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Re:Actor・オブ・グラディエーター  作者: 河童Δ
次回予告━━━━━━━━━━━━━
143/344

開幕 その頃、竜を殺す

【SS2】オーヴィル


 国境を越え、俺は隣国<マウ>に辿り着いた。

 少し北に行けば、アシュハとマウに面した<スマフラウ>とか言う国の国境がある。


 いや、スマフラウは国じゃあなかったか?

 なんとか中立地帯ってんで、戦争が起こらない土地だ。


 侵略国家と名高かったアシュハが攻め滅ぼさず、避けて他を進行していたって話だ。


 確か、神聖な場所だった気がする。

 神様が祀られてるかなんかだったかな。フカシンな場所だってことだ。



 俺が遠出をしている目的は、<完了した任務の報告>を依頼人を探し出してする為だ。

 深く考えもせず出てきたが、正直、女一人を脱獄させることより、居場所の判らない依頼主を捜す事の方が途方もなかった。


 本来なら同行した案内役が俺に報酬を払って、依頼主にも報告した筈だった。

 筈なんだが、案内役が道中で死んじまった。


 その上、助け出した女は記憶喪失ときたもんだ。


 ほっといても良かったんだが、案内人が死んじまったのは俺の不徳の致す処っちゃあその通りだし。

 自分の正体を特定してくれとの彼女の希望もあった。


 謎が明らかにならないのはスッキリしねぇからと、出来る所までは捜して見る事にしたって訳だ。

 タダ働きって訳じゃねぇ、任務達成を伝えれば報酬が手に入るからな。


 そこで連中の装飾や訛りからマウ人と当たりを付け、長い野宿生活を経て、ようやく此処まで辿り着いた。


 街とも呼べない集落だがギルド由来の宿舎もあるだろう。

 情報収集を目的に二、三日は滞在する事になるか。



 集落の外はモンスターやならず者の襲撃を警戒しなきゃあならない。

 長距離を移動する場合、普通は護衛を雇った行商や旅団に金を払って便乗させて貰うか、その護衛として雇われるのが基本だ。


 しかし、タイミングが合わなかったからな。気ままな一人旅を決行した。


 俺の体格と装備を見て、襲いかかってくる奴は珍しい。

 野党に襲われたのもここ数日でせいぜいが数回程度のもんだ。


 一人旅なんかしてるバカがいやがるぜって、じゃあそいつに返り討ちにされるのはバカ以外のなんなんだよって話だな。


 危険な場所にわざわざ足を踏み入れたりもしなかった。


 道中、返り討ちになった女騎士をオークの巣穴から救い出したり。

 集落を襲う一つ目巨人サイクロプスを退治したくらいか。


 そう言えば、マウ王国は山岳地帯が多く、大型モンスターの巣が点在していて、遭遇報告も多いらしい。


 今朝も怒り狂ったグリフォンからの襲撃があった。


 グリフォンの討伐依頼は過去にもあったが、あの行動は巣を荒らされたか、つがいの片方を殺されたかだろう。

 グリフォンは上半身は鷹、下半身は獅子の姿をした獣だ。

 地空を自在に駆け回り、鋭い前足の鉤爪と嘴で、馬などの家畜を瞬時に縊り殺す。

 放置しておけば被害が出ることが予測できた為、駆除するしか無かった。


 そんな訳で、退屈な旅だった。


 ウロマルドのオッサンとやり合った時に比べりゃあ、ピンチらしいピンチも無かったからな。

 あの時は、一戦のうちに百回は死を覚悟したもんだ。



 俺は生まれ付き体格が良かったから、よく頼られたし、その大体が力仕事か荒事だった。

 特に希望するでもなくガキの頃から顔役扱い、無法者の撃退、猛獣の鎮圧、まあ頼られるままにやってきた。

 気がつきゃそれが飯の種になっていて、二つ名は『皆殺し』だ。


『そりゃ、失敗が招いた自業自得だろうが』

 幻聴か、あの女の声が聞こえた気がした。


 チッ、嫌なことを思い出しちまうぜ。あの女、イリーナの奴が言っていた。


『オカマと筋肉と童貞は鉄板ネタだ。お前は既に三種の神器を二つ備えているんだ、無敵だな!』

 だとさ。俺は『一つだろ!?』って反論した……。


 雇われ仕事で大勢見知って来たが、あんなに口の減らない奴には会った事がない。


 「クソッ、アイツら今頃、城で贅沢三昧してんだろうなぁ……、羨ましいこったぜ」

 口先でそうは愚痴ったが、日がなゴロゴロしてるなんて願い下げだ。

 こうやって旅をしているのが性に合っている。


 

