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加護

「は?」

「え?」


 和人と二人で顔を見合わせる。

 よかった。やっぱ幸宏がおかしいよな。軽く俺達の4倍の魔法使って「ちょっと」とか、頭どうかしてるよな。


「えっと、幸宏、何ともないの?」

「なんともないってことはないけど、騒ぐほどのこともない、って感じだな」

「「いやいやいやいやいや」」


 二人で盛大に突っ込む。


「平気なわけ無いだろ」

「なんていうか、本能的にこれ以上続けちゃダメだって思ったよ? そういうのないの?」

「ない」


 幸宏はきっぱり言い張って、それからなるほどとつぶやいた。そんでもって腕時計をいじる。


「まあ、おかげで多分わかった。彰、悪いんだけど神殿の奥までひとっ走りして、祭壇にタッチして戻ってきてくれ」


 さっぱり悪いと思ってなさそうに悪いんだがと言われても。なんだよその一人徒競走。

 ちらっと祭壇を見る。目測20メートルってところか。


「タイム測るぞ、よーい、ドン」



 ヨーイドンと言われて走りださなかったら男じゃない。

 ちょっとスタートダッシュが遅れたが神殿の奥に向けてまっすぐダッシュする。で、祭壇にタッチ。若干アクロバットな動きで入口まで戻り、扉をぐっと掴んで体を止めて、ゴール!

 お、よく分からんが結構速かった気がする。


「……」

「…………」

「……」

「……タイムは?」


 二人が微妙に固まったまま動かない。


「…………」

「…………」

「なあ、タイムは?」

「……ん秒」

「は?」

「4秒」

「……は?」


 いやいや、なんか見間違えだろ? 俺確かにちょっと足早いけど、直線50メートルで6.7秒だぞ?

 どう見ても往復40メートル超えで、しかもターンまで必要な場所で6秒未満の数字が出るわけねえだろ。


「……まあ、いいや。予想以上だったけど予想通りだし。和人、ちょっとあの剣持ってみてくれ」


 幸宏が入り口から一番近い甲冑を指差す。


「えええ!? 無理だよ! それ彰が持てなかったやつじゃん!」

「そうだぞ、無責任に言うな! あれめっちゃ重いし、床壊れんぞ?」


 というか俺ちょっと壊しちゃったし。床にヒビ入ってるし。


「大丈夫。女神様に怒られるときがあったら俺が全面的に怒られるから、とりあえずやってみて」

「うう……わかったよう」


 和人が眉をしかめながら甲冑の脇に刺さった剣を抜く。

 少し苦しそうな声を出しながら、大剣を目の前で構えた。



「は?」

「やっぱりか」


 俺と幸宏の声が重なる。


「よく分かんないけど、でもやっぱ重いよこれ」


 和人が文句を言いながらゆっくりと剣を甲冑に戻した。


「なあ幸宏」

「なんだよ」

「お前もアレ持てるか?」


 和人の様子にちょっと自信をなくして幸宏を睨む。こいつは肩をすくめて「彰には持てなかったんだろ? 無理だよ」と言い放った。




「《疾き足を、猛き力を、強き言葉を、小さきものに》」


 三人が落ち着いて神殿の奥に座り込むと、幸宏が言った。


「さっき女神様がくれたチート、だよね?」

「そう、多分、俺たち三人に一個ずつなんだ」

「一個ずつ」

「そ、俺が魔力強化で、彰が素早さ強化、和人が力強化ってとこじゃないかな。握力とか測れないから細かいことはわかんないけど、さっきの土壁見た感じ、元の魔力が同じだとしたら大体三~四倍くらいかな」

「三倍バフ」


 言われてみればなるほどという感じだ。一人一人に全部よこせよケチくせえと思わないでもないが、それは一旦置いておこう。

 しかし三倍バフ。三倍バフか。魔法使いなら色々できそうだ。力も強ければ色々出来るだろう。力パラメーターは何かと必須だし。

 素早さ、素早さねえ。はっきりって地味だ。二回攻撃とかできるようになるんだろうか。手数で押し切るプレイング、あんまりしないんだよな。どっちかって言うと一撃必殺の方が好きなんだけど。ああ、クリティカル率が上がるならいいな。……うーん、この世界のクリティカルって、目玉刺しとかそういうのなんじゃなかろうか。それだと素早さだけじゃなくて命中率補正みたいなものがないとキツイか? あーもう、やっぱステータス見れないのキツすぎ。何をどう鍛えれば良いのかくらいねえのか。


「……きら、あきら、おい、彰ってば」

「お、おう!」

「話聞いてたか?」

「聞いてなかった」

「ったく。……もう夕方だし、今日はここで装備とかお金になりそうなもの探して一晩明かして、明日の朝に出ようと思うけど、いいか?」

「いいけど、飯どうする?」


 もう夕方だと気がついてしまうと、急に腹が減り始めた。俺の疑問に幸宏がちょいちょいと後ろを指す。

 振り返ると、祭壇の手前に果物がごろごろと転がっていた。




 俺は結局、なんだかやたらと軽い双剣と、小ぶりのナイフ、それから魔法発動用のベルトに差しておける小さい杖を持った。

 幸宏はさっき使っていたでかい水晶の付いてる杖と軽い短刀だ。

 和人は大きめの剣と、俺と同じようなナイフと杖。

 宝石がいくつかあったのでそれを三人で分けてそれぞれの財布に入れた頃には、外はすっかり暗くなっていた。


 外は暗いが、神殿は建物そのものが発光してるみたいで中は明るい。どうなってるのかさっぱりわからないけど、魔法的な何かなんだろうか。


 シャクリとリンゴと梨の間の子みたいな緑の果物を齧る。正直なところ肉とか食いたいけど、一日くらいならまあ何とでもなる。街に着いたら美味いもの食おう。

 シャクシャクと果物を齧りながら、俺は今英語を勉強し始めて一年半で初めて、真面目に電子辞書から単語を書き写していた。


「ヒール系は必須だよね。Heal、Healing、リジェネは……Regeneration?」

「回復だったらRecovery、とかかな。怪我が治っても体力が戻らなかったら意味ないし」

「一応復活系も書いとこうぜ。レイズみたいの」

「Raiseは上に上げるって意味だ。蘇生ならRevival、か?」

「攻撃魔法とかは正直ゲームとかのそれっぽいの言っとけばなりそうだけど、一応書いとくか」

「あ、身体の部位とか必要じゃない?」


 使えそうな単語とスペルと読み仮名をひたすら書く。

 普段だったらめまいのするようなこの作業は、今のオレの心を沸き立たせて、そして後に俺たちを助けてくれることになる。

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