神に頼めぬ秘匿者
「ごきげんよう。5分遅刻ですわ」
眼鏡の向こうの大きな瞳はにこりともせず、ストレートに言い放つ彼女。
こんな出迎えを受けたのは生れてはじめてです。
本日の教官は、初対面でいきなり切りかかってきた美少女・東原さんである。
彼女が通う学園の近くが、今回『堕落者』が発生するポイントとのことで……放課後、あたしは初めて星霜学園前にやってきた。
久那市でも郊外にそびえたつ天下無敵の学園には、久那センからの路線バスが便利。っていうか、あたしにはそれしかない。初めて使う路線だけど、行き先表示が「星霜学園」だから、迷うことはなかった。
時刻は約束の4時半より、確かに5分過ぎているけど……いやあのそれは、バスが遅れたからであって決してあたしのせいではないんですけどねっ!!
……なんて言えたら気持ちいいかなぁ。無理だけど。
下校中の生徒達が、異色な組み合わせであるあたし達を、好奇心だけで眺めているのが分かる。
あたしも負けじと、周囲を見渡して……世界が違うことを実感する。
清楚なセーラー服に、思ったよりも短いスカート、足元は黒いタイツとパンプスで、生足は出さないのがお嬢様流なのだろうか。
今のところ全員が黒髪、ハーフっぽい女の子の栗色の髪も可愛いけれど……アクセサリーやピアスをつけている生徒は皆無だ。
これが、県内屈指のお嬢様女子高校、星霜学園。
「ごきげんよう」で始まり、「ごきげんよう」で終わるという……あたしには縁もゆかりもない場所だ。
周囲が高い塀で覆われているので、一体中がどうなっているのか分からない。ただし、校門からちょっと中を覗き込むと、大学かと思うような広い一本道、左右にはケヤキ並木という景色が見えた。
物珍しい光景ばかりなので、周囲をぐるぐる見渡しながらスローペースで歩くあたしに、東原さんは多少イライラしているとは思うけれど……さすがにこの場所でヒステリックになるつもりはないらしい。
まぁ、響く靴音がだんだんうるさくなっているよーな気はするけれど……聞こえないふりをしよう、そうしよう。
とまぁ、完全に観光客気取りで歩いているあたしなので、
「ねぇねぇ東原さん、あの大きなホールって何?」
「コンサートホールですわ。敷地内にあと2か所ありますけれど」
「まだあるの!? じゃあ、あの落ち着いた日本家屋は?」
「お茶やお花を行う離れです」
「何それ……って、あのビニールハウスこそ何!? 屋根が三角になってるけど!!」
「ビニールって……温室と言ってくださいますか!? あぁもう……樋口さん、貴女は一体何をしに来ていらっしゃるんですの!?」
さすがに立ち止まってあたしを諌める彼女だが……ここ、滅多に入れる場所ではないので、あたしの庶民的野次馬精神は収まる気配がない。
彼女もそれは察してくれている様子で……あたしから向けられる羨望の眼差しに、思いっきり迷惑そうな視線を向けて、ため息。
「そんなに……珍しいですか?」
「珍しいに決まってるじゃない! だって、高校の敷地内にホールや和室やビニールハウスがあるんだよ!」
「だから温室です」
「とにかくそれ! さすがお嬢様学校よねー……規模が違うわ、規模が」
一人で納得するあたしを尻目に、東原さんは……どこか寂しそうな表情になる。
「何だか……複雑ですわね」
「え?」
彼女の独白が聞きとれずに聞き返すが、すぐにそんな気配を払拭した東原さんは、くるりと前方に向き直り、
「何でもありませんわ。お気になさらないでくださいませ」
猫のようにすました口調で、再度歩みを進めた。
と、
「――あら、東原さん。ごきげんよう」
離れの方から歩いてきた女性が、東原さんを見つけて声をかけた。
背が高く、モデルさんかと思うような美人。ゆったりとウェーブのかかった髪の毛で背中を覆い隠し、ぱっちりとした目が印象的だ。
制服も完璧に着こなし、気品的な何かを生まれ持っている印象を受ける。
東原さんの名前を呼んだってことは知りあいなんだろう……彼女を斜め後ろから見ていたあたしは、驚きの光景を目の当たりにする。
今まで、そりゃーもう不機嫌そうだった東原さんの表情は消え去り、完全なお嬢様スマイルにチェンジした彼女がそこに立っていたのだ。