 日はまだ高い。俺は広場の一画に陣取ると、荷物から取り出した毛布を地面に敷く。

 背負っていた大剣を下ろし、『求む伝説』と大きく書いた羊皮紙を広げる。


 看板代わりだ。ペラペラの紙だとすぐダメになっちまうし、板を持ち歩くのは嵩が張る。


 そして大枚を叩いて購入した楽器、相棒のリュートを取り出す。


 俺の本職は吟遊詩人だ。今はまだ全く金になんねぇから腕っ節で稼ぐしか無いが、当面の生業と将来の夢は違うってこった。


 リュートを傍らに置いて準備を終える。

 俺にはまだ、歌うべき叙事詩が無い。それゆえの『求む伝説』なのだ。


 必要に駆られてやってきたが、力づくで解決する仕事には飽き飽きだ。

 向いている向いてないを超越して、やりたい仕事がしたかった。


 英雄になれない一市民。執務に忙しい王族。まだこの世に存在しない未来の人々。

 皆を興奮させ人生を彩る。


 そんな英雄譚を後世に語り継ぐ事に憧れを抱いている。


 伝説待ちをするくらいなら、自分が伝説になる方が名誉なんじゃあないか。

 そう言われるが、自分の武勇伝を歌って廻るとか、格好悪いだろうよ。


 俺はリュートを抱える。奏でていれば、人が集まる。

 そうすれば、誰かが凄い英雄譚を持って来てくれるかもしれないからな。



 演奏を初めてしばらく、二人の男が声を掛けてきた。


 奏でども奏でども人だかりにならない事に、少し焦りを覚えていた所だ。

 これで少しは吟遊詩人らしい活動になる。


 俺は歓迎した。始めたばかりのリュートだが、惹き付けられる人もいるのだと嬉しかった。


「おっ、演奏を聴いてい――?」


「耳障りだ!! 練習なら人目を忍んでやれ、下手くそッ!!」


 怒鳴られた。


「……言う程、下手か?」


 率直な意見は心臓に刃を突き立てるが如く、鋭く俺の胸に突き刺さった。

 たぶん後で思い出して泣くと思う。一人になった時に。


「まあ、どんな名人にだって下手くそな時代はあったさ……フフッ」


 俺は精一杯、平静を装って言った。

 そう、誰だって最初から達人じゃない。


 俺だって腕相撲で親父に勝てない頃があった。


 見てみれば男たちは戦士の身体つきをしている。

 傭兵ではないな。上等な服装をしていることから、宮仕えの兵士か騎士団の所属と言った所だろう。


 山間の集落へ遠征任務で来ている様だから、何かしらの護衛か、山賊の討伐かだ。

 どちらにしても揉めない方が賢明だろう。



「――伝説を求む? なんだこれは?」


 男の一人が『伝説求む』の簡易看板をつまみ上げた。


「あっ、それは!」


 相手の無礼な振る舞いに異議を唱えようかと思ったが、興味を持ってくれるならありがたい。


「見ての通り、俺は吟遊詩人のオーヴィル・ランカスターなんだが――」


 俺は自己紹介をする。


「見ての通り?」

「筋肉自慢にしか見えないが?」


 反応は芳しくないが、さすがに隣国までは悪名も及んでいない様子。


「ああ、俺は見ての通り吟遊詩人なんだが、後世に語り継ぐような武勇伝を募集中なんだ」


 マウ王国ならではの伝説など聞いて持ち帰るのも、旅の収穫と言えるだろう。

 俺の要求に対して男は得意げに答えた。


「それならば、俺の詩を作れ。ちょうど勅令により大物を討伐して来た所だ」


 なるほど、彼はどうやらモンスター討伐に派遣された凄腕の騎士らしい。

 しかも勅令だと言うのだ。


「なんだ、アンタ凄い奴なのか?! なら、その武勇伝を聴かせてくれよ!」


 俺は興奮気味に食い付いた。

 

