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帰れない俺たち

「でも俺達は呼ばれたわけじゃないので、帰してください。ちゃんと呼ぶつもりだった人を呼んだ方がいいですよ」


「何言ってんだよ幸宏!?」


 突然返せとか言い出した幸宏に掴みかかる。俺は嫌だぞ! ここでレベル上げして勇者になるんだからな!


「おい、バカアキラ」


 幸宏が声を潜め、小声で言う。


「なんだよワカラズヒロ」


 俺も釣られて声を落とした。


「お前、ほんとにここが異世界だなんて思ってるのか?」

「は?」


 幸宏は俺の襟をつかみ返し、顔を近づける。意味がわからず首をかしげる俺を睨みつけながら、また小声で言った。


「誘拐だよ。他の誰かを攫おうとして、間違えて俺達が連れてこられたんだ。向こうも三人いて驚いてて、なんとか時間稼ぎするために異世界だのなんだのと言ってるんだろ。勘違い召喚だってことにして帰るぞ。幸い俺たちは相手の顔も見てない」


 さあっと血の気が引いていく。誘拐なんてこと、思いもしなかった。どうやってあの超光から意識を落とさせたのかとかはわからないけれど、確かに言われてみればそのほうがしっくりもくる。


「異世界だって信じてるフリをして、最速で帰るんだね?」


 青い顔をした和人が後ろから小声で言い、幸宏が怖い顔のまま頷いた。


「だからな、何言ってんのはお前だ、バカアキラ。お前剣が振れるのか? 銃が使えるか? 動物を斬り殺すとかできるのか? もう死んで解体されてる動物の肉を食うんじゃなくて、今生きてる生き物を殺せるのか?

それに百歩譲って戦えるとしても、今すぐ魔王城に行ったって、返り討ちにあって死ぬだけだ。修行して強くなる間家に帰れない、連絡も取れないなんて母さんが心配するに決まってる」


 幸宏がすごい剣幕でまくし立てる。


「僕も、幸宏に賛成」


 更に和人が割り込む。


「残るとしても、その間の生活はどうするの? 親がいないで全部の家事ができる? そもそも家もないのにどこで生活するの? お金もないし、僕たちは子供で仕事もできない。面倒を見てくれる知り合いもいない。

こういう場には、せめて自活できる大人が選ばれるべきだよ」


 俺は「それは……」と言いながら口ごもり、女神(自称)を見た。


「……わかったよ」


 そういってしぶしぶ幸宏の襟から手を放すと、幸宏も俺から離れて居直る。


「そんなわけで、帰してください。ここのことは誰にも言いませんし、夢だとでも思うことにします」



 親と教師の目をごまかすために無駄に鍛えられた演技力とアドリブ力による、会心の演技だった。いやまあ、演技は半分くらいで、半分くらいは本音なんだけども。異世界冒険したかった。

 今は心臓が耳元でバクバクなっている。機嫌損ねたら殺されるんじゃないかと思ったら、今更緊張が襲ってきた。


 どうなってるのか不明だが光で出来ている人影――人光かな? がちょっとだけ悲しそうに目を伏せた……気がした。シルエットだけだから詳細はわかんないんだけど、何故かそんな気がする。



《本来ならば帰すべきでしょうが、私にはもう世界を超える召喚陣を維持する力がありません。帰るには、少なくとも3つは私の祠を取り返してもらわねばならないでしょう》




「え……?」


 全員がぱちくりと目を瞬かせ、顔を見合わせる。

 まさか帰してもらえないとはっていうか、帰るのに条件をつけられるとは思わなかった。すぐに帰してもらえるか、一生帰れないと言われるかのどっちかだと思っていた。多分二人共俺と同じだろう。


「どういう、ことですか?」


 幸宏が絞りだすように尋ねる。声がちょっと震えていた。


《魔王の瘴気によって私の力の多くが制限されています。かなり無理をして召喚したため、更に弱ってしまっているのです。とても今すぐにあなた方を返還することはできません。

 返還のための力を取り戻すより、人の子の寿命の方が短いでしょう。ですが、魔王の瘴気さえ抑えられるなら、あなた方を返還する程度ならばできるでしょう。そのために、私の力の宿る祠を魔王の手より取り戻して頂きたいのです》


 幸宏の頬がひくりと引きつる。

 っていうか女神(自称)さん、その言い方じゃまるで、


「本当に、ここが異世界だとでも言うつもりですか……?」


 幸宏がつぶやく。人影はゆっくりと頷いた。



「かえ、して……」


 和人の掠れた声がする。


「帰してください! 誘拐のことは大事にしません! 今日が何日か知りませんが、僕たちは結構いたずら好きなので、2、3日帰らなかったくらいなら大丈夫です、誤魔化してみせます! だから帰してください!」

「おい和人!」

「止めないでよ彰!! ここがどこか知らないけど、危ないところに放り出して事故死みたいにする気だよ!? 嫌だよ! 帰りたいんだ!!」

「落ち着けって! そんなことならとっくに死んでる!」


 二人がかりで和人を抑えようとしたけど、和人は普段のコイツからは考えられないくらい素早く俺達の手をすり抜け、人影に掴みかかった。


 するり、と和人の手が抜ける。


「あ」


 ゴテンと盛大な音を立てて和人が影の上にすっ転ぶ。

 影は一瞬だけゆらりと揺れて、でもその後は元通りにちょっとさみしげな人影になった。



 ……え?



 おかしくないか? だって下から投影してたら和人が上に乗っかったら消えるだろ?


「和人、平気か?」


 幸宏が和人を助け起こす。

 やっぱり人影はちょっと揺れるだけで元に戻る。


「なあ、幸宏」

「なんだよ」

「それ、どうやって映ってるんだ?」


 幸宏がはっと顔を上げて人影に首を突っ込む。裏側を見てるんだろう。

 俺は俺で天井を見上げる。白い石っぽい天井は高くてよく見えないけど、少なくともそこから光が降ってきているような感じはなかった。

 幸宏が突っ込んだ人影はやっぱりちょっとだけゆれて、また元通りになる。


《神力により姿だけを映しています。ここに実体はありませんよ》


 この声も、耳元というか、頭のなかに響いている気がする。

 建物がそうなってて声が反響してるんだと思ってたけど、よくよく聞いてみると響いているような感じはしなかった。


《ここが異世界とは信じていただけていなかったのですね。外をご覧になりますか? あなた方のいた世界とは異なる場所が見られるかもしれません》


 女神(自称)の声とともにぎぎぎと背後で重たいものが動く音がする。

 振り返ると、扉が開いていた。



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