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09.魔物討伐(1)

 アーレン王国から西にある森の周辺―――。


 「ああぁぁぁぁあ! 腕がぁぁ! 俺の腕がぁぁぁぁぁ!」


 「だめだ! 矢も剣も効かないぞ!」


 「……っ! 退避だ! 退避しろーー!」


 アーレン王国の騎士であるロードス=ラン=ハワードは舌打ちする。

 ロードスは今日の討伐命令を甘く見ていたことに後悔していた。



 ◇



 西のダグズ村付近で飼育していた家畜が魔物に襲われるという報告が上がり、騎士8番隊序列5位のロードスに討伐命令が下る。

 報告によると家畜を襲っていたのは狼の魔物、グレイウルフの群れだとのことだった。


 ロードスは分隊を編成すべく10人の従士を選抜し、西のダグズ村へと向かう。

 ダグズ村は20人程度の人が住む小さな村である。家畜を飼育し毛皮や乳製品を王都に売り、細々と暮らしている。

 生活をしていく要である家畜を魔物に襲われては、村人全員が生活に困ってしまうだろう。

 王国は民の生活を第一とするため、こういった事案を最優先で処理する。だが事実、王国は民の救済に手が回らない状態だった。

 近年、魔物による被害が増えているためだ。

 ハンターギルドというものが設立されているが、魔物の被害は中々減ることはなかった。

 冒険者を生業としている者たちにとって、仕事があるのはいいことなのだろうが。




 ロードスたちは馬を2時間ほど走らせ、依頼のあったダグズ村へと付く。

 村には人一人誰も外には出ていなかった。ロードスは近くにある民家のドアを叩く。

 すると、ドアが少し開き中から中年の男性が顔を覗き込んでいた。

  


 「私はアーレン王国騎士8番隊序列5位ロードス=ラン=ハワードという者だ。依頼を受けて参上したが、村長の家はどこだろうか」


 すると、ドアが開かれ男が歓喜の声を上げる。


 「おお! 王国騎士の方ですか! お待ちください、直ぐに村長と村の皆を集めますので!」


 そう言うと男は大声を上げながら村中を駆け巡り、村長と村人全員を集めてきた。

 ロードスは村長の家で被害の報告を聞く。


 「4日前の夕刻に飼育小屋に家畜を誘導しようとした村人3人と家畜13頭が突如現れたグレイウルフに襲われてしまいました……。

それ以来、外に出ると襲われてしまうのではという恐怖に村人全員が外に出られなく……。しかし、意を決して王都に依頼の者を出して正解でした。こんなに早く来ていただけるとは」


