32.アルビノ戦(8)
突如アルビノの周りに出現した帯状の魔術刻印に勇輝は弾き返され、吹き飛ばされる。
その衝撃は凄まじく、勇輝は建物を何棟も壊しながらようやく停止した。
瓦礫の上を仰向けになった状態で、首を上げアルビノを睨みつける。
「ぐ……なんだよ今の……いつつ……」
怪我がないか自身の体を見つめる。所々服は破けていたが、体には怪我がなかった。
勇輝はアグニの瞳の発現以降、魔力量以外にも体が強化され驚異的な身体能力を得ていた。
「よっと……よし! 体は問題ないな。にしても、何だあれは……」
仰向けにしていた体をバネのように勢いよく立ち上がり、吹き飛ばされてきた先のアルビノを見つめる。
自己再生を始めているアルビノを中心に、帯状の魔術刻印が円環を描き回っていた。
そしてアルビノの周りを回っていた魔術刻印が集約し体に纏わりつく。
突然、アルビノの体に変化が起こり始めた。白かった体表面が赤黒く変色し、勇輝によって吹き飛ばされた部位が驚異的な速度で再生する。
そしてなにより驚いたのが一つだった首が八つに増えていったことだ。その光景は再生を通り越し、変異だった―――。
変異を遂げ完全に復活したアルビノは歓喜の如き咆哮を、人々にとっては絶望の咆哮をあげる。
『ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
八つの首から放たれる咆哮は凄まじい大きさだった。不快を通り越し、声だけで絶望を抱かせる。恐怖に耐えられない者は気絶してしまう程だ。
現にアルビノの周りにいた騎士隊・ハンター達の中にも、何人か気絶してしまった者もいた。
◇
城内に避難していたルシア達もその咆哮に怯えていた。グレンは何もできない歯がゆさに歯ぎしりをたて、ミリアは恐怖でジョディの腕の中でうずくまっている。
ルシアは震えながら勇輝達が戦っているであろう方向へと視線を向け、呟く。
「ユウキ………」
ルシアは胸の前に両手を合わせ、ただ祈るばかりだった。
◇
アルビノの八つの首が不気味に蠢く。
「おいおいおいおい、なんだありゃ……。唯でさえ気色悪いもんが、余計に気色悪くなってるじゃねーか」
勇輝は咆哮をあげているアルビノを見つめる。
「……まぁ、どんなに変異してもやることは変わりないか……。ああ、そうだ……。ルシアに必ず守るって約束しちまったからなぁ……」
瞼を閉じ、腰を低くし足元に力を込め意識を集中する。
静かにひと呼吸し、閉じていた瞼を一気に見開く―――。
「惚れた女を守れないようじゃ、漢じゃねーよなぁ!!!!!!」
勇輝は哮えると足元に溜め込んだ力を爆発させ、一気に駆け出す。
蹴り込んだ足元からは衝撃波が生まれ、地面をえぐっていく。
凄まじいスピードで一気にアルビノの所まで来ると跳躍し、暴風が宿るガントレットを振りかざす。
それに気づいたアルビノは無数の触手を体から伸ばし、勇輝の脚に巻き付きつける。
「なぁ!? 触手!?」
そしてそのまま地面へと勇輝を叩きつけた。
「がはっ!!」
直ぐ様、勇輝は脚に巻き付いている触手を引きちぎり、体をスピンさせ立ち上がる。
勇輝の動きが止まった隙を見逃さず、アルビノは八つの首で襲いかかる。
その光景を見ていたフレアは叫ぶ。
「―――アオイ!! 避けろぉ!!!」
アルビノが勇輝を喰いちぎろうと迫る刹那――――。
「――創造:ティマイオス・クリティアス」
勇輝の両手に『漆黒』と『純白』の二挺拳銃が現れ、眩いマズルフラッシュと共にアルビノの首を吹き飛ばしていく。
「なぁっ!!!!」
その場にいたフレア達は驚く。突如出現させた武器でアルビノの首を吹き飛ばした威力に。
この世界に銃は存在しない。魔法技術が発達しいるため火薬という技術が存在しない為だ。
