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13.魔物討伐(5)

 勇輝は獣の咆哮が聞こえた方へと駆け出していた。

 パーティには魔道教師と兵士二人が随伴しているが、それでも嫌な予感がするのだ。


 セシル達が後ろから追いかけてきていたが、身体機能が上がっている勇輝の速度には追いつかず、距離があっという間に広がっていく。

 

 「はぁ、はぁ、何だあの従者は! 速すぎる! セシル戻りなさい! 危険だ! 学生である君を危険な所へは行かさん! セシル!」


 セシルは勇輝を追いかけ、魔導教師達はセシルを追いかけている構図になっていた。


 「アオイ様! 一人では危険です! アオイ様ー!」


 勇輝はセシルの静止の声に耳を傾けず、ただひたすらにルシア達がいるであろう方向へと駆ける。

 暫く走っていると、視界の先に大きな魔物が人をなぎ払い、吹き飛ばすところが見えた。


 それはグレン達だった。一人は重装備を着た騎士もいた。魔物に薙ぎ払われ、向かっていった3人と近くにいた魔道教師も巻き込まれ、吹き飛ばされる。

 グレン達は相当のダメージを負ったのだろう、立ち上がれずに地に伏していた。

 

 そしてその魔物は近くにいた白銀色の髪をした女の子に狙いを定め、近づいていく。

 その女の子はルシアだった。ルシアはぺたりと地面に座り込んでしまっていた。魔物はルシアを切り裂くべく、右腕を振り上げる。


 「……ルシアっ!!!!」


 瞬間、勇輝の左眼が熱くなり全身に力が漲る。

 あの時、ルシアを森で助けた時と同じ感覚だった。

 魔物の動きがスローモーションに見える。

 脚に力を込め、地面を蹴り上げる。蹴り上げられた地面は捲り上がり、衝撃波となって後ろへと吹き飛ばされていく。 

 風の壁が勇輝の体を襲う。


 「ルシアァァァァ!!」


 今まさに振り下ろさんとする右腕がゆっくりとルシアへと吸い込まれようとしていた。

 さらに地面を力を込め蹴り上げ、魔物へと飛び、拳を握り締めた右腕の肘を曲げ、振り下ろされた魔物の腕を受けきる。


 ズゥゥン!


 勇輝はギリギリで間に合ったことに安堵する。

 目を閉じて、恐怖に体を震わせているルシアに声を掛ける。


 「大丈夫か? 待たせて悪かったな、ルシア」


 勇輝の声に気づいたルシアはその姿を見たとたん、ポロポロと涙を流しながら勇輝の名を呼ぶ。


 「ユ……ユウキ……ユウ……ユウキーー!」


 ルシアは勇輝の名前を何度も呼んでいた。


 「待っていろ、今この馬鹿でかい熊を……ぶっ潰す!」


 勇輝は魔物をルシアから遠ざける為に、魔物の右腕を掴み背負投げのように遠くの方へと投げ飛ばす。


 「うらああぁぁぁあ!」


 フォレストベアーは十数メートル飛ばされ大きな体が地面に激突すると地響きが響いてきた。

 結構な高さに投げ飛ばされたにも関わらず、さほどダメージは負っているようには見えなかった。

 逆に怒りを顕に赤い眼を光らせ、咆哮する。

 

 ◇

  

 グレン達、そしてルシアのパーティーの生徒は驚愕していた。

 5メートルを超えるフォレストベアーの一撃を片腕で防ぎ、尚且つあの巨体を投げ飛ばしたのである。


 「な、なんだあの従者!! フォレストベアーの一撃を受け切りやがった!」


 「うちの学園の従者よね……あんな人いたの?凄い……」


 「お、おい……あの従者の左眼……青く輝いているぞ」


 ミリアが自身の視力を上げる千里眼系の魔法を掛け、勇輝の顔を見てさらに驚愕の声を上げる。


 「えっ!!! うそ!!」


 「おい、どうした!?」


 「あの瞳、炎を象った紋章している……え、まさか、アグニの瞳!?」


 「「「「 ……なっ!!!! 」」」」


 その場にいた全員が驚く。それもそのはずである。『アグニの瞳』はお伽話である。そんな空想上のお伽話の力があるはずがない。

 しかし、実際に「それ」は目の前でフォレストベアーを投げ飛ばした青年の瞳に宿していた。

 皆それぞれこれは夢なのではと思いたくなるほどである。

 

 「ユウ……お前一体、何者なんだよ……」


 グレンは勇輝の姿を見て呟いた。


 ◇


 投げ飛ばしたフォレストベアーに向けて勇輝は突進する。

 起き上がったフォレストベアーは向かってくる勇輝に気づき、右腕を振り払う。

 しかし、アグニの瞳を開眼している状態の勇輝にとって、それは遅い一撃であった。 

 上半身を屈めその一撃を避けると、懐に入りフォレストベアーの顎目掛けて、拳を握った右腕を振り上げる。

 

 「うらぁ!」 


 ドウゥンっ!!!


 顎を打ち抜く衝撃波が脳を襲う。後ろへと倒れ浮き上がったフォレストベアーをさらに追撃する。

 勇輝は垂直に飛び上がり、廻し蹴りをかます。肋骨を何本か折る手応えを得る。


 「……ふんっ!!!」

 ドゴォッ!! ゴォォォオン!!

 

 フォレストベアーは吹き飛ばされ、叩きつけられた衝撃で地面が窪んでいた。

 肋骨を折られ、口からボタボタと血を吐きながら獣は起き上がり、人間を殺すと言わんばかりの赤い瞳をこちらに向けていた。


 『グルルルルゥ…』


 それは勇輝の青く輝く瞳に対して、ものすごい憎悪を抱いていた。

 その赤い瞳に睨まれ、勇輝の左眼は熱く脈動するような感覚を覚える。


 「誰も、殺させはしない!!!」



 ドクンッ――――。


 

 全身の力が溢れ、勇気の体に淡い光が生まれる。

 青い焔のように揺らめく、淡い光の輝きが。

 勇輝は右手を握り締め、フォレストベアー目掛けて走り、拳を振り抜く。

 フォレストベアーも爪を剥き出し、勇輝目掛けてそれを突き出す。

 両者の拳と爪が重なり合う。淡い輝きを纏う拳はフォレストベアーの爪を砕き、突き出された腕とぶつかる―――。

 フォレストベアーの腕の内部を衝撃波が襲い体を駆け巡り、上半身をバラバラに後ろへと吹き飛ばした。


 ドッパァァァン!! グチャ、グチャグチャグチャ……ゴトンッ!

 

 肉片の雨を降らせながら、大きな魔石が落ちてきた。

 それはバスケットボールくらいの大きさだった。 

 勇輝はフォレストベアーを倒すと、ルシアの元へと駆け出していく。


 「ルシア、終わったよ。もう大丈夫だ」


 座り込んでいるルシアの目の高さまでしゃがみ、頭を撫でる。

 ルシアは泣きながら勇輝に抱きついた。


 「ユウキ……怖かったよー……ユウキィ!」


 そんなルシアをぎゅっと優しく抱きしめる。 

 ルシアが泣き止むまで、いつまでも―――。


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