13 幼馴染 5
「――は?弟として紹介した?」
「はい」
「なんで?紫荻様は妹でしょう」
「それは、その。そっちの方が楽で――」
「は?」
あれから数分。俺はまだ生きている。
公園のシーソーの前、幸村たちから背を向けて5メートルほど離れた場所。
俺は正座をしながら、小十郎に今までの出来事を話した。
勿論、俺の隣には同じように正座をする、紫荻の姿もある。
絶望に打ちひしがれている俺とは違い、きりっとした目で、小十郎をにらみ上げていた。
「私は、きょうより男としてかれらにせっすることに、決めたのです!」
怖いもの知らずか?
小十郎の視線が紫荻に向く。
険しい顔なのは間違いないが、何か一瞬迷う表情を見せたのはきっと見間違いじゃない。
「それは――。紫荻様は、もとより自分は男だ、と言いたいわけですか?」
「ちがいます!」
小十郎の言葉に紫荻は否定を見せる。
「しおぎはどうしようもなく、おなごですよ!ただ――男としてくらす方が楽なのですよ!」
胸を張って言い切る。
やっぱり怖いもの知らずか?
小十郎も、この発言を聞いて、悩まし気に視線を上にあげた。
もしかしたらあれか?このご時世だ。
紫荻が自分の性別に疑問を持っている、と思われたか?
それは違うだろう。俺も助け船を出す。
「ちがうぞ小十郎。紫荻は女モノの服は嫌いだし、男の遊びに混ざりたがるし、裸になることを恥とも思ってないし、むしろ自分から服を脱ごうとしたりする。まるで男の子のようだけど、ちゃんと女の子だぞ!」
「……ああ、くそこれは――。真田達に謝らなくては」
――――あれ?
首をかしげていると、紫荻が不服そうに物申す。
俺では話にならないと思ったらしい。
「男とか女とか、どちらでもよいではありませんか?せいべつなんて、ささいなもんだいでしょう?」
「……些細ではないから、怒っているんです」
しかしだ。そんな紫荻の言葉はあっさりと小十郎が叩き切った。
膝をついて、彼女の視線まで身をかがめる。
先ほどのなまはげのような目とは打って変わって、真剣な眼差しで言う。
「良いですか?貴女が自分を男だと言っても、周りからすれば今のあなたは女なんですよ!破廉恥な目で見る輩もいるんです!」
「私はこどもですよ!幸村さま――彼らが、そんなよくじょうするとは、思いません!」
「欲情!?どこでそんな――!また時代げ……いえ、男という物を甘く見てはいけません。幼い子を邪な感情で見る大人だっています!同い年だからと言って、偏見を持たないとは限りません!」
「へんたいではないですか!」
「そうですよ、男はそういうものと考えておきなさい。男の子と遊ぶなとは言いません!でも、人前で裸になることは絶対にしてはいけません!」
――さすがに庇うことも出来ないし、何かを言うことも出来ない。
男が変態云々は、そんなにはっきり言わなくてもいいとは思うが。
まぁ正直なところ。正論だし、黙っておく。
それに小十郎が心配するもの、怒るのも当たり前なのだから。
ただ、紫荻の中身は400年前の古い人間だ。その危機感が薄く、分からないのかもしれない。
むしろ、今の顔を見るに、「今も昔も面倒だな」……みたいなことを考えている気がする。いや、ぜったいに考えてる。
「……分かりました。ご納得いただけないのなら、これからは時代劇を見るのを禁止します」
「――え!?」
俺にもわかるぐらいだ。たぶん、小十郎も紫荻の思考を呼んだのだろう。慈悲もない。
紫荻は今までで一番悲痛な声を上げた。
――そこまで見たいか?時代劇。
「わかりました!わかりました!ごめんさない!」
「いえ、どうせ返事だけです」
「ぜったいにわかりましたから!!」
「だったら、お友達に謝ってきなさい!――そして、政宗様!」
足元に縋る紫荻を物ともせず、小十郎の次の標的は俺となった。
「いいですか。貴方は紫荻様の兄なのですよ!」
「――わかりました、小十」
しかしと、すぐに紫荻の邪魔が入る。
この無鉄砲と後先構わず突っ走る行動は、まだ子供だからだろうか?
ただ、こちらもしかし。もう一か月も、紫荻の世話をしている小十郎は慣れ切っていた。
「もう少し、兄らしい行動という物をとっていただきたい!」
「みなさまに、あやまってきます。こんどは、なかよくあそびますとも!」
「それはいい心がけですね。――そもそも、お二人で出てきたんですか!?母上は知っているんですか!」
いつも通り、紫荻の事は軽く受け流しながら、小十郎は俺に説教を続けるという技を披露した。
両方それぞれすごいな。
ただ、こういう時の小十郎は、あまり話を聞いてないというか。
紫荻の対応に慣れているからこそ、受け流すというか。
今日は大丈夫だろうか?
「なので、小十!――そのせなかの竹刀をかしてください」
――あ、大丈夫じゃなかった。
今の会話からどうやったら竹刀を貸せ、になる?
「すもうの代わりに、それで、えっと。チャンバラをして、遊びますから」
――おい、雲行きが怪しいぞ?
こいつ、なにも反省していぞ。
ちゃんと聞いているよな?小十郎?
「――わかりました」
「は!?」
小十郎は、背中の竹刀袋を外し、紫荻に渡した。
俺に集中しているのか、一切紫荻の事は見ずに。
全く聞いていないな、この野郎!
「わーい、ありがとう小十!」
「ちょ、ちょっと小十郎?」
「政宗様!話は最後まで聞きなさい!」
紫荻は竹刀を受けとり、満面の笑顔だ。
なんて可愛いんだろう。花も恥じらう笑顔とはきっとこのこと――。違う!
「こ、こじゅ」
「母上はここ最近のあなたの事を、喜んでもいると同時に心配されていますよ!」
「お、おい、あれ……!」
「最近は明るくなって嬉しい反面、シスコンが過ぎていて目が痛い。昔と比べると、ずいぶん阿保になっている気がする。それから――」
「――小十郎!!」
「ああ、もうなんですか!」
ようやくと俺の訴えに気が付いた時。
紫荻は意気揚々と、幸村たちに話かけている最中だった。
ここからだと、会話は聞こえないが、きっとこんな事を言っているに違いない。
『幸村様方、先ほどは失礼しました』
『いや。気にしていない。紫荻殿はもう大丈夫なのか?』
『はい!幸村様、相撲はできなくなりましたが、ここはチャンバラで遊びましょう!』
『――いいとも!』
いろいろ端折るが、たぶんこんな感じだ。
幸村は笑顔だから、きっとノリノリで間違いない。
三成と佐助は、「いいの?」と言わんばかりにこちらを気にしているが、止める気配がない!
「小十郎、あれ!!!あれ、いいの!!!」
指をさして、必死に。
「え?――――あ、」
俺の様子を見て、ようやくと事の重大さというか。
己の仕出かしに小十郎は気が付くのである。
小十郎が振り向けば、そこには竹刀を構える、紫荻と幸村の姿。
今にも打ち合いしそうじゃないか。
あれで紫荻怪我をしたら――――。
いや、しないと思うし、むしろ幸村が打ちのめされそうな雰囲気であるけど。
小十郎の顔が真っ青になるのは、瞬きもない事。
「まって!!待ちなさい!!せめて!――せめてお飯事か、泥団子づくりにしておきなさい――!!!」
俺に背を向け。
まるでお母さんのような発言と共に、駆けだすのであった。




