23.ミリアの策謀(3)
(なんでこうなった…)
勇輝(黒猫)はルシアの膝の上に乗せられていた。
ミリアのせいで猫の姿に変えられ、挙句の果てにルシアに押しつけ当の本人は逃げる始末。
ホント情けない話である。
「猫さんフサフサで可愛いな~! んーーー♪」
ルシアの部屋に連れてこられ、膝の上でずっと勇輝(黒猫)は撫でられていた。
「にゃー (頭撫でられるのは悪い気しないな)
頭を撫でられるのがこんなにも気持ちがいいものかと、目をトロンとさせていた。
勇輝は撫でられながら部屋の中を見渡す。
(うーん、しかしこうして見ると女の子の部屋に入ったのって生まれて初めてだな)
学生寮の部屋は職員寮の部屋とほぼ同じ大きさである。
ルシアの部屋は綺麗に片付けられており、ベットの上には大量の動物のぬいぐるみが置いてあった。
どうやら可愛い動物が大好きなようだ。
部屋でゆっくりしていると突然ルシアが声を上げる。
「あ、いけない! そろそろお風呂行かないと入浴の時間が終わっちゃう! あわわわわ」
ルシアは立ち上がり、慌てながらタンスからタオルやら下着やらを出し準備をし始めた。
(風呂に行くのか。よし、脱出するならルシアが部屋を出るときしかないな)
学生寮のお風呂は共同で使う大浴場である。
入浴の時間帯は決められており、時間を過ぎてしまうとその日はお風呂に入れなくなってしまう。
なので、ゆっくりしすぎていたルシアは慌てていた。
「にゃー (おーい、ルシア慌てると怪我するぞー)」
案の定、ルシアはタンスの角に足を引っ掛けて転んでしまった。
「きゃ!! いたたたた……。もー最悪」
「なー、に”ゃ!! (そんなに慌てるから―――――ぶっっ!!)」
転んだルシアのスカートが捲れていて、勇輝は吹き出してしまった。
ルシアは自分の部屋だからなのだろう、捲れたスカートを気にする素振りをみせなかったが、勇輝は目のやり場に困りソワソワし始める。
「ん? 猫さん、どうしたの? あ、そうだ! 猫さんも一緒にお風呂に入ろう♪」
ルシアは笑顔で手を叩くと、勇輝(黒猫)を抱き抱えた。
「にゃ、にゃ!? (えっ、ちょっ、一緒に風呂だと!?)
「あ、こら!暴れちゃダメっ! あっ、落ちちゃう落ちちゃう!」
(わー! 風呂は一緒にダメだってー!)
しかし、必死の抵抗も虚しく大浴場へと連れて行かれるのであった。
◇
大浴場に向かう途中、ミリアが前方から歩いてきた。どうやら、入浴を済ませた後のようだった。
「あれ? シア、タオルを抱き抱えてるけど、これからお風呂?」
「うん、猫さんと一緒に入ろうと思って連れてきちゃった♪」
ルシアは抱き抱えていたタオルを見せると、そこには勇輝(黒猫)がタオルに包まれていた。
「にゃー! (ミリアー! 助けてくれー!)」
「ぶーーーーーーー!!」
タオルに包まれた勇輝(黒猫)を見てミリアは吹き出す。
「シ、シア? 今日一日預かってとは言ったけど、流石にお風呂は不味いんじゃないかな? ほ、ほら、猫ちゃんも男の子だし? さ、流石に女風呂にはちょっと…」
「なんで?」
「な、なんでって、その……」
実はその猫は勇輝なんです、とは言えないミリアであった。
「ミリアちゃん、ごめん! 時間なくなっちゃうからもう行くね!」
「え、ちょっと、シア待って―――」
ルシアはそう言うと、勇輝(黒猫)を抱き抱えて大浴場へと向かって行った。
ミリアは呆然とルシアの後ろ姿を眺めていた。
「…まぁ、いっか。大浴場ではあたしが最後だったし。むしろ、シアの気持ちを気づかせる為にユッキー(黒猫)を預けたんだし、仮にお風呂場でユッキーが元の姿に戻ったとしてもこれはこれで……。むふ♪」
ミリアはルシア達が大浴場に入って行くのを確認すると、入口に『本日の入浴時間は終了です』と張り紙を貼り付けた。
「ふふん、正にあたしは恋のキューピット!」
悪戯な笑顔を浮かべながら、ミリアは自分の部屋へと戻っていった。




