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10.魔物討伐(2)

ブレア魔法学園では一年生の課外授業として魔物を討伐するという授業がある。

 これは実践経験を積むために行われる。

 と言っても、討伐対象はかなり弱い「スピットラビット」と呼ばれる魔物だ。

 この魔物は攻撃をしない限り、滅多に人を襲うことはないが農業を営む農家にとっては天敵である。



 そう、農作物を食い荒らすのだ。なのでハンターギルドにも初級ハンターの討伐依頼として掲示板によく掲示されている。

 王国に属する学園として、生徒の経験を積むことと民の生活の貢献にも立つので一石二鳥というわけである。



 魔法学園一年生のクラスは1クラス30人ほどでなり、計4クラスある。

 課外授業は1クラスを生徒6人パーティで更に分ける。魔導教師1名、兵士2名、従者1名、生徒6名で一つのパーティだ。

 魔道士、兵士は魔物討伐に問題が生じた場合に対処できるように随伴する。従者は生徒のお世話係である。


 勇輝は課外授業が始まる数日前から執事であるセバスに、今回の課外授業に同行するようにと指示を受けていた。


 そして課外授業当日、朝の使用人たちの朝礼で同行する使用人たちに魔道具が渡される。それはトランク型の鞄であった。


 「これは?」

 

 「収納型の魔道具よ。見た目に反して多くの物が入れられるわよ」


 そう説明したのはジョディだった。彼女も今回の課外授業に同行するらしい。


 「へー。便利ですね。どれどれ」


 トランクを開けるとさまざまな物が入っていた。それは小さな状態でだ。


 「うわちっさ! え? これ中に物を入れると小さくなるんですか?」


 「そうよ。取り出すと元の大きさに戻るの。ただし、生きている生物はしまえないわ」


 勇輝はトランクに入っていた水が入った皮袋を取り出す。するとポン! という音と共に元の大きさに戻る。


 「お、面白い……」


 勇輝は目をキラキラ輝かせる。

 

 「ほら、遊んでないで生徒たちが待つ集合場所へと向かうわよ」


 ペシペシと頭を叩き、ジョディは集合場所へと向かっていく。

 勇輝はトランクを閉じ、急いでジョディの後を追いかけていった。

 

 向かう途中でグレンを見かけた。どうやらグレンも課外授業に同行するようだ。


 「よう! グレン、お前も出るのか」


 「ユウもなんだな。なんかピクニック感覚でしかないんだが」


 「そう言うな。これも仕事だからな」


 「こら! 二人共、気を抜かない! 遊びじゃないんだからね」


 先に行っていたジョディがいつの間にか居て、勇輝とグレンの頭をペシペシと叩く。


 「はい! ジョディさん! 不肖グレン、この命に変えてもジョディさんと生徒を守るつもりです!」


 (うあー、切り替え早ぇー)


 直立不動で敬礼するグレン。ジョディは「うんうん、全力で生徒を守ってね」と自分のことはスルーして頷いてる。

 そんな二人のやり取りを見ていると、グレンの恋は実らないんじゃないかと思ってしまう。


 「ところで二人は何処のパーティなの?」


 「んっと、No.1グループのパーティですね」


 「俺はNo.3グループのパーティっすね!」


 「そう、私もNo.3グループだからグレンと同じね」


 そうジョディが言った瞬間、グレンは「神よ! マジカ!」と両手を握り合わせながら叫んでいた。

 グレンをほっときつつ、集合場所へと向かった。

 

 