二挺拳銃を構えていた姿に、その場の全員が息を飲み見惚れている。
―――大口径自動式拳銃―――
勇輝のイメージで創造された自動式拳銃ティマイオス・クリティアス。銃口は50口径でしかも銃身は14インチのロングバレル。
弾倉に込められている弾は火薬の代わりに魔力が込められている。
装弾数は8発。その『漆黒』と『純白』の二挺拳銃の存在感は周囲を威圧する。
首が吹き飛んだ衝撃でアルビノは後ろへと後退するが、直ぐに自己再生が始まり首が元通りになる。
勇輝は『アグニの瞳』に意識を集中し、魔力を高め起動言語を口にする。
「2重付加魔法:インフェルノ」
右手に嵌められた指輪がより一層輝き、漆黒と純白の二挺拳銃に地獄の炎の力が宿っていく。
それぞれの拳銃から炎が巻き起こり周囲を炎で更に照らす。
勇輝の両手から発せられる膨大な魔力量にアルビノは反応し、体から無数の触手を生やし襲ってきた。
「全弾プレゼントだ! 受け取れぇぇ!」
迫り来る触手もろともアルビノ目掛け、勇輝は弾倉全ての弾を発射する。
二挺の銃口から激しいマズルフラッシュを放ち、連射の反動が勇輝の腕を伝わっていく。
地獄の炎を宿した弾丸が触手を貫き、アルビノへ直撃しその体を盛大に燃やす。
所々穴だらけになった傷口が再生していこうとするが、地獄の炎がそれを許さず再生していく傍から焼き尽くす。
アルビノは苦痛の声をあげ、暴れだし建物を破壊していく。
『ギャアアアアアアアアアアアアアア』
「流石に再生力が高いだけあるな、まだ暴れるか!」
「アオイッ! 魔石だ! 胸の中央にある魔石を破壊しろっ!」
倒壊している建物の瓦礫の側でレンに抱えられているフレアが声を張り上げる。
「……了解! 魔石を破壊すればいいんだな」
勇輝は足元の地面に両手をつき力を込め、鎖をイメージをする。
アルビノの動きを封じる鎖を―――。
『アグニの瞳』が輝き、アルビノを見据える。
「――創造:束縛の鎖」
アルビノの周りの地面から何本もの青白く光る鎖が出現し、アルビノの体に巻き付き動きを封じた。
『ピギャアアアアアアアアアアアアア!』
体に巻き付いた青白い光の鎖を引きちぎろうとアルビノがもがく。
「――創造:破壊の一撃」
勇輝の右腕に無骨な群青色のガントレットが現れる。そして続けて付加魔法を唱えた。
「付加魔法:テンペスト」
ガントレットを装着した拳を地面に打ち付け、暴風の力で上空へと上昇する。更に空気の壁を打ち付けどんどん上昇する。
眼下には束縛の鎖で縛られたアルビノが見える。
「これで……終わりだ!!!!」
勇輝の体に淡い光が生まれる。
青い焔のように揺らめく、淡い光の魔力の輝きが―――。
「――創造:黒刀・一の太刀」
淡い輝きと共に、上空には超巨大な漆黒の刀が出現した。
その刀身だけがバカでかく刃長は優に70メートルを越していて、巨人族が扱うような大きさだ。ただし鍔は無く、柄は勇輝の身長くらいの長さで片手でギリギリ握れるくらいの太さだった。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
黒刀をアルビノの中心目掛けて振り斬る。余りに巨大すぎる黒刀はアルビノ以外にも西側の城壁を超え、王国を囲っている湖までも斬りつけた。衝撃で水底が見える。
『ピギャアアアアアアアアアアアア!!』
アルビノは断末魔をあげる。
真っ二つになったアルビノの中心には二つに分かれた魔石が見え、絶命していた。
再生しては燃やしていた地獄の炎が、アルビノの肉体を完全に燃やし尽くす。
勇輝が地上に降り立ってくると、その凄まじい光景を固唾を飲んで見ていた騎士隊・ハンター達が一斉に歓喜の声をあげるのだった。




