始まりの朝、終わり始めた日常
ピピピ…ピピピ…カチッ。
「ふぁ〜ぁ、もう朝か…。さむぃ…。」
俺は名前は灰宮 進、世界を飛び回る生物学者の両親を持つもののどこにでもあるような公立高校の二年生で趣味は料理と射撃、ルックスは並だと思うが童顔、低身長が悩みの平凡な十七歳だ。
寝る子は育つ、その格言に従ってまだ熱の残る布団に潜り直した時だった。
「Good morning!アニキぃ、今日から千歳達と旅行だろ!!」
部屋のドアを蹴り開け入ってきたハイテンションなこいつは妹のアリス。俺と同じ十七歳だが誕生日の関係で俺が兄になる。親父の再婚した母親の連れ子でアメリカ人の血を持つ金髪ツインテールの美少女だ。因みに義理の妹では有るが好きな相手もおり(決して俺じゃない)、ラノベや漫画のような展開にはならない。母親のメアさんに似た海のような碧い瞳が特徴で今みたいに人の寝ているところにボディプレスをかまさなければ可愛い妹だ。
「甘い!!」
そう言って俺は布団越しに巴投げを行い、アリスを投げ飛ばす。
「っ!?、窓空いてるー!!」
「あ、昨日閉めるの忘れてたわ、どうりで寒いと思った。」
「クソアニキー!!!」
そう言って落ちて行くマイシスター、因みに俺の部屋は三階だ。なぜこんなに平然としてるかと言うと二階にはバルコニーがあり、また我が家の住人の身体能力は以上で二階程度なら擦り傷すらなく着地できる。
アリスはメアさんが趣味のプロレスを仕込み、祖父が自衛のために柔術を、親父が空手を仕込んだ格闘技のハイブリッドでありこの程度の受け身に心配はいらない。
「おはようございます、進さん」
階段を降りた先にいた褐色の肌の色男が挨拶をしてくる。この人はジン、祖父が旅行先から連れ帰った養子で、一応、俺の叔父に当たる。
因みにまだ二十一歳になったばかりの好青年で、両親不在の我が家の保護者的、執事的存在でもある。因みに祖父の護衛として働くこともある武の者でもある。
東南アジア系の細身で長身、艶のある短い黒髪を靡かせ、親しみがありクールな佇まいを崩すことなく、日本語が苦手のため丁寧な言葉遣いを常にしており、その紳士さから近隣の奥様方有志のファンクラブが誕生するほどのイケメンだ。
「おはようジン、荷物の準備はできてるから後は千歳達と葉月待ちだね。」
「お兄ちゃん千歳くん達来たよ〜。」
ちょうどその時、投げ飛ばしたアリスがそういいながら降りて来た。
そのまま玄関まで走って二人の青年と一人の少女を連れて来る。
「「おはよう進、ジンさん」」
そう言ったのは、二人の千歳、千歳 奏と千歳遥だ。この二人、双子なのだが全然似ていない。絶対零度の視線の奏と春みたいに暖かい眼差しの遥、因みに奏が男で遥は女の子だ。家が古武術道場をしており文武両道、質実剛健、日本男児な奏と才色兼備でお淑やか、絵に描いたような大和撫子の遥、二人ともこの年で既に師範クラスの強さもあり、学校では風紀委員を務め、奏と遥は我が校の飴と鞭と呼ばれている。因みに遥が鞭で奏が飴だ。異名の由来は学校に暴漢がはいって来た時、生徒を助ける代わりに奏が傷付いたため、暴漢をギリギリまで痛めつけたためだ。それも誰も近寄れない遥を奏が急いで止めにいったためであり、止めなければとどめを刺していたとは本人の証言である。つまり、いつも笑ってるやつは怒らせると怖いということだ。後、見た目に反して奏は結構人情厚く、遥は奏史上主義者、いわゆるブラコンである。
「おはよう進、ジンさん今日から保護者役お願いしますね。」
残る一人の女性…のような容姿の葉月 涼も挨拶をして来た。
柳のような立ち姿、透き通るような肌の優男、町内でジンさんと人気を二分するイケメンだ。
ただし、後ろで縛った長い髪とあまりに顔が整っているため女性だと勘違いされることも多く、ジンと二人で立つ姿はまさに美男美じょぉ…。
「進、なにかな…?」
俺の足を的確に踏みつつ笑顔でいう涼、何度も言うがいつも笑顔のやつほど怒らせると怖いのだ。
見た目は女の子だが全国大会常連の我が校の剣道部最強の男であり、居合道にも精通した剣士でもある。
「なんでもないです…、みんな揃ったことだし、ジンさんの用意した朝飯食って行くとするか!」
俺たちは今日から一ヶ月間、豪華クルーザーの旅に出る。懸賞で当たった一グループ六名までのもので、本来は俺たち家族六名の予定であったが、急な生物学者の祖父の仕事に着いて両親不在のため、友人三人を呼んだ訳だ。
世界各国を廻る予定らしく、自衛できるという意味でもこの面子になったという訳である。
いつも通りの朝、美味しい朝食を食べつつ久々の旅行に胸を躍らせる俺たち、しかしこの時は考えてもみなかった。
世界規模で生態系の以上、爆発的生物の変化が生じており、祖父達はその調査に駆り出されたということを…。
変わらないはずの日常なんてなく、俺たちの日常は、すでに終わり始めているということを…。
平穏なんてものはいつも、儚く脆い砂上の楼閣であるということを、俺たちは考えてもみなかった…。