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七夕の出逢い  作者: 葉野りるは
番外編SS
22/26

◆ 末の息子 Side 涼

 今日は末の息子が幼稚舎で学芸会があるので有給休暇を取っていた。

 家族のほか、隣に住む甥ふたりも一緒に来ている。

 長男の楓と同い年の秋斗はデジタルカメラを手にしており、司のひとつ年下の海斗は、クマの着ぐるみを着て真白さんの近くをうろちょろしていた。

 司が劇に出ることは聞いていたが、まさかウサギ役とは思いもよらず、真白さんが作ったであろう白いモフモフの着ぐるみを着た司を新鮮な気持ちで見ていると、湊と楓が弟に賛辞を述べ始める。

「司、すっごくかわいいわよっ」

「うんうん、よく似合ってる」

 司は皆に囲まれて立っていた。

「司ったら、家では絶対に着ないって言って……。サイズが合うか心配だったんですけど、大丈夫みたいで良かったです」

 真白さんはにこにことその光景を見ているわけだが、末の息子にとっては至上最悪の状況のようだ。

 写真を撮り続ける秋斗を一瞥し、かわいいかわいいと絶賛する姉と兄を睨みつける。

 が、睨みを利きかせたところで賛辞と称したからかいが止むわけもなく、耐えかねた司は両の手でフードをぎゅっとつかみ、目深にかぶって顔を隠した。

 本人は人の視線から逃れるのに必死だったのだろうが、こちらからしてみればその動作すらかわいく見えてしまうわけで、墓穴を掘っていることを教えてやりたくなる。

 しかし、思うだけで自分はいつもと変わらず静観するに留めるわけだが――

 悪鬼三人は思い思いのことを口にした。

「あれ、隠れたつもりよね?」

「隠れたんだろうね。でも、その仕草がなんとも言えないよねっ」

 湊と楓の言葉を聞きながらも、秋斗は写真を撮る手を緩めない。緩めるどころか、

「こぉ、耐えてるふうなところがまたそそるよね?」

 もっとも的を射た発言をした。

 司は全身をプルプルと震わせ始める。

 そろそろ限界なのだろう。

「くく、耐えてる耐えてる……」

「もしかしたら拗ねてるのかもよ?」

 湊と楓の言葉に秋斗が答える。

「どっちもじゃない? もう、あれは全力で帰りたがってるよね」

「そのくらいにしておきなさい」

 三人を優しく嗜めると、真白さんは宥めるように司の背に手を添えた。

「もう劇が始まるわ」

「……帰りたい」

 ようやく司が口を開いた。

「だめよ」

「じゃあ、ライオン襲ってもいい?」

「それは難しいと思うわ」

「どうして?」

「だって、ウサギさんは草食動物だもの」

 会話はそれで終わり劇が始まったわけだが、ライオン役の美都くんとトラ役の笹野くんを不憫に思った。

 劇中で、あんなにも柄の悪いウサギはそうそう拝めるものではない。

 まだ四歳にもかかわらず、底冷えするような冷気を漂わせ、眼力を駆使していた。

 いったいどこで――いつの間にあんな目つきを習得したのだろうか。

 見間違いでなければ、先ほど司は間違いなく秋斗に向かって舌打ちしたと思うのだが……。

 何にしろ、今日は面白いものが見れた。

 気になることと言えば――

「真白さん、ほかの子の着ぐるみのファスナーは前についていましたが、司のは後ろでしたね?」

「えぇ、だって司ですもの。前にファスナーがあったら自分で脱いでしまいますでしょう?」

「……つまり、自分では脱げないようにするために後ろにつけたと?」

「はい」

 屈託のない笑顔で息子の逃げ場を封じるこの人は、間違いなく藤宮の血が流れていると認識した――

こちらは、以前拍手コメントに投稿していた短編です。

拍手お礼から下ろしてからも、「読みたい」というお声をいただいていたのでこのたびこちらへお引越し。

もともとは「ウサ耳司」ネタから派生したイラスト、「着ぐるみ司」のイラストをいただいて作ったお話です。

個人サイト「Riruha* Library」にも同じお話が公開されているのですが、そちらには涼倉かのこ様の素敵なイラスト付なので、お時間がありましたら遊びにいらしてください。

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