15.騎士隊
王都へ向かう途中、前方の方から鎧を着た集団が此方に向かってきた。
人数的に言うと50~60人くらいだろうか。
先頭には逞しい体格をした白馬に乗り、豪華な金色の鎧を着ている白髪の男がいる。
そしてその横、左右にはこれまた立派な鎧をきた騎士が馬に乗っている。
此方に気づいたのであろう、進軍を止め先頭にいた白髪の男が此方に近づいてくる。
「ロードス! ロードスではないか! 生きていたか! む、左腕を骨折しているのか?」
ロードスは金色の鎧を着た男の前に膝まづき、そして頭を垂れる。
「は! グランドマスター、此度の件は申し訳ありませんでした。私の判断ミスで部下を9人犠牲にしてしまいました」
「ふむ、犠牲になった者たち皆、頑張ってくれたのであろう。忘れるな、共に戦ってくれた者達のことを」
「はッ!」
そしてグランドマスターことゾルディはロードスの後ろにいる学生達を見つめる。
「後ろにいるのは魔法学園の者たちか。して、変異種のフォレストベアーはどうなった?」
ロードスはゾルディに簡単に経緯を話す。そして魔法学園の使用人である勇輝がフォレストベアーを倒したことを説明した。
そして、勇輝が持つ力『アグニの瞳』についても話す。
「なに? それは真なのか? 使用人がそのような力を? ははは、ロードスお前魔物との戦いで疲れているのではないのか?」
そんなことは有り得ないと、ゾルディの後ろにいた騎士達も「そんな馬鹿な」という失笑する笑いが起こる。
黙って聞いていたルシアとセシルが我慢できないとばかりに前に出てくる。他の生徒達はグランドマスターの迫力に萎縮してしまって黙り込んでいる。
「その話は本当です。ユウキがあのフォレストベアーを倒したんです! 信じてください!」
「ええ、ルシアさんの言うとおりですわ。ブレア魔法学園ダリル=アーク=ブレアの娘であるセシル=アーク=ブレアの名に誓って申し上げますわ」
ゾルディは顔を渋くする。魔法学園学園長ことダリルの一人娘が、進言したことにだ。
将来魔法学園を継ぐであろうこの娘の機嫌を拗らせ、王国の重要機関の一つである魔法学園とは軋轢を生みたくないと考えたのだ。
「しかしだなお嬢さん方、使用人はそこの男のことなのだろうがどう見ても武器も杖も持たず、まして『アグニの瞳』なぞ。
両眼共に黒眼ではないか。実はそこの魔道士二人と兵士、ロードスが魔物を倒したのではないのかね?」
「ですから、ユウ―――モガモガ!――――ンンフゥ!?」
「まぁまぁ、使用人である俺が魔物を倒せる訳ないですよ。そこの騎士様と魔道士様が倒したんですよ。ね、皆?」
あまり自分のことで騒ぎになるのを良しと思わない勇輝はルシアの背後に周り、抱きしめるように口を押さえる。
その際、勇輝本人は気づいていないが、その体に回した手はルシアの胸を触っていた。
ルシアは突然口を塞がれたことにもそうだが、胸を触られたことに思考回路がショートしてしまった。
顔を真っ赤にして「へにゃり」と力が抜けてしまった。殿方に大事な所を触れられてしまったからだ。
そんなルシアの変わりように気づいたセシルは怒りを顕にする。
「ア、アオイ様!何処を触っておられるのですか!!」
勇輝は「ん?」とルシアの方へと視線を動かすと、へにゃりと力が抜けた状態で顔をゆでダコのように真っ赤にしている。そして自分の手がルシアの胸を掴んでいたことにきづく。
「うぁぁぁ! すまん! ルシア! ワザとじゃないんだ!」
勇輝はその場から飛び退く。ルシアはその場にぺたんと座り込んで胸に手を当て、顔を真っ赤にして「ぁ、あう……」と俯いている。
