2話:自立型NPCの住む世界
どうやら、僕等の実験は成功した様だ。
現在僕達、朝倉直也と斉藤綾音の同期した意思はSMOにある。
これは、斉藤綾音が造りだしたSMOの世界、すなわちVRの技術を発展させ造りだした新たな技術で実験した結果である。
斉藤が目指していた研究。それは"異世界を造りだす"というものだ。斉藤は、朝倉が死ぬ寸前の"記憶"を"記録"し、"データ"としてSMOに写した。そして、朝倉がSMOの世界へ行った意味を理解させるために自分の記録データを朝倉のデータと混ぜたのだ。
つまり、SMOに居る朝倉と斉藤は現在同一人物ということになる。
元の世界、地球ではVR技術は公開されていない。斉藤からすれば、まだVR技術は完成していないそうだ。
斉藤が異世界を造りだすのに必要な機能。それは、SMOの世界での"死"は"意思の死"。それと、自立型NPCの"完全自立"だ。
自立型NPCとは自我をもっているかの様にその場に合った行動をする自動機能の様なものだ。これが"完全自立"ではない理由は単純に、"斉藤が設定した意思"で動くからである。自立型とはいっても、斉藤が造りだしたもの。ゆえに、どのNPCがどの行動をするかが大体予想できてしまう。
そして、SMOの世界は中世ヨーロッパ風を元としてできていて、それに合った世界構成をしなくてはならない。百聞は一見にしかず。【変換Program】の機能を使い、完全なる中世ヨーロッパ風異世界を造りだす。
朝倉と斉藤が同期したデータがキャラとなり、世界に大きな影響を与えずに破損部分やバグを観測し、VR技術を完成させなければならない。
この世界での朝倉と斉藤が観測したデータを元の世界の斉藤が研究材料として使用し、VRを完全なる異世界にする技術を完成させるという算段だ。
◇◇◇◇◇◇
真っ黒い空間から"観測者"として送り込まれた朝倉と斉藤の同期した意思は現在、プレイヤーが最初にする『キャラ設定』をしている。
『ねえ私、僕が思うにもうちょっと大人びた方が良いのでわ?』
『いやいや僕よ。可愛いは正義でしょ?』
『......と、というかなんで女キャラなんですか?』
僕等は今、小さな幼女キャラを目の前にキャラの外見やら声やらの設定で争い中です。
『で、でもさ、観測するためには大人の方が都合が―――』
『やだ!可愛い幼女じゃないとやる気でないもん!』
『......「もん!」じゃないでしょうがッ!僕的には私の意見はコレから先の事を考えるに駄目だと思います!』
『ぎゃ、逆ギレ!?じゃ、じゃあ観測が終わったら幼女に、......し、してくれると約束するのなら良いけど』
『分かりました。観測が終わったらですからね?』
―――ポーン。
『【キャラ設定終了時間まで後10秒です】』
システムアラーム音がなると同時に終了時間報告がされた。と同時に僕は焦って、私は笑った。
『ま、まずいッ!?このままではキャラが幼女に!』
『ぷっ...クク、これはチャンス――だッ!』
『なッ!?ふざけッ!?』
僕がキャラの設定変更をしようとしたので、私が邪魔しましている状況です。後10秒間、私が邪魔して設定変更されなければ私の可愛い幼女キャラが完成になる!
『わ、私!僕との約束はどうした!』
『さぁ?なんのことやらッ!!』
私の言動に僕はキレました。
『【キャラ設定終了時間まで後5秒です】』
『うおおおッ!!』
『ッ!?ぐッさせるっかぁ!!』
『【4秒前】』
『どけ!私よ!僕は早く観測を終わらせるためにぃッ!!』
『観測など長引いても良いのだ!幼女にさせろぉッ!』
『【3秒前】』
『じ、時間が!くそッったれぇ!』
『ふははは!私の勝ちだ―――なッ!?』
『【2秒前】』
『な!まさか私の寝技を抜け出すとは!?』
『僕は私なんだ!抜け道くらい分かるわ!ふっはは』
『【1秒前】』
『男のロマンは!巨乳にありぃいいいッ!!』
『ぎゃーーッ!?私の幼女ちゃんが巨乳に!?』
『【0秒前】』
『は、はやく身長を伸ばさなければ!!』
『さ、最後の足掻きぃッ!!』
『なッ!?』
『【キャラ設定を終了します。SMOをお楽しみください】』
私「なあ僕よ」
僕「なんですか私」
私「キャラ崩壊したいの?」
僕「......」