29.アルビノ戦(5)
勇輝達がロードスと出会った同時刻――――。
とある酒場の地下一階にガレリア帝国から戻ってきたボルガとヴェルダンディの姿があった。
万が一、依頼相手のヴェルダンディが裏切った時を想定して酒場の周りには、ボルガの仲間達が警戒し張り付いていた。
そして地下の薄暗い一室にはボルガの仲間が3人ほど配置している。腰には剣を帯刀して、張り詰めた空気が発せられていた。
部屋の真ん中にはテーブルが一つあり、ボルガとヴェルダンディは対面して座っている。
テーブルに置かれた2つの赤ワインのグラスが蝋燭の火に照らされて不気味な色を放っているような錯覚を覚えた。
「約束通り、ガレリア帝国から頼まれた物を持ってきた。ちゃんと金は用意してきているだろうな?」
ボルガは布袋から赤黒い色をした正方形の箱を取り出し、テーブルの上に置く。
その箱を見たヴェルダンディは口元を釣り上げ不気味な笑みを浮かべた。
「おおぉ……素晴らしい………金はこの袋に入っている…早くそれをこちらへ…」
「まずは金を確認してからだ。…おい」
ボルガは仲間に金を確認するよう目配せをし、一人の男がヴェルダンディから金を受け取り中身を確認する。
「………確かに白銀貨20枚あります」
ボルガは頷くと、箱をヴェルダンディの前に置く。
ヴェルダンディが箱を受け取ったのを確認すると、ボルガは一つの疑問を口にした。
「なぁ、ヴェルダンディの旦那よ……一つ聞きてぇんだが………帝国で何があった?」
ボルガの一言に静寂が生まれ、蝋燭の光りがゆらゆらと揺れている。
「………」
その一言はその場にいるヴェルダンディ以外の者たちが唯一知りたいことであった。
ボルガは喉が渇いていくのを感じた。帝国での不気味な光景を思い出した為だ。
「……さぁ、帝国で何が起きたのかは知らんし私には関係のないことだ……。
ただ……私はあの方の力に崇拝し、忠誠を誓ったのだ……。ああぁ……思い出しただけでゾクゾクしてくる……」
ボルガはヴェルダンディが何を言っているか分からなかったが、不吉な気配を感じとり思わず椅子ごと後ずさる。
「そ、そうか……。取り敢えず、これで依頼は完了だ」
ボルガは席を立つと、その場から急いで離れようと仲間たちと部屋を出て行く。
薄暗い部屋にはヴェルダンディだけが残った。
ヴェルダンディは箱をテーブルの上に置き、そして腰のホルスターに差していたナイフを抜き取ると、自身の左手の平をゆっくりと一文字に切りつけた。
「ああ……あの方に忠誠を見せる時が来た……あの方の力を今ここに……」
切りつけた手の平から滴り落ちる血を箱の上に垂らす。すると箱が脈動し、突然無数の触手が生えてきてヴェルダンディを襲った。
「……な!!!」
無数に生えた細い触手はヴェルダンディの肉を食い破り、血管の中へと侵入していく。
血管の中を侵入していく触手はヴェルダンディに激しい痛みを与えていった。
「ぐぎゃ!!! があああああああああああ!!! 痛い痛い痛い痛いぃぃぃい!!!」
全身の血管が浮きあがり、ヴェルダンディの体が膨張し皮膚が色白く変色していく。
「ぎあぁぁあぁあ! なんだこれはぁぁぁぁぁぁ!!
私が求めていた力はこんなものじゃない!!! あぁああぁぁあぁ痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイィィィィィ!」
爪は剥がれ髪の毛は抜け落ち、耳は腐り眼球が膨張し破裂する。口は大きく横に裂け、口内には無数の牙が突き破り生えてくる。
顔はミミズの様に伸び、大きな口だけがあった。
「グギャ……ア……ぁ……ぁぁぁぁぁァァアアァァァァア!!!!!」
どんどん体は膨張し地下の酒場の天井を突き破る。
その体は30メートルを越え、アーレン王国に巨大な化物が誕生した―――――。




