08.図書館
魔法学園に使用人として努めてから1週間が経っていた。
以前、ルシアが落ち込んでた時に慰めて以降、ちょくちょく勇輝の所に顔を出していた。
その度に、周りの男子生徒から殺気を向けられるが。
そして庭を掃き掃除している勇輝の横にルシアがいる。
授業の休み時間の間のようだった。
「なぁ、ルシア。毎度毎度掃除している俺の姿を見ていて飽きないか?」
「ん? そんなことないですよ?」
ニコニコしながら花壇のブロック塀にルシアが腰掛けている。
「そうか」
再び掃き掃除を始めると、丁度授業が始まる予鈴の鐘がなる。
「あ、私戻りますね」
ルシアは手を振りながら教室へと戻っていく。
(うーん、なんか懐かれたな。悪い気はしないが)
勇輝は異世界人である。元の世界には両親がいる。元の世界に帰る方法を見つけ出し、いずれは帰らなければならない。
ルシアの好意には薄々気づいていたが、今一歩踏み出せないのが現状だった。
「あ、いけね! ジョディさんに図書館の整理するよう指示出されてたの忘れてた!」
ジョディに頼まれていたのを思い出し、すぐさま掃除を終えると図書館へと走り出した。
ブレア魔法学園には大きな図書館がある。魔法学や歴史書など様々である。
勇輝は本の整理をしていた。
「いやー、本それぞれに番号割り当てられていて良かった。流石に字は読めねーしなー」
膨大な書籍を管理するのに番号が振られている。その為、この異世界の字を読めない勇輝でも簡単に整理ができていたのだ。
「しかし、目の前に大量の情報があるというのに、読めないのは流石に……」
勇輝が「う~ん」と唸っていると、突然後ろから声をかけられる。
「アオイ様、どうなされたのですか?」
「うわっ!? っと、セシルか。いやあ、目の前に大量の本があるのに字が読めないことにっ……て、授業はどうした?」
「実は講師の先生が急遽具合が悪くなっということで、自習になったのです。なので図書館で勉強でもしようかと」
実は嘘である。ここ数日、ルシアが勇輝のそばにいたために話すきっかけができなかったから、こうして会いに来たのである。
セシルは女の直感で、ルシアが勇輝に惚れていると気づいていた。このままではいけないと思い、大胆にもこのお嬢様は授業をサボったのだ。
「ルシアさんには負けません……」
ぽつりとセシルは呟く。
「ん? なんか言ったか?」
「い、いえ! 何でもありませんの!」
『あはは』と誤魔化し笑いをするセシル。
「と、ところでアオイ様は何を知りたかったのですか?」
「ああ、この国、というか周辺国家、世界情勢や歴史の事を知りたくてな。後、貨幣とか」
「そういえばアオイ様はこの大陸の方じゃないって言ってましたものね。そうしましたら、わたくしがお教えしましょうか?」
「え? いいのか? じゃ、ちょっと待っててくれ。今整理中の本を片付けるから」
「はい!」
セシルは心の中で「やった!」とガッツポーズをする。
勇輝は常人の動きとは思えない速さで本を片付けていく。
「ふぅ、終わりっと」
セシルは目が点になっていた。
大量に積まれていた本を、あっという間に片付けてしまったからだ。
「え? え? アオイ様、今の動きは魔法か魔道具による力か何かなのですか?」
「ん? いや、俺は魔法は使えないし、魔道具なんて持ってないよ」
セシルは「す、凄い……」と呟く。
「よし、じゃあ、早速教えてくれないか?」
勇輝が近くにある椅子に座ると、呆気にとられていたセシルも慌てて椅子に
座る。
「はい。ではまず……」
この大陸には3つの大きな国と中立国がある。「アーレン王国」「ガレリア帝国」「パレス法国」「クレティア共和国」である。
「アーレン王国」は民を一番と考える国で、民の生活を豊かにすることで生産性向上を目指している。主に生活面に力を入れている為、軍事力はあまり高くない。
しかし、王国の三方を大きな湖が囲っており、他国と戦争になった場合攻めづらい地形になっているとのこと。
「ガレリア帝国」は軍事力が高く、力で国をまとめあげている。元は小さな国であったが遠征を繰り返し、他国を侵略・領域を広げていき、大きな国へと発展した。
軍事技術が発達しており、また戦争でも始める気ではと噂されている。
「パレス法国」は魔法の研究が盛んであり、神の信仰心が強い国である。深い森の奥にあり、信仰心のないものは入れない。噂話しだが、この法国には神話の時代に造られたという小さな神殿があり、
その中に祭られている「青赤の石碑」を守っているとされている。またその石碑に書かれていることが、この大陸から伝わる御伽話の元と言われているとのこと。信憑性は定かではないらしいが。
「クレティア共和国」は王国と帝国の中間に位置にあり、鉄鋼産業が盛んな国である。鉄鋼資源を求める商人たちが集まり、次第に大きくなった。故に帝国・王国にどちらにも属さず、貿易の街として中立国になっている。
「あとそれと……」
セシルは話を続けていく。
この大陸には人間を害する「魔物」がいる。魔物は通常の動植物と違って、体内に「魔石」というものがあり、それが生命の源になっている。
魔石には魔力が込められていて、魔道具の動力源として使われる。それを求めて「ハンターギルド」というのが設立された。住人の生活安全と資源の確保という名目で。
「ふむふむ、なるほど。貨幣のことも教えてくれないか?」
「貨幣は白銀貨・金貨・銀貨・銅貨に分けられまして……」
貨幣の価値はこうだとのこと。
白銀貨=金貨10枚
金貨=銀貨100枚
銀貨=銅貨100枚
銅貨
勇輝は日本円でどれくらいだろうと考えるが、頭が混乱しそうになるので考えるのはやめた。
ちなみに、平民4人家族が一ヶ月生活するのに必要な額は銀貨5枚程度だということだ。
「ふぅー、色々と教えてくれてありがとうな。助かったよ」
「いえ、アオイ様の役に立てて良かったですわ。それにわたくしもアオイ様とお話できて嬉しいですし。あの、まだお時間があるようでしたら……」
セシルがそこまで言うと、突然図書館の入口からセシルを呼ぶ声が聞こえてきた。
「セシルお嬢様! 授業に出ていないと講師から連絡を受けてみたら、こちらにいらっしゃったのですね!」
声の主はジョディさんだった。そしてこちらに向かってくる。セシルは「あちゃー」とバツが悪いような顔をしている。
(ああ、自習というのは嘘だったのか)
勇輝は瞬時に悟る。
「すみません、ジョディさん。セシルが具合が悪いというので、こちらで休ませておりました。セシルの講師に連絡を入れるのを忘れた私の責任ですので、セシルにお咎めは無しでお願いします」
セシルは「え?」とした顔をしている。ジョディはそんなセシルの態度を一瞥し、勇輝の目を数秒見た後にため息を吐いた。
「はぁ……わかったわ。講師には私から伝えるから、アオイ君は仕事に戻りなさい。セシルお嬢様、まずは医務室へ向かいましょう」
「は、はい」
セシルはジョディに連れられて図書館から出て行く。
「ま、好かれるのは悪い気しないよな」
そして勇輝は次の仕事を終えるべく、暫くした後に図書館を出て行った。