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12.魔物討伐(4)

 遡ること1時間前―――。


 ルシアたちのパーティーは魔導教師から課題内容の説明を受け、生徒同士で打ち合わせをしていた。


 「あの、私魔法が上手くないから、魔石集めをやらせてもらっていいかな?」


 チームワーク評価があるということで、魔法が上手くないルシアは皆の足を引っ張らないように魔石回収の役割を引き受けようと志願する。


 「あー、そうだね。ルシアさんには申し訳ないけど、魔石回収をお願いするね」


 一人の男子生徒はルシアの魔法の技量を知っていたので、頷く。


 「ルシアさん、雑用の役でごめんね」


 「ううん、気にしないで。皆の足を引っ張りたくないし」


 ルシアは苦笑していた。本当は皆とともに討伐参加したいのだが、魔法が撃てないため内心悔しさでいっぱいだった。

 ミリアはそんなルシアの心境を知っていたため、なんと声を掛けていいか分からなかった。


 「よし、じゃー始めよう!」


 男子学生が合図をする。

 森の周辺で、ルシア以外の生徒達はスピットラビット攻撃し、倒したら魔石の回収を繰り返す。


 ルシアが魔石を回収している間、生徒達は次の獲物を探すべくルシアとの距離が開く。



 ◇


 

 「あのルシアって子、ずっと魔石回収ばっかりで全然魔法撃ってないわね」


 「あの生徒は魔法が上手く発動しないのですよ。入学してから半年以上経ちますが。

 次の魔法試験に合格しなければ、まず間違いなく退学になるでしょう。魔力は一定以上あるのに発動できないだなんて不憫です」


 ジョディの呟きに、魔導教師が答えてた。


 人は四大元素魔法の「火」「水」「風」「土」のうち自分にあった属性がある。得意な分野は魔法の熟練度は上がり易いが、逆に反属性は熟練度が上がり難い。

 しかし、ルシアに至っては四大元素魔法のどの属性も上手く発動しない。今回の課題授業はルシアにとって苦痛でしかなかった。

 それでも今日まで努力はしてきている。必ず魔法が使えるだろう日を信じて。

 

 「………」


 「どうしたんですか? ジョディさん」


 ジョディはルシアをじっと見つめていた。グレンは不思議そうにジョディに問いかける。


 「いえ、何でもないわ……」


 「そうですか? そうだ、そろそろあの子達に休憩とらせたらどうっすかね」


 「そうね、お茶の用意でも……」


 突然、森の奥から何かが近づいてくる地響きがしてきた。

 最初に見えてきたのは馬に乗った王国の騎士であった。そしてその後ろには、5メートルを超えるフォレストベアーが咆哮を上げて追いかけていた。


 「おい、何だありゃ!? あれはフォレストベアーか!? あんなの見たことねぇ!」


 「あの騎士やばいぞ! 殺される!」


 「まずい! 生徒たちを呼び戻さないと!」


 『グオオオォォオ!』


 咆哮に気づいたルシアたちは、巨大な魔物の姿を見た恐怖のあまり動けなくなっていた。

 魔導教師とグレン、そしてもう一人の兵士は生徒たちの方へと駆けていく。


 「先生さんよ! 魔法でどうにかあのクマ野郎を倒せないか!?」


 「や、やってみよう」


 グレン達は生徒を守る為に前へと立ちはばかる。

 魔導教師は杖を突き出し。精神を集中させる。


 「チェーンファイアー・バースト!」

 

 魔導教師の周りに野球ボールくらいの火球が6個生成され、全弾発射された。

 6個の火球は弧を描きながら、馬に乗る騎士を通り抜けフォレストベアーに全弾命中する。


 ドン! ドン! ドドドドオオォォン!!


