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30.アルビノ戦(6)

 ハンターギルドから出てきた勇輝達はロードスと街中で出会う。


 「おや? アオイ殿達ではないですか!」


 突然声を掛けられ呼ばれた方へ振り向くと、そこにはアーレン王国騎士8番隊のロードスと見知らぬ女性達がいた。


 「あれ、ロードスさん? どうもです。見回りですか?」


 勇輝は軽く会釈すると、ロードスも会釈してきた。


 「ええ、実は護衛の最中でして―――」


 「ロードス、こちらの方々は?」


 ロードスの後ろに居た3人のうちの一人の女性がロードスの声を遮る。


 「はっ! 申し訳ありません! 先日の変異種フォレストベアーの件で、加勢していただいた方々です」


 ロードスは敬礼をする。


 「おお、そうであったか! 此度は我が王国騎士隊に加勢していただき感謝する。イレギュラーな事態だったため騎士隊に犠牲が出てしまったが、民への被害が最小限で済んだ。其方らには本当に感謝する」


 燃える炎のような赤い色で長髪、剣士のような格好した女性であった。その装備は一級品で、並みの剣士ではないことを伺わせる。


 赤い長髪の女性は勇輝の前に来ると、右手を掴んで両手で握ってきた。


 「ええと、あの……」


 「ああ、失礼。自己紹介がまだだったな。私はアーレン王国第一皇女フレア=ミスク=アーレン。

で、こっちはアーレン王国第二皇女ルミナ=メデス=アーレン。私の妹だ」


 「ルミナ=メデス=アーレンと申します。以後お見知りおきを」


 ルミナと名乗った第二皇女はフレアと同じ燃える炎のような赤い髪色でセミロング、魔道士の格好をしていた。

 姉のフレアは明朗快活で、妹のルミナは天真爛漫といった感じだ。

 二人共勇輝と同い年くらいに見えた。


 「そしてこっちが――――」


 「アーレン王国騎士8番隊序列1位レン=ノース=タジアだ。我が隊に加勢していただき誠に感謝する」


 ルシア達は驚いてしまっていた。自己紹介された相手が王族の人間、しかも第一皇女と第二皇女だったからだ。


 「えええ!? な、なんでお姫様たちがこんなところに!?」

 

 ルシアは驚きの余りに素っ頓狂な声を上げる。それもそのはずである。王族の人間なんてそう易々とお目にかかれないからだ。

 しかもその姿は王族らしからぬ格好をしていた。

 第一皇女のフレアは剣士のような格好をしていて、第二皇女のルミナは魔道士の格好だからだ。


 そしてレンと名乗った女性はロードスと同じ鎧を着ていた。落ち着いた物腰でありながら、その雰囲気は威圧さえ感じる。年齢は30歳後半くらいに見えた。


 「うむ、国を導く王家として、民の生活を知るためにこうしてお忍びで視察しているのだ。同じ目線でないと見えてこないことがあるだろう?」


 勇輝達は感心した。アーレン王国は民を第一として考え、生活を豊かにすることに尽力をつくしているが、皇女自ら動くとは。


 「して、其方達の名前を教えてもらってもいいだろうか?」

 

 フレアは屈託のない笑顔を向ける。ジョディが先に我に返り、スカートを摘み上げ頭を下げながら自己紹介をする。


 「これは失礼いたしました。私は―――」


 ジョディを皮切りに、勇輝たちは各々に自己紹介をしていった。 



 

 ◇



 

 「そうか、其方らはこれから食事に行くところだったのだな」


 「ええ、ハンターギルドで換金したお金で皆と食事をしようと。あの、良かったらフレアさん達もご一緒にどうですか? ご迷惑じゃなかったらですけど」 


 「うぇ!? ちょっ、ユウ、おま!」

 

