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31.アルビノ戦(7)

 「う、うあああああああ! 助け……ギャッ! グギャ…」


 アルビノは逃げ惑う人々を次々と喰らっている。

 牙で胴を食いちぎり、噛み砕き、血を啜り、咀嚼する。その行為はまるで食事でもしているかのようだ。

 人々はその場から逃げ出そうと必死に走るが、人が多く通りが狭いために思うように進まずアルビノの良い的になっている。

 少しでもアルビノから離れられるよう大通りへと皆逃げ出すが、アルビノもそれを追うように大通りの方へと向かう。


 ゆっくりと追いかけながら喰らい、断末魔を上げる人々の声を楽しむかのように。


 

 ウェスト通りでは王国騎士隊とハンターギルドの冒険者ハンター達がアルビノを待ち構えていた。


 その数100名。王国騎士隊40名、ハンター60名だ。


 それぞれの地区には王国騎士隊の駐在所が有り街の治安を守っている。その為アルビノが出現した地区の駐在所にいた騎士たちが集まってきたのだ。

 またウェスト通りにはハンターギルドがあり、ギルド内に居たハンター達も建物から出てきて戦闘準備を終えていた。


 「おいおいおいおい! 何だあの巨大な魔物は!!」


 「あ、あんなの見たことねぇ……倒せるのかよ……あれ……」


 「バカが! あの化物を倒さねぇとどの道みんな死んじまう! ビビってんじゃねぇ!」


 騎士隊とハンター達の間で動揺の声が上がる。それは当然の反応だ。

 この場にいる全員が30メートル以上も超える魔物を今まで見たことがないのだから。


 「皆の者! 静まれぇぇぇ!」


 突然、怒鳴り声げが響く。騎士達が声の方へと振り向くと、そこにはフレア達がいた。


 「フ、フレア様……? 何故ここに」


 「誰だ? あの嬢ちゃんは……」


 それぞれ各々の反応が返ってくると、フレアは息を吸い込み、声を大きく張り上げる。


 「私の名はアーレン王国第一皇女フレア=ミスク=アーレン。皆の者、誰もがあの化物の恐怖におののく中、よくぞこの場に集まってくれた。

 私は貴殿たちを誇りに思う。あの化物は今、民を喰らいながらこちらに向かってきている……。これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかないのだ! 

 皆にも大切な者がいるはずだ! 親友、恋人、家族……大切な者を守る為に共に剣を取れ!! 我らと共に立ち向かおうぞ!!!」


 フレアは燃え盛る魔導剣を掲げる。


 「そ、そうだ。俺は愛する妻の為に……やってやる!」


 「俺も恋人がいるんだ! あんな化物に殺させはしない!」


 「ああ……、あんな魔物……皆でかかれば大したことないはずだ!」


 皆、己を鼓舞し剣を掲げていく。


 そしてフレアは更に声を張り上げた。 


 「皆の者、よくぞ剣を掲げてくれた!!! 貴殿達と共に戦えることを誇りに思う!

 声を上げよ!! 雄叫びを上げろ! 横にいる戦友の顔を忘れるな! 勇敢に立ち向かうお前達は英雄だ!!」


 「「「「 おおおおおおおおおおおおお!!!! 」」」」


 フレアの声に騎士隊・ハンター達が剣を天に掲げ雄叫びを上げる。


 「ふふ、流石お姉さまです。私も頑張らないと」


 ルミナはフレアの前に出ると杖を掲げ、皆の前で声を上げる。


 「皆様、私はアーレン王国第二皇女ルミナ=メデス=アーレンです。今から皆様に支援魔法をかけます。どうかご武運を」


 ルミナは精神を集中し魔法を唱える。


 「フィジカルブースト!」


 総勢100人もの騎士隊・ハンター達に淡い光りの燐光が現れ身体能力を強化していく。

 魔法を唱えた途端にルミナは倒れそうになりフレアに支えられる。無理もない話である。総勢100人に魔法を掛けた為に一気に魔力切れを起こしたのだ。

 

