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【外伝】彼女に秘密のコンフェッション【悠樹×智恵子+亜澄・蓮華・雛菊】

この物語のエッセンスを詰め込んだボイスドラマもあります。

(http://tmbox.net/user/frosupi/sound)

是非、彼女の告白と彼の答え、そして殺伐とした女子会の様子を、音でも聞いてみてください!!

 しかし、改めて自分の足で歩いてみると、広い学校だと思う。

 既に日が落ちたため、空は紺色から黒に色を変えようとしてている。俺――奥村悠樹は、星霜学園生徒会長・綾小路智恵子さんの案内により、納涼祭で賑わう学園内を散策していた。  普段着慣れない浴衣での移動なので時間がかかり、余計に広く感じてしまうのかもしれないけど。

 普段は関係者しか立ち入れない校内も、今だけは外部の人の出入りも多い。この、講堂へ続く道は特に人通りも多く、すれ違う皆がそれぞれに楽しそうな表情で、楽しい時間を過ごしていた。

 しかし……落ち着かない。それは多分、浴衣を着ているせいだけではなくて。

「……さん、奥村さん?」

「え? あ、スイマセン……どうかしましたか?」

 俺の隣を歩く綾小路さんが、心配そうな声で問いかけた。

「お疲れですか? 顔色がすぐれないように見受けられますが……」

「えーっと……な、慣れない服装なもので……日本人として情けない気もしますが……」

 これだけではないが嘘でもない言葉で返答すると、彼女はクスッと笑い、笑顔をみせてくれる。

 正直、自分の隣を浴衣姿の綺麗な女性が歩いている、という状況も落ち着かないのだ。普段は凛々しく仕事をこなす彼女が、今日は髪を結い上げて浴衣を着用してるから、特に女性らしく感じてしまう。

 ……最近は騒々しくて我の強い女性とばかり行動をともにしていたから、余計にギャップを感じて落ち着かないのかもしれないけれど。

「確かに、浴衣を着る機会なんてありませんわよね。歩きにくいかと思いますので、どこかで休憩しますか?」

「出来れば……でも、どこか休める場所はあるんですか?」

 目に入るベンチは誰かが陣取っており、近くで座れそうな場所は見当たらない。

 周囲を見渡す俺に、綾小路さんは少しイタズラっぽい笑みを浮かべて、こんな提案をした。

「そうですわね……少し歩いていただきますけれど、私だけの特等席にご案内いたしますわ」


 数分後――

「あ、綾小路さん……本当に大丈夫なんですか?」

 手に飲み物(お茶)を持った俺が彼女に案内されて来たのは……学園の屋上だった。

 建物の4階にあたるこの場所は、昼間であれば生徒が誰でも入れるようになっており、現にベンチやテーブルがチラホラと点在しているが……夕方になると施錠され、無断で入ることは出来ない場所、らしい。

 階段を登っている最中に、「樋口さんは確か、来れなくなった奥村さんの代わりに別の女性と一緒だったような気がしたのですけど……」と真顔で首を傾げられたので、内心焦りつつも「そんなことないです」と否定しておいた。

 しかし、綾小路さんは真っ直ぐにこの場所を目指し、首からぶら下げたIDカードで屋上の扉の鍵を開けて、スタスタと中へ入っていく。俺は当然付いてい行くしかなくて……扉を抜けた先にある涼しい風に、汗が引いていく感覚があった。

 綾小路さんが扉近くにあるスイッチを押すと、足元を照らすように設置された間接照明が点灯する。下からの明かりもあり、暗闇が少しだけ逃げていったように感じた。

 俺の背後で扉が閉まり、同時にガチャンと鍵がかかる音が聞こえた。オートロックなのだろうか……さすが星霜学園。

 綾小路さんは屋上のほぼ中央にあるベンチに腰を下ろし、黙って虚空を見上げる。


 刹那――漆黒の夜空に、大きな花火が打ち上がった。


 遮るものがなにもないこの場所は、確かに特等席に違いない。花火を見送って呆然と立ち尽くす俺に、彼女は笑顔を向ける。

「納涼祭の目玉企画、花火です。いかがですか?」

「驚きました……もっと規模が小さいものかと思っていたので」

「近隣の皆さんの同意も得て、グラウンドから打ち上げていますの。久那市では河川敷での大きな花火大会もありますけれど、この地域の方に楽しんでもらって、もっと、この学園を好きになっていただきたいですわ」

