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21.ミリアの策謀(1)

 勇輝とグレンは事務棟の一室でお説教を受け、やっとこさジョディに解放されたところであった。

 その時間は3時間。

 3時間ずっと立ちっぱなしは正直辛いものである。


 お説教の間、グレンがジョディに名指しで怒られると「ありがとございます!」と訳の分からないことを口走り、その度にジョディに怒られるという負の連鎖が続いていたのだ。


 「はぁー……グレン、お前怒られたというのに何恍惚とした表情浮かべてるんだよ……」


 「いやー、ジョディさんの怒る姿も素敵だな~って思ってな」


 「おかげでこんな時間までお説教食らっちまったじゃねーか!ったく」


 「ユウ、お前も自業自得だぞ? 俺が気絶している間に、セシルお嬢のスカートの中に顔を埋めていたらしいじゃねーか。なんて羨ましい」


 「あれは、事故だ。まぁ、役得ではあったが……」


 「ま、なんにせよセシルお嬢は可愛いし人気があるからな。ユウ、お前後ろから刺されないように気をつけろ」


 グレンがニヤニヤとした顔で勇輝の肩をバンバンと叩く。

 

 「さてと、俺は警備の詰所に戻るわ」


 「ああ、俺も仕事に戻らなとな。この時間帯だと昼食の準備か」


 グレンと別れ、食堂の方へと向かっていく。

 当然、遅れて行ったため使用人の仲間たちからも怒られる羽目になった。



 ◇



 昼食の時間帯、食堂に学生たちが集まり始めた。その中にセシルの姿を見つける。

 勇輝はセシルの元へと歩いていくと向こうも気づいたのであろう、顔を真っ赤にしてる。


 「セ、セシル、その、今朝はすまなかった。許してほしい」


 「い、いえ! そんな、あれは無理やり引っ張ったわたくしが悪かったわけですし、その、気になさらないでくださいませ……」

 

 セシルは左手を頬に添え、視線を横にずらしながら赤面していた。


 「そ、そうか」


 「アオイ様なら、別に嫌じゃ……ありませんし……むしろアオイ様となら…」


 「……へ?」


 ゴニョゴニョとセシルが聞き取れないくらいの声で呟く。

 セシルは顔を「ぼっ!」と更に顔を赤らめる。


 「な、なんでもありませんわ! ええ、そう! ただの独り言です! し、失礼いたします」


 セシルは脱兎の如くその場から離れて、奥の席へと走って行ってしまった。

 勇輝は後ろ頭をポリポリと掻いていると、突然声を掛けられた。


 「やあ、アオイ君。しっかりと働いているかね」


 振り返るとそこにはロイドがいた。


 「ああ、どうもロイドさん。先日は貴重なアイテムを頂き有難うございます」


 ぺこりと頭を下げる。


 「いやいや、片付けを手伝ってくれたお礼だからね。それに使えなきゃ唯の指輪だ。そうそう使える者なんていないが。

 そういえば今朝、魔道具の実験で湖を凍らせたっていう傍迷惑な輩が騒ぎを起こしてたね。物騒な物を作ってくれたものだ。まったく、常識を弁えてもらいたいものだな」


 「…………すみませんそれ俺です」 


 ロイドは一瞬、目が点になる。


 「あははは、君は冗談がうまいな。まさか、その指輪アブソリュートゼロでやったとか言わないよね?」


 「…そのマサカです」


 ロイドは笑顔のまま固まる。


 「…………………」


 「…………………」


 ロイドの笑顔がサーッと真っ青になっていく。


 「ぬぉぉぉぉ、朝の騒動の原因の一端に私の魔道具が関わっていたのかぁぁぁ」


 ロイドは頭を抱えて、縮こまってしまった。


 「ロイドさん、お、落ち着いてください」


 「あ、ああ、いや、すまん。だが、本当に君がその指輪でやったのかね!?」


 「はい。そのことについても謝ろうかと思いまして……やはり、指輪は返したほうがいいですか?」

 

