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04.アーレン王国

――――チュン、チュン。

 窓から差し込む光に目が覚める。ぼやけた視界に映りこんだのは、そこは見慣れない天井だった。

 何処だ此処はと、しばし考える。そう、青井勇輝は朝が弱い。

 5分ほど「んー」と唸りながら、意識が覚醒してきて今の現状を思い出す。


 「あ、そうか。俺異世界に飛ばされてたんだっけ」


 昨日の晩寝るときに「朝起きたら自分の部屋に居て、実は夢でしたー」ってオチにならないかなと思っていた。

 しかし現実は早々うまくいかないものである。


 「何とかして元の世界に戻らないとなー」


 滅入る気を奮い立たせて、起き上がる。

 すると、控えめにドアを叩く音がなった後に、ルシアの声が聞こえてくる。


 「ユウキ、起きていますか?」


 「おー、起きているし、ドア空いてるよ」


 ルシアがドアを開けて入ってくるなり、勇輝の格好を見て「ボンッ!」と音が出るようなくらいに顔を赤らめた。

 そう、勇輝は上半身裸だったのだ。慌ててルシアは部屋の外に出る。


 「ごごごごごめんなさい!あの、その、朝食の準備が出来ましたので!」


 ドア越しに言いつつ、ルシアは焦るように行ってしまった。


 「あー、失敗したな」


 勇輝は頭をボリボリと掻きつつ、服を着て部屋を出て行く。

 リビングに顔を出すと、朝食が並んでいるテーブルにお婆さんとルシアが既に席についていた。

 ルシアは真っ赤になった顔を俯けて、頭から湯気を出している。


 「孫に何かしたのかえ?」

 

 お婆さんはコップに注がれた白湯をすすりながら、横目をちらりと向ける。


 「いえ! 何もしてないです!」


 目が怖かったので勇輝は反射的に背筋を伸ばして答えてしまった。

 しかし、上半身を見ただけであんなに真っ赤になるとは。以後気を付けようと思う勇輝であった。


 朝食を食べてる時に、王都の魔法学園までどれくらいの時間でつくのかと勇輝は聞いていく。


 「そういえば学園までどれくらいで着くんだ? 歩きでいくのか?」


 「えっとですね、この村から馬車が出ているのですが、大体一刻(2時間)くらいですね」

 

 2時間、結構長い時間である。


 「まさか毎日ここから通ってるのか? だとしたら大変だな」


 「いいえ違いますよ。私とミリアちゃんは学園の寮に住んでるんです。今実家にいるのは学園が連休だったので、久しぶりに帰ってきてたんです」


 「あ、なるほど。それだったら大変ではないか。じゃー、お婆さんは普段一人で居て寂しいだろう」


 「気遣いはいらんよ。あたしゃシアが元気に巣立って幸せになってくれればそれでいいさね」


 ずずずっと白湯の入ったコップをお婆さんが啜る。いらぬ気遣いだったようだ。


 食事を終え仕度をしてルシアと馬車の乗合所まで歩いて行く。

 乗合所には既に何人かが馬車に乗っていた。馬車は藁とか積むような荷車に馬が2頭つながっていた。

 どうやら定期的に王都までの便が出ているとのこと。日本でいうバスみたいなものだろう。

 揺れとか凄く不安である。馬車酔いとかしないかなと勇輝は思いつつ乗り込もうとすると、ちょうどミリアも馬車に乗ってきた。


 「お二人さん、おっはよー! ハイハイ狭いんだから詰めて詰めてー!」


 それほど狭くないはずなのに、グイグイと押し込んでルシアと密着状態になる。

 「ボンッ!」と音が鳴るほどにルシアの顔がまた赤くなってしまった。


 「ちょっと、ミリアちゃん押さないでよ~」


 「聞こえなーい」


 キャイキャイと騒ぐ二人。 

 仲がいいのは良い事だが、ルシアのふくよか胸が腕にあたっていて困る。いや、むしろ有難うございますか?と勇輝も密着状態に顔を赤らめる。


 (いい香りがするな。っていかんいかん! 何考えてるんだ俺は!)


 顔をブンブンと振る。その横でミリアがニヤニヤしていた。 


 「あー、ユッキーえっちな顔してるー!」


 「!!?」

 

 「お前なー! からかうのもいい加減にしろー!」


 ルシアが顔を真っ赤にして困ってる顔をしている。

 ミリアはミリアで『てへ♪』みたいな顔をしていた。

 そんなこんなで馬車に揺られること2時間弱、王都に着いた。

 勇輝が初めて王都見た感想は、とにかく賑やかで人々の活気がすごいということだった。

 大通りの端々にはいくつもの露店が並んでいて、見たことのないようなものが売られていた。

 そして大通りの先には大きな城が見えた。どうやら城を中心に街が囲うような形になっているらしく、大まかに4つの大通りがある。

 イースト通り ウェスト通り サウス通り ノース通りの4つである。


 「うおー! すごいな! お城なんて初めて見たよ!」

 

