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20.セシルお嬢さま

 朝、学園内ではちょっとした騒ぎになっていた。そう、学園の裏にある湖が凍っていたからだ。

 早朝、学園内を見回りをしていた警備の兵士がいつも通り巡回ルートの湖を通ったことで発覚した。


 当然、教員達は事務棟に集まり職員会議を始めようとしていた。

 教員達の話の内容は、使用人たちの朝礼前にたまたま聞こえ、大事になっていることに焦り勇輝は急いで学園長室に向う。


 学園長室の扉の前まで来ると、勇輝は深呼吸をする。


 「すぅ……はぁ……よし……」


 重厚な扉を2回ノックをする。


 「早朝から失礼します。ダリル学園長、至急お話したいことがありまして」

 

 暫く待つと、扉の奥から学園長の「入りたまえ」という声が聞こえてきて、勇輝は扉を開け一礼してから中に入る。


 「こんな早朝からどうしたのだね」


 「はい、ダリル学園長に謝罪をしにきました。

 先日、目立った行動はするなと注意を受けたばかりなのに、早速やってしまいまして、今朝騒がられている湖が凍っている件は私が原因です」


 「訳を聞こうか」


 「はい、実は先日の夜魔法を使えるか湖で試してみたのです。そうしたら湖が凍ってしまって」


 勇輝はロイドに貰った指輪の件は黙っていた。ロイドに貰った指輪を試したら湖が凍ってしまったと言った場合、ロイドにも迷惑がかかるからだ。

 自分自身で責任を取らなければならないと勇輝は思ったのだ。椅子に座っている学園長に深々と頭を下げる。


 「誠に申し訳ありませんでした」


 学園長は椅子に深々と背をもたれる。そして勇輝の目を見つめる。


 「学園でいらぬ騒ぎを起こしたのは問題だ。だがまあ、直ぐに謝罪の報告に来たことに対して多少目を瞑ろう。

 ただし、今月の給金は減額させてもらうよ。規律を守るためにはね」


 「はい、すみませんでした」


 「では、教職員達に連絡をしなくてはな。アオイ、セバスを呼んできてくれ」


 勇輝は学園長室を出ると、急いで執事であるセバスを呼びにいったのだった。当然、セバスとその場にいたジョディにはこっ酷く怒られた。

 教員たちには「魔道具の実験だった」ということで話は落ち着いた。


 

 ◇


 

 朝食を済ませ授業が始めるまでの間、湖に結構な数の学生たちが集まっていた。

 学生たちの他にも、警備の兵士が何人かチラホラ見える。その中に見しいった顔ぶれがいた。

 ルシア、セシル、ミリア、グレン達だった。


 「よ、おはよう」


 「あ、ユウキおはようございます」


 「おはようございます。アオイ様」


 「おっはー!」


 「うーっすユウ!」


 皆それぞれ挨拶を交わす。ミリアがはしゃいだ声で凍った湖を指差す。

 

 「ね! ね! これすっごいよね! 湖が完全に凍っちゃってるよ!」


 「本当ですわね。湖の表面だけかと思いましたけど、これは完全に水の底まで凍っていますわね」


 「先生たちは魔道具の実験結果だって言ってたけど、それにしてもこんな威力の魔道具が本当にあるとしたら、凄いですね」

 

 どうやら教師達はルシア達、学生徒に湖が凍った原因を説明したらしい。

 本当はロイドに迷惑を掛けないよう学園長に嘘の報告をしたのだが、その嘘が他の教師達を誤魔化す為の嘘に塗代わり、真実に変わっていた。

 まぁ、結果オーライなのだろうかと勇輝は思う。


 「そうですわね。これ程までの威力の魔法なんて、想像しただけで震えがきますわ」


 「こんな威力だと相当な魔力量のポテンシャルがないとダメなはずだから、案外ユッキーが原因だったりして」

 

 皆が「それはないでしょー」と笑っていた。


 「すまん、これやったの俺」


 「ってお前かよっっ!!」

 

 隣にいたグレンに鋭いツッコミを入れられた。中々に手のスナップが効いている。


 「え? え? これ、ユウキがやったの……?」


 「ア、アオイ様が………?」


 「……(口をあんぐり)」


 「お前、どんどん規格外になっていくな……」


 4人ともポカーンとした顔をしていた。


 「ああ、でも他の皆には内緒にしていてくれよ? 今朝学園長とセバス様、そしてジョディさんに怒られたばかりなんだ」


 「なに!? …ユウ、お前! ジョディさんに叱咤されたのか!! お前……お前……羨ましすぎるぞコンチキショー! 俺もジョディさんに叱られTEEEEE! ジョディさーーん!!」


 グレンに胸ぐらを掴まれ、燕尾服が伸びる。そしてガクガクと勇輝を揺らす。

 