「素敵だと思います」

「ありがとうございます。ここまで階段でお疲れでしょう? 私の隣で申し訳ないですが……お座りになってはいかがですか?」

「し、失礼します……」

 1人だけ棒立ちなのもおかしいので、意を決して彼女の隣に腰を下ろす。

 学年が同じはずなのに、年上に感じてしまうのは……彼女が発する年齢以上に落ち着いた雰囲気のせいなのかもしれない。

 次の瞬間、2発目の花火が夜空を華麗に彩った。

 思わず飲み物を握りしめたまま見とれていると……隣りにいる彼女が、呼吸を整えて、一言。

「――好きです」


---------------------------------------------


 ……という他人の修羅場(?)を、どうして亜澄は見せつけられなければならないのだろうか。しかも、非常に面倒なおまけ付きで。

「……っていうか雛菊さん、こんな所で何をしているんですか?」

 星霜学園屋上、の、扉近く。

 あの場から離脱した亜澄は、蓮華の力で屋上にいた。

 自分の病室も4階にあるので、高いところから下を見下ろすのは好きだ。

 正直、さっきの戦いで香澄ちゃんにイライラしてしまったので、クールダウンしたくて……誰もいないこの場所に連れて来てもらったのに。

 ナチュラルに亜澄の隣にいる雛菊さんは、目線は例の2人に向けたまま、言葉を返す。

「あふゃ……そのふぉふぉば、ふぉっくりおかふぇふぃふぃまふよ(※あら、その言葉、そっくりお返ししますよ)」

「焼き鳥食べながらしゃべるの、やめてください。っていうか蓮華ー、この人(?)この空間から追い出してよ、すっごい邪魔なんだけど」

「……と、言われておるぞ、雛菊」

 あたしの後ろ、少し離れた所で屋上の柵にもたれかかっている蓮華が、ジト目で雛菊さんを見やる。

「わふぁふぃのことふぁおふぃになふぁらずに(※私のことはお気にならさずに)」

「うわ、次はクレープ食べてるし……」

 随分食い意地の張った人(もう人でいいや)だとため息を付きながら……亜澄は視線の先、ベンチに座っている2人を見つめる。

「っていうか……割と距離離れてるのに、どうして2人の声がこんなに聞こえるんだろ……」

「んぐ……ああ、それはですね、私が芸能レポーター的好奇心で、ちょっと小細工してるからですよー。だから、私達の声も向こうには聞こえないことになっています」

「うわ最低だこの人。まぁ、他人事だからいいけどね……にしても、智恵子ちゃんも遂に言っちゃったかー……勝算ないって分かってるだろうに、頑張るねぇ……」

 智恵子ちゃんとは、亜澄が実験台にしたこともあり、何度か話をしたことがある。勿論、今の彼女は亜澄のことなんか知らないだろうけど。

 そこで彼女の思いを知った時、少し、複雑だったけれど……でも、一歩踏み出す強さは素直に凄いと思うよ。玉砕覚悟だから真似したくないけど。

「じゃあ、亜澄さんも頑張ればいいじゃないですか」

「あっ、亜澄はいいの!! そ、そんなことよりも……雛菊さん、貴女一応敵ですよね、こんなところにいていいんですか?」

「そうじゃぞ雛菊、そもそもわしらは互いに譲れぬ敵同士のはず。このような場所で呑気に油を売っていてよいのか?」

 亜澄に加勢して、蓮華も雛菊さんを諌めてくれる、が……彼女は何も気にしない。

「いいんですよ。もう、今回の戦いは終わりました。だからこうして、若い二人の逢引をお姉さん的立場として微笑ましく見守りつつ、今後悠樹さんと何かあった時には切り札として使わせていただこうかと」

