。
何分経ったのか。たかが11階なのにもう10分以上乗っている。
1階はとんでもなく長いみたいだ。だんだんと、不安になってくる自分がそこにはいた。
エベレスト並みの高さじゃないだろうな…すごく不安になってくる。
そうしてようやく11Fに到着した。
降りて、塔内から外に出るため足を進める。出入り口は4か所あり、一番近い出入り口から外に出る。
出ると一本道の大きな道があり、平原のようだった。
「11階。出るとこまちがったかな…」
とりあえずここまで来たし、周りを探索することにした。
だだっ広い平原の奥には山が見え、頂上付近に何やら城が見える。
都市の中に平原マップ。うーん。なにかおかしい。
そのまま周りを探索すると、祠みたいなものを発見する。
石造りで出来た祠は、その奥にボーリングの球位の大きさの光る珠を祭っていた。
他には何もない。無意識に光る珠をぴたぴたと触る。その瞬間、景色が歪み、目の前がブラックアウトする。気が付くと、先ほどの祠は見当たらず、知らない部屋の中にいた。
大理石でできた立派な部屋の中にどうやら転送されたらしい。
前にやってたゲームにそういうトラップがあったことを思い出す。
すぐ目の前に扉がある。一旦外に出て状況を把握することにした。
扉を開けると、扉を挟むように豪華な鎧を着て、槍を手に持つ戦士が立っていた。
強そうな戦士と目があう。やばい。これは敵…だ! カーソルに敵の表示と名前が載っている。
が、敵と思われる戦士は目線をはずし、無視をする。
さっきまでカーソルが敵表示されていたが、いつの間にか緑の表示になっている。
敵ではなかったのか? ………そうか。ここは都市の城か何かだ。これはNPCで衛兵ってわけだ。
ビビッて損した。探索続けるか。
そこから先へ進みながら探索を続ける。特に変わったもの無く、だんだん飽きてくる。
だか、戻ろうにも道がわからない。マップは利用不可マークがでて見れない。
そして進むとだんだん城内部が豪華というよりも、何か禍々しいというか、一般的ではない装飾が目立ち始める。
衛兵も、人だったのになぜか尻尾が生えた…あれリザードマンか? 魔物じゃないのか? 周りにウロウロし始める。
更に進むと、大きな門がある。門は開いているが、そこには城内部なのになぜか橋が架かっていた。
橋を渡ろうと進むと、急に暑くなる。下をみると溶岩が流れている。城内に溶岩…なんとなく嫌な予感が漂い始める。
何回か橋を渡ると広いスペースがあり、先には橋は架かっておらず行き止まりだった。
周りを溶岩に囲まれた、とても暑い場所。だが中央には高く舞台が作ってあり、そこには玉座のような豪華な椅子がぽつんとあった。なんかこういうとこ見覚えあるな。そう昔の古典的ゲームにあるあのラスボスの間に。
行き止まりだし、それ以上に何か嫌な予感が満載だ。
探索を打ち切って帰るとするか。たしか緊急脱出用のスキルがあったっけ。
コンソール画面を開き、スキル発見。迷わずタッチする。
……あれ? 起動しない。それどころか目の前に <移動不可エリアです> の文字が現れる。
ここはそういうエリアなのか。しょうがない。今日は結構時間喰ったから終わりにするか。
また明日、仕事帰りに寄ってみよう。ログアウトボタンを押そうとする。その時であった。
『この神聖なる大龍宮の玉座の間に無断で入る愚か物はお前か…』
臓腑の底まで響き渡る圧倒的な重厚感の声が辺り一面に響き渡る。
周りを見渡すも、さっきの衛兵どころか誰も見当たらない。
「だ、だれだ?」
声を上げるも返事はない。
急いでログアウトしないと不味そうだ。
コンソール画面に目を向けるその時、正面の視界に何やら見慣れないものを発見する。
玉座の後ろ、壁部分の上側に何やら祭壇らしきものがある。
その中央部に、圧倒的な存在感を持つ何かを発見してしまう。
黒いシルエットに覆われてはっきりとは見えない。だが、シルエットだけでも十分にわかる。
犬のようなとがった口、大きな図体に何やら羽らしきものも見える。
口から漏れ出る光は、まるで煉獄の炎のように赤い。
そう、あれは <ドラゴン> ゲームでもお馴染みの、あの最強種としてよく見かけるドラゴン。
目が怪しく光り、そして勢いよく飛び出してくる。
圧倒的なスケールを持つその体は、玉座の上に大きな音を立てて着地する。
あれだけ大きな玉座も、一瞬にして圧潰している。
目の前に立つドラゴンは自分よりも比較にならないくらい大きい。
3階建ての家よりも大きい。
たかがゲームだろうと高を括った心は、次の瞬間もろくも崩れ去る。
大龍宮内に響き渡る圧倒的な叫び声が響き渡る。
耳の鼓膜は破れそうと感じるほどに、いや命の危機を感じるように。
足がガクガクして震えだす。動悸も一気に激しくなる。
早くログアウトしなくては…だけど指先一つ動かない。
視界上部には激しくいくつものアイコンが点灯する。
<恐慌状態LV5> <抵抗低下LV5> ……
とりあえず何かやばいデバフを喰らったことは理解する。
へたりと座り込む自分の前に、圧倒的なオーラを放つドラゴンの口元から濃い赤の炎がこぼれ出す。
『デス・フレイム』
目の前が真っ赤な光に覆われ、そして視界が白くなる。
死んだ。ゲームオーバーだ。
視界が徐々に回復する。スキルを放ったドラゴンがこちらを見ている。
あれ? まだ…死んでいない??