「ああ、俺はマウ王国の誇り高き騎士長」


 男が語りだすと、俺はそれに倣って詩を綴る。


「その者、マウ王国にその名轟かせし誇り高き騎士の中の騎士」


 誇張と言う程では無いが、詩なりの外連味を交えたそれに男は気を良くした様子。


「おお、良いじゃないか。この剣でまさに魔獣の首を落としたのだ」


 説明にジェスチャーを交え始めた。


「なるほど、携えるは魔獣打ち倒せし聖なる剣! それで、その魔獣とは?!」


 伝説に相応しい名を期待して訊ねる。

 

「――山脈の頂で討ち取りしは魔獣グリフォンよ! どうだ、恐れ入ったか?!」


 しかし、意気揚々と挙げられた名は期待に満たなかった。


「……グリフォン?」

「そうだっ! 獰猛な鳥獣よっ!」


 グリフォンかぁ……。その回答に、自分のなかで一気に興味が失せていく。


 巣からここまでどれくらいの距離、日数が掛かるのかは知らんが。

 グリフォンは標高の高い場所に巣を作る。


 今朝のあれはコイツらが山頂にある巣を襲撃、そして討伐したつがいの復讐だったのだろう。


 自分にも可能なレベルの仕事をこなした人間の名を、なにが悲しくて後世に語り継がなくてはならないのか?



「ん? どうした、続けないのか?」


 テンションが萎みゆく俺に反して、騎士長を名乗る男は先を促した。

 俺は仕方なしに続ける。


「ああ、……その者、小さきグリフォンを打ち倒し――」

「おいっ!?」


 男は勢いよく、俺の詩を中断させた。


「……何故、勝手に小さくした?」


 疑問を示し、苦情を呈する。


「だってよ、せいぜい馬より一回り大きいくらいだろ……?」


 グリフォンに苦戦したことが無いわ。


「でかいだろっ!! どれだけの重量、そして怪力だと思ってんだ?!」


 だいたい、騎士長なんて立場の人間だ、討伐も隊を率いて行ったに違いない。

 万全の準備をした上、部隊で巣を襲撃したのだ。


 そう思うと、気分は萎える一方だった。


「――その者、羽を休めるグリフォンの寝込みを襲い、集団で袋叩きに……」


「英雄譚に仕上げる気があるのか?! 貴様ッ!!」


 騎士長は顔を真っ赤にして怒鳴った。



 しかしな、騎士団がグリフォンを退治した。

 事件じゃないとは言わないが、それを伝説と言うには物足りない。

 

