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間違いだらけの召喚

 突然足の裏に硬い感触が帰ってくる。

 すっかり平衡感覚を失っていた俺は、立つことも踏ん張ることもできずそのまま後ろにすっ転んだ。


「いってえ……」


 思い切り打ち付けた腰をさすりながら、よく磨かれてつるっとした、ひんやりしている地面に手をつきつつ立ち上がり……

 ……ひんやり? つるり?


 んなわけねーだろ、10月頭の昼間外のアスファルトだぞ。灼熱とは言わないけど冷たくはないだろ。


 あわてて顔を上げる。周囲は真っ暗で、自分の姿すら見えない。

 足元に手を付き、床以外に何か触れる物がないか探す。つるつるとした石っぽい感覚以外何もない。


「どこだ、ここ?」


 つぶやいた声がちょっと反響して響く。


「彰? そこにいるのか?」


 幸宏の声が響いてきた。


「幸宏? 彰? みんなどこ?」


 さらに和人の声がする。

 声がわんわん響いてどこにいるのかはさっぱりだが、とりあえず近くにはいるようだ。


「いるけど、ここどこだ?」

「わかんないけど、とりあえずスマホは圏外みたいだ」


 幸宏の声がする。なるほどスマホ、その発想はなかった。

 さっそく後ろポケットに入れていたスマホを取り出して電源を入れる。この間買ってもらったばかりの新型だ。企業ロゴが踊り、ぱっと電源が点く。

 圏外だと? ふはは、だから白犬なんてやめておけと言ったんだ。我らがキノコは大抵のところで少なくとも3G回線は通って……通って……通……


 ってない。


 え、圏外? 嘘だろ?


 ほんとにどこだよここ。キノコの電波が届かないとかあほじゃねーの。


「電波ない」

「僕のも、圏外だ」


 絶望みたいな声が響きあう。ってか、これだけ暗ければ誰かのスマホの光くらい見えても良さそうなもんなんだが。



 突如周囲に青白い火の玉みたいのがボッと浮かび上がった。


「うわわわわわ」


 びっくりして火の玉から逃げるように後ずさる。なんで炎が浮いてんだよ!?


 数歩下がると、背中にドンと何かがぶつかる。

 慌てて振り返ると


「あれお前ら」

「え、こんな近くにいたの?」

「よかったあ。見つからなくて心配したよ」


 二人がいた。


 後ろにいるとか分からんわ。


 俺たちが合流するのを待っていたように火の玉がぶわりと広がって、周囲が電気でもつけたように明るくなった。


「うわ、まぶし」


 思わず目を細め


「……え?」


 そして思わず目を見開いた。


 床は石畳、と言うんだろうか、つるつるの石がぴっちり埋め込まれていて、その隙間からさっきの火の玉と同じ青白い光がふわふわと浮いている。

 少し先は階段で下に降りれるようになっていた。というか、多分あれだ。ここだけ周りよりちょっと高い。

 足元の光を囲むように白いきっちりした柱が何本か立ち並び、俺の後ろにはもう1段高くなって、赤いカーペットの敷かれた階段がある。


 なんていうか、こう、控えめに言って、


「生け贄の祭壇?」


《いいえ、祭壇ではありますが、生け贄を捧げるためのものではありません》


「誰だ!?」


 つぶやいた刹那、頭のなかに響くような声が話しかけてきた。

 聞き覚えがあるというか、さっき呼びかけに応えしとか、強者がなんちゃらとか言っていた声に似ている気がする。


 祭壇が足元と同じように青白く光り、光が集まって人っぽい形になる。

 光はさらに明るいところと暗いところに分かれ、フードを被った女のような見た目に変化した。

 女の口元が揺らぎ、また声が頭に響いた。


《私はルターリア。【強者】よ、歓迎し、ま……す?》


 なんで疑問形?


《なぜ、三人もいるのでしょう? 私の呼びかけに応えた者はどなたでしょうか?》


「呼びかけ?」


《え?》


 ……え?



《叡智を求めるものよ、呼びしものよ、力を与え、剣を求めよ、と……》


 女の声が困惑したように頭に響く。

 いや困惑はこっちなんだけど。冗談っていうか、遊びで言ったこと真に受けてるとか、ありえないだろ。


「呼びかけって、そんなの聞いたか?」


 小声で二人に聞くと、二人共ふるふると頭を振る。ああよかった、俺だけ聞こえてないとかじゃないのね。


「あの、とりあえずここはどこで、あなたは誰なんですか? 俺たち学校にいたはずなんですけど」


 幸宏が問いかける。おお、いいこと聞いた。さすが優等生。


《ここはグリンブル大陸の南端、【勇者の神殿】です。私はルターリア。〈生命の灯火〉〈豊作の青〉〈浄化の炎〉などとも呼ばれます》


 聞いたことのない名前がいっぱい並んでいてよくわからん。勇者の神殿って、ゲームかよ。


「グリンブル大陸? ええと、五大陸だとどの大陸ですか? ユーラシアのどこかでしょうか?」


 五大陸ってえーと、ユーラシア、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、北極。よし覚えてる。さすが俺。


《五大陸、ゆーらしあとは、あなた方の居た世界の名称でしょうか。この世界には大陸は大きく2つ、グリンブルとエルレラントしかありません。小規模な島々は多くありますが》


「あなた方の、いた、世界?」


 幸宏の愛想笑いが引きつっている。ええとつまり、


「僕たちは、別の世界に召喚されたってこと?」


 和人がつぶやく。

 ルターリアがほんの少し口元を綻ばせて頷いた。


《ですから、そのように最初から呼んでいたはずです。呼びかけに応じ、契約し、こちらの世界へ召喚され、そして私達の世界を救ってほしい、と》

「残念ですが、そのような呼びかけは聞いていません」


 幸宏が慌てて切り返す。

 俺達二人も後ろでぶんぶんと首を振った。


《ですが、確かに呼びかけに応える声がありました。そもそも了承の返事をいただけなければ、あの魔法陣は発動しません》

「応じる声がしたって、そんなてきとーなので召喚してんのか? もっと強そうなやつとか選んで呼べばいいのに」


 俺はさておき、この二人は強いとは全く言えないだろ。馬鹿じゃねえのこいつ。


《そのようにしたいのは山々なのですが、魔王が瘴気を放ち力の多くが奪われ、高度な召喚魔術を保つことが困難なのです。今回は苦肉の策として、転出させた召喚陣の周囲で最も覇気の強いものに声を伝える方針を取りました。召喚陣の結界機能の維持は難しくやむなく切ったのですが、まさか召喚陣で遊ぶ者がいるとは……》


 ルターリアは召喚陣が誤作動したらどうするつもりだったのかだのなんだのと小言を続けているが、俺の耳には入ってきていなかった。



 魔王。瘴気。魔術。そして召喚。



 王道召喚モノじゃねえか! 世界を救うために俺が呼ばれたんだな!


 勘違い? 知らないね。呼ばれたからには俺が勇者だろ!



 心がふつふつと沸き立ってくる。今にも走り出したいのを必死に抑える。最初のお助けキャラの話は聞いとくべきだ。お助けキャラの話を最後まで聞かないともらえない便利アイテムとかたまにあるからな。

 まあ多分、幸宏と和人が聞いてくれるだろ。



「でも俺達は呼ばれたわけじゃないので、返してください。ちゃんと呼ぶつもりだった人を呼んだ方がいいですよ」



 何言ってんだ幸宏!!!!!



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