どこに放ったんだ? 後ろを見る。
先ほどまであった大きな橋が消滅している。
退路を断って俺を仕留めるって事か。レベル1の俺を。
獅子はウサギを狩るのにも全力をもって仕留めるアレか。
だがウサギ以下だろう。今の俺って。
やるならさっさとやれよ。そのでかい尻尾で一薙ぎすれば即死だろう。
まぁいいさ。ゲームオーバーにはなるけど、また始まりの都市からだし。
帰り道わからなかったし、ちょうどいい。タクシーみたいなもんだ。
だけどなんか悔しいな。LV差が開きすぎている相手だって事はわかる。
しかし、こみ上げるやるせなさっていうか。コイツを倒せるほど強くなりたいなぁ。
目の前のドラゴンを見る。口元がまたさっきのように濃い赤の炎がこぼれ出す。
またなんとかフレイムを出す気だ。
俺が凄い冒険者だったら絶対にそんな隙見逃すわけねーけどな。俺しょぼいけど。
なんて事を考えていたら目の前に文字が浮かび上がる。
『スキル:ソウルイーターを発動しますか?』
ソウルイーター? …あぁさっきよくわからんって言ってた最初にもらったスキルか。
狩りでは一切使えなかったが、まぁいいや。どうせ最後だし、一刺しくらいはしてみよう。
震える指で<はい>を選択。
『ゴッドスキル:ソウルイーター発動中』
ゴッドスキル? その時。身体から青白い炎みたいなものが吹き出す。
目の前にターゲットアイコンが点滅し始める。ちょうどドラゴンの胸あたりを指している。
アレに突っ込めばいいのか…?
震える足を無理やり立たせる。まるで生まれたての仔馬みたいにプルプルと。
まだドラゴンはチャージ中みたいだ。今なら一発はかませられる。
重くなった足に鞭を入れ、活を入れる。最初はよろよろと。だんだん小走りに。
相手は悠然とチャージ中。完全になめてるな。
あと一歩で殴れる距離まで来た。初めてドラゴンと目が合う。
「次あったら覚えとけっ!」
全身の力をこめて、ドラゴンの胸に刻まれているターゲットアイコン目がけてぶんなぐるっ!
固っ!! なんつーー硬さ。手がジンジンと痺れる。
一歩遅れるかのように、ターゲットアイコンがOKのマークへと変わる。
すると、自分の全身を纏った青白い炎がドラゴンに移り始める。
すぐにドラゴンの全身へと青白い炎が巡り出す。
『オァァァァァアァァッ!!』
とんでもない爆音の叫び声が大龍宮内に響き渡る。まるで断末魔のように。
目の前の光景に呆然とする。
青白い炎が全身を巡り、そして胸のOK部分に集まり始めてくる。
そして大きな青白い炎の球が出来上がる。
綺麗な、そして大きな青白い炎の球。
無意識に手をかざし、触れる。瞬間…
弾けるように自分の身体へと青白い炎が巡り出す。
熱くはない。むしろ心地良い。全身にエネルギーが、熱い何かが駆け巡る感覚。
どんどんと、自分の胸を、心臓を入り口とするかのように、炎が入り込む。
全ての炎が入り込む。辺りは一気に静寂に包まる。
すると凄まじい音を立てて、目の前の圧倒的な存在感を持つドラゴンが崩れ去る。
なんだ? どういう事だ? これ倒しちゃったのか??
大きな爆裂音と共に、まるで宝石が弾け飛ぶかのように破裂し、消滅した。
すぐに目の前の視界には、でかでかと大きな文字と共にファンファーレが響き渡る。
『おめでとうございます。LEVEL11:大龍世界は解放されました!』
そこには何の事かさっぱり理解できない俺が、ただただ、立ち尽くしていた。