 わざわざ騎士団がな……。


 小さな集落単位だと、害獣退治等は住民で対処するのが常で、俺みたいな人間に報酬を払って解決する事が多い。

 王様や騎士団に情報を届ける機会は限られているからだ。


 また不自然に感じるのは、それが勅令だと言う点。

 その指示を国王が直々に下す必要性を感じない。


 そこで一つ思い当たった。


「グリフォンは黄金を集めて巣に持ち帰るよな。もしかして、それが目的か?」


 黄金を好むが、照り返しのある金属などを無差別に収集しているため期待外れな事もあるが。

 グリフォンの巣には宝の山である可能性があった。


 巣は人間が容易に立ち入れない高所に在り、近づくことで怒り狂って暴れる為、苦労が釣り合うかは判らないが。


「ああ、それも国力増強の一環だ」


 なるほど、国策でグリフォン狩りをしているらしい。


 それは勝手だが、巣を荒らして宝を持ち出すだけでは、残りのグリフォンが集落を襲撃する事になる。

 それはあまりに無責任ではないか。


 無責任なのに加えて、不穏な空気も感じ取れる。

 経験上、こうやって軍が金の工面に駆け回っているということは、近く戦争が起きるという事だ。



「見れば貴様、凄い身体をしているな。どうだ、俺の隊で使ってやろうか?」


 案の定、兵隊を集めている。


 兵士として勧誘を受けることは珍しくない。

 最低限の生活は保障されるし、このご時世だ、多くの野郎にはありがたい話。


 だけれど、自由が制限されるからな。今は興味のない話だ。


 何よりアシュハとぶつかるつもりなら、俺はあっち側に肩入れするつもりだった。



「しらけちまったな……」


 本音を漏らすと、騎士長は「……何?」と不快感を表した。

 俺は構わずに続ける。


「残念だが、アンタは英雄の器じゃあないようだ」


 嫌味で言っている訳じゃあない。他に穏便な表現も思いつかん。


「帰ってくれ、時間の無駄だ」


 追い払おうとする俺に、騎士長はしつこく絡んでくる。

 挙句の果てには、腰に下げた剣に手を掛ける始末だ。


「無礼だぞ! 貴様、剣を抜け!」


 そうは言うが、俺の剣は特別製で場当たり的な喧嘩で振り回して良いような代物ではない。


 仕方なく、俺は妥協案を提示する。


「素手でいいか?」


 悪気はないが、それが彼の沸点を突破させたらしい。


「抜けぇぇぇッ!!!」

 騎士長はヒステリックな奇声を発した。


 勘弁してくれ。俺が途方に暮れていると。

 もう一人の騎士が、振り切れた上司に向かって呼びかける。


「隊長ッ!!」


 必死な様子だが、騎士長は突っ撥ねた。


「何っだ! うるさいぞっ!」


「ドラゴンが……ッ!!」


 彼は確かに言った、ドラゴンと――。



 気が付けば、住民たちが一斉に屋外に出て一様に空の一点を見上げていた。


 遥か遠くを飛翔しているが、その巨大さゆえにシルエットがドラゴンのものだとはっきりと判別が出来る。

 それを視認したのは、俺も初めての事だった。


「あれが、ドラゴン……」


 伝承に登場し、神と同格とも言える最上級の扱いを常に受けるその巨大な獣の姿に、尋常ならざる興奮と感動を覚える。


「おいっ!! こっちに来るぞ!!」誰かがそう叫んだ。


 確かに、此方へと一直線に向かって来ている。


「逃げろ!」「何処へだよ!」

 そんなやり取りをしている間に、竜は高速で迫る。



 そして上空から、熱線を集落に浴びせた――。


 火炎の息吹が帯状に伸びて、直線状の全てを焼き払った。

 その威力をどう形容したものか。

 立ち並んだ民家が燃え尽きて、真っ直ぐな道が出来たのだ。


 飛び交う悲鳴。

 日常の風景が一転して地獄絵図に代わる。


 住民たちはそれを合図にしたように、一斉に同じ方向へと逃走を開始した。


 女、子供、老人の姿もある。皆、必死の様相で逃げ惑う。

 俺に絡んできた騎士の二人も同様にして、走り去ってしまった。


 荷物を地面に広げていた俺だけが、その場に棒立ちになっている。

 その上を逃げ惑う人々が踏み荒らした


「ばっ、バカヤロウ!?」


 俺は人を掻き分けて、高価だった楽器を救出する。

 地面を這いずる俺を置いてきぼりに、周囲の人々は遠ざかって行った。


 そして、人間が密集する場所に火炎の塊が一個、ドラゴンから投下された。


「おいおいおいっ!?」

 俺は突然の出来事に困惑する。


 火炎の塊は高速で人だかりに着弾し、全てを爆散した。


「――――お」


 唖然だ。ついさっき影が見えたと思ったら、一瞬で集落が壊滅したのだ。

 周囲では家や死骸が焼けくすぶっている。



――これが、ドラゴン。


 勇壮と着地したその全長は数十メートルはあろうか。

 その力を今、目の当たりにした。


 鍾乳洞の天井を思わせる刺張った赤茶色の外殻。

 竜の鱗は人間の振るう剣程度では傷を負わせることすら叶わないだろうと確信させる。

 伝承ではその強大な力に加え、人間よりも優れた知能を持つと言う。


 城だ。聳え立つ姿は堅固な城の様。

 攻略するにはそれこそ城を落とすだけの軍備が必要に思える。


 ドラゴンが再び火炎の息吹を発射する。

 火線が頭上を過ぎり、村を凪いだ。


 残骸の先に子供の鳴き声が聞こえる。どれだけが生き残っているだろうか?