「ねー蓮華ー、この人超性格悪いよー」

「雛菊……わしのおらぬ間に、随分歪んだ性格になったものじゃな……」

 離れた場所から呆れた眼差しを向ける蓮華に、雛菊さんは振り向きもせず言葉を返した。

「人は変わってしまうものですよ、蓮華。貴女こそ人のことは言えないでしょう?」

「……」

 蓮華が口ごもり、そのまま視線を逸らす。

 なーんとなく聞いてはいたけど、この2人の間には、亜澄達よりも深くて面倒くさい事情があるから――

「――あら、悠樹さん、答えるみたいですよ」

「えっ!?」

 亜澄は慌てて雛菊さんと同じ方向に耳をそばだてた。

「……どっちもどっちじゃ」

 ボソリと呟く蓮華の声など、聞こえないまま。


---------------------------------------------


 一瞬、彼女が何を言い出したのか理解出来なかった。

 しかし、向けた視線の先、間接照明でも分かるくらい顔を赤くして、普段の凛とした横顔からは想像もできないほど、歳相応な表情を向けられたら……さすがの俺でも察することはある。

 でも、正直なことを言えば意外過ぎた。だって、俺と彼女はまだ数えるほどしか会ったことがないし、いくら東原という共通の知り合いがいるとしても、彼女が俺なんかに惹かれる理由が分からない。

 だから……。

「あ、あの……俺、何かしましたか?」

「え?」

「あ、スイマセン、その……正直なことを言えば、学校以外のことを深くお話したこともありませんし……俺なんかのどこが良いのかと……」

 正直な驚きを呟くと、彼女は一度息をついて……戸惑う俺に、意外な理由を説明してくれた。

「実は……私、『総会』でお会いする前に、奥村さんのことを調べさせてもらいましたの」

「俺を、調べる?」

「正確に言えば、『東原さんと一緒に行動している他校の男子生徒』としての奥村さんを、ですわね。ご存知かもしれませんが、東原さんが入学直後に、平日の夜、他校の男子生徒と一緒に歩いていたという噂がたったことがありますの。彼女は小等部からの持ち上がりで非常に優秀な生徒なので、そういう噂は悪意を持って広がりやすい……でも、火のないところに煙は立たない、とも言いますから、『灰猫』の山岸さんに頼んで、ちょっと調べさせてもらったんです」

「……」

 正直なことを言えば……東原が高校内で浮いていることは何となく知っていたけれど、それに付随して、俺の周辺も調べられていたなんて、一切気が付かなかった。

「そこで分かったことは、東原さんには他校のご友人が多い、ということだけでしたわ。あの金髪の……有坂さん、でしたかしら? 彼と行動を共にしていることは、私も意味が分かりませんでしたけれど、彼は『灰猫』の中核メンバーでもありますから……まぁ、東原さんが認める何かを持っているのだということにします。そして、学年も住んでいる町も違う奥村さんとの接点は、全く分かりませんでした……正直、今でも分かりません」