 (うあー、お前その変態思考はまずいだろ。そんなこと言ってると、ああやっぱり――)


 女性陣3人はグレンの発言にドン引きしていた。


 「ま、まぁまぁ、グレンっちも落ち着いて」

 

 ミリアは汚い物を触るかの如く、グレンの軽装備を摘み引き剥がすような動作をする。

 すると、グレンは勇輝から離れた。


 「ミリアちゃん、その汚い物を扱うような仕草……グレンおにーさんちょっと興奮しちゃう!」


 「やめんかっ! 変態!」


 バシッ! 突如現れたジョディのハイキックがグレンに顔面に炸裂する。

 グレンは気絶してしまった。


 「うわーん! ジョディねーさあああん! 怖かったよぉぉ!」


 「よしよし、ミリア大丈夫だった?」


 ミリアがジョディに抱きつく。前回の課外学習の時以来、仲良くなったようだった。


 「ジョディさん、おはようございます」


 「おはよう、ジョディ」


 ルシアとセシルが挨拶をする。

 ジョディが現れたのは、自分の名前を呼ぶ声が聞こえたから、此方に来てみればグレンがミリアを襲うように見えた為、蹴りつけたらしい。

 

 「アオイ君、また騒ぎを起こしたら唯じゃすまないからね?」


 ギロリと鋭い視線を勇輝に向ける。勇輝はジョディに「は! 問題ありません軍曹殿!」とビシッっと敬礼する。


 ルシアはクスクスと笑っていた。


 「ね! ね! 凍った湖の上を歩いてみようよ!」


 「あ、危ないよミリアちゃん! きゃ! ……あわわわわ」


 そう言いながらミリアはルシアの手を取り、凍った湖の上を滑って行く。

 ルシアはミリアに手を引っ張られアワアワしている。ひらひら揺れるスカートの中身が見えそうだった。


 「アオイ様? …何を見ていますの?」


 「い、いや! 何も?」

 

 セシルは笑顔のまま、こめかみに青筋を立てていた。

 ミリア達が氷の上を滑り出すと、他の学生たちも真似し始めて滑り出していた。


 「皆さん、楽しそうですわね。さ、アオイ様! わたくし達も参りましょう」


 「うわ、急に引っ張るなってセシル!」


 「うふふ、ほらほらアオイ様ー♪」


 「おわっ!」 


 セシルは意地悪な笑みを浮かべ、勇輝の手を取り滑り出す。

 勇輝は突然のことでバランスを崩し、仰向けに倒れてしまう。その際、セシルの手を握ったまま―――。


 「きゃっ!」


 ドシーン!


 勇輝は後頭部と顔面に強い衝撃を受けた。しかし、顔面の衝撃は柔らかいものだった。そして顔を柔らかいもので挟まれる。


 (いつつつ……なんだ視界が急に暗くなったぞ。ん? なんだこの柔らかい物は?それに甘酸っぱい香りが……)


 勇輝は呼吸をしようと顔をモゴモゴ動かすと、甘い吐息が聞こえてきた。


 「きゃ! ア、アオイ様……! ちょ、ちょっと顔を……ぁ……動かさないで……ぁ…あん……そんなところを……」

   

 (ま、まさか……!)


 そう、仰向けに倒れた勇輝の顔の上に、一緒に倒れたセシルのお尻が勇輝の顔面にあったのだ。視界が暗いのはスカートが覆っていた為だった。

 勇輝は急いで脱出しようともがくが、セシルが振動で悶えて太ももで顔を挟んでしまう為、中々抜け出せないでいた。


 「ぃ、いや……アオイ様……そ、そんな激しく……あんっ!」


 「やめんかっ! 変態!」


 ドゴッ! ジョディの踵落としが勇輝の鳩尾に炸裂する。

 蹴りの衝撃で体がくの字に曲がり、セシルは勇輝の顔から弾かれてた。

 

 「うおぉぉ………」


 勇輝はあまりの激痛で悶える。


 「アオイ君、騒ぎを起こしたら唯じゃすまないって言ったばかりよね?」


 ジョディは笑顔のまま、こめかみに青筋を立てていた。

 勇輝はガバッっと立ち上がる。


 「すみません! 軍曹殿!」


 「まったく、まだお説教が足りないようね」


 「ジョ、ジョディさん!? ちょっ、ちょーーうわーーーーーー!」


 ジョディは勇輝とグレンの首根っこを掴むと、ズルズルと事務棟の方へと引きずってく。


 セシルは頬を蒸気させながら、切なそうに勇輝の姿を眺めた後、1時限目の授業を受けずにそそくさと部屋へと戻っていった。

 そして2時限目の授業にはスッキリとした顔のセシルがいたという。

 

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