 ◇



 集合場所ではたくさんの生徒でごった返していた。

 その中で白銀色の髪の毛の女の子と栗毛色のポニーテールの女の子、ルシアとミリアを見つける。


 「よ、ルシアにミリア。おはよう」


 「あ、ユウキ! おはようございます」


 「おっはー! ユッキー」


 ルシアはペコリとお辞儀し、ミリアは右手を大きくブンブン振っている。ミリアのそばにいた生徒は迷惑そうにしていた。


 「二人は何処のパーティなんだい?」


 「シアとあたしは同じグループでNo.3だよー!」


 「ユウキは何処のパーティなのですか?」


 「俺は……」


 ルシアに聞かれ答えようとすると、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


 「アオイ様! おはようございます! それとルシアさんとミリアさんもおはようございます」


 セシルだった。両手には母の形見だという宝玉付きの杖が握られている。


 それぞれ「おはよう」と返す。


 「あの、アオイ様も今回の課外授業に同行されるのですよね?ど、何処のパーティなのですか?」


 「ん?ああ、俺はNo.1グループの……うわっ!」


 突然、セシルが抱きついてきた。




 「「「「 な”っ!!!! 」」」」




 セシルは抱きついたまま、勇輝の顔を見上げる。


 「本当ですか! やった、わたくしもNo.1グループのパーティなんです!」


 ルシアは目が点になっていて、ミリアに関しては口をあんぐりと開けている。

 周りの生徒もセシルの態度に驚いていた。女子生徒に関しては「なになに? セシルさんあの従者と付き合ってるの?」とヒソヒソ話を始め、男子生徒に至っては「コロス……あの従者マジコロス」と露骨に殺意を出していた。


 「セ、セシル……さん? あの、ちょっ、うわっ!!」


 セシルは強引に勇輝の腕を引っ張り、その場から連れ出そうとする。


 「さ、アオイ様。他の班員と合流致しましょう。ではルシアさんとミリアさん、失礼します」


 そしてセシルは勇輝をグイグイと引っ張り去って行った。


 「シ、シア……?」


 ミリアは恐る恐るルシアの方へと顔を向けると、ワナワナと震えるルシアの姿がそこにあった。


 それを遠巻きで見ていたジョディとグレンが「何? 修羅場?」「あいつ、あんな可愛い子にモテてるのか!? ウラヤマシィー!!」と呟いていた。



  ◇



 「セ、セシル、そんなにくっついて引っ張らなくても」


 「いいじゃありませんか。早く同じパーティの方々と合流しなければなりませんし」


 セシルは非常に高揚していた。なにせ自分のパーティーに勇輝が同行するからだ。

 ルシアには悪いが、恋する乙女として負けられないという思いが強かった。

 


 「お? あのマークの旗持ってる魔導教師がそうじゃないか?」


 教師の周りには勇輝とセシル以外の班員が既に集まっている。


 「そのようですね」


 そこでセシルはようやく絡んでいた腕(胸密着している※ここ重要)を離すと勇輝はホッとしたような名残惜しいような複雑な心境であった。


 No.1グループのパーティーに合流し、教師の簡単な説明を受けてから出発した。





 その頃、ルシアたちは―――。


 


 「シ、シア? げ、元気だしなよ? ほ、ほら! まだあの二人付き合ってるわけじゃなさそうだし……?」

 

 「ミリアちゃん…………」


 「は、はい!!」


 「私、負けない!! 絶対に負けないんだから!!」



 ゴオオォォォオ! という炎が見える錯覚を覚える程、ルシアも恋する乙女として燃えていた。



 「お嬢さん、青春してるわねー。」


 ジョディがニコニコしながら話しかけていくる。


 「あ、え? ぁ、あぅ……」


 ルシアが恥ずかしいところを見られたとばかりに顔を赤くしてしまう。


 「あなたたちと同じNo.3グループの同行者よ。さっきのやり取り見てたの。ごめんね」


 ジョディはごめんというジェスチャーをする。


 「恋に一直線に頑張るのもいいけど、今は課外学習中ってことを忘れちゃだめよ?」


 諭すようにウインクをするジョディ。その横でグレンは「かはっ! 色っぽい!」と悶えてた。

 

 「す、すみません!」

 

 顔を真っ赤にしてペコペコお辞儀するルシア。

 

 「いいのよ。さ、グループの所に行きましょう」


 ルシアたちもグループの人達と合流し、出発したのだった。

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