12 幼馴染 4
「小十おろしなさい」
「紫荻様!変なことさていませんか!?」
「小十おろしなさい」
「身体を触られたり、不愉快なことを言われたりしていませんか!?」
「小十おろしなさい」
「服を脱がされそうになったのも無理やりですね!!少年院にぶち込みましょう!くっそ!こんなことがばれたら奥様に殺される――!!」
「小十おろしなさい」
しつこく安否を確認する小十郎と、bodとかした紫荻の姿が映る。
その様子を俺たちは呆然と見ていた。
青が混じる黒い髪と目が、怒りと焦りで揺れている。
高校生らしい制服に、竹刀が入った袋を背負い。
17歳という年の割には、がっちりした鍛えられた身体。
伊達家に昔から使えていた家臣の家柄らしく。
今も、伊達兄妹の世話を任されている苦労人。
性格は真面目で硬派。昔から変わらず忠義に硬い男。
それが片倉小十郎という男である。
そんな男から見れば今の状況は、雇い主の娘が無理やり服を脱がされている、という危機的なものだったに違いない。
たとえ周りにいたのが、十にも満たない子供でも。それが冗談の可能性があったとしても。
人目がある外で、男しかいないこの中で、女の子を裸にさせるのは言語道断!というか、論外。
俺たちを見かけた小十郎が、大慌て――人を殺しそうな勢いで駆け寄ってきても可笑しくない。
むしろ、グッジョブ!……といえることだろう。
――その不届きものの中に、俺が含まれている可能性は大いにあるが。
「お嬢……?」
「お嬢っていったぞ、今……」
いやしかし、それ以上に問題が出た。
小十郎が余計なことを口走ってくれたおかげで、佐助と三成が「やっぱり」みたいな顔になった。
幸村でさえも「え?」みたいな顔をしている。
まずい――!ここは誤魔化さなくては!!もう二人は仕方がない!せめて幸村だけでも――!
「政宗どの、あれは確か伊達家の世話役。それに、今紫荻どののことをお嬢って呼んでいたぞ」
「こ、小十郎は紫荻を女として扱ってるんだ!女の子が欲しい母さんが、そう頼んだから。あ、あははは。ほんと、困ったものだよな!」
俺の言葉に、幸村はひどくきょとんとしていた。
言い訳苦しいか!?
いや!いける!いけるはずだ!頼む!
こいつは馬鹿で素直!
馬鹿で素直馬鹿で素直馬鹿で素直馬鹿で素直馬鹿で素直馬鹿で素直馬鹿で素直馬鹿で素直――!
「――そうか、それは大変だな」
馬鹿で素直って素晴らしい――!!
「ちょ、若!?」
「――そうだろう!!ほんっと、母さんも小十郎も困ったもんだぜ!」
とりあえずごまかしに成功した!
額に流れる汗をぬぐい取って、胸を張る。
これで、問題は解決だ!
「――聞こえてんぞ政宗!!!何かってなこと抜かしてんだ!」
小十郎に怒られた――。
小十郎という問題まだ残っていた。
俺はため息をつく。
あいつ、怒ると怖いんだよな。
主人(の息子)であろうとも、容赦なしだもん。
いつもは礼儀正しく俺達に接するクセに、怒るときはなまはげだもん、なまはげ。
いや、紫荻の服を脱がそうとした俺たちが悪いんだけど。
……いや、俺は悪くなくない?
「小十郎どの」
ここで、何を思ったのか、今の小十郎に立ち向かう物が現れた。
口調からわかると思うが、幸村である。
眉をきりっと上げて、臆することなく小十郎へと近づいて行った。
小十郎は、紫荻を抱きかかえたまま、そんな幸村を見下ろす。
小さき指が、びしっと。180は余裕にある大男に向かって指をさした。
「本人が男だと言っているのに、無理やりに女子扱いするのはダメであろう!」
それは、此奴なりの正義感からなのか。それとも馬鹿なのか。たぶん前者なんだろうけど。
小十郎が氷の眼で幸村を射抜くのは、それから一秒もないことであった。
「――あ”あ”?」
「し――紫荻どのは男であろう!それをそんな責め立てて……」
「男だろうが、女だろうが、人前で裸にさせるのはいい事なのか?」
「こ、これは、相撲で……」
「本人の許可は取ったのか?無理やりじゃないだろうな?それともこれが真田のやり方か?」
「ち、ちが……」
「もう一度聞く」
「――ひ」
「これが真田のやり方か――?」
「……ご、ごめんなさ、い」
論破した!十も下の子供を本気で無理やりに論破した!
容赦なんてみじんも無かったぞ!
「……ひっく、ぐす」
幸村が泣いて帰ってくる。いや、あれは泣いても仕方がないが。
佐助がしぶしぶという様子で慰め出迎えていた。
論破する高校生もあれだが、後で面倒なので突っかからないでほしい。
「――政宗様、こちらへ」
俺の肩が大きく震えた。
呆れた顔で今までを静観していると、小十郎に声を掛けられたのだ。
視線を向ければ、満面の笑みを浮かべた紫荻を抱きかかえて、小十郎が手招きしている。
あれは笑っているようで、一切笑っていない。
逃げようかとも思ったが、紫荻を人質に取られている今、逃げることはできないだろう。
嗚呼、と悟るのも仕方がない。
俺の命運はここまでらしい――。