 勇輝はフレア達を食事に誘うと、ルシア達は冷や汗を流した。王族の人間に庶民の食事を誘うなんてありえないと。

 だが勇輝はこの世界の人間ではなくその辺の事情とか無頓着だった。


 「いいのか? ではお言葉に甘えるとしようか。ルミナもいいな?」


 「ええ、私は構いませんお姉さま。折角誘っていただいているわけですし」


 ルミナはニコニコと微笑んでいる。フレアはレンとロードスに目配せをすると、二人は頷いた。


 「私共は構いません」


 「良かった。じゃー、さっそく行きま―――――」


 勇輝は歩き出そうとしたら突然、建物が倒壊するような音と耳を塞ぎたくなるほどの大音量の不快な音が聞こえてきた。


 「ぐああああああああああ!」


 「な、なんだ!! この音は!!」


 「きゃああああああああ!」


 「ぐぅぅぅぅ!!!!」



 それはガラスを爪で引っ掻くような音であった。

 音のした方へ視線を向けると、ありえない光景が見えた。

 ウェスト通りとノース通りの間の区画に、建物を超える大きさの魔物が現れていたのだ。

 体長は30メートルをゆうに超え、その体格はずんぐりむっくりした色白で無数の血管が浮き上がって脈動している。

 顔はミミズの様に伸びていたて、その先には牙が無数に生えた大きな口しか無かった。

 ガラスを引っ掻いたような音はこの魔物の咆哮だったのだ。


 その咆哮はアーレン王国全体に響き渡る――。




 突如として現れた魔物に勇輝たちは言葉を失っていた。

 そして一番に開口したのは王国騎士8番隊序列1位レン=ノース=タジアだった。


 「――――なっ!! バカな!!! アルビノだと!!? しかも何だ! あのでかさは!!」


 「し、知っているのか!? レン!?」


 フレアはアルビノに視線を合わせたままレンに問いただす。


 「え、ええ……。20年前、まだ私が新米だった頃にパレス法国の救援要請で討伐命令を受け出撃したことがあるのです。

 パレス法国の遥か北にあるノーザン山脈に住むと言われている魔物でして、人里に下りては血肉を食らい尽くしていました。

 当時、王国と法国の精鋭部隊合わせて300人で出撃したのですが、生き残ったのは私含めてわずか55名でした……。

 大きさは5メートル程のでしたが、それでも半分以上の兵士と魔道士が死んだのです……」


 レンはアルビノを見上げたまま話す。


 「ちょ、ちょっと! 5メートル級の魔物で精鋭部隊300人が半分以上やられたって洒落にならないじゃない!!! あのアルビノは30メートル以上あるよ!!」


 ミリアは恐怖の余り叫んだ。ルシアは青ざめ、グレンは動揺している。ジョディに至っては苦虫を噛み締めたような顔をしていた。


 「私たちが苦戦した理由は――――」


 アルビノが突如動き出し、大きな口をあけ呆然と放心して眺めていた人々を喰らい始めた。

 大きな口に飲み込み、無数に生えた牙で切り刻み、血肉を啜り、咀嚼する。

 アルビノに襲われ絶叫が響き渡ると、恐怖で放心していた人々は我に返り一斉に逃げだし始めた。

 ウェスト通りには沢山の人がいた為、大きな人の波となって勇輝達を襲う。


 「くっ! 3人とも俺に掴まれ! グレン! 屋根の上に避難するぞ!!」


 勇輝はルシア・ミリア・ジョディを担ぐと、一気に跳躍し建物の屋根の上に避難する。

 フレア達も急いで屋根の上に避難してきた。


 逃げ惑う人々は我先にと走り出す。押し合い、殴り合い、人の波に飲まれ踏み潰される人々を見て、フレアは怒りを覚える。


 「レンッ! ルミナ! ロードス!! 民が避難するまであいつを食い止めるぞ! 戦闘準備!!」


 フレアは腰に帯刀している両手剣を抜く。抜き放たれた刀身には魔術刻印が彫り込まれ、十字型のガード部分には魔石が埋め込ませていた。


 「お姉さま、支援魔法行きます! フィジカルブースト!」


 ルミナは杖を掲げ魔法を唱えると、フレア達4人に淡い光りの燐光が現れ身体能力を強化していく。

 レン、ロードスはクレイモアを抜刀し、背中に背負っていた盾を構える。


 「フレア様、アルビノには『超回復』の特殊能力が有ります。20年前、苦戦した理由はその再生能力の高さです。

 やつを仕留めるなら、体内にある魔石を一撃で破壊しなければ倒せないでしょう……」


 「そうか……。だが、ここで指をくわえて見ているわけにもいかん! 騎士隊と魔道士部隊が到着するまで時間を稼ぐぞ! 付加魔法エンチャント:ソードファイア!」


 フレアの両手剣の魔術刻印が発光し、刀身に炎が巻き起こり真っ赤に燃やす。


 「レン、ロードス! 支援魔法続けていきます! 付加魔法エンチャント:アイスバーン」


 ルミナは更に支援魔法を唱えると、二人の剣に青い燐光が纏う。その刀身から冷気が漂っていた。