 「大丈夫かルミナ……。すまないな」


 「い、いえ……これくらいどうとでもないことですわ……」


 ルミナは気丈に振る舞うも、その額にはびっしりと脂汗をかいている。


 フレアはルミナを後ろに下がらせると、代わりにレンが前に出てきた。


 「アーレン王国騎士8番隊序列1位レン=ノース=タジアだ! 皆の者、市街戦になるため2人1ツーマンセルのパーティーを組んでくれ。各組み固まらず散開し、敵を翻弄しながら切りかかれ!」


 「「「「「 応っ!!!! 」」」」」


 「「「「「 はっ!!!! 」」」」」


 騎士隊・ハンター達は其々パーティーを組んでいく。

 編成が終わると同時に巨大なアルビノが建物を破壊しながら大通りに現れた。


 「来るぞ!!! 散開しろ!」


 騎士隊・ハンター達はアルビノを中心に全方位へと散開する。

 ハンター達の中で弓を持っている者は屋根の上に上り、アルビノ目掛けて矢を一斉に放つ。

 矢はアルビノに突き刺さるがビクともしなかった。が、注意を逸らすことはできた。


 その隙をフレアは見逃さなかった。


 「今だ!! 斬りかかれぇ!!」


 「「「「 うおおおおおおおお!! 」」」」


 騎士隊・ハンター達は一斉に走り出し、アルビノの脚に斬りかかる。

 この巨大なアルビノの脚の健を斬りつけ、倒れさせれば一気に畳み込めると踏んだ為だ。


 「はああぁぁぁ!!」


 フレアは燃える魔導剣を上段構えで斬りつけると、斬りつけた傷口が焼け焦げる。


 「でやあああああ!」


 レン、ロードスも氷属性が付加エンチャントされたクレイモアをアルビノの脚へ穿つと、突き付けられた傷口が凍傷で壊死していく。

 他の者達もどんどん脚元を切りつけていき、アルビノが傾き掛け倒れるかと思った瞬間、鼓膜が破れそうな程の咆哮をアルビノが上げる。



 『ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』



 ガラスを爪で引っかいたような不快な音を放たれ、皆耳を押さえ込んだ。


 「ぐあああああああ!!」


 「ぬううううううううう!」   


 「耳がああああああ」


 そしてアルビノは尻尾を振り回すように体を横に360度回転させる。


 「ま、まずい! 皆逃げ――――ッ!!」


 フレアの声が言い切る前にアルビノの尻尾によって、脚元にいた者たちが吹き飛ばされ建物の壁に激突していく。


 「ぐあ!!!!」


 吹き飛ばされた皆は一撃でボロボロになっていた。

 フレア痛感する。支援魔法によって体を強化されたとはいえ、一撃でこの様だ。

 しかもアルビノを斬りつけた箇所が徐々に再生し元通りになっていくのを見て、フレアは歯切りしりをする。


 「ごふっ……クソ……体が動かない……」


 何とか体を動かそうとするがダメージが相当大きく、体が言うことを聞かない。

 アルビノが大きな口を開けたままフレアの方へとかま首をもたげあげ、飲み込もうと襲いかかってくる。

 

 (くっ……ここまでか……)


 もうダメだと諦めた刹那――――。



 「させるかあああぁぁ――――!」


 

