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REAL HUNT  作者: 冬馬 衣玖
3/3

忍び寄る異変

高速豪華客船ヘルメース、商いと旅の神の名を冠するこの船は、乗組員七百人、乗客千二百人の大型客船である。

船内設備としては、船の旅を堪能できるよう、映画館やレストラン、様々なブランドの限定ショップなどショッピングモールのような区画の第一ブロック、宿泊客の泊まる一級から三級までの船室が存在する第二ブロック、乗組員の生活区域である第三ブロックとその下に存在する動力や貨物室、燃料タンクのあるコアブロック、そして様々なレジャー施設のあるデッキと船中央にある操舵室、船長他、上級乗組員の作業するコントロールブロックに別れ、乗客なら第一、第二ブロックとデッキ、添乗員なら第一から第三、デッキまで、技術者なら業務中は第一、第二ブロック以外と区分化され電子ロックによりその通行が制限されている。

これによって、船の旅をより快適にするとともに、危険な箇所への侵入を防ぐとい理由らしい。実際この船の原動力はかなり複雑な新技術を用いており、スタッフも一流どころを揃えている。大型船でありながら従来以上の性能と危険性があるため、関係者以外は立ち入れなくしているそうだ。




「にしても、今日でようやく二週間か、途中で寄った島の名前は忘れたけど、どこも景色が綺麗で飯もうまかったな。」

一日ごとに観光と終日クルーズに当てる生活にようやく慣れて来た俺はこれまでの思い出を振り返り呟いた。

「赤道付近を航海中ですから確かに自然あふれる景色が多かったですね。お義父さんに着いて回った生態系調査の旅を思い出します。」

そばに来ていたジンがそう言って頷く。

今デッキにいるのは俺とジンだけだ。アリスは昼間遊びすぎて船室でお休み中、涼はそれに着いて読者をしている。この船には図書室があり、蔵書も様々なものがあり勉強になると涼は一日一冊は借りて読んでいる。

千歳の兄妹は二人でデートでもしてるんだろう、姿が見えない。鉄面皮の奏とニコニコ顏の遥の姿が目に浮かぶ。

「俺たちもそろそろ中に戻るか。」

そう言ってジンの振り返ったが、そこには怪訝そうな顏をした人の姿が。

「ジン、どうかした?」

「おかしいです、船の速度が明らかに緩んでます、今日は終日クルーズのはずなので港も見えないこんな場所で速度を落とす理由は無いはずなのですが…。」

そう呟いたジンの言葉に俺は嫌な予感がした。昔からこういった勘は外れたことが無いため、すぐに動き出す。

「嫌な感じがする、すぐに部屋に戻ろう、なんかあるとしてもみんなとはぐれるとまずい。」

そう言った俺にジンも頷いて駆け出す。

「確かに急いだ方が良さそうですね、こういう時の進の勘はよく当たりますから。」


この時、コントロールブロックは未知への混乱が生じていた。長年海の男として生きてきた船長エドワードにすら理解できない事態であった。

「最大船速というのは本当か!?」

「はい、現在出力は最大です。恐らくスクリューの破損など、外的要因が考えられると…」

「ならば修理を急がせろ!!」

「それが…点検に赴かせた作業員との連絡がつかないのです。レシーバーの故障かと思っていたのですが、既定の作業時間を既に上回っており、先程安全のためにつけていたロープだけが突如はずれて浮上してきました。サブスクリューは動くようですし、このままでは何かあった時危険です。安全な場まで移動し、調査をする必要があると思いますが?」

いつもは仕事が早く冷静な副官をこの時は恨めしく思う、修理できないのなら先に言えというのだ。

「近くに島があったはずだ、今晩はそこまで進み、夜が明け次第調査を行う。サブスクリューを起動、微速前進!」

エドワードとしてもすぐ調査した思いがあったが、副官の提案と作業員の行方不明のクルーより乗客の安全を最優先にし、調査は後にまわし近くの島を目指した。

(これ以上何も起こらなければいいが…。)

そう思いつつも、エドワードの何か起こると感じずにはいられなかった。



船内コアブロックにて進と同世代であろう赤髪の少女が居た。皆からルージュと呼ばれるこの少女は女性では数少ないサヴァン症候群のメカニックだ。

その発明における発想は天才的でこの船の動力やその他多くのギミックを考えたのも他ならぬ彼女である。自分の興味のあること以外には全く反応しないその天才を周囲は薄赤い髪色と白い肌に映える淡い赤の唇からルージュと名付けたのだった。

その美貌の天才もまた自らの船に生じた原因不明のトラブルに考えを馳せていた。

(この船のスクリューの耐久性は今までの船の比じゃないのに、何故?考えられるとしたら一つ、外部からの大きな力による変形。でもスクリューを止め、更にそれを壊すとなると並の事じゃない、振動もこの位置で感じられなかったのは変だ。なるほど、振動のない力、万力のような締め付ける力をスクリューシャフトにゆっくりと掛けたのか。でもどうやって?)

この原因不明の答えに最も近づいたのは彼女であろう。しかし、それは誰も知らない。

なぜなら彼女の興味は自らの作品の壊れた理由であり、その現状ではないからだ。



それぞれがそれぞれの行動を移す。しかし、姿の見えない異変は確実に進達人類に忍び寄っていた。


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