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07.従僕(2)

「今日から皆さんと働くことになった青井勇輝と申します! よろしくお願いします!」


 朝、日が昇り始めた時間に事務棟の1階広間で集まった使用人たちの前で自己紹介をしていく。


 「彼の教育係はジョディだが、皆も色々と教えてあげるように」


 執事であるセバスが皆に声をかけると、広間にいた使用人たちは皆それぞれ「はい!」と返事をしていた。

 



 使用人の朝は早い。建物の掃除から始まり、学生たちの朝食づくり、そして魔法学科で使う資料や材料などの準備に追われる。

 勇輝はジョディとともに行動していた。


 「じゃ、あの樽を調理場へ運ぶから台車を持ってきてくれる」


 「いや、あのくらいの樽なら多分担いで運べます」


 勇輝はそう言いながら樽へと近づき樽に手を伸ばす。


 「ちょ、ちょっと、一人でそんな大きな樽持てるわけ無いでしょっ……て、えええ!?」

 

 ジョディは目の前で起きていた光景に驚く。一つ重さ40Kgもする樽を勇輝は二つも軽々と担いでいたのだ。

 周りにいた使用人たちも一緒になって驚いていた。


 「嘘だろ!?」

 

 「魔法か何かか!? しかし、魔法使えるなら使用人なんかになるはずないし……」


 「す、凄いわあの新人君……それに顔も悪くないし…………食べちゃおっかな」


 驚きの声の中、一部のメイドの聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がした。


 「アオイ君……結構力持ちなんだね……」


 「いやー、まぁ」


 勇輝は生返事をする。


 (もしかしたらって思って担いでみたけど、やっぱりこの程度の重さなんとも無いようだ)


 そしてそのまま調理場へと樽を運んで行く。


 



 学生寮の食堂で使用人たちはテキパキと料理を並べている。勇輝は並べられた皿の上に、香ばしく焼かれたパンを一つ一つ並べていく。

 今日の朝食は、ゴロゴロと野菜の入ったスープに、魚のムニエル、焼きたてのパンである。


 「うあー、いい匂いですね。ところで俺たちの朝食はいつとるんですか?」


 隣で勇輝に指示を出しているジョディに話しかける。


 「学生たちの食事が終わり片付け、授業が始まる頃に交代で食事よ。はい、手が止まってるわよ」


 ペシペシと頭を叩かれる。

 料理を並べ終え、部屋の隅で立って待機していると学生達がぞろぞろと食堂へと集まってきた。

 その中で白銀色の髪の毛の女の子が勇輝の姿を見つけると、リボンで結んだ後ろ髪を揺らしながら近づいてくる。


 「ユウキ! おはようございます! 良かったー、無事この学園で働くことができたんですね!」


 ルシアが心底嬉しそうに挨拶してきた。


 「ああ、色々あったけどなんとかここで働くことができたよ」

 

 ルシアの頭をポムポムと軽く叩くと、「えへへ」と微笑んでいる。

 可愛いなと思っていると、周りの男子学生たちの殺気の篭った視線が勇輝に向けられていた。


 (うあー、ルシア結構人気あるのか。まぁ確かに可愛いし胸大きからなー)


 ルシアはそんな視線に気づかず、「後で会いにいきますね」と言い残し(男子学生の殺気が増大)その場から離れていく。

 暫くすると金髪で前髪が長く少しウェーブ掛かった長髪の女の子、セシルが食堂に入ってくる。そして勇輝を見つけると近づいてきた。


 「アオイ様!おはようございます!お仕事お疲れ様です。あまり無理はなさらないでくださいね」


 セシルはニコニコと労いの言葉をかけてくる。


 「ああ、気遣いありがとうなセシル」


 セシルの頭をポムポムと軽く叩くと、「いえ、そんな」と頬を赤らめてく。

 照れているのかと思っていると、周りの男子学生たちの驚愕するヒソヒソ声と殺気の篭った視線が再度勇輝に向けられる。

 『セシルさんが、あの従僕に様付けしているぞか』と、ヒソヒソ声が聞こえてくる。呪詛を唱えてる奴もいて正直やめてほしいと思うのだった。

 

(うあー、セシルも結構人気あるのか。まぁ確かに可愛いしお嬢様だしなー)


 セシルはそんな視線に気づかず、「では後ほど」と言い残し(更に男子学生の殺気が増大)その場から離れていく。


 「アオイ君も中々やるわね~」


 ニヤニヤと隣に並んで立っていたジョディに冷やかされる。


 「なに言ってんですか。まったく」


 ジョディを無視し、学生たちが朝食をとっている姿をぼんやりと眺めていた。



 ◇



 午後、校舎の外を箒で掃き掃除していた時、ルシアたちが野外授業しているのを見つける。

 どうやら魔法の授業のようだ。等間隔に置かれている木箱の上にリンゴがそれぞれ一個づつ置かれている。

 木箱から数メートル離れている生徒が魔法をかける。


 「アイシクル!」


 シャキンッ!