 「村長、家畜を何頭か譲り受けできないか?おびき寄せる囮に使いたいのだが。もちろんその家畜分の金額は払わさせていただきます」


 村長は驚き、返答に困っていたがこのままでは村人が全滅してしまうと考え、貴重な家畜をロードス達に4頭渡すことを伝える。

 そしてロードス達はさっそくグレイウルフを誘き寄せる算段をとる。


 ダグズ村の少し離れた森に近い草原が被害現場というので、馬で途中まで移動しそこで羊を4頭縄で繋ぎ囮とする。馬は途中にあった大きな岩があったのでそこに繋ぎ留め隠す。

 従士を3隊に分け見つからないよう、生い茂る草に身を屈め、草を纏い姿を隠し待ち続けた。


 すると一匹のグレイウルフが森から姿を現し、周囲を確認する。そして羊の元へと駆け寄り襲い始めた。

 さらにもう5匹のグレイウルフが現れ、羊の元へと駆け寄り食事を始めている。


 暫く待ち、ロードスはこれで全部だろうと判断し従士に合図する。


 「ヘンリー達は右翼から周り後方を取れ、トーマス達は左翼から囲み合図したら矢を放て」


 「「了解」」


 従士達が所定の位置に着いたことを確認したロードスは合図をする。


 「トーマス隊! 矢を放て!」


 ロードスの声に羊を食していたグレイウルフが顔を上げ警戒態勢に入るが、トーマス隊の放つ矢の方が早く3匹のグレイウルフに命中し、動きを止めていた。

 無傷のグレイウルフは血に濡れた牙を剥き出しにし1匹がヘンリーの隊に、もう2匹はロードスの隊に向かっていった。


 「抜刀!!」


 ロードスの合図に従士達は鞘からロングソードを引き抜く。


 クレイモアを引き抜き、ロードスは向かってきた1匹を縦一文字に剣を振る。

 鈍い音と共にグレイウルフは真っ二つになっていた。

 他の従士もグレイウルフを仕留めていく。。

 そして矢を受け地に伏してもがいているグレイウルフにロードス達は止めをさしていく。


 「ふう、任務完了だな」


 村の森周辺にいたグレイウルフを討伐し終え、帰還しようとした矢先―――。

 突然、森の中からそれは襲ってきた。



 『グオオオォォオ!』



 大きな何かが咆哮をあげて一人の従士に襲いかかる。


 ザシュ!! ビチャビチャ……ビチャ………


 従士の体は4つに切り裂かれ、肉の塊へとなった。

 そして「それ」は切り裂いた従士をグチャグチャと食い始める。



 従士たちは襲ってきた「それ」を見て驚愕な顔をする。

 

 「………っ!!! な!!」



 『グルルルル…』


 

 それは大の大人の体、二人分程ある大きな腕に鋭い鉤爪をし、体長は裕に5メートルを超える大きな熊であった。


 「なんだと! フォレストベアー! しかしなんだ! あの馬鹿でかい腕と体は!! 変異種か!?」


 「全員抜刀っ!!!」


 ロードスが叫ぶ。従士全員、すぐさま腰に帯刀してた剣を抜く。

 通常のフォレストベアーは体長2メートル程で、その程度であれば1つの分隊で十分に討伐できる人数である。

 が、しかし目の前にいる魔物は桁が違う。


 フォレストベアーは従士たちの殺気を気にも留めず、切り裂いた従士をグチャグチャと咀嚼し食事を続けている。


 「くそ! 化け物め!」


 トーマスが剣を地面に突きつけ、弓を構え矢を放つ。

 矢はフォレストベアーの背中に当たるが、分厚い毛皮に弾かれてフォレストベアーに傷一つつけられなかった。


 フォレストベアーは矢を放った兵士へと牙を剥きだしながら顔を向け、赤い目が兵士を捉える。


 そして体を向け、大きな両腕を地面に叩きつけ咆哮を上げた。


 『ドン! ドンッ!! グオオオォォオ!』


 「ヒィっ!!」


 矢を放ったトーマスは地面に突き立てた剣を引き抜き、襲ってきたフォレストベアーに剣を振り下ろすが、大きな腕に剣を弾かれ、そして振り下ろされた腕で潰された。


 グチャ!!!!


 「く、くそがああああああああああ!」


 別の従士が斬りかかりに行く。しかし振り回された腕により、従士の両腕は千切れ飛んでいく。

 千切れた腕から大量の血が吹き出て、従士は悶絶しながらのたうち回っていた。


 「ああぁぁぁぁあ! 腕がぁぁ! 俺の腕がぁぁぁぁぁ!」


 「だめだ! 矢も剣も効かないぞ!」


 「……っ! 退避だ! 退避しろーー!」


 ロードスは兵士たちに退避命令を出す。直ぐ様岩陰に留めてあった馬に跨り、馬を走らせる。

 しかし、フォレストベアーはその隙を見逃さず既に6人もの従士を引き裂き、潰していた。


 うまくその場から馬を走らせることに成功したのはロードスとヘンリーだけだった。

 フォレストベアーはロードス達を追いかける。幸いなことに馬ほどには早くは無いようだ。

 

 「お前は王都まで戻り、討伐隊を編成させろ! 私は囮になって時間を稼ぐ! 行け!」


 「はっ! ロードス隊長、ご武運を!」


 ロードスは馬の速度を落とすと、囮となるべく兵士たちとは別の道へとフォレストベアーを誘導させる。


 フォレストベアーはロードスへと標的を定め追いかけていった。

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