 「其方たちは安全なところまで逃げろ。あの化物は我らアーレン王国が全力を持って倒す」


 「おいおい、姫さん達も戦うのかよ!? 無茶だ!」


 グレンが叫ぶ。


 「グレンと言ったか。王家の使命は国を繁栄させ、民を守ることだ。お前たちも大事な民だ。ここから逃げろ……いいな?」


 フレア達はアルビノの方へと駆け出していった――――――。




 ◇




 アルビノが出現してから城の内部では戦闘準備が行われていた。

 走り回る兵士達を指揮していたのはアーレン王国騎士1番隊序列1位ゾルディ=クロス=ロードだ。


 「1番隊から6番隊までは出撃準備! 7番隊から10番隊までは城の防衛と民の避難誘導をしろ! 魔道士部隊は攻撃部隊と支援部隊に別れ隊列を組め!」


 ゾルディは見張り塔から見えるアルビノを見て舌打ちをする。


 「何故王国内にアルビノが出現したのだっ! しかもあの大きさはなんだ! くそっ!! ………20年前の悪夢を思い出す」


 ゾルディは当時アルビノ討伐部隊に参加していた。彼は3番隊に所属していて後方支援に回っていたのだ。

 騎士達が切りつけていっても直ぐ自己再生する様を見て、戦慄を覚えた。長期戦になるにつれて騎士・魔道士達は疲弊し、徐々に数を減らしていった。

 このままでは全滅すると悟った当時のグランドマスターは捨て身の作戦を決行する。魔物の胸部にある魔石破壊、一点集中の特攻命令を下したのだ。

 騎士達は捨て身で胸部を攻撃していく。自己再生が追いつかないくらいに。騎士達の犠牲の元、胸部に魔石が露出しグランドマスターは特攻し剣を突き立てた。

 アルビノは絶命していく最中、道ずれと言わんばかりにグランドマスターの頭を食いちぎり絶命したのだった。



 ゾルディが思案に深けていると突然呼び止められる。


 「グランドマスター! 火急に知らせたいことが!」


 一人の兵士がゾルディの元に駆け寄ってきた。


 「どうした。何があったのだ!」


 「はっ! 現在、アルビノが出現した北西地区にフレア様とルミナ様が視察されているとの報告が!」


 「なにぃ!!!!」


 ゾルディは怒鳴り声を上げた。


 「何故このような時に! ……出撃の準備を急がせろ!!!」


 「はっ!」


 兵士はその場から駆け出していく。


 ゾルディは街を襲うアルビノを睨みつけていた―――。




 ◇




 勇輝達は屋根の上でアルビノが暴れゆく様を呆然と眺めていた。


 「お、おい……。ここは王国の騎士達に任せて俺たちも逃げよう! …な!」


 グレンは青ざめた顔をしていた。


 「グレン、気持ちはわかるわ……。だけど何処に逃げるの? アルビノは目が見えない代わりに、生物から発せられる体温を感知して襲ってくるのよ? あれを倒さない限り、逃げ隠れても無駄だわ。

 それにあれほどの巨大な魔物から逃げられるとは到底思えないし……」


 ジョディの言葉にルシア・ミリア・グレンは絶望する。確かにアルビノは的確に逃げ惑う人々を喰らい続けていた。


 「じゃ、じゃぁ……どうすれば……ユ、ユウキ……」


 ルシアは顔を青ざめ、泣きそうな顔をして勇輝の袖を摘んでいた。


 勇輝は暴れゆくアルビノを見つめ――――   


 「……あれは、俺が倒す」

 

 勇輝の一言にグレンは素っ頓狂な声を上げた。


 「はあぁ!!!!? お前、あれを倒すって本気か!? 流石に無茶だ!」


 「そ、そうよ! ユッキーがいくら強くたって、あんな化物相手じゃ死んじゃうよ!」


 ミリアもグレンに賛同していた。


 「グレン……前の戦闘で言ったそうじゃないか? 惚れた女は守るって。魔導教師から聞いたぞ?」


 グレンは言葉の意味を悟り、戸惑っていた。


 「ユ、ユウ……お前……」


 「……ああ、俺も今ならその気持ちが分かる……惚れた女を守る……上等じゃねぇか」


 勇輝はルシアを見つめ、頭を優しく撫でる。


 「ユ……ユウキ………?」


 ルシアは何を言っているのか解らずキョトンとしていた。



 突然、勇輝はルシアを抱きしめた―――。


 「――――っ!!」

  

 「安心しろ、ルシア……お前は俺が絶対に守る……」


 耳元で囁かれた言葉の意味を悟り、ルシアは顔を真っ赤にしてしまう。


 「~~~~~~っ!!!」


 勇輝はルシアから離れると、屈託のない笑顔をする。


 「……ユウキ………それって……」


 ルシアは顔を真っ赤にして勇輝の顔を見つめていた。


 「ふふ、いつの間にか男の顔をしちゃってまぁ……。アオイ君、……生きて帰って来なさいよ」


 ジョディは静かに笑みを浮かべた。


 「ええ、必ず……」


 勇輝は頷くとアルビノの方へと駆け出していった―――――。





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