 リンゴが瞬く間に凍っていた。


 「うお!すげぇ!リンゴが凍ってる!あれが魔法か……」


 先生であろう男が凍ったリンゴを確認し、合格と言う声が聞こえてくる。

 そして次の生徒へと順番が変わると、次はルシアであった。

 ルシアは緊張しているのか木箱の前に移動しようとすると転けて、周りの生徒にクスクスと笑われる。そして先生は手を額に当て呆れていた。

 ルシアは立ち上がり、杖を突き出し精神を集中させ魔法を唱える。 

 

 「アイシクル!!」


 シャキン!コロコロコロ…


 リンゴは凍らず、サイコロくらいの大きさの氷が木箱の上で転がっていく。


 先生は不合格と伝えると、ルシアは肩をがっくりと落とし生徒たちの方へと戻っていった。 

 

 「ルシア…」


 勇輝はそんなルシアの姿を見届けたあと、掃除の仕事を再開いく。



 ◇



 放課後、勇輝はルシアの教室に行ったが、本人がいなかったのでミリアにルシアは何処に行ったのか訪ねていた。


 「あの子、落ち込んだ時は裏の階段の所にいるはずよ。ユッキー、シアを慰めてあげて」


 ミリアにお礼を言うとその場所へと向かっていく。


 ルシアは校舎裏の階段踊り場でちょこんと座っていて、夕日がルシアの影を長く伸ばしていく。


 「はぁ……」


 ルシアは今日の魔法授業の実技の結果に落ち込んでいた。クラスの中で出来なかったのは一人だけであったからだ。

 夕日を眺めているルシアに勇輝は声をかける。   

 

 「よ、ルシア。隣いいか?」


 「え? ユ、ユウキ!? どうしてここに」


 「ミリアに聞いた」


 「そ、そうなんだ」


 少し冷たくなった風が二人の体を通り抜ける。


 「実は今日、ルシアの魔法授業を偶然見たんだ」


 「……」


 「それで、落ち込んでるんじゃないかなって心配になって見に来たんだ」


 「……」


 「あんまり思いつめると体に良くないぞ?」


 暫く沈黙が続いた後、ルシアは沈みゆく夕日を眺めながらぽつりと話し始めた。


 「私ね、魔法がうまくならないんです。魔力があるってわかった時はすごく嬉しくて、魔道士になれればお婆ちゃんに喜んでもらえるかなって」


 勇輝は黙って話を聞いている。


 「実は私、お婆ちゃんとは血が繋がってないんです。赤ん坊の頃に捨てられていた私を拾ってくれたんです。ここまで育ててくれたお婆ちゃんに恩返しがしたくて、魔道士になればお金も沢山稼げるから、生活面で楽にしてあげられるかなって」


 ルシアは膝を抱える。


 「だけど、現実はうまくいかないものですね。魔法、全然うまくならないんですもん」


 風がルシアの前髪を揺らしていく。


 その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

 「魔法のことはよく分からないけどさ、お婆さんを想う気持ちはお婆さんにとって凄く嬉しいことだと思うよ。だけど、ルシアが落ち込んでる姿は見たくなんじゃないかな。家を出るとき『シアが元気に巣立って幸せになってくれれば』って言ってただろ? なにも無理に魔道士にならなくてもいいんじゃないか? ルシアの料理美味しいから料理屋でもやってけると思うし。だからそんなに思いつめるなよ。な?」



 ルシアの頭をポンポンと軽く叩く。

 キョトンとした顔で勇輝の顔を見ていたルシアは、頬を赤らめる。


 「ふふ。ユウキって不思議な人ですね。この世界では魔法が第一の考えなのに逆の考え方で慰めてくるなんて」


 「ポジティブ精神が俺の取り柄だからな」


 二人して笑う。


 「暗くなってきたから帰ろう。学生寮まで送るよ」


 勇輝は立ち上がり、手を差し伸べる。


 「うん!」


 握り返されたルシアの手を引っ張り上げ、二人は手を握ったまま学生寮まで歩いて行った。

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