そしてセシルも頭のネジが一本飛んでいってしまったかの如く、両手を自分の胸に添え突き出すポーズを取る。
「アオイ様! ルシアさんの胸を揉むくらいなら、わたくしのを揉んでくださいまし!」
ローブの中から見える白いブラウスが、二つの小さな山をはっきりと誇張させる。勇輝は顔を真っ赤にし慌てふためく。
「ちょ、おま、何言って―――」
「ウォッッッホン!!!!」
見るに見かねたゾルディが咳払いをし、甘い空間を霧散させた。
皆の視線が凄くイタイ……。
「とにかく、君たちを王都まで送ろう。怪我の手当てもしなくてはな。ヴェルダンディ! お前の隊はロードス達を王都まで護衛しろ。それとポーションも渡しておけ。儂と他の隊は変異種の魔物の死体を確認しに行くぞ」
「「「 はっ!!! 」」」
騎士達は一斉に敬礼し、ゾルディの後を追い進軍していく。
その場に残った騎士は1番隊・序列5位のヴェルダンディと分隊であった。
かなりのイケメンの騎士が挨拶をしてくる。
この世界の住人は美男美女の割合が多いなと思う勇輝であった。
「私は騎士1番隊・序列5位のヴェルダンディ=ダン=ダスクと申します。ではお嬢様方、王都まで護衛させていただきます」
見とれてしまうような優雅な一礼をし、そして甘い笑顔を見せる。一部の女生徒はキャーキャー言ってる。
「男共は勝手についてきてくがいい」
ヴェルダンディは男に対しては吐き捨てるようにあからさまな態度をする。
(うあー、男は嫌いだ的な露骨な態度だな)
男子生徒は女子にキャーキャー言われてるのが面白くないのだろう。ヴェルダンディに対して呪いの呪詛を吐いている。
彼らの背中に暗黒の空間が生まれているように見えた。今ここに失われた属性の一つが具現化し――――ようとはしなかった。
グレンがユウに耳打ちをする。
「ユウ、お前も呪われないように気をつけろよ~?」
ニヤニヤと楽しそうに笑っていた。
「アホか!」
そんなグレンは勇輝から離れるとロードスに向かって話しかけていた。
「ところでロードスの旦那、王国騎士隊ってのは変わり者が多いんすか?」
ヴェルダンディに後ろ指を差しながら訪ねている。
(バレたら死ぬぞお前……。というかお前も十分変わり者だ。相変わらず怖いもの知らずだな)
「はは、私からはなんとも言えんな。君が隊に入隊できれば分かることだよ」
ロードスは苦笑いをしていた。グレンは「デスヨネー」とフレンドリィに話している。
(グレン、お前ホント無礼が過ぎると斬られるぞ……)
そんなグレンに心の中でツッコミを入れつつ、王都へと向かうのであった。
◇
ゾルディ達は戦闘があったであろう現場に到着した。
そしてその現場に転がったフォレストベアーの死骸を見て、声を失う。
残っていた下半身から、フォレストベアーの体長の大きさが伺える。もし、それが生きていて戦闘になれば騎士1分隊だけでは適わないだろう。
だが、騎士2分隊・魔道士1分隊が加われば倒せる範囲だ。
しかし、ゾルディが驚いたのはフォレストベアーの大きさ云々ではない。その殺害の仕方だ。
その死骸の上半身が爆散していた。最初は爆炎系統の魔法かと思ったが、飛び散っている肉片はどれも焼けてはいなかった。しかしそれは内部からの爆発と言っていいだろう。
内部から爆発させる魔法なんて聞いたこともない。しかもこれ程までの巨体を、だ。
ゾルディはロードスの言葉を思い出す―――。
「『アグニの瞳』……本当の話だったか……」
近年、赤い目の宿す魔物が増え被害が増大している。それと共に現れた『アグニの瞳』を宿すという青年。
ゾルディはこの世界に異変が起きているのではと考えるのであった。