 突然、アルビノの首が真横から放たれた拳で弾き飛ばされ、その衝撃で後ろへと倒れこむ。

 フレアは目の前の光景に目を疑った。あの巨大なアルビノを拳一つで弾き飛ばす光景に。


 目の前で背を向けて立つ一人の青年にフレアは見覚えがあった。そう、先ほど少し前に出会った青年――――青井勇輝だった。


 「そ、其方……アオイか……?」


 フレアは勇輝の後ろ姿を見つめていると、右腕が先程までとは違うことに気づく。その右腕には無骨な群青色をしたガントレットがあった。


 「もう大丈夫だ。あれは俺が倒す……。だから姫さんはそこで休んでいろ」


 フレアは肩ごしに振り向く勇輝の瞳が青く輝く紋章をしていた事に気づくと、息を飲んだ。


 「街をこんなにしてくれやがって……。許さねぇ」


 勇輝は腰を低くし、ガントレットを装着した右腕を左手で押さえながら前面に突き出す。



 「付加魔法エンチャント:テンペスト(暴風)」



 左手に嵌められた指輪テンペストが緑色に輝き、群青色のガントレットに暴風が巻き起こり風属性の力が宿る。


 勇輝は右腕の拳で地面を殴ると、拳から放たれた暴風で一気に上空へと飛んだ。

 上空へと飛ぶと同時にアルビノも体を起こし、かま首をもたげ喰らいつかんと襲う。


 勇輝はアルビノとは逆の方向へ、テンペストの宿ったガントレットでを殴りつけると、その衝撃でアルビノの方へと急降下しながら右腕を突き出し、アルビノの首を吹き飛ばす。


 

 ◇



 アルビノの首が吹き飛ぶ光景に騎士隊・ハンター達は呆然としていた。


 「な、なんだあれは……一体……何が起きてる……」


 「わからねぇ……、だが……一つ言えることは、もしかしたらあの化物を倒せるかも知れない奴が現れたってことだ…」


 騎士隊・ハンター達は固唾を飲んでその光景を見ている。自分達が一斉に掛かってもビクともしなかったアルビノが一人の青年に押されているのだ。

 絶望的な状況からの一筋の希望の光りが見え、全員の胸に熱いものが込み上げる。


 「アオイ殿……どうか……頼みます……この国を救ってください……」


 ロードスは傷だらけの体を建物の壁に支えながら、勇輝の戦いを見守っていた。


 

 ◇


 

 吹き飛ばされた首の根元から肉の塊がぶくぶくと盛り上がり凄い勢いでアルビノの首が再生していく。


 「ちぃっ! なんつー再生力だよ!!」


 勇輝は着地と同時に左足を軸とし、右足をスライド回転させ衝撃を逃がし、そしてそのままガントレットの拳を地面に叩きつけ、巻き起こった暴風でアルビノに向けて飛んでいく。

 

 「だったら……再生が追いつけなくなるまで削り取るまでだっ!!!」

 

 勇輝の拳がアルビノの右腕を吹き飛ばし、よろめくアルビノに追撃をかましていく。

 アルビノの肉を吹き飛ばすと同時に、再生が始まるが勇輝はそれを許さない。


 「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 右腕、腹、頭、左手、右足、左足と殴り肉片を削り取っていく。



 ◇



 ハンターギルドの屋根の上、鐘楼のある塔でフードを深く被りマントを羽織った一人の男が勇輝とアルビノの戦いを眺めていた―――――。 


 「ほぉ……中々に面白いものを持っているな……」


 男は次々とアルビノの体を削り取る勇輝の魔道具に感嘆の声を漏らす。


 「だがまぁ、これだけではまだ物足りないだろう? アグニの者よ…余興はまだまだこれからだ。お前の力がどれほどか、俺に見せてみろ……」


 男は深く被ったフードを脱ぐと、その右眼には赤く輝く紋章を宿した瞳があった――――――。


 その紋章は逆十字アンチクロスを描いている。


 「ふふ、我が『アビス』の力……その眼でとくと見るがいい!!!」


 男の右眼がより一層、赤く輝きだすとアルビノの体に異変が起きる。


 突然、アルビノの体を帯状の魔術刻印が覆っていく。


 アルビノを追撃していた勇輝は、突然現れた帯状の魔術刻印に弾き飛ばされ、建物へと激突する。

 刻印はアルビノの体に巻き付き、その体を変異させていく。


 勇輝によって吹き飛ばされた箇所は元に戻り、白かった体表面が赤黒く変色し、その一つだった首が八つに増えていた。


 『ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 更に変異したアルビノは八つの首で絶望の咆哮をあげる。


 「はははは、あーっはっはっはーーーーー!」


 男は歪んだ笑顔で眼下にその光景を見下ろしていた―――。



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