「綾小路先輩、ごきげんよう」
凛とした声は顕在だが、優しさがにじみ出ている。あのー、あたしに接する時とは違いすぎるんですけど……。
そんなことを口に出せず、ジト目だけを向けていると、「綾小路先輩」があたしの存在に気がついた。
「あら、東原さんのご学友かしら。外部の方だなんて珍しいですわね」
その「生まれた時から培われたお嬢様スマイル」には勝てず、反射的に頭を下げる。
「その高校は……久那高校かしら」
「えっ!? あ、はい、その通りですけど……」
しどろもどろになりながら肯定した瞬間、彼女の目に、何か鋭い光が宿った……ような気がした。
まるで、探し物でも発見したよーな。
な、何だ?
精神的にあとずさりしたあたしに、綾小路さんは、にっこりと優雅な笑みを浮かべながら問いかける。
「貴女、久那高校の新しい生徒会長様は、非常に優秀で知的な殿方だと聞いているのだけれど……本当かしら?」
「え? あー……まぁ、そうですね、いい人だと思いますけど……」
答えになっているんだかなっていないんだか、自分でも割と曖昧な返事だったと思うが、綾小路さんにはそれで十分だったらしい。
「やっぱり本当だったのですね! よかった……今度の総会が楽しみですわ」
「総会?」
このお嬢様高校と我が平凡高校が、総会?
意味が分からずに聞き返すと、彼女は嬉しそうに教えてくれた。
「久那高校と我が学園を含む、久那市にある高校の生徒会で、定期的に会合を開いています。私はこの学園の生徒会メンバーも務めておりますので……今週末、久那高校へお邪魔する予定ですのよ」
生徒会ってそんなこともやってるのか……奥村先輩、大変だなぁ。
「そ、そうなんですか……ぜひ、気をつけていらっしゃってくださいね」
「ありがとう。貴女もゆっくり見学なさってね」
すっかり上機嫌になった綾小路さんだが、先ほどから黙っている東原さんに……心配そうな眼差しを向けた。
「東原さん、この方にもシスターへの説明をお願いしたらいかがですか? このままでは、貴女によくない噂が……」
シスター? 説明?
何の事だか分らないあたしが目を丸くする。
綾小路さんに何か提案された東原さんだが……一度、首を横に振った。
「ご心配をおかけしております。ただ、彼女は関係ありませんわ」
「そうですか……それは残念です」
何のことだろう。いきなり置いて行かれたんですけど。
ただ……東原さん本人が、あたしは関係ないって言っているので、こちらからずかずかと聞くのは気が引けてしまった。
そして、この場の解散を告げたのは東原さん。
「それでは先輩、失礼いたします」
ぺこりと軽く会釈をして、再び前へ歩き始める。
あたしも再度頭を下げて、早足で歩く彼女の後を追った。
正門から歩き始めて10分程度。
真っすぐ歩いた突き当たりに、その建物はそびえ立っていた。
「はー……」
間近で見ると、その大きさを実感する。
壁一面が白塗りの教会。塀の外からでも見える十字架までは遠く、見上げると眩しい光に目を細めてしまう。
周囲を落ち着いた緑で囲まれた空間は、周囲の喧騒から一線引いている印象を受けた。
ただ……人影は、ない。これが自然のことなのか意図的なのか、あまり想像したくないけれど……。
ちらりと、隣に立っている東原さんを見つめた。
彼女は、綾小路さんと話した後、あたしに対するシールドを更に強くした様子だ。おかげで話しかけることもはばかられる。
まったく……協調性ってここでは習わないものなんだろうか。
あたしがそんなことを考えていると、
「あら、お二人ともごきげんよう」
唐突に、後ろから雛菊が声をかけてくる。
しかし……ごきげんよう、って、何をお嬢様ぶっているんだか。
あたしが顔だけ動かしてジト目を向けても、雛菊はニコニコ笑ったまま教会を手で示した。どこまでも喰えない人物である。
「本日はこの中にいらっしゃいますよ。頑張ってくださいねー」
「はいはい……」
このパターンが今後のテンプレートなのか……そう思うと悲しい。
「樋口さん、参りますわよ」
片や、こっちもマイペースだし!