 そう言って、一度息をつく綾小路さん。どうやら肝心な部分はバレていないらしい。それに……。

「でも、結果として樋口さんを含めたこの関係性が、東原さんに良い影響を与えているようなので、私は静観することにしたんです」

 彼女をこれ以上、俺達の事情に深入りさせたくはなかった。

 もしかしたら、彼女なりに何か気がついているかもしれないけど、これ以上詮索されないのは、非常にありがたいと思う。

「そうしていただけると助かります……」

「あら、怒らないんですの? 勝手に皆さんを調べたこと」

「正直言って……自分でも自分たちの行動は怪しいと思っていますから。でも、決して悪いことをしているわけではないんです」

「ええ、あれだけ明るくなった東原さんを見ていれば分かりますわ。そうこうしているうちに、久那高校で例の問題が発生して、奥村さんが生徒会長になったんです」

 例の問題とは、新学期開始直後の5月に生徒会役員がほぼ交代することとなった、体育祭での打ち上げ飲酒事件だ。

 バタバタと今の役員に交代・引き継ぎが行われ、皆の力を借りながら、何とか生徒会の仕事をこなしている。

「素直に白状しますけれど……最初は、その、端正なお顔立ちといいますか、外見に惹かれたといいますか……一目惚れ、だったんです」

「俺なんかに……ですか?」

「奥村さんは、もっとご自分の魅力を自覚すべきだと思いますわ。少なくとも私は……そう、思ったのですから」

 そう言って、どこか吹っ切れた笑顔を見せてくれる彼女に……俺も、答えなければいけない。

 考える時間は少しだけだったけれど、もう、答えが出ているのだから。


「綾小路さん、俺は……貴女の気持ちには応えられません」


 俺の中にある彼女への感情は、愛情へは……進化しなかった。


「……ええ」


 彼女も分かっていたのだと思う。納得したように頷いてくれる。


「ですが、こんな俺を好きだと言ってもらえたことは……素直に、嬉しかったです」

 そう言って、俺は彼女に頭を下げた。

 告白されて嬉しかったこと、これは……嘘偽りのない、俺の正直な想いだから。


---------------------------------------------


「あらー……んぐ、悠樹さん、やっぱり頭で考えすぎなんでふよねー……もっふぉ、こう、シンプルに、ズバッと、感情の赴くまふぁに……んぐ……」

「食べるか喋るか、どっちかにしてもらえませんか? 行儀悪いですよ」

 亜澄のジト目なと意に介さない雛菊さんは、口に残っていたクレープ(2個目)を飲み込み、口の端についたクリームを親指で拭った。

「んー……ごちそうさまでした、っと。さて、私はもう少し食べ物を頂きたいので今回は失礼します」

「まだ食べるの!?」

「当然じゃないですか。こんなの前菜ですよ、ぜ・ん・さ・い♪」

 さも当然と言わんばかりのドヤ顔で亜澄に言ってのける雛菊さんは、確かに、顔は蓮華に似ているんだけど……やっぱり……。

「蓮華とは全然違うんだね、雛菊さん」

「そんなの当たり前じゃないですか。亜澄さんと香澄さんが違うのと同じですよ」

「……」

 確かにその通りなので、何も言えなくなってしまった。

 そんなあたしから背後にいる蓮華へ視線を移した雛菊さんは、一瞬目を細めて彼女を見やる。

「蓮華……今、この土地を治めているのは私です。無関係な『繁栄者』を巻き込まない『境界』の設定には感謝しますが、私の手が及ばないような『境界』の設定はやめてもらえませんか?」

「それは……無理な注文じゃな。わしとお主は、もう、立場が違う。分かっておるじゃろう? 世界はどちらかの主張しか認めてくれんのじゃ。だから、わしらは押し通る――それだけじゃよ」

