ぷろろーぐ
ぷろろーぐです。
最近、どら焼きよりシュークリームが好きになりました。
カスタード派です。
本作品は2作目です。どうぞ。
「―――分からないか?君は捨てられたんだ」
『......?良く分かんないや』
少年は、そう答えた。
時間は少し遡る。
ある病院の隔離所。エア・コントロールの無菌室にある少年が入った。少年の病状は悪く、死ぬのは高確率だと思われる。そして、その少年の両親。病状を院長が告げた時泣いていたのだが、どこかうそ臭かった。
私はこの病院の人間ではない。研究者、斉藤綾音。私は新しく作られた医療機器を使い、少年を治療して良いか。という交渉をしにきた人間だ。
表向きは最新の医療機器という事になっているが、実質は人体実験と変わらないだろう。なにせ"最新"なのだから。不慮の事故などが発生する危険性も高い。それに、まだ試作段階であって、完全では無い。
そう思考に浸っている私を、現実に引き戻したのは少年の両親が発した言葉―――。
「料金はどうなるんですか!?」
料金。自分の家族が死ぬと告げられたのに、金の心配―――。
「無菌室なんて使ったら馬鹿高いのでは!?」
少年の病状を考えるに、無菌室でなければ確実に死ぬはずなのだ。この親達は、無菌室を使わず何処を使えと?
「貴方が言っていた事を考えれば!息子の病状を伸ばして我々の金を取るつもりなのでしょう!?」
金。金。金。そういえば、院長が最初にした問答『なにでこの病院まで来ましたか?』で、両親の返答は『タクシーで来ました』父親、『家から遠かったから高かったわねぇ』母親。料金の心配。
「......くさッってるッ」
「......?」
「?」
......。
この親達はくさってる。私の様な子供もできない体質ではないだけ羨ましいのに、こいつ等は息子をどうとも思っていない。
「奥様方。息子さんの医療の件なのですが...」
「――ですから、金はッ!」
「いえ、最新医療機器を使用しようと思っているのです。それにあたって、入院などの料金は全て此方がもちますので。奥様方の了承があれば......」
「あら、料金免除ですってあなた」
「――むぅ、分かりました。それでお願いします」
「ッ」
免除があると分かった途端、了承した。普通の親なら悩むと思う。最新の医療機器。響きだけは良いが、危険も高いのは分かるだろう。そしてこの両親は、『息子が辛くなると思うから無菌室を取り消せ』という意味合いにも聞こえていた先程の言葉を『無菌室は金がかかるから嫌だ』という言葉に完全に変換した。
「ですが、院長。最新医療機器とは、人体実験とは変わらないのでは?」
「――ッ」
院長のほくほく笑顔から余裕が消えた。それもそうだろう。本当に人体実験と変わらないのだから。
「ですので、息子を人体実験に使うにあたっての交渉です」
......。
私は、その言葉をしばらく理解できないでいた。否、理解したのは、時間にしてみれば一瞬だったかもしれないが、私にはその一瞬が長く思えた。そして、理解したと同時に私の思考は停止した。
「―――」
「―――――」
院長と少年の両親が会話をしている。だが、私は『危険だから聞くな』という指令が脳を支配した。そして、ここにいれば私もこうなってしまうのではないか?という感情がうまれた。
「ということで、交渉成立ですね」
「ええ、今後ともよろしくお願いします」
両者とも微笑みながら握手を交わし、そして少年の両親は帰っていった。
「少年――朝倉直也?」
『そーだよ、お姉さん。よろしくね』
真っ白い無菌室の部屋。数枚の分厚いガラス越しでの会話。少年は無邪気な笑顔を私に向けながら、全ての問答に答え、付き合ってくれる。
「......」
『...?どしたのお姉さん』
――本当に、この少年は。
「―――分からないか?君は捨てられたんだ」
『......?良く分かんないや』
少年は、そう答えた。
少年の顔を良くみると、泣いた跡が目の下にあった。多分――現状を理解しているのだろう。
それでも少年は、私が部屋をでるまで笑顔を見せ続けてくれるのだろう。そんな少年に一つの約束をし、私は部屋を後にした。
―――約束。
「君が死んだら、生き返らせてあげるよ」
と。