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冒険者になろう

 久々のベッドで眠ること一晩。

 寝心地が良かったかと聞かれればそんなに良くもなかったけど、昨日神殿の椅子で寝た後だからかぐっすり眠れた。

 起きると和人と幸宏はもう起きてて、二人で何か話し合っているところだった。


「やっぱそれしかないか」

「うん、神殿はやっぱり、いきなり行かないほうが良さそうだから」

「そう、か……」


「なに? どうするって?」


 二段ベッドの上段から身を乗り出して声をかけると、二人ともびっくりしてこっちを向く。


「起きてのか」

「今起きたとこ。で、何? 今日の方針の話?」

「今日っていうか、これからの方針だね。あー、その、冒険者登録をしようかって」

「まじか!」


 勢い良く起き上がり、がごんと天井に頭を打った。


「いってええええ」

「ぶふっアホか」

「天井低いもんね、大丈夫?」

「いってえけど大丈夫! おっしゃ今から行くぞ」

「まてまて、貴重品は全部持て。治安も分かんないんだから」


 ひらりとベッドから飛び降りて部屋を飛び出そうとした俺を、幸宏がひっつかんで止める。ちょっとくらいいいじゃねーか、ちくしょう。





 降りていった酒場は、昨日と違って人が居なかった。

 俺らに気がついたオッサンがカウンターからちらりとこちらを見て、手元の作業を止めずに声をかけてくる。


「おう坊主ら、随分ゆっくりじゃねえか」

「まだ、そんなに遅くないと思うんですけど……店はまだ開いてないんですか?」

「バカ言えウチは冒険者酒場だぞ、開店は夜明け前、閉店は宵の口だ。朝の混雑はとっくに終わったんだよ。次に客が来るのは昼だ」


 お前らが遅すぎるんだよと言われ、うえっと息を飲む。夜明け前から動き出してるって、農家か? じいちゃんばあちゃんたちか?


「で、どうすることにしたんだ」


 何やら整理してるらしい木の板から目を離さずに、オッサンが聞いた。


「冒険者登録するぜ。三人共だ」


 俺がずいっと指を三本立てて突き出すと、オッサンはボリボリと頭をかいて、手元の引き出しから何枚か紙を取り出した。


「字は読めるか?」


 ちらっと紙を覗き込む。ドアにかかってる看板見たときにも思ったけど、普通に日本語だった。


「読めます。冒険者誓約書?」

「人に迷惑をかけるな、人の仕事を横取りするな、冒険者ギルドを通さない仕事については冒険者ギルドは責任を取らない。一度とった仕事をやめる時は報告しろ。それから、死んでも自己責任だ。身の丈にあった仕事をしろ。だいたいそんなとこだな」


 オッサンが箇条書きになっているところを一つ一つ指差しながら大雑把に説明してくれる。ってかここ、冒険者酒場って名前だけど、ギルドなのか。どっかにギルド本部とかあんのかな。


「当たり前だと思うけど」


 和人がちょっと首をかしげる。確かに当たり前だとは思う、最後の以外は。死んでも自己責任って、なんか文句言ってやりたい気もするんだけど、何を言ったら良いのか分からなくてもやもやしたものを俺はぐっと飲み込んだ。


「その当たり前ができねえやつが多いから明文化されてんだ。破ったら賠償から冒険者登録の取り消し、ひどいと強制労働とか付くからな。気を付けろ。で、次のが冒険者ランクについてだ」


 ぱらりとめくると、なかなか心躍る言葉が並んでいた。


「ランクは駆け出しのEランクから、最高のSランクまでだ。どんなに腕っ節が強くても一年間はEランクだ。これは例外は存在しない」

「強いやつはどんどん上のランクにしちゃわねえの?」

「強いだけ・・で下積みのない奴らはすぐ死ぬからな。無理やり下積みさせんだよ。自分が死ぬだけなら放っといたんだろうが、上のランクになるほど合同の依頼が増えるからな。他人を巻き込むくらいならランクアップが遅いほうがマシだ」

「「「あー……」」」


 見える、「俺は強い!」とか言って打ち合わせ無視してボスに突撃して爆死してデスペナ背負って帰ってきて、そのせいでクエスト失敗してフルボッコプレイヤーキルされるMMOプレイヤーの姿が……。

 連携って、大事だよな。上位クエストだと特にさ。

 二人も思い当たることがあるようで、苦い顔をしている。


「……その様子だとお前らは大丈夫そうだな。ランクアップには登録期間と実績の両方が必要だ。時間が経つだけで立派になんのは樹だけだ、ちゃんと実績を積め」

「「「はい」」」

「じゃあここに名前を書け、それからここに血判だ」


 ペンとインク壺、そして細いナイフが目の前にコトリと置かれた。ケッパン、血判!?血つけんの!?

 幸宏が恐る恐るペン先をインクにつけて、名前を書く。左手の小指に慎重にすこーしだけナイフで傷をつけて、血を親指で押し付けた。



 途端に二枚あった誓約書とランクについての説明書が青い炎を吹いて燃え上がる。幸宏はびっくりして慌てて手を話してしまっていたけど、契約書は宙に浮かんだまま燃え続けた。

 紙は炎の中でくしゃくしゃと丸まりながら小さくなり、炎が収まるとそこには青い丸い石がころんと転がっていた。


「……え?」

「よし、んじゃあこの処理すっから、ほら、お前らも書け」

「いやいやいやいやいやいや!! え、何今の!? すっげー!!!」

「あ、あの、契約書、燃えて……」

「魔法!? 魔法ですか!?!?」

「……個人登録魔法知らねえとか、お前らどんな田舎から出てきたんだ?」



 しばらくすげーすげー言っていたら、うるせえとげんこつを食らった。すげーもんはすげーんだから、いいじゃねーか。


 で、聞いてみるとどうやらこれは個人を証明する魔法らしく、血を入れた本人とリンクするようになる魔術具なんだそうだ。市民登録から始まり、武器や道具を自分とリンクさせれば他人に使えないようになるらしい。なにそれすげー!

 今回のは誓約書と一緒にすることで、勝手に誓約書の内容を書き換えたり、知らなかったみたいな言い訳をさせないようにするんだそうだ。ギルドの水盆とやらにためにしに入れてみたら、さっき見た誓約書の文字が水面にふよふよと浮かび上がった。なにこれすげえ!


 俺はワクワクして、自分の名前をさらさらっと書いてピッと血判を押した。ちょっと切りすぎた気もするが気にしない。

 そういえば契約書の俺の名前の上のとこに「黄金龍の鱗亭 店主 リューグ」って書いてある。オッサンの名前はリューグっていうのか。なんかかっこよさそうだ。


 契約書に血が滲んで、さっきと同じように目の前で燃え上がる。

 突然炎が吹き出すのもすげえけど、この浮いてるのがまじですげえ。どうなってんだこれ。


 炎が途切れると、さっきと同じ青い珠がテーブルの上に転がった。


 和人も同じようにする。和人のときも、近くによってマジマジと魔法を見つめた。



 その後リューグのオッサンは青い珠をペンダント型に加工してくれて、それぞれに渡してくる。




 こうして俺達は、Eランク冒険者になった。


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