 爆発と土煙が起き、フォレストベアーの動きが止まる。その間に馬に乗った騎士はこちらに近づいてきた。


 「ハァ……ハァ……魔道士殿、援護を感謝する。私は王国騎士8番隊序列5位のロードス=ラン=ハワード。突如として現れた魔物を、囮となって村を迂回していたが、馬が疲弊していて殺られるのは時間の問題だった。

 今、私の部下が討伐部隊を呼んできている。その間あの魔物を食い止める、すまんが援護をしてはくれぬか?」


 「おいおいおいおい、あんな化物を食い止めるってのかよ! 死んじまうよ!!」


 一人の兵士が恐怖のあまり叫んでいた。


 「確かに死んじまうかもな……。だが、男ならやらなきゃならない時がある。俺はジョディさんと生徒達を守るぜ!」


 「教師として、生徒たちを守らなければなりません。討伐隊が到着するまでの間なんとか持ちこたえるしかありませんね……」


 グレンはロングソードを抜きラウンドシールドを構え、魔導教師は杖を構える。


 「ちっくしょ! やるしかねーのかよ!」


 もう一人の兵士も震えながらロングソードとラウンドシールドを構える。


 「すまんな、無事生きて帰れたら君たちに、改めて礼をさせてもらう」


 ロートスはクレイモアとカイトシールドを構える。

 フォレストベアーを覆っていた土煙が晴れていく。それは何事もなかったように健在だった。

 ただし、その赤い瞳は怒りに満ちてる。



 『グオオオォォオ!』



 咆吼し突進してくる。

 魔道教師は再び精神を集中する。

 グレン達は魔物に向かって駆け出す。


 「アイスフローズ!!」


 フォレストベアーの下半身が瞬時に凍り、身動きが取れなくなる。

 動けなくなったところを見計らって、グレン達は雄叫びを上げながら走る。


 さらに続けて魔道教師はグレン達に武器強化魔法を掛ける。


 「付加魔法エンチャント・クリムゾンソード」


 杖の先端から赤い稲妻が3本走り、グレン達の剣に炎の力が付加される。

 それは刀身を真っ赤に燃え上がらせていた。


 「うらららららぁぁぁ!」


 「うおおおおおおおお!」


 「くそったれぇぇぇ!!」


 グレン達は一斉に飛び、斬りかかろうとした。


 だが、フォレストベアーは氷を砕き、右払いでグレン達を吹き飛ばす。

 ロードスとグレンは咄嗟にシールドを構えていた。



 ドゴッ!! ベキベキベキ!



 衝撃がシールドを通して体全体に伝わる。


 「ぐ、ぐおおおぉお!」


 「がはっ!」


 シールドは陥没しながら二人の腕を折り、そしてそのまま吹き飛ばし、グレンの直線上にいた魔道教師も巻き込まれ十数メートル飛ばされた。 

 もう一人の兵士は防御が間に合わず、首の骨を折り絶命していた。

 今、ルシア達の近くに守る者はいない。

 

 「やべぇ……。い、一撃でこのザマかよ……」


 グレンは己の無力さを思い知る。とても人間が勝てる相手ではなかった。

 フォレストベアーは、牙をむき出し涎を垂らしながら近くにいるルシアへと顔を向けた。

 


 ◇



 ルシアは目の前の惨劇に恐怖していた。目の前で人が死んだのだ。

 たった一撃で。

 恐怖の「それ」がルシアの方へと顔を向けた。

 

 「いや……」


 ルシアは恐怖で腰が抜ける。なんとか逃げようとするが体が震えて動けない。

 「それ」は音を立てながらルシアの方へと向かってきた。


 あの時、森の中でグレイウルフに襲われ、助けてくれたユウキはここにはいない。

 彼は今、セシルのパーティーにいる。ユウキの腕を抱き寄せ引っ張るセシルの顔が、嬉しそうで羨ましかった。 


 「それ」が目の前で右腕を振り上げる姿が瞳に映る。


 ―――助けてくれた時のユウキの優しい声と笑顔を思い出した。


 そして振り下ろす右腕が視界に入り、ルシアは恐怖のあまり瞼を閉じる。


 「………っ!!」



  ズゥゥン!



 衝撃を受け止める音と共に、優しい声が響く――――。


 「大丈夫か? 待たせて悪かったな、ルシア」


 ルシアは瞼を開き、その姿を見てポロポロと涙を流す。


 フォレストベアーの振り下ろされた右腕を、片腕一本で受け止めている青年がいた。


 ルシアは涙を流しながら、左眼に青く輝く紋章を宿す青年の名を呼ぶ――――。



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