 興奮していると、ルシアにクスクスと笑われてしまった。


 「あまり離れないでくださいね。はぐれてしまうと迷子になってしまいますから。魔法学園はこの先の途中で右に曲がったイースト通り先にあります」


 「うっわ、ユッキー田舎者全開だね!」


 「うっさいわ!」


 きょろきょろと街中を見ながら二人の後ろを付いていった。しばらく歩いて行くと、その先に大きな敷地に豪華な校舎がいくつか建っている。

 門らしき所には槍を持った兵士が立っていた。門番だろうか。


 「じゃー、あたし達は授業があるからここまでだね。ユッキー、中に入るには門番さんにお仕事募集の件で来たって言えば事務所棟まで案内してくれるよ!」


 二人は頑張ってねと応援の言葉を言い、校舎の方へ歩いていった。

 勇輝は門番の兵士に、仕事募集の件できたことを伝える。随分と若い兵士だったが、同じくらいの歳だろうか。

 

 「あの、すみません。この学園で仕事の求人があると聞いてきたのですが」


 「ん?ああ、そういえばそんなの出ていたな。こちらについて来てくれ」


 すると二人いる兵士の一人に連れられて、門をくぐった直ぐ右側にある事務所棟へと勇輝は案内された。


 案内されてからしばらくして、勇輝は事務所棟から出てきた。





  

 「はぁ……まさか仕事斡旋所からの推薦書が必要だなんてな。考えて見りゃそうだよな。身元不明の人物をいきなり雇うわけないか。」


 仕事斡旋所とはその名の通り、求人募集の仕事を紹介するところである。国側が運営していて、市民が必要最低限暮らせるように仕事を斡旋してくれるらしい。

 勇輝はトボトボとイースト通りを歩く。しかし、肝心の斡旋所が何処にあるのかわからなかった。


 お腹も減ってきて途方に暮れていると、前方の方で宝石が埋め込まれた杖を持ってる男が鬼の形相で走りさって行くのが見えた。

 

 「邪魔だ! どけどけー!」


 「うわっと、あぶないなー。怪我でもしたらどうするんだ」


 なんだ? と思っていると、その男が去った後に女の子の声が聞こえてきた。


 「誰か、その男を捕まえて! ひったくりよ!お願い!」


 走り去っていった男の後を追う様に女の子も走り過ぎていく。過ぎ去る時、女の子の横顔が泣きそうな顔をしていた。

 それを見た瞬間、勇輝は男目掛けて走り出す。男とは10メートル程あった距離を瞬時に詰め、そしてそのまま男を追い越すと体を転回し男に足払いをかける。

 男は顔から地面にぶつかり、そのまま気絶してしまった。

 勇輝は自身の走るスピードと反射速度にびっくりしている。

 

(うーん、やはりこの世界に来てから身体機能が上がってる気がする。俺の体に何が起きているんだ)


 男が握っていた杖を回収すると、先ほど追いかけていた女の子が息を切らせながら追いついてきた。


 「はぁ、はぁ、……」


 「とりあえず、呼吸を整えたほうがいいよ」


 息を切らせている女の子に杖を渡しながら答える。

 しばらくして落ち着いたのだろう。女の子がこちらに顔を向ける。


 「あ、あの、杖を取り戻して頂きまして有難うございました。この杖は母の形見でして、本当に大切な物なんです」


 お嬢様のような気品な態度でお礼を言ってくる。

 金髪で前髪が長く少しウェーブ掛かった長髪の女の子は、ルシア達と同じ服(胸は控えめ)を着ていた。きっと魔法学園の生徒なのだろう。

 

 「そうか。なら尚更、今度は盗まれないようにしっかり持ってないとな」


 「ホントそうですよね。気を付けます」


 女の子がシュンとする。


 「ああ、それじゃ失礼するよ」


 踵を返し、仕事探さなきゃという重い足取りで歩き出す。


 「あの、待ってください!」


 女の子に呼び止められた。


 「あの、貴方様にお礼をしたいのですが。」


 そういう彼女に勇輝は断りの返事を入れる。


 「いやいや、大したことしてないし。別にいいよ」


 「そうおっしゃらずに、このままではわたくしの気が晴れませんのでお願いします!」


 勇輝はそこまで言われたら断るのも失礼かなと思い、お茶の一杯くらいならいいかと彼女に返事をした。


 「そこまで言うなら」


 彼女はパァァッと笑い、両手を胸のあたりで軽く合わせる。


 「では、わたくしの後に付いて来てくださいませ」


 なんか嬉しそうであった。勇輝はとりあえずその女の子の後を付いていく。



 ちなみに、ひったくり犯は通行人が呼んできた兵士に連行されていった。


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