01.それは突然に
夜の午後8時、アルバイトを終えて家に帰る途中、青井勇輝は公園の歩道を歩いてる際に青く光る石を見つける。
「ん? なんだあれ?」
勇輝は草の茂みの中で、ぼんやりと青白く光っている石を拾い上げる。
それは直径1cmほどの青い水晶玉のようだった。
その水晶玉は公園の街灯の光で反射して光っているのではなく、その水晶から発せられているようだ。
「うわ、すごいなこれ……どういう仕組みになっているんだ?」
勇輝はその水晶玉を顔の目の前まで持っていき、中を覗き込もうとすると突然、少女の声が頭の中に響いてきた――。
「――けて……だれか……助けて……」
「!!?」
声が聞こえた瞬間、突然水晶玉が強い光を放ち、勇輝の視界を白く染める。
「ぐ、なんだこの光は!」
そしてそのまま勇輝は意識を失うのだった。
―――――。
―――。
―。
樹々の葉が風に揺られる音で、勇輝は目を覚ます。
「うっ……なんだったんだ今の声と光は」
強烈な光を目に受けた為に、勇輝の目はまだ微かにぼんやりとしていた。
左手で左眼を抑えながら、まだはっきりとしない目で周りを見渡すと違和感を覚える。
「周りが明るい。朝まで気を失っていたのか?」
しかし、視界が回復してくると、その違和感がはっきりとした物へと変わる。
「な!!」
そこは見慣れた街の光景ではなく、大きな樹々に囲まれた森の中にいた。
樹々の隙間から注ぐ太陽の光が、勇輝の体を照らしている。
どうやら一際大きな樹木に背中からもたれながら気を失っていたみたいだ。
「どこだ。ここは……」
(ワケがわからない。なんだこれは?これは夢なのか…。落ち着け俺!
動揺したら対処しようがない)
呆然としていいると、突然女の子の助けを求める声が聞こえてきた。
「―――けて! 誰かっ! 誰か助けて!」
「!!」
助けを求める人がいる。この状況を飲み込めない中で勇輝は咄嗟にこのする方へと駆け出していく。
本来なら、知らぬ場所で突然の悲鳴が聞こえたら、誰でもうろたえるだろう。
しかし、考えるより体が勝手に動いたのだ。
押し茂る樹々を避けながら、足場の悪い地面を駆ける。駆ける。駆ける。
感覚的に20メートルは走っただろうか、走る視界の先には木が生えていない小さな空間が見え、そこには少女が木を背に、狼に追い詰めらている状況だった――。
(狼に襲われている!?)
少女を助けようとそのまま狼に向かって全力で走る。
しかし狼と少女の距離は3メートル。どう見ても狼のほうが先に少女に襲いかかるのが速いだろう。
狼が少女に飛びかかる。
(まずい! 間に合え! 間に合えぇ! 間に合えぇぇぇ!)
無我夢中で心の中で叫んだ。狼を睨みつけたまま、蹴り上げる足に力を入れる。
全力で走っているせいだろうか、頭が痛い。間に合わないと心が焦る。
すると突然、左眼が熱くなる感覚を覚えた時、耳鳴りが鳴り周りの音が消えた―――。
(なんだ!?)
突然の感覚にびっくりする。
なぜなら、少女に飛びかかっている狼の動きがスローモーションになっているのだ。
(これは一体……。何故だか分からないが、助けるなら今しかない!!)
拳を握り締めながら地面を蹴り上げ、飛び上がる。
上半身を後ろに反らしたまま右腕に力を込める。
力を込める右腕が「ぎゅぅぅ……」と筋肉が締まる音が聞こえたような気がした。
そしてそのまま狼の横っ腹目掛けて右腕を振り抜いていく。
ドッッゴォォォォォン!!!
右腕を振り抜いた際の衝撃波で狼は吹っ飛び、樹木にぶつかって絶命していた。
「ハァ……ハァ……」
(なんだ今の力は!? それに左眼が異様に熱い)
自身に起きている異常事態に戸惑いながら、少女の事を思い出し顔を向ける。
少女の眼と合った瞬間、「え……!?」と驚かれた顔をされた。そしてポツリと聞き取れないくらいの声を洩らす。
突然のことで混乱しているのだろう。
勇輝は努めて優しい声で少女に話しかける。
「大丈夫? 怪我はない?」
すると少女は先ほどの起きた恐怖を思い出したのか、体が震えだし大粒の涙を流しながらお礼を言う。
「うぇ……ぐすっ……あ、ありがとうございます……ぐす……」
「助けることができて、良かった」
お礼を言い続けながら泣き続ける少女に、助けることができた安堵感からか、勇輝は力なく地面に座りこんだ。
それと共に左眼の熱が引いていく感覚がした―――。