 勇輝は指輪を外そうとすると、ロイドに止められる。


 「い、いや、いい。君にあげた物だからな。しかし、その指輪を使えるとなると君の魔力量はどれくらいなのか興味が沸いてくるな……」


 ロイドは両手を組み、勇輝を見つめ考え込む。『アグニの瞳』のことを教えられればいいのだが、学園長に口外するなと言われているので勇輝は黙っていた。

 

 「なぁ、アオイ君。よかったら君の魔力量を調べさせてもらってもいいかな? その指輪を使える程なら、魔道士として―――」


 「すみませんが、お断りさせて頂きます。今の仕事、気に入ってますので」


 「そ、そうかね? 無理にとは言わんが。つい興奮してしまって……すまんな」


 微妙な会話の空気になっていると、そこへミリアが声をかけてきた。


 「ロイド先生、ユッキーこんちわ! そして食堂の入口で話し込んでると邪魔でっすよー!」


 「おお! すまんな! ついつい話し込んでしまった」


 ロイドは苦笑している。

 

 「そうだ、ミリア君。午後君のクラスの授業で使う教材があるのだが、昼休み中に運ぶのを手伝ってもらえないかね?」


 「ええええ!? なんであたしがー!」


 ミリアは凄く嫌そうな顔をしている。


 「ほう、教師の言うことが聞けないと言うのかね? よろしい、では私の授業では君の成績はEランクにさせてもらおうか」


 「先生それ横暴だよー! ひどいよー!」


 ミリアは地団駄を踏んでいる。ポニーテールが左右に揺れて、ちょっと可愛い。


 「むー、ユッキー手伝って」


 「えー、なんで俺が?他にも仕事あるっつーの」


 「いいじゃん! いいじゃん! 可愛い女の子が頼んでるんだよ! ユッキーそれでも男なの!?」

 

 ミリアは「ムキー!」っとご立腹である。


 「あー、わかったわかった。手伝えばいいんだろ」

 

 勇輝は溜息をつく。その隣でロイドはニコニコとしている。


 「うんうん、仲良きことは美しきかな。では、ついでに授業が終わったら片付けもお願いしよう」


 ロイドはそのまま笑いながら言い残すと食堂の奥へと行ってしまった。

 ミリアは恨めしい目で後ろ姿を眺めていた。


 「ううー、とんだとばっちりだよー」


 「いや、それ俺のセリフだから」


 そしてミリアも肩を落としながら食堂の奥へと歩いて行った。



 ◇



 午後の放課後、授業が終わり勇輝はミリアと共にロイドの研究室に教材を運んでいた。


 「―――っしょっと!」


 重い教材を机の上に置く。


 「これで全部だね。ロイドさん、終わりましたよ」


 部屋の奥からロイドが顔を覗かせてくる。


 「ああ、すまんね。助かったよ。一人だとかなり量があるからね」

 

 「ほんとだよ先生ー! 女の子にこんなの重いの持たせてー! そんなんだから女性にモテないんですよー!」

 

 ロイドから「ぴしり」という音が聞こえた気がした。

 

 「ほほう、ミリア君は余程Eランクが欲しいとみえる」


 「――って、ユッキーが言えって言ってきました!」


 「いやいやいやいや、おかしいだろそれ」


 ミリアは明後日の方を向きながら口笛を吹くような感じに誤魔化している。

 すると何かを見つけたのか、部屋の壁棚に置かれている一つの魔道具を手に取っていた。


 「わー、可愛い! 先生、こんな可愛い動物の人形持ってるんですか! ユッキー見て見て、先生こんなの持ってるよ!」

 

 ミリアは笑いながら勇輝方のへと動物の人形を向ける。


 (……ん? ……げぇ! それは!! 先日ロイドさんが言っていた―――!)


 「ミ、ミリア君! その人形を人に向けてお腹を押しちゃダメだっ!!」

 

 「へっ?」


 時既に遅し。ミリアは抱き抱えるようにして持っていたため、必然的に人形のお腹部分を押してしまっていた。

 

 ペカー!


 「う、うわああぁぁぁああぁぁ!!!」


 その人形の目から放たれる強烈な光りを浴び、勇輝は意識が薄れていくのを感じていった。


 ―――――――。


 ―――――。


 ―――。


 ―。


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