「――分かりました。では、私達は全力で止めてみせます」


 そう言い残し、雛菊さんは忽然と姿を消す。

 夏の冷たい夜風が吹き抜け、一瞬、身震いしてしまった。

 風に、震えてしまった。


「……止めてみせてよ。絶対、負けないから」

 自分自身に言い聞かせ、一度、唇を噛みしめる。

 そして、腕組みをしたままフェンスに寄りかかっている蓮華を見つめ、亜澄は自分の考えを告げた。

「ねぇ蓮華……次は、亜澄が直接喧嘩を売りに行ってもいい?」

 話を聞いた蓮華が、少し驚いて目を開く。

「お主が……? それは構わんが、勝算はあるのか?」

「当然。あるからこんな提案してるんじゃん。そろそろ香澄ちゃんを本気で焦らせないと――なんか、ムカつくし」

 そう、亜澄は負けない。あの剣を――『暦』を手にした瞬間から、退路なんてないんだから。

 1人、決意も新たに表情を引き締める亜澄に、蓮華がフッと優しい眼差しを向けて、手を差し伸べてくれる。

「詳しい話は後で聞こう。そろそろ帰らないと……体に障るぞ」

「ん、分かった。確かに今日は疲れたから……帰ろっか。またね、悠樹君」

 亜澄は素直に頷いて、迷うことなく蓮華の手を取った。


 一方、顔を上げた俺を待っていてくれたのは、完全に何かを吹っ切った、彼女の清々しい笑顔。

 しかしその顔が、すぐにどこか意地悪な表情に変わる。

「折角ですので伺ってもよろしいですか? 奥村さんは、樋口さんのこと……どう思っていらっしゃるのか」

「……」 

 反射的に言葉に詰まってしまった。自分でもこれは聞かれると思っていた、けれど……。

「……正直に言っていいですか?」

「この期に及んで嘘をついたら怒りますわよ」

 茶目っ気たっぷりにそう言う彼女に、俺は一度、重たいため息を付いた。

 今の俺の中にある混乱を、誰かに聞いて欲しくて。

「正直……もう、高校生にもなって本当に恥ずかしいんですけど……分からないんです」

「あら、分からない……ですの?」

「樋口とは確かに、行動を共にすることが多いのが事実です。そこで樋口に呆れることもあれば、感心してしまうこともある。俺とは全てが違っていて……未だによく分からないんです」

 ここ数ヶ月で、樋口の強さに助けられ、弱さに少しだけ触れることが出来た。

 今の樋口は、彼女が頑張って作り上げた虚像だと本人は言うけれど……俺にはそう思えない。少なくとも今の樋口は、明るくて、猪突猛進で、放っておくとどこかへ行ってしまう、風みたいな存在だ。

 じゃあ、そんな彼女を俺がつなぎ留めておきたいかと聞かれたら……無理ですと答えるだろう。今の俺にはレベルが高すぎる。

 でも、彼女と一緒にいることが楽しいのもまた事実だ。妹との相性もいいし、料理上手だし、勉強は苦手みたいだがやる気がないわけでもないし……。

 ……と、色々なことを考えては、自分の気持ちとやらを見失ってしまうのだ。

 そんな俺の心中を察した綾小路さんが、的確な一言で相槌をうつ。

「あらまぁ……」

「スイマセン、とりとめもない愚痴になってしまって……」

「いいえ、構いませんわよ。奥村さんの愚痴を聞けるなんて貴重ですもの」

「助かります……こういうこと、あいつらには本当に言いたくないんで……」

 ……特に有坂には知られたくない。

「詳しくは分かりませんけど、やはり色々大変そうですわね。私でご迷惑でなければ、これからもお話くらいは聞けますから……」

「ありがとうございます。綾小路さんも……」

 そう言って、俺は言いかけた言葉を飲み込む。

 彼女はまだ、何も知らないのだ。


 夏休み明けにこの学校の男性教諭が(恐らく)未成年者へ手を出したことで逮捕されること、芋づる式に関わった生徒が補導対象になる可能性が高いこと、その問題による周囲の厳しい目が、学園全体にさらされることを……。

 お嬢様学園で発生したセンセーショナルな事件は、久那高校の飲酒問題など比ではない。とてつもなく厳しい評価とレッテルをはられることになってしまうかもしれない。


 でも、彼女ならば……きっと、学園全員の力を借りて乗り越えてくれる、そんな根拠の無い自信があった。

 でも、やはり不安になるだろう。

 だから。

「綾小路さんも……俺も、俺でよければ愚痴くらい聞けますから。同じ生徒会の仲間として、ですけど」

「仲間……」

 その言葉に悲しさを感じて胸が痛いけれど、これは俺が受け止めるべき痛みだ。

 一瞬目を伏せた彼女は、すぐに顔を上げて……俺に再び意地悪な笑みを向ける。

「仲間なのでしたら、まずはその敬語をやめていただけませんか? 一応、同じ学年なのですから」

「そ、それならば綾小路さんも同じでは……!?」

「あら、私はこれが生まれつきなので今更変更出来ませんわ。奥村さん、樋口さん達には砕けた口調で接していらっしゃいますわよね? 少し……羨ましいんですのよ?」

「……」

 今回の事件の原因の1つが、彼女の孤独に気付かず、誰も寄り添えなかったことだとするならば。

 俺も少しだけ頑張って、高校2年生の君に、もっと近づきたいと思う。

「……分かった。じゃあ、今度から会合以外での敬語はやめるよ。それでいいか?」

「ええ。それでいい、ですわ」

 そう言って満足そうに頷く彼女に、俺は苦笑いを浮かべるのだった。

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