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プロローグ

新暦ニニニ年 四月 十七日


 地上世界。王都グランヴェル。

 俺はその中心にそびえる、バビロンと呼ばれる巨城の一室で椅子に腰掛け、戦争の準備が整うのを待っていた。

 王室には俺の他に、四人の機械人形が各々準備を進めている。

 現在、このバビロンには俺達以外の生き物は居らず、周囲は地上と空の両世界から呼び寄せた五百以上の機械人形が待機している。

 俺はふと窓へと視線をうつし、空を見上げた。

 日はまだ高く、何事もないように煌々と世界を照らしている。

 まもなく、この世界は変わるだろう。

 俺達の圧倒的勝利によって。

 目的はただ一つ。機械人形に、人間と同じ人権を与えること。

 それを実現させるために、この戦いは絶対に負けられない。

 空を見上げる俺の下へ、各所からの連絡をまとめ終わった紅葉が、報告のために駆け寄ってきた。

「マスター。準備は着々と整ってきていやがります。あと数分もすれば、全ての用意が完了しやがりましょう」

「了解。粉雪と夜桜、向日葵もこちらに来てくれ。これより、作戦の最終確認を行う」

 報告を受けた俺は、少し離れた所にいた三人を呼び寄せた。

「準備が整い次第、各戦地、主要都市、そして上層王都へと転移門、転移魔法を使い、機械人形達を転送する。そして迅速にその場を制圧。細かい指示はサーニャにでも仰いでくれ。その後、俺達の目的を世界へと公開し、現実のものとする。これが一連の流れだ」

「了解しました」

「了解したでやがります」

「了解、したんだよ」

「了解いたしましたわ」

 粉雪、紅葉、向日葵、夜桜の四人は声を合わせて俺の目を見た。

 よし。後は準備完了の連絡を待つのみ。

 この戦争は、俺達の望んだ未来へと繋がっているはずなんだ。

「本当にいいのかな、マスター……。私達がこれからすることは褒められた事じゃないんだよ。マスターが犠牲にならなくても……、こんな事を起こさなくても、ただ私達が我慢さえしていればすむ話なんだよ。私達は心を持ってはいるけど、所詮、機械なんだよ? 人間と同じ体を持っているけど、人形なんだよ? マスターは何も気にすることなんて、ないんだよ……」

 先ほどまでもくもくと作業を進めていた向日葵が俯いたまま話しかけてきた。

 きっと、これから自分達がすることや、俺に迷惑がかかることから生まれた不安に、耐え切れなくなってしまったのだろう。

 向日葵はいつもこんな感じだ。皆と準備をしている時は楽しそうに笑っているが、いざとなると怖がってしまう。

 きっと、仲間と一緒に何かをする事が好きなんだ。

 だが、心が弱く最後には怖くなり泣いてしまう。

 俺はこんなにも人間らしい子を道具として扱う奴らを許せない。

「顔をあげろ。俺の事は大丈夫だから。これだけ仲間が纏まって動いてるんだ。指揮者がいることはばれているだろうが、個人の特定までは出来ないだろうさ。それに、今回事を起こしたのは俺の独断だ。ただ単に、俺がお前達を物として扱う人間を許せなかっただけだ」

 俺の言葉に従い、顔を上げた向日葵の頬は瞳から流れる涙で濡れていた。

 どうやら今回も、我慢できずに泣いてしまっていたようだ。

「あ、ありがとう、マスター。わ、わた、し、がんばる、がんばる、ね」

「いや、俺は皆に謝らないといけないんだ。俺はお前達を道具として扱う奴らを許せないから戦争を起こそうとしている。でも、俺はその戦争で皆を争いの道具としてしまう。俺は他の人間と同じクズなんだよ。ごめんな、向日葵」

 もっといい方法があるかも知れない。

 道具として扱わなくてもいい方法があるかも知れない。

 争いなんて起こさずに解決できる方法があるかも知れない。

 何度も考えた。何度も、何度も。

「でも、俺にはこの方法以外、何も思い浮かばなかったんだよ……。ごめんな」

「違うよ、マスター。確かに私達はマスターの指示に従ってるけど、それはマスターの事を信頼しているし、自分達がそうしたいと思っているから行動しているんだよ。マスターは私達が嫌だと思う事は絶対にしないもん。……ごめんね、マスター。私、弱気になっちゃってたね。でも、もう大丈夫だよ」

 先ほどまでの泣き虫で弱気な向日葵は陰を潜め、服の袖で涙を拭いながら、柔らかい笑顔で俺を見ていた。

「マスター。たった今、各地にとんだ仲間から、全ての準備が整ったとの連絡が入りやがりました。各員、いつでも動けやがります」

 紅葉から連絡を受けた俺は、粉雪に指示を投げた。

「粉雪。各地の空間モニターに繋ぎ、映像は無しで音声だけを流してくれ」

 指示を受けた粉雪は、前もって準備していた二台の機械の操作を始めた。

 そして腕の袖から伸びるプラグを機械に差し込み、反対の袖から伸びるプラグをもう一台へと差し込んだ。

 もう、後戻りは出来ない。

 たとえ、どんな結末になろうとも、全ての責任は俺が背負う。

「接続完了致しました。いつでも流せます」

 俺はここから先の言葉を流すよう指示してから、全員の目を見て、世界に開戦を告げるため口を開いた。

「我々は認めない。機械人形を物として扱う事を。人殺しの道具として扱う事を。しかし、力なき者の声は、力を持つ者に消されてしまう。だから俺達は世界に力を示す。矛盾している事は理解している。しかし、後の世を変えるために。我々の求めるものは、人間と機械人形が助け合っていく世界。そのために、我々は戦争を起こす。人類と機械人形の、最後の戦争を!! 各員、待機解除! 転移門、転移魔法を用い、迅速に各地を制圧せよ!!」


カタツムリの如き速度ですが、書き続けていこうと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

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