22.ミリアの策謀(2)
太陽の日差しが降り注ぎ、穏やかな時間が流れていく―――。
窓を開けた隙間から、爽やかな風が吹き抜け勇輝の頬を撫でる。
校庭からは生徒たちの賑やかな声が聞こえてくる。
そんな午後の時間。とある研究室で一人の教師は溜息を付く。
「……………はぁ」
「あ、あはは……」
「…………………」
ロイドは勇輝を見て、もう一度深く溜息を吐く。
「………はぁぁぁ」
「ご、ごめんなさぃ……」
「…………………」
今度はミリアの方へ顔を向ける。
「ミリア君、あれ程部屋の物には勝手に触るなと忠告したよね?」
「は、はい……。すみません。ユッキー、本当にごめんなさい」
勇輝に謝罪する。ミリアの腕の中に抱かれている彼に対して。
「にゃー」
そう、勇輝は黒猫の姿でミリアに抱かれていたのだ。
ロイドのトンデモ魔道具の一つ『にゃんにゃん翻訳機』
本来は、猫の言葉を翻訳しようというコンセプトで造られた魔道具(猫の人形)だったのだが、どういうわけか翻訳どころか猫自体になってしまう失敗作。
まぁ、猫自体になるため猫の言葉を理解できるようになり、的を外していないが所詮、畜生(チックショー!)である。
「先生、ユッキー元にもどりますか?」
ミリアは不安げにロイドに尋ねる。
「ああ、元の姿にはちゃんと戻る。だが、戻る時間は不明だ。一時間後かもしれないし、明日かもしれない。または10日後とかもありえる」
「えええ!?? わ、わからないんですか!?」
「にゃー! にゃー! にゃー! (じょ、冗談じゃねーぞ! 数時間ならまだしも、10日後とかマズイだろ! ジョ、ジョディさんに殺される!)」
勇輝はガクガクと震えだす。
「せ、先生! ユッキーがもの凄い震えちゃってるよ!」
「と、いうのは冗談で長くても一日、まぁ数時間程で元に戻るよ」
「にゃー! にゃー! (驚かすんじゃねー!)」
ミリアの腕の中で猫パンチを繰り出す。しかしロイドには届かない。
「とりあえず、彼をこのまま一人にするのは気が引けるな。ミリア君、君が責任を持って面倒見てあげなさい」
「え、ええええ! あ、あたしがですか!? 女の子の部屋に男の子を入れるのはちょっと――」
「何か言ったかね?」
ギロリとミリアを睨む。
「いぇ……何でもないです……」
ミリアは黒猫(勇輝)を抱いて研究室から出て行った。
◇
ミリアは研究棟から出てきて、校庭をトボトボと歩いている。
「はぁ、とんだとばっちりだわ」
「にゃー (いやいや、それ俺だから)」
ミリアは抱いていた黒猫(勇輝)を目の高さまで持ち上げる。
「ユッキー、何言ってるかわかんない」
「にゃー! にゃー! (いやいやお前のせいで猫になってるんだから! むしろミリアお前が理解しろ!)」
ミリアに猫パンチを繰り出す。しかし届かない。
「しょうがない。私の部屋に連れて行くわ」
「にゃーにゃー (いやそれはちょっと。流石に女の子の部屋には――)」
学生寮に向かっている途中、ミリアを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ミリアちゃーん! おーい!」
ミリアを呼ぶ声の主はルシアだった。ルシアが走って此方に向かってきていた。
「ミリアちゃん、一緒に―――――はッ!!!!」
「シア?」
ルシアは目を輝かせて、ミリアが抱いている黒猫(勇輝)を見つめていた。
「わー! ミリアちゃん! その猫さんどうしたの!? 凄く可愛いね! さ、触ってもいいかな?」
そう言いながら既に黒猫(勇輝)を撫でていた。
「にゃー (お、おいルシア)」
「やーん、可愛いー! だ、抱っこしてもいいかな?」
「え、ええ……」
ルシアの勢いに押され、ミリアはそのまま黒猫(勇輝)を渡す。
「にゃーん♪ 猫さん猫さん猫さん♪ モフモフ~♪」
「にゃー! にゃー! (うわ、ちょっ胸が! 胸が当たっ!! ああ、頬ずりしちゃ!!)」
黒猫(勇輝)はルシアの成すがままになっていた。
「シア、猫好きだったっけ?」
「うん! 猫さん大好きだよー!」
その時、ミリアの脳内で豆電球が光った。ピコーン!
「シア、ちょっとその猫いい?」
「あっ……‥」
黒猫(勇輝)の首根っこを掴み、ルシアから引っ張り上げ、黒猫の耳元で呟く。
(ユッキー、あんたシアに面倒を見てもらおうと思う)
「にゃ!? (はぁ!?)」
(これはシアの為でもあるのよ。グットラック!)
「にゃー! (おま、何言って――)」
ミリアは黒猫(勇輝)をルシアに渡す。
「その猫はロイド先生に今日一日だけ面倒見てくれって言われてたんだけど、シアにお願いしてもいいかな?」
「え! いいの!? うん、するする!」
ミリアはさりげなくガッツポーズを取る。
「じゃー、お願いね~」
「うん♪」
ミリアは手を振りながらそそくさと学生寮へと行ってしまった。
「にゃー! にゃにゃー!( おいこらミリアー! ああ、ルシアの胸が背中に!)」
「じゃー、猫さん私の部屋にいこっか♪」
「にゃーーーーー! (うああああああああああああ)」
黒猫(勇輝)はルシアに抱っこされながら彼女の部屋へと連れていかれるのだった。