 俺は堪らず声を張り上げた。


「おい、ドラゴン!! この野郎!!」


 遥か上方に声が届き、竜は足下の俺を見下ろした。


「おい、この野郎! 人間の言葉、解りますかぁ?! 俺はドラゴンの言葉なんて知らねぇぞっ! バカヤロウ!」


 もし本当に竜が人間よりも上等な生き物だと言うなら、コミュニケーションで事態を解決出来る筈だ。


 竜は答えた。



「――当然だ、その様な単純な言語など、解読するまでも無い。我は―――――。人などが及ばざるが存在よ」


 名前らしき部分は聞き取れなかった。判別不可能な音だ。

 言葉も唸り声では無く、鮮明に脳に残る。


 しかし、どうやったのか、口から言葉を発している様子は無かった。


 言葉が流れ込んで来て、理解が出来る。

 誰かさんの魔法みたいだ。



「何でこんな事をするんだよ、理由を教えてくれ」


 まずは目的を明らかにしない事には始まらない。

 そして、お互いの妥協案を探るのだ。


「理由など無い、気まぐれよ。踏みつければ潰れると思ったら、潰していた。何度で焼き払えるかと興味が湧いたから、試した。それだけの事」


「はぁ?!」


 会話をしてくれたまでは良かったが、その返答は拍子抜けだ。

 なんたって、目的が無いのだ。


 気が向いたから、ただ壊滅させてみただけって言うのだ。


「なんだよそれ! 迷惑だから止めてくれよ!」


 駆け引きも糞も無い。俺はストレートに抗議した。


「知ったことか、お前らは自分より劣る生物の都合に合わせ、己の行動を曲げるのか? 虫ケラに譲歩するのか? 我の場合、耳を貸すだけ上等よ」


 なるほど、神様扱いされる訳だ。

 神聖だとか、高等だとか、希少だとかの問題ではない。


 天災と同じく、どうしようもなく人間の手には負えないのだ。


「そりゃ、俺達は虫の言うことなんて解んねぇよ。お前さんの方が賢いのかも知らねぇさ。だけどよ、仮にドラゴンが人間よりも上等だとしてよ、お前はそん中では下等だろ?」


 人間よりも全てにおいて上位に位置すると豪語するドラゴン。

 確かに、ドラゴンの最上位に人間の最上位は及ばないかもしれない。


「なんだと?」

 俺の発言に竜が気色ばむ。


 俺は戦いを避けられない事を覚悟した。

 なぁに、ウロマルド・ルガメンテともう一戦やると思えばいけんだろ。


 俺は地面に転がしていた得物を持ち上げる。

 本業の相棒はリュートだが、副業の相棒の方が付き合いは遥かに長い。


 俺は愛用の大剣をドラゴンに向かって翳した。


 普通の剣では傷も付けられないだろうが。

 コイツは全長三メートル弱、十キログラム相当の特別製だ。


「何をもって、我を下等だと?」


 それだな、まずそうやって簡単に挑発に乗る所だとかよ。

 上等なドラゴンならしねぇかもな、知らんけど。


「抵抗出来ない弱者や小動物を選んでいたぶる奴は、人間の中でも下等って相場が決まってるからさ」


 その時に聞いたドラゴンの雄叫びは、伝承のとおりの破壊力だった。



 俺の夢は吟遊詩人として、誰かの伝説を後世に伝え、残す事。


 平民の家に産まれ、腕っ節だけにはやたら恵まれ、喧嘩に負けた事はねえ。

 意に反して付いた悪評は『皆殺し』のオーヴィル・ランカスター。


 名声はいらねぇ、本当の英雄と出会いたいだけだ。


 しかし、この日を境にマウ王国にも俺の名は響き渡る事になってしまう。

 『竜殺し』のオーヴィル・ランカスターと――。





  『竜の巫女は剛腕の吟遊詩人を全否定する』開幕。


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