「ちょっ……待ってよ!」
あたしは慌てて、教会への扉を閉めようとしている東原さんの背中を追いかけたのだった。
東原さんの後をついてたどり着いたのは……正門から真っすぐ歩いて一番奥にある教会だった。
木々が取り囲む、煉瓦造りの建物。塀の外からも見えた先端には、純白の十字架が静かにたたずむ。
先ほどまで爽やかだった空気も、急に緊張感を帯びた。
気がつけば生徒の影もなく、しんと静まり返っている。
建物の前で立ち止まる東原さんに合わせて、あたしも足を止めた。
荘厳な雰囲気の隙間に、何となく感じる違和感。
さすがに3日目ともなると嫌でも分かる。
「雛菊が『境界』を……?」
「その通りですー。よく気づきましたねっ」
「うわぁっ!?」
刹那、背後から妙にハイテンションな雛菊の声が聞こえたので振り返ると、相変わらずニコニコの雛菊が当たり前にそこにいた。
「ごきげんよう香澄さん。今日も頑張ってくださいね」
ごきげんよう、って……。
冷めた目を向けるあたしの心情など1ミリだって察していないだろう。それで一向に構わないけれど。
そんなあたしを差し置いて、雛菊は東原さんへ視線を向けた。
「絢芽さん、香澄さんはまだまだ不慣れなところがありますけれど、スピードはさすがといったところです。巻き込まれないよう、ご注意くださいませ」
彼女なりの忠告だったのかもしれない。だけど、そんな言葉を東原さんが必要としているはずもない。
「ご心配なく。私は私の戦いを行うだけですわ」
凛とした口調の東原さんはカッコいいけれど……完全に一人で戦うつもりですね。うん、分かってましたよ。
まぁ確かに、初心者マークのとれないあたしなんか、彼女にしてみれば足手まといかもしれないけれど、でも、こんなに華奢でお箸よりも重たいものを持てそうにないお嬢様がどこまで戦えるというのか。
……とまぁ、勝てそうにないので内心はこんな荒んだことを思ってもいいよね! 負け惜しみだよ!
「って、ちょっと待ってよ!」
気がつけば東原さんは教会の扉を押し開けているので……あたしも慌てて後を追った。
中に入って見ると、天井が思ったよりも高いことに息をのむ。
落ち着いた、コーヒー色の内装。中央の通路をはさんで、木造りの椅子が左右に並ぶ。
壁には細やかな細工の施されたステンドグラス。恐らく何か絵が描かれていると思うけれど……丁度西日が差しこんで眩しいので、どんなデザインなのか詳しく見えなかった。
その通路の先には一段高くなっている祭壇があり、更にそこから5メートルは上にある台座と、台座の上には穏やかな笑みで両手を組んだ石膏のマリア像。
マリア像の後ろにも大きな窓があるが、この窓ガラスは透明で……教会の奥にある森の緑と、その先にある空の色が、立派な背景になっていた。
足音、呼吸音さえもはばかられるような、あたしには少しだけ息苦しい空間。
きょろきょろと挙動不審に周囲を見渡しながら進むあたしとは対照的に、東原さんは真っすぐ通路の奥、祭壇の前へ。
そのからマリア像を見上げている。
マリア像も、聖母という肩書(?)を裏切らないような、それはもう優しい微笑みを向けていたんだけど……。
その口元が醜悪に歪んだ様を、あたし達は見逃さなかった。
刹那、左右のステンドグラスがけたたましい音を立てて砕け、ガラス片がまるで意志を持っているようにあたし達へ迫る!
「――雫!」
凛とした声が響き、彼女の右手には夕日に反射する日本刀。
そして……その場でスカートを翻し、優雅にくるりと一回転。
彼女の剣とまき散らした何かに触れたガラス片は、届くことなく凍りつき、勢いを失って落下していく。
凍りついたってことは……雪でも出していたんだろうか。水だけじゃないんだな、東原さんって。
って、呑気に解説してる暇はないんだってば!
「は、颯ーっ!」
剣の名前を絶叫して、自分の周囲でぶんぶん振りまわす。
発生した風圧で塵になっていく様に胸をなでおろすけれど……不意打ちは卑怯です。あんなに大きな音がしたらびっくりして動けなくなるっつーの!
と、いうか、あんなガラス片まで動かせるんだ『堕落者』って……ここは『境界』内だから雛菊さんのテリトリーだと思っていたけれど、容赦なく動き回れるのは『堕落者』だって同じだということだろうか。
荒くなった呼吸を整えるあたしとは実に対照的な東原さんは、剣についた氷の粒を振り払うと、そのまま軽々と祭壇の上に飛び乗った。
……土足で、いいのか?
あたしの素朴な疑問はさておき、東原さんは顔をあげ、上からほほ笑むマリア像を睨みつけた。
対するマリア様も、それはそれは不敵な笑みを浮かべていらっしゃることで……神様に対する印象が変わるぞ、これ。
しかし、東原さんの力がどこまで届くのか知らないけれど、あんな高さにいるマリア像まで届くんだろうか。
あたしの風なら……確実に届きそうな気もするけれど。
そんな考えがよぎった刹那、組んでいたマリア像の手が離れたかと思えば、その右手が鋭い刃を模し、祭壇目指して襲いかかってくる! しかも伸びてるし!!
「えぇっ!?」
端から見ると割とシュールな光景でもあるけれど……完全に東原さんはロックオンされている。
危ない、そう叫ぶ間もないほど一瞬の出来事だった。乾いた音を立てて祭壇が砕け散り、木片が飛び散る。
あたしも咄嗟に顔面を左腕で守り、その隙間から見えた光景に……目を見開いた。
東原さんが、床に突き刺さったマリア像の右腕に立っていたのだ。
「う、そ……え? えぇっ……!?」
驚きで声がかすれた。
いや、だって、だって。
あの攻撃の中、高く前方に飛び退くだけならまだしも、着地点が攻撃してきたそのものって……。
一切ぶれることなくその場に佇む彼女は、あろうことか右腕を軽やかに駆け上っていき――マリア像の右肩で、剣を大きく振り上げた。
マリア像が残った左腕を振り上げるが――遅い!
「――散れ、雫!!」
振り下ろすと同時に響いた言葉が、解放の合図。
彼女の剣には龍のように水流が纏わり、その水に触れた石膏をボロボロに破壊していく。
マリア像を完全に破壊しながら落下している東原さんは、着地に備え、振りおろした刃の切っ先を床に向けていた。
着地点にも力を解放して、衝撃を緩和するつもりなのだろう。
だから、彼女は気付かない。
マリア像の後方、背景の役割を果たしていたガラスも砕け散って、彼女を狙っていることに。
「あ……!」
少し離れた位置からは、マリア像の悪あがきがしっかり確認できた。
振り上げた左腕で背後のガラスを砕き、そこにも意志を込めたのだ。
無防備になった東原さんを攻撃するように、と。
東原さんも自分を狙う気配に気がついたが、下方へも集中しなければ落下の衝撃で彼女の身も危ない。
第一、落下中に方向転換も出来ず、ろくに動かせない体は落ちていくだけ。
夕日に煌くガラスの切っ先は無数にあり、どれも先ほどのマリア像と同じくらいの鋭さ。串刺しか、もしくは体中に穴が開くのか……ううん、両方かもしれない。
久しぶりに動揺したのか、反射的に両目を閉じてしまった。
――怖い。
助けを求めることも出来ないまま、このまま――脳裏をかすめるのは、想像したくない未来。
――そんな結末にはさせない!
あたしは無我夢中で地面を蹴り、落下する東原さん――その上、迫りくるガラス片を見据えた。
届け、届け……よし、ここからならば届く!!
何の根拠もない確信、でも、今のあたしは疑う余地もない。
教会のほぼ中央、祭壇の数メートル前で足を止めたあたしは、腰を落として息を吸った。
剣を両手に握って、自分の正面に構える。
そして、
「踊れ、颯!!」
声と共に剣を振り下ろして解き放つのは、敵に容赦しない竜巻。
細く、高く舞い上がった風は、あっという間に東原さんを狙っていたガラス片をその渦に巻き込み、木っ端微塵に打ち砕いていく。
届いた……あたしの力が、何とか間に合った。
肩で呼吸を整えながら、風が収束していく様子を見守るあたし。
「きゃああぁっ!」
「……へ?」
だから、今になって気がついた。
風にあおられた東原さんの落下点が大きくずれて、見当外れの所で尻もちをついていることに。
「樋口さん! 一体どういうおつもりですの!?」
すっかりボロボロになった教会の中。差し出したあたしの手を豪快に振り払って立ち上がった東原さんは、声を荒らげてあたしを睨みつけた。
結果としては彼女を助けたはずなんだけど……肩身が狭いのは、どうして?
「どういう、って、助けなきゃって思ったら……つい」
あたしのいい訳も、彼女は「フン!」とそっぽを向いて言葉を続ける。
「助けようという心掛けは素晴らしいですが、ご自分の能力を正しく使えなければ非常に迷惑ですわ。巻き込まれる方の身にもなってくださいませ!」
刹那、あたしの中でどこかが切れた、ような気がした。
「ちょっ……いくらなんでもそんな言い方しなくなっていいでしょう!?」
確かに巻き込んでしまったけれど、あのまま黙って見ているよりもずっと良い結果だったと思っている。
少しくらい、彼女に認めてほしかったのかもしれない。
カッとなって声を荒らげるあたしとは逆、至極冷たい瞳で見つめる東原さん。
「あら、だって事実ですもの。いくらこの空間での怪我が問題ないからといっても、ショックで死んでしまった場合は二度と戻ってこれなくなるかもしれないっていうのに……!」
何ですって!?
「そうなの!?」
「ご存知なかったのですか!?」
互いに驚いてしまった。
雛菊……あの適当『監督者』め!! 割と大事なことをどうして伝えないんだ!!
あたしの怒りの矛先は雛菊に向いたのだが、東原さんはあたしを睨んだまま、
「そう、やっぱり……私に仲間は必要ないですわ。一人で戦った方がマシです」
自分に言い聞かせるように、吐き捨てた。
「東原さん……?」
口調もきつく、眦を吊り上げて睨まれているのに……どうしてだろう、その瞳の奥に、言いようのない寂しさを感じてしまった。
だから、あたしは言い返せなくなる。
誰にも理解されない孤独。
どこかで見たような眼差しだったから。
彼女が背負っているものが、途方もなく大きなものに思えたから。
剣を空中に放り投げ、東原さんはこの空間から立ち去る。
その後ろ姿を黙って見つめながら、あたしは……無意識のうちに、